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「雅貴が側にいれば、オレは…」
「後継者を受け入れた?」
「そっそれはないけど」
僕のイジワルな言葉に、由月は激しく動揺した。
その後は無言で夕飯を食べ終え、お膳を廊下に出した。
そんなに時間を置かず、お膳は持っていかれた。
「―で、雅貴の話って何?」
「あっ、うん。僕の進路のことなんだけどね」
僕を真っ直ぐに見つめる由月の視線が痛い。
「教師になりたいって、言ったよね? それで教師になる為の大学が、父方の実家の近くにあってね。そこで下宿しながら通うことにしたんだ。まあ大学が受かったらの話だけど」
「そっか」
「うん、それで…四年間、会えなくなりそうなんだ」
「そう…って、えっ?」
由月の眼が、大きく見開かれた。
「父方の実家は、今より由月の家から遠ざかる。それに教師になる為には猛勉強しなきゃいけないし、バイトもしなくちゃいけない。だから大学四年間は、ここには来れない」
「なんっで…。夏休みとかは長いんだろう?」
「長いけどその分、勉強やバイトをしたいんだ」
「オレに…会えなくていいのか?」
由月の声が細く、小さくなる。
「全然よくないよ。でもそうでもしなきゃ、僕は強くなれないし、教師にもなれない」