プロローグ
私の名前は石浜渚。この世に男として生まれ、魔法使いが多いとされるヴィルヘルムと言う国で育った。以前の私は背丈も高く、スタイルもよかった。そのためか周りからプリンスとも言われもてはやされていた。
そこでなぜ私がプリンスという名を言われていたのか、その由来がある。それは私が若干15歳で国有数の天才と呼ばれ、5本の指に入るほどの人材だったからだ。
なぜそれほどの実力があったのかというと、私の前世、前々世ともに魔力の高い魔法使いだったそうだ。その力を私は引き継いでいたらしく、私自身の魔力は壮大だ。
そのためか爆裂系の魔法はもちろん。復活魔法、呪い系、あらゆる分野の魔法を簡単に撃つことが魔法を学びだした10歳頃には既に出来ていた。
15歳の頃に、帝都にも招かれ魔王軍の戦争にも参加した。私を中心に帝都は連戦連勝。私が所属していた頃は負けなど見たことがなかった。
しかし、その帝都も負けたことがある。そう私がリッチに闇落ちし、魔王軍に入った時だ。知っている奴が私の顔を見たときに出す、ゾッとする顔、怒り、負の感情、どれも極上のものだったのを今でも覚えている。
私はそっち側の人間だったのだと改めて感じた一戦だった。
なぜリッチになったのだって?それは私に頼り切っていた国、民が憎らしくなったからだ。
渚がいれば大丈夫。渚がいるのだったらここは手を抜いてもいい。渚がいれば……と。しかもそう思っている割に、私の方が立場は上、ただの魔法使いは下と人間が作った物差し(差別)で判断されるのにはうんざりだ。
魔王軍のリッチを経て、私は今、400年の時を生き、魔王軍リーダー魔王様の職についている。
背丈は15歳の頃と変わらない。ふん。リッチになったのもその頃だしな。
『ガチャ』
おっと誰か来たようだ。ようやく私のもとにやってきたか勇者よ。
「魔王覚悟!!お前を倒し、帝国に光を照らさせてもらうぞ」
「ふん。帝国などすでに滅んでいるものかと思ったわい」
魔王様らしく煽ってみる。実は初めての勇者だもんな。今まで人間は何をしていたんだか。
「俺の聖剣、エクスカリバー。この光の剣は聖なる光が込められている。魔王、貴様のために、そのひと時のために力を込めてきたんだ。魔王覚悟!!!!」
「ふん、そんな攻撃きかぬわ。ふん」
「あーーーーー。俺のエクスカリバーが……。ってなんてな。お前を倒すための罠にまんまと引っかかってくれたな」
「なんだと……、く、これは……」
「これはただ聖剣エクスカリバーで切っただけではない。切った瞬間に魔法陣を発動させ、魔王自体を封印させるのが目的だったのだ。」
「なんだと……、く、ぐわぁぁぁぁ、くそ、させぬわぁぁぁぁぁ」
魔法陣を自力で弾いた。しかし、意外にも防ぐのに最大魔力を使ってしまった。
「化け物かよ。この魔法陣は帝国ならず、この世界各地の魔法使いに助けを得て作ったものだったのに。くそ、すべての計画がパーだ」
「ふん、人間の勇者如きが私に勝てるわけがない。まぁ人間にとってはよくやった部類だったわい。勝手ながら私は少しばかり眠りにつく。私を追い詰めた勇者には私直々にプレゼント(呪い)を授けよう。後悔するがいい。はぁはははははは」
周りが黒く包まれ部屋全体が、異空間みたいになる。今までいた空間ではない感覚が私にも伝わってくる。
こんな感じだったのかこの技は。今まで使う機会なんてなかったもんな。今勇者が唖然としている姿、見てたまらない。うーん。快感だ。もっと私に悪感情を。
私の視界はもうすでにぼやけている。
ふん。もうお終いか。物足りんな。まあ良い。少しばかりの辛抱だ。その時は勇者覚悟しておけよ。
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私は目覚めた。なぜか動けない。そして言葉もだせない。なぜだ。技は失敗などしていないはずだ。
周辺を見渡すと、左右檻みたいなところで横になっている。知らぬ木の天井が上の方から見える。
なぜだ。なぜだ。なぜだ。
私は考えても答え(アンサー)を見出すことができない。
さらに、私の脳機能がさらに停止させる出来事が起こってしまう。
「渚ちゃん。起きましたの。いい子ね~。」
見知らぬ人間の声がする。右側に男、左側に女みたいだ。まるでというか見るからに夫婦みたいな感じだ。
「うん?おなかすいたの?仕方ないわね。みかんをすりつぶしたヨーグルトよ」
私の口に強制的に入れられる。やめろ。屈辱だ。なんなんだ、貴様ら。私を誰だと……。
「ほら、食べて、食べて。大きくなったら立派な魔女になってね。」
私は目の前が真っ暗になった。そんな感覚に今陥っている。
この私が……、この魔王様が、人間の赤ちゃんになっている。それに魔女になってねだと、それじゃ性別も違うじゃねーか。
いろいろと思うところはあるのだが、一番はなぜこの状態になっているかだ。わかっている。あの技だ。勇者に使ったはずの。私が最後に使った技だ。
もしかして、転生する技だったのか?、それとも魂だけ移動する技か?ともあれ、今どうもできない。
くそ、私に対しての屈辱だ。私がなにをしたというのだ。仕方がない。ここから魔王様の地位に返り咲いてやる。0からのスタートだ。
「渚ちゃん。ご飯食べましょうね。あーん」
「うにゃー、うにゃー」
私は今、魔王の渚様(男)から、渚ちゃん(女)になった。