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「ったく…」
「由月、学校で僕のことを言ってたの?」
「そっそれはっ、都会に住んでるし、珍しいからっ…!」
彼にしては珍しく、動揺している。
「そうなんだ。何だか嬉しいよ」
「そっそうか」
その後は無言で歩いた。
けれど僕は心の中がくすぐったい気分だった。
由月にとって僕は、少なくとも会話に出るぐらいの存在らしい。
それが嬉しかった。
「ははっ」
「何笑ってんだよ?」
「いや、由月ってやっぱり同級生より大人っぽいなと思って。落ち着きがあるよ」
「オレはどーせ可愛げがねーよ」
「そんなことないよ。心をなかなか開いてくれないだけで、本当はスゴク優しいし」
「やっ優しいのは雅貴みたいなヤツのことを言うんだろう? オレみたいなガキの面倒見てるし」
「それは由月がとても話しやすいからだよ。僕には多少なりとも心を開いてくれてるだろう?」
「…どうだろうな?」
そう言いつつ、由月の手が僕の手を掴んだ。
今はもう夜。
辺りに光は少なく、手を繋いでいても気付かれないだろう。
僕は自分より一回り小さな手を、握り返した。
川原に近付くにつれ、人が多くなった。
そのせいで、せっかく繋いだ手も離されてしまった。




