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秋葉原ヲタク白書8 池袋から来た男

作者: ヘンリィ

主人公は、SF作家を夢見るサラリーマン。

相棒は、老舗メイドバーの美しきメイド長。


このコンビが、秋葉原で起きる事件を次々と解決するという、オヤジの妄想満載の「オヤジのオヤジによるオヤジのためのラノベ」シリーズ第8弾です。


今回は、メイド長の池袋時代の元カレ、いや失礼、元ご主人様が現れ、秋葉原で失踪した今カノを探してくれと依頼してきますが…


お楽しみ頂ければ幸いです。

第1章 西の都から来た元カレ


今でこそ「東の秋葉原、西の池袋」とか逝われヲタクの全国ブランドになった池袋だが、実は聖都としての歴史は秋葉原より古い。


というワケで、池袋育ちのヲタクが秋葉原にやって来るとヤタラ上から目線になる。

初めて上京した京都の人が、江戸的なモノと見ると見下したがる、あのスタンスだ。


「いやぁ、最近は東の方もすっかりヲタクが増えたねぇ。僕もウレシイなぁ」

「おかげで池袋は閑古鳥でしょ?」

「おや?そういう秋葉原もよく見れば中国人ばかりだな」


秋葉原vs池袋の丁々発止なやり取りが続くココはアキバの老舗メイドバー。

池袋から来たお客相手にヘルプのつぼみさん(愛称:つぼみん)が応戦中。


メイド長で僕の推し(てるメイド)であるミユリさんは遅番で未だ顔を見せない。

早番でメイド長代理のつぼみん相手に池袋から来た男が、さらに言葉をつなぐ。


「東のメイドはフェティシズムのカケラもないなぁ。西じゃ昔から…」

「あら?日本初のメイドカフェは名古屋だって聞きましたけど?」

「そうそう。その頃、秋葉原は未だ野菜市場だったから」


その男は、30代の恐らく後半で、タッパはあるけどヒョロリとしてて撫で肩だ。

白のチノパンにピンクのシャツの前をはだけてるんだが惜しいコトに胸毛がナイ。


コレで胸毛が濃ければ3代目007のロジャー・ムーアを彷彿させると書けるのだが。

まぁせっかくなので、彼は別の名を名乗ったけど、ココではロジャとしておこう←


「ところで、僕の秘書のララァは何処かな?」

「ララァ?誰ソレ?ファースト(ガンダム)?」

「違うでしょ。僕は東インド会社の総裁でララァは僕の秘書なんだ」


開店直後とあって客はロジャと僕しかいなくて、彼は僕にも名刺を差し出す。

ソコには「EIC東インド会社総裁ロジャー・ムーア(実際は別の名←)」とある。


もちろん、冗談で作って、冗談で手渡す名刺なんだけど、実は秋葉原では必需品だ。

よく初対面のヲタク同士で交換したりするんだけど、まぁ使い方は会社と同じだね。


元々ヲタクって、そういう名刺交換の際に「ヲタクは誰のファン?」とか言い合うのを(一)般ピー(プル)が耳にして「アイツらはヲタク」とか言い出したのが語源とも逝われている。


というワケで、実は僕も名刺は持ってるが、今日は持ってないコトにして出さない←


と、そこへ…


「あ、ララァ」

「えっ?あ、あら、マハラジャ?何しに来たの?」

「こら。マハラジャより遅れて御出勤とは、アキバじゃ随分と楽な商売してるじゃないか、ララァ」


なんと、遅番で私服出勤して来たミユリさんにロジャが「こいつぅ〜」って感じでデコピンをする!

こ、こいつ!TO(トップヲタク)(僕です笑)の目の前で何をする!


しかも!条件反射なのか気安く「いや〜ん」的に応じるミユリさんってどーなのっ!


「マハラジャ、いつ秋葉原に?」

「さっきさ。秘書の仕事ぶりを視察に来たんだけど」

「あら?でも、貴方の秘書はシヴァでしょ?」


え?シヴァ?誰?

どうやら、ロジャはミユリさんのロー(ル)プレ(イング)カフェ時代の客のようだ。


ミユリさんは、アキバに来る前は池袋にいたんだけど、当時は未だメイドカフェというスタイルが世に出ない"萌え"紀元前の世界。


でも、既に先駆けとなるロールプレイング主体のコスプレカフェは出現してて、ミユリさんがいたのは17世紀初頭の東インド会社を模したカフェだ。


店内では、紅茶会社の貿易商に擬したお客にインド風?メイドがチャイをお給仕するという趣向だ。

常連の客はマハラジャと呼ばれ、総裁秘書を名乗る専属のメイドがお出迎えをするというシステム。


「ララァ、池袋じゃメイドはロング服でこそ正統派だったょな」

「あら?でもマハラジャはおヘソの出るコス(プレ)がお好きでしたょね?特にシヴァの」

「あっはっは。あの頃はシヴァもララァも若かったからな」


あわわっ!ミユリさんに年齢の話題を振るとは大胆な!

それに、そのララァってのもソロソロやめてくれないかな?


しかし、ロジャはニヤけた表情も変えず全く意に介さない。

ミユリさんは足早にストレイジに消え、素早く着替えてお屋敷に出て来たら…


ぎゃっ!超マイクロミニのメイド服だっ!


「お、おいおい!ララァ、随分とアキバの色に染まったモンだな!」

「あら?そうかしら?こんなのアキバじゃ普通に戦闘服ですけど」

「そ、そうなのか?し、しかし…良いな」←


ミユリさんはフフンと鼻で笑ってロジャの目の前をスルー。

ワザワザ僕の前まで来て顔を覗き込んで微笑んでみせたりする。


うーん。


どうやら、ロジャは池袋時代のミユリさんからシヴァとか逝うメイドに推し変(推すメイドを変えるコト)をしたみたいだ。


しかし、ミユリさんから乗り換えるとは、シヴァさんというのはスゴい美人なのだろう。

まぁ、ソレかあるいは…


いわゆる萌え業界ってのは、キャバクラなんかと同じでベースには疑似恋愛がある。

つまり、アキバという街自体がお金で恋愛気分を買うテーマパークになってルンだ。


ソレに照らすと、ロジャはミユリさんの元カレというコトになる。

今カレ(僕です!笑)にとっちゃコレほど迷惑な存在は無いワケだ。


「で、マハラジャの巨乳秘書は、今頃は池袋で待ちぼうけかしら?」

「御主人様である僕は、今夜は植民地の視察だからね」

「さぞかし大きな胸を持て余してるのでしょうね、シヴァは」


やっぱり"推し変"があったようだ。何と珍しいコトにミユリさんがムキになっている!

日頃、完全無欠な美貌を誇るミユリさんだが、実は胸だけ?は「それほどでもない」。


もしかして、ロジャは乳に走って推し(へん)したのか?

ツルペタ(微乳)気味のミユリさんを三行半(みくだりはん)で捨てたのか?


「僕がアキバに来たのにはワケがある。実は…ララァに助けて欲しいんだ」

「まぁ。伺いましょう、マハラジャ」

「その…実は秘書が…秘書のシヴァが姿を消したのだょ。このアキバで」


池袋から来た男、ロジャの話はこうだ。


ロジャの推し(てるメイド)であるシヴァさんは、池袋のロープレカフェのNo.1メイド。

しかし、秋葉原へ「出稼ぎ」に逝くようになってから、少しずつ様子がおかしくなる。


「最初は真面目な娘だったんだ。胸は大きかったけど」

「なんで真面目と胸が関係あるワケ?」

「バッカじゃないの?」


いちいち話に毒を盛るロジャもロジャだが、その一言一言にカウンターの中からギャアギャア艦砲射撃を繰り返すメイド達も大人気ない。


とにかく!


ロジャの話では、「出稼ぎ」とはモデル事務所経由で来るエスコートのバイトのコトのようだ。

早い話がIT長者の集まる秋葉原のパーティでバンケットコンパニオンをやる仕事だったようだ。


「シヴァは、ソコで何処ぞのエグゼクティブに見初められたみたいなんだ」

「あったりまえでしょ!コンパ(ニオン)にとっちゃ出会いの場だから女は必死ょ!」

「お金をもらって自分の婚活やってんのょ!彼女は」


ミもフタもない。


最初は嫌な奴と思ったロジャだが、ミユリさんとつぼみんの度重なる十字砲火に健気に耐える姿を見ていると明日は我が身…


ではなくて、純粋に人道的な見地から誰かが救いの手を伸ばす必要があるように思えてくる。

もしかしたら、意外と彼は、地の果てにある池袋では評判のいい御主人様なのカモしれナイ。


つまるトコロ、シヴァさんとやらがアキバで浮気をして失踪という話のようだ。

ホント、腰の軽い推しを持つと僕達ご主人様の苦労は絶えない。困ったモノだ。


「わかった。探してみるょ、シヴァさんのコト」

「ええっ?!」

「マジ?本気?」


メイド達はカウンターの中で一斉にギャアギャアと騒ぎ出すが僕は依頼を受けるコトにする。

所詮、僕たち御主人様が抱える悩みは、同じ境遇にある僕たち御主人様にしかわからない。


メイドになんか、わかりっこないのだ。


第2章 聖都のナンパ師達


先ず、僕は長者かどうかは知らないが、とりあえず、僕のIT方面の唯一のツテであるムーミン社長を訪ねる。


彼は、フェイクニュースを請け負うトロール会社の経営者なんだけど、以前、彼の会社がロケット弾で吹き飛ばされるのを救った貸しがある。


「テリィさん!久しぶりだなぁ!ミユリさんはお元気ですか?」

「ご無沙汰しちゃって。今日は、ちょっち伺いたいコトがありまして」

「なんなりと!その節はホントにお世話になりました」


メイド達は色々ウルサイので1人で来たんだけど、僕は聖都アキバを睥睨するタワービルの最上階にある社長室で歓待を受ける。


ワケを話すと、彼は少し考えてからインターホンで秘書(ホンモノの笑)に何か告げる。

たちまち部下が3人集まったんだけど、コレがナント揃いも揃ってイケメンばかりだ。


何コレ?この会社、ジャニーズの再就職先かなんかになってるの?


「テリィさん。弊社のCNOを御紹介します」

「え?CNO?」

「チーフ・ナンパ・エグゼクティブ」


うーん、前に"セグゼクティヴ"ってのにはお会いして、まぁ彼女にはスゴいお世話になったけど、今度はナンパのエグゼクティヴ?


いやはや、世の中には、色んなエグゼクティヴがいるものだ。

僕も何処かのチーフ・ヲタク・オフィサーに雇われないかな。


「お伺いしたトコロ、もしかして彼等なら何か知ってルンじゃないかと」

「え?どういうコトでしょう?」

「実は私はゲイでして」


はあぁ?全く気がつきませんでしたが、ソレが何か?


実は、ムーミンが呼んだイケメントリオは、ゲイの社長に代わって連日連夜のパーティに参戦しては、社長代理と称してナンパを担当する"夜の三銃士"という役柄らしい。


アキバ版のパーティピープルというワケだ。


「目下、神田河岸148(ワン・フォーティエイト)を片端から攻略しております」

「まぁ左右の両端から分担してですが」

「どっちが先にセンターの子を陥とすか競争なんです」


見ると夜の三銃士は、目の覚めるようなイケメン、理系の眼鏡、ルーズそうな母性本能くすぐり型と見事に色分け役割分担されてるw


恐らく内部ではボケとツッコミとかも細かく内部ルール化されているに違いない。

因みに神田河岸148は売出し中の地下アイドルグループで全員揃うと148人いる。


「しかし、ナンパが仕事とは羨ましいなぁ」

「いやぁ、そう逝われると…でも最近ノルマみたいに感じちゃって」

「そうそう!ノルマを達成しないと社長に喰われそうだし」


ココでムーミンが意味深長にニヤリと笑い、騒々しかった夜の三銃士が瞬時に沈黙する。

ナンナンだ?この突然の沈黙は?既に三銃士の内の誰かが喰われてしまったのだろうか?


何だか、余り関わりたくない深い闇が横たわってそうだ。

僕は、慌てて究極クエッションだけ発動して遁走の準備!


「最近、池袋から流れて来たバンケットコンパ(ニオン)がアキバで消えたって噂が…」

「あっはっは。そんなのザラのザラ。ザラザラでしょ」

「年間何1000人ってオーダー?」


まぁ、そうかもしれないケドとは思いつつ、僕はロジャから巻き上げたシヴァさんのアー(ティスト)写(真)をポケットから出す。


実はアー写(宣伝材料写真)の段階で既にかなりの美女と判明してて、コレじゃミユリさんが青筋立てるのも仕方ないんだけど…


案の定、夜の三銃士からもドヨメキが起きる。

なんとゲイのムーミンまでが浮き足立ってる。


「おおおっ!絶世キター♪───O(≧∇≦)O────♪」

「でも、ちょっち盛り過ぎじゃね?」

「あ、覚えてるょ、この子!」


夜の三銃士+1はドッと沸き騒然となるが、聖徳太子になったツモリで聞き分けるに有効情報は母性本能担当の目撃談だけのようだ。


早速、彼に話を振るとあるIT社長の誕生パーティで似たコンパ(ニオン)を見かけたが、その夜は誰かにお持ち帰りされた模様とのコト。


以来、彼女の姿を見た者はいない。


「何とも残念。もう一声、何でもいいから思い出してくれませんか?」

「うーん。そう逝えば、確かあのパーティにはメジアが来てたような…」

「げっ!あの預言者にして救世主のメジア?神に祈るようにナンパするとか逝う…」


夜の三銃士の興奮ゲージは既に極限ゾーンだが、もう1目盛、過激にヒートアップ!

どうやら、メジアって御同業のナンパ師らしいけどカナーリの遣り手とお見受け。


サスガの夜の三銃士も、目の前で何度も煮え湯?を飲まされているらしい。

というコトは、既に何人もの美女を自らのモノにしている、というコトだ。


ココでムーミン社長の解説が入る。


「彼は、サードパーティ(系列外メーカー)で最近、羽振りが良くなった新興勢力(ニューカマー)です」

「というコトは、アキバで顔が売れ出したのも割と最近というコトですか?彼の素性は?」

「何でも大塚の方の町工場の2代目とか聞いてますが」


なんだょ、それじゃ乙女ロード(池袋にあるヲタク横丁)界隈で幼気(いたいけ)な腐女子をナンパしてた口じゃないの?


もしかして、ロジャとも知り合いなんじゃナイかな?

おーい。狭い池袋でメイドの取り合いとかヤメろょ。


ホント、西の痴話喧嘩をアキバに持ち込むのはヤメて欲しいな。


「その後、大塚の工場をミャンマーに移し、オフィスだけアキバに引っ越してきたみたいです」

「それで最近アキバのITセレブの仲間入りというワケですね?で、オフィスはどちら?」

「お隣ですょ」


ムーミン社長は、窓の外に見える隣のタワービルを指差す。


第3章 洪水と方舟


早速、ミユリさんのバーにロジャを呼び出して、池袋のナンパ仲間に預言者メジアの心当たりがいないかを問い詰める。


ウソかホントかわからんが、彼は全く知らない、初めて見る顔だと必死に首を横に振る。

しかし、今からメジアの秋葉原オフィスに逝くと逝うと自分もゼヒ同行したいとのコト。


さらに…


「あ、私も逝ってみようかな」

「ええっ?!ミユリさんも?なんで?」

「ナーントなく。つぼみん、お屋敷お願いね」

「かしこまりました。メイド長」


僕はモチロン、つぼみんやロジャも唖然とする中、メイド服(先日のマイクロミニだょ!)のママ、颯爽と先陣を切ってお出掛けスルw


シヴァさんが絡むと、ミユリさんは明らかにヘンなテンションになる。

いつもは楽しいメイド姿のミユリさんとの街歩きだけど、本日は微妙←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ロジャの恋敵?の秋葉原オフィスは、中央通りで最も高いタワービルの中層階にある。

ムーミン社長から教わった社名は"アララト・インターナショナル"って逝うんだが…


うーん、何処かで聞いたような名前だが、何の名前だったか思い出せない。

高速エレベーターを降りるとイマイチ安っぽい木目調の壁のホールに出る。


「奥にドアがあるけど…何?両脇のこのフェイク臭いギリシアの石柱?」

「うーん、悪趣味だ。胡散臭さマックス」

「でも、ドアの銘板は…"アララト・インターナショナル"だ。ココだね。貿易会社かな」


最新のタワービルとはいえ、基本は雑居ビルなのでテナント毎にドアがある。

しかし、このフロアのドアは1つしかナイので、恐らく1社貸切りなのだろう。


ヤタラと羽振りのいい話で、IT系のサードパーティってそんなに儲かるのかと少し驚く。

唯一のドアは蔦の絡まる石柱に飾られラブホテルの「オリンパスの間」風イカガワしさ。


「なんかノックするのも(はばか)られマスなぁ」

「実は新手のメイドカフェだったり。ラブホテルプレイ(ごっこ)とか」

「メイドと?…とりあえず写メっとこっと」


「最新アキバ事情」なんてネタでゴシップボーイ(国際的パワーブロガー)にどうかな?と思いつつ、僕がスマホのシャッターを切る…


すると!突然オリンポスドア(仮称)が開き、中から飛び出して来たのは全裸の男女…ではなくて、劇団員風イケメンのガードマンだ。


「直ちに画像を消去してください!」

「えっ?えっ?貴方は誰?」

「いいから!画像を消去してください!私の前で!」


ヤタラ元気にまくし立てる若いガードマン?の制服が異様にペラペラで気になる。

胸の鷲の刺繍入りワッペンには社名もなくて正規の警備会社の人ではなさそうだ。


コレじゃカラオケの無料貸出のコスプレ服と同じだょ?

僕の脳内で、胡散臭さのメーターが一気に振り切れる。


ムチャクチャ怪しい!反撃開始!


「ソレならヲタクのビデオも消してくれ!ヲレの目の前で消してくれ!」

「わっ?逆ギレ?ビデオ?ビデオって何でしょう?」

「どうせコイツで勝手に絵を撮ってンだろ?勝手に動画撮るな!」


僕は、コレ見よがしに天井の隅に据え付けられている、ヤタラと派手な防犯カメラを指差す。

彼等は、コレで通行人を監視し、録画し、もし撮影する者がいれば飛び出し消去を迫るのだ。


お前らこそ、何の権利があって天下の公道で撮影してんだょ…あ、私有地か笑。

とにかく!人に画像の消去を迫るンなら、先ずテメェの画像から消しやがれ!


「さあさあ!ヲレの目の前で画像を消してみろ!今だ!今すぐだ!」

「わ、わ、なんなんだこの人?僕には手強過ぎる!」

「さぁ、中に入るぞ!ヲレの画像は何処だ?!」


マニュアルにはない反応に遭って劇団員風ガードマンはアッサリとゲシュタルト崩壊。

難なく撃破した僕は、オリンポスドアを突破し中へ入ると木目調の壁に誰かの肖像画。


その横に茶室の躙口(にじりぐち)みたいな小さいドアがあり、ままょと開けたらビンゴ!

果たしてモニター画面の並ぶ部屋で同じくペラペラ服のコスプレ警備員が画像を見てる。


「な、なんだ?君達は?」

「はじめまして!SF作家とメイド長のコンビです!」

「主任!異教徒の侵入ですっ!」


ゲシュタルト崩壊した劇団員風ガードマンが口角泡(こうかくあわ)を飛ばしてヘンな言葉を口走る。

異教徒?何だ?僕達のコト?僕は…まぁ強いて逝えば仏教徒だけど。


主任と呼ばれた初老の男(恐らく定年後の第2の職場勤務?)が立ち上がって逝う。


「立ち去れ!ココは現代と逝う名の洪水から生き残るために神より選ばれし魂の最後の拠り所なのだ!」

「えっ?長過ぎるだろソレ。何を逝ってンのか自分でわかってる?続けて3回逝ってみろ!」

「えっ?ココは現代と逝ふ…洪水にぃ…選ばれて…ああぅ!舌を噛んでしまった!」


どうやら、この主任とやらも大したコトはなさそうだ…とほくそ笑んだら援軍が到着。

今度はポロジャツ姿の小綺麗な学生風の男なんだけど誰?CEO時代のビル・ゲイツ?


とにかく!彼が入って来るやガードマン達は弾かれたように立ち上がって直立不動だ。

狭い警備室?内に、コスプレガードマンの人柱がニョキニョキ乱立する不思議な光景w


「やぁ!貴方達が有名な美人メイドとイカれた御主人様のコンビですね?」

「うーん"イカれた"が余計だし、名前を呼ぶ順番も逆だけど、そうです」

「私は宗教法人『洪水と方舟』の司祭でレミゼと申します。いやぁお逢い出来てホントに光栄だなぁ!」


ややっ?爽やかだょ。うーん。

握手したが手も汗ばんでない。


コイツ、ただのヲタク、ってか新興宗教信徒じゃないな?

ってか、せっかく司祭なのにコスプレしなくていいのか?


そもそもココってPCのパーツを扱うサードパーティのオフィスで良いンだょね?

もしかして、お隣の宗教法人と間違えて突入しちゃったとか?今さら遅いけども。


「御心配なく。ココはアララトの教会。洪水から逃れる全ての人類のために開かれた教会なのです」

「さっきから洪水、洪水ってウルサイんだけど地震じゃダメなの?セカンドインパクトは?」

「全てのカタストロフィを含みます」


都合のいい話だな笑。


そもそも、ミャンマーに工場を持つスタートアップが宗教法人を名乗っていいのか?

確かに全体主義的な朝礼やスローガンの唱和が好きな日本企業って宗教じみてるが。


まぁ考えてみると物販って布教と同じようなモンだし、宗教法人なら税法上も特典が…

経済学部の卒業なんで、そんなコトをツラツラと考え出してたら場違いな黄色い声が!


「あぁ!素敵です!素敵過ぎます、司祭サマ!」

「おおっ!メイドさん、貴女にも良き方舟が訪れんコトを」

「罪深き私でさえも赦されるのでしょうか?」


いや、ミユリさんは無理でしょ。


突如として営業スイッチが入ったのか、ミユリさんは潤んだ瞳から媚び媚び光線を発射、マイクロミニからスラリと伸びた脚を"司祭"とヤラに大王イカの如く絡ませんばかり。


いや、ミユリさん、やはり貴女だけは永遠に赦されないであろう。


「メイドさん、貴女には我が教祖メジア様と直接語り合う時間が必要なようだ」

「私は小さなメイドバーでお待ちしています」

「今宵、良き福音と共に訪れん」


第4章 さよなら推しメイド


今でも、もしかしたら、アレは単なるミユリさんの営業だったのかもしれナイとは思う。

でも、その夜、宗教法人「洪水と方舟」の大教祖メジアがメイドバーに降臨してしまう。


僕は、予め常連達に話を通しておき、歓迎?準備を整える(何もしないけど笑)。

すると、開店後、ホドなくして露払い役?で司祭のレミゼが単独でやって来る。


要人が来る前のシークレットサービスによる偵察みたいな感じ?


「やぁ!迷えるメイドさん。罪深き魂よ!」

「ああっ、レミゼ司祭様!汚れた私の魂をお救いくださいまし!」

「おおっ!では先ず膝枕…じゃなかった(ひざまず)き、許しを乞うのだ!次の洪水が来る前に!」


なんなんだ、この猿芝居は。


ソレに初めて聞いたけど、洪水ってそんなに何度も来るの?直前はいつ?縄文大海進?

しかし、ミユリさんの演技力と逝うか真摯に赦しを求める「フリ」には驚くばかりだ。


まぁ昔からお水系のお姉様方って宗教にハマりやすい下地がありマスょね?


夜の美女とコトを成した次の日の朝、先に起きた彼女が、突然ヘンなお祈りとか始めて興醒め、なーんて経験は誰しもおアリでしょ?


「ソレで司祭様、お約束の素顔の教祖様と、私はいつお逢い出来ましょうか?」

「迷いの心に惑わされるな!間も無く降臨されるであろう!」

「ああっ!その時が待ち切れませんわっ!」


カウンターの中でミユリさんが身悶えるや、たちまち息を飲む淫靡さがカウンターを超えて溢れ出し、御屋敷の空気が桃色に染まる。


傍らでは、見よう見まねのつぼみんも身をよじるけどコッチはラジオ体操第二って感じ。

ソレでも、つぼみん推しの常連何名かは生唾飲んで呆気なくハァハァしてるから笑える。


そこへ…


「今宵、神より選ばれ方舟に乗りし者は誰か?名乗り出よ」

「ああっ!メジア様だっ!大いなる方舟の主にして預言者メジア様が降臨されたっ!」

「うーん、やっぱり貴方ね。それから…お久しぶりじゃナイの、シヴァ」


颯爽と御帰宅(来店)して来たメジアは、黒ジャケットに黒シャツと逝うオールブラックの装いの瘦せギスだが…なーんと女連れだょ?


ミユリさんは、連れの女をシヴァと呼んだンだが、その彼女は白Tシャツにジーンズと逝う地味な風体で、肝心?の巨乳が…ナイょ?


しかも、全身ガリガリに痩せ、頰もコケ、(しつこいけど)完璧ツルペタなんだけど、この女がホントに池袋から来たシヴァなのかな?


(もう1度)巨乳は?笑


「シヴァ!あぁ、シヴァ、僕の愛する秘書ょ!やっと君に逢えた!」

「ええっ?このツルペ…じゃなかったガリガリの痩せっぽちが?」

「待て。この者の名は使徒リエル」


さすが、元?ご主人様のロジャは、一目で彼女がシヴァだと見抜いて歓喜の声を上げる。

他方、教祖メジアとやらは、降臨という割にシヴァの肩をヒシと抱き俗っぽさマックス。


しかもレミゼ司祭と同じで胸毛がなく少し間抜けな感じ。


「シヴァ、秋葉原中を探したぞ!こんなに痩せて!さぁ、池袋へ帰ろう!」

「だから、彼女の名は使徒リエル」

「黙れ!シヴァ、君は秋葉原の悪い空気を吸い過ぎたんだ!目を覚ませ!一緒に池袋に帰ルンだ、シヴァ!」

「待て。ソレは彼女自身が決めるコト。さぁ、リエル。汝、自らの言葉で語るが良い」


すると、ソレまでズッと(うつむ)き黙っていたシヴァ(使徒リエル?)が、ユックリと顔を上げ、教祖メジア様にニッコリと微笑む。


ソレは、とてもナチュラルな笑顔に思えたのだけど…

僕達アキバ派?全員は、ソコに狂気が宿る光を見る。


果たして、彼女は大教祖メジア様に、そして僕達全員に向けてキッパリと告げる。


「私の名は、使徒リエル。メジア様に選ばれて神の方舟に乗りし女」


あ!瞬殺…ロジャはガックリと肩を落とす。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局、ロジャが愛したシヴァは、出稼ぎ先のアキバで新興宗教にハマり、ツルペタ好きな教祖の女に収まった、というコトのようだ。


その後、預言者メジアは宗教家の奥の手?である「喜捨」を乱発、御屋敷にいる常連全員に、誰彼の別け隔てなく何杯もオゴり出す。


お陰様で当夜は、ハチャメチャに盛り上がって超楽しい夜となる(売上もスゴい笑)。

酒池肉林が続く御屋敷の中で、ただ1人、暗い顔をしてるのは勿論ロジャその人…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「見送りありがとう。やはり、僕は池袋に戻るコトにするょ、ララァ」

「いってらっしゃいませ、マハラジャ」

「秋葉原。この空気が…僕の中のヲタクを惑わせる」


翌朝、僕はロジャを見送るミユリさんに付き合って、JR秋葉原駅の電気街口改札にいる。

最後の最後まで言葉に毒を盛るロジャだったが推しを寝取られ?都落ちの感は拭えない。


僕は、とりあえず彼の傷口に塩を塗る。


「コレがアキバ流なんだ。全てサッサと忘れて次の巨乳を探せょ」

「ソ、ソレもそうだな。シヴァの魂は重力の底に沈んだのだ、乳を道連れに」

「乙女ロードでの良き出会いを」


ロジャは、上りのエスカレーターで1番線へ消えながら僕達を指差し何か(わめ)いている。

恐らくまた毒を吐いているのだろうケド、僕は彼が見えなくなるまで笑顔で手を振る。


その時に僕を見上げるミユリさんに気づく。

あ、あれ?ミユリさん、いつになく真剣だ。


「昔、池袋でララァだった私は…」

「今、アキバにいるミユリさんが僕の全てだ。昔の君が誰かなんて知らないょ」

「あ・り・が・と」


ロジャの姿がとっくに消えてなお、僕はガラにもなくミユリさんの肩を抱いている。

そんな僕は、きっとヲタク達が最も忌み嫌うリア(ル)充(実)っぽく見えたに違いない。


でも、その日、僕は彼女の肩を、ずっと抱いたままでいたんだょ。



おしまい

今回は、池袋のロールプレイングカフェの常連さん、秋葉原のニューカマーIT長者改め新興宗教の教祖とその司祭などが登場しました。


前々からヲタクを語る上で避けて通れないと考えていた池袋ですが、今回、このような形で触れるコトが出来ました。


妄想世界のメインステージである秋葉原という存在に、少しでも奥行きが出れば、と思っています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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