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そっと唇に触れる。
あの時触れた彼の唇の感触は、まだ消えずに残っていた。
キス…してくれたということは、少なくとも僕に好意を持っててくれるんだろう。
だけど一年経った今でも?
もう好きな女の子でもできて、付き合っているのかもしれない。
遠距離恋愛は難しいって、分かってた。
いや、まだ付き合ってはいないけど…。
片想いでもこんなに辛いんだから、本当に両想いだとしても…僕は耐えられるんだろうか?
大学に4年間、集中しても教師になれる可能性は低い。
でも頑張らなくては、彼の元へ胸を張って行けない。
ひ弱な僕は農業なんて体力的な職業には就けない。
だから教職を選んだ。
勉強は好きなほうだし、教師という職業に興味があったから。
彼の家から学校は近い。
上手くいくなら、僕があの土地の学校へ、教師として赴任する。
そして伯父の家に居候するという形に持っていきたかった。
だがそれを叶える為には、4年間の時間が必要なんだ。
「由月っ…!」
由月の声が聞きたかった。
その姿を見たかった。
そして…触れたい。
彼の体の感触が忘れられない。
触れたくて触れたくてたまらない。