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authentic world online  作者: 江上 那智
冒険の始まり
9/51

新たな称号と聖女の危機

10万……遠いなぁ……。

本日もよろしくお願いします!

※ご指摘がありましたプロローグのALSについて誤りがあった為に修正してあります。

心筋は止まりませんです、すみません。

ご指摘してくださった方、感謝!

「処置は完璧だ、怪我の状況も問題ない……だのに何故目覚めん!」

城にある治療室の前でソワソワと歩き回りながらマクスウェルは苛立ちを口にした。


「マクスウェル様、あまり焦らない方が」

それをたしなめるのはランオウ。


「私も昔やられたことがあるが、教会の連中が使う武具は厄介なのだ! 心配にもなろう!」


「生命活動に支障は見られません、後は本人の意思次第かと」


「此方に戻りたくないとでも申すか?」


「いえ、そのような事は……」

ないとは言い切れないために言いよどむ。

どうしたものかと二の句を探していたランオウにとって救いの手が舞い降りてきた。

音も無く二人の前に現れたランハクが吉報を告げる。


「マクスウェル様、ローズ様がお目覚めになりました」


「おお! そうか!!」



―――――



「う……ううん……」

ログインして目覚めたところは治療室のような場所だった。

様々な器具や魔法陣を施されたものが置いてあるのですぐに治療室だとは気づかなかったが。


(ここは?)

確か強制ログアウトする直前、最後の光景はモロックとギースが助けに来てくれたところ。

二人のどちらかが運んでくれたのだろうかと考えていると部屋の外から声が聞こえてきた。


『処置は完璧だ、怪我の状況も問題ない……だのに何故目覚めん!』


(あれ? この声は……)


『マクスウェル様、あまり焦らない方が』


(やっぱりマクスウェル様かぁ……じゃあこの声は)

それをたしなめる声は多分前に見た金髪のメイドさんだと思われる。

基本的にマクスウェルの側にはこの人が居るから。


『私も昔やられたことがあるが、教会の連中が使う武具は厄介なのだ! 心配にもなろう!』


(あれ、そんなに厄介なんだ……確かに少しずつ自由を奪われていったからなぁ……)


『生命活動に支障は見られません、後は本人の意思次第かと』


(あ、うん。たった今ログインしました)


『此方に戻りたくないとでも申すか?』


(ログイン時間がずれたからこっちでは処置が終わって暫く立ってるんだろうな)


『いえ、そのような事は……』


(おっと、そろそろ出て行かないとマクスウェル様の心労とメイドさんの心労がストレスでマッハになるね)


「お目覚めですか? ローズ様」

直前まで何もなかった空間に突如メイドが現れて声をかけてくる。

見た目は金髪さんにそっくりだがコッチは銀髪だ。


「うひゃあ!」


「っと、驚かせてしまい申し訳ありません……お体の具合はいかがですか?」


「え、ええっと……すこぶる快調?」


「それは重畳でございます。では、主に無事目覚めたと報告してまいりますね」


「あ、はい。お願いします」


「では」

そのまま出て行けばいいものを何故彼女は消えるように居なくなったのだろうか?

扉も開けていないはずなのに向こう側で先ほどの銀髪さんの声が聞こえる。

多分彼女はメイドではなくNINJAだとローズは思った。


「ロオーーーズよぉぉぉぉ! よくぞ無事に目覚めたぁぁぁ!」

バァン! と壊れるのではないかという勢いで扉が開かれてマクスウェルが走り寄ってくる。

両手を広げているのできっと抱き着くつもりだったのだろう。

しかし、それは唐突にローズの前へ移動した金と銀ダブルメイドの棘付き棍棒、通称モルゲンシュテルン(モーニングスター)によって阻まれる。


「「寄るな俗物!」」


「へぶし!?」

金色の方もNINJAだったらしいとローズは確信した。


「「ローズ様に近寄らないでくださいませ」」


「何故だ! 私がローズの無事を喜んではならんと言うのか!?」


「普通に喜んでください、抱き着こうなんて可愛らしいローズ様が穢れます」

と金髪さん。


「長身で髭で威圧感半端ないんですから自重してください、愛くるしいローズ様が汚穢にまみれます」

と銀髪さん。


「ねえ、なんか私にキツくない? 私ここの王だよね?」


「「ああ”!?」」


「……すみませんでした」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なるほどー、そんなことになっていたんですね」

あの後の事は強制ログアウトさせられたのでさっぱりわからなかったが事情を聞いて納得した。

神聖属性付きの武器が夜人族にとってどれだけ厄介なのかも聞いた。

神聖属性で傷つけられると夜人族は特殊状態異常「聖痕」になり、スキルが封じられるのだ。

神経毒ににたような状態にもなるので動きも鈍る。

そして、当然スキルが封じられるという事は「再生」が起きず、状態異常「出血」になりLPは減少、「灰化」も発動しないので、HPが尽きた段階で通常種と同じように戦闘不能になり、衰弱して死を待つだけとなる。

それを聞いて自分がどれだけ危ない状態だったのかを認識し、ローズは身震いをした。


「さて、其方には一つだけ謝らねばならぬ事がある」


「なんでしょう?」


「実は、其方を治療するにあたり血液が足りなくてな、必要な血液を私が提供したのだが……」


「ああ、すいません。お手を煩わせてしまって」


「いや、それ自体は良いのだが……その……」


「早く言ってくださいロン毛」


「何勿体つけてるんですか髭」


「ねえ、ランオウとランハクさっきから私に何の恨みがあるの?」


(金色さんがランオウで銀色さんがランハクかぁ……黄色(金)と白(銀)だから?)


「ごほん……実はな……ローズは王家の血筋になっちゃった……てへ♪」


「ああ、そんなことですか……はい!?」


「うん、詳しくはメニューを見てもらえばわかると思う」


「めめめメニューオープン!」

慌ててメニューを確認するローズ。

そこには信じられないような表記が追加されていた。

ついでにインフォも複数届いていた。


このゲームは緊急性が無い限りひっそりとメニュー内のインフォに届くようだ。

マメにチェックしないといけないなとローズは思った。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

名前:ローズ・ツェペシュ・スラヴァード

種族:夜人族【吸血鬼:真祖半覚醒】

△ △ △ △ △ △



【王家の血族になりました】


【称号:吸血鬼の王の血統を獲得しました】


【称号:教会の怨敵を獲得しました】


【称号:神の威光を退けし者を獲得しました】


【神聖耐性が一定値を超えました。神聖耐性が神聖耐性(大)に進化しました】


【神聖耐性が一定値を超えました。神聖耐性(大)が神聖耐性(極)に進化しました】


【称号:叛逆者を獲得しました】


【称号:愛され上手を獲得しました】


「なな、なにこれぇ!!」


――称号「吸血鬼の王の血統」

真祖マクスウェル・スラヴァードの血をその身に取り入れたものの証。

王家の秘術「幻想魔術」が使用可能になる。


――称号:教会の怨敵

教会からの襲撃を退け、完全に敵とみなされた証。

教会との戦いにおいてステータスに10%の補正が掛かり、神聖耐性を得る。


――称号:神の威光を退けし者

聖騎士の持つ神聖武具による攻撃に耐え抜き、生還した証。

神聖耐性を得る。


――称号:叛逆者

耐性スキル「神聖耐性(極)」を獲得したものに送られる証。

神聖属性の恩恵を受ける者に対して破壊と貫通属性を得る。

その一撃は本当に神をも屠るかもしれない。


――称号:愛され上手

ネルソディラの住人複数の友好を深めた証

住人からの好感度上昇値に補正


「マクスウェル様! どういうことですかコレ!!」


「うん、本来輸血くらいじゃこんな事起きないんだが、殊の外ローズと私の血と魔力の相性が良かったんだと思う……」

現実と違って同種族であれば輸血時に拒絶が起きない。

RHもルイスABも無いのでその辺はご都合というかプログラムが面倒だったというか。

とにかくメリットはそれだけである。

余談ではあるが、固有スキルの吸血、これは夜人族同士の場合吸血そのものは全く意味がない。

満腹度が回復するわけでもなければ何かが回復するという事も無い。

一応お互いの気持ちを確かめる愛情表現としてお互いの血を吸血し合う夜人族もいるとかいないとか。

結局のところ、要するにイレギュラーが起きてしまったという事だ。


「しかし、こうなると幻想魔術について話さねばならん」


「あ、そうだった。何なんですか? 幻想魔術って」


「我が王家の一族のみが使える血統魔術でな、簡単に言うと外の赤い月の空間を造ったりできる」


「え? ええ……えええええ!! あ、あれが出来るんですか!?」


「うん、昔はもっと汎用性があったみたいだけど今はそれくらいかな? 私が死ぬ前に継承して結界を維持してもらうのが基本なんだよね。ローズは漂流者だから王家を継いでくれなんて無理だと思う訳だが」


「当たり前です!」


「だから、使い方を教える。教会との戦いできっと役に立つと思うよ、あと装備なんだが是非受け取ってもらいたいものがある。今回の件もあるし其方には有用であろうからな、まだ調整が済んでないからもう少し……ん?」

治療室の外が騒がしくなる。

誰かの叫び声と必死に止めようとしているものの声だ。


「(だから俺はマクスウェルのおっさんに許可を得てるんだって!)」


「(それを証明するものはあるのかと聞いている!)」


「(後で出すから今は急いでんだよ!)」


「あの声……ギース?」


「おお、先日の奴か! ランオウ、ランハク」


「「御意」」

二人が姿を消して間もなく、喧騒が落ち着きギースが治療室に入って来た。


「助かった!」


「何かあったのか? 見舞いにしては少々強引ではないのか?」


「ああ、そうだ。ここに来る前にモロック爺さんの所に寄って来たんだが、大変なんだよ!」


「どうしたの? ギース」


「おう、回復おめっとさん! じゃなくて、ローズは聖女を知っているか?」


「ジーナ? 知ってるよ、友達だもん。割と頻繁に連絡してるよ」


「聖女と友とな? ……ローズの交友関係は読めんなぁ」


「その聖女が処刑されそうなんだと!」


「ええ!! 嘘じゃないよね……」


「モロック爺さんからの情報だ! ローズが眼が覚めた(ログインした)って言ったら急いで伝えて来いって!」


【緊急クエスト発生:聖女を救え!】


(き、緊急!? ジーナ……待ってて!)



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「爺さん連れて来たぞ!」


「おお、早かったのう!」


「モロック様、どういうことですか!?」


「うむ、それがじゃな」

先日モロックが警告したことにより、敵対したくない教会の連中が頭を悩ませた。

夜人族に理由なく手を出せばモロックがただではおかない。

だが、制裁が無ければ示しがつかない。

ならば夜人族ではない者を見せしめにしよう。

誰がいいか。

そうだ、夜人族に組する聖女を生贄にしよう。

そういうことらしい。


「……私のせいだ……」


「いや、ローズのせいじゃねえ。教会の連中が糞なだけだ」


「でも、なんで私とジーナが友達だってモロック様が知ってたんですか? 知らなければ私に知らせようと思わないですよね?」

そう言われればそうだ。

もし、完全にではないにしろ大切な人でなければわざわざ危険に飛び込ませるような情報は与えない。


「アンデルが言っておったのじゃよ、どこぞから寄付がされるようになり儂の所に尋ねてきてな」

その日の出来事から推察するのは容易だった。

お勤めをサボってまで孤児院を訪ねて来たジーナ。

一緒に連れて来た見知らぬ冒険者の女の子。

次の日から始まった謎の寄付。

言われてみれば単純だ。


「お主が極度のお人よしだという事を差し引いても聖女は大切な人物だというのは容易に推し量る事は出来た……敢えて問おう、危険だとわかっていても聖女ジーナを助けに行くかの?」


「そんなの……行くに決まってるじゃないですか!」


「だと思ったぜ。ローズ、俺も連れてけ」


「え?」


「言ったろう? 俺も戦えるって、それに俺は加護がある。最悪盾にでもなれるさ」


「でも……」


「諦めよ、コヤツはお主に負けず劣らずお人よしじゃ。命の危険も顧みずお主に血を与えるほどにのう」


「え……それって……」


「いくら加護によって死に戻る事が出来るとはいえ、生命が尽きる直前までお主の為に血を飲ませ続けたのじゃよ」


「それは言わなくてもいいじゃねえか爺さん」


「ギース……」


「気にすんなって……オイこら、止めろ!」


「おやおや、これは年寄りには刺激が強いのう」

そっと包み込むようにギースに抱き着くローズ。

その感謝の念が通じているのか、ギースは口ではやめろと言っているが無理に引き離そうとはしない。


「……ありがとう……でも、無茶はしないでね……」


「さてな……ああ、もういいだろ? さっさと行かねえと処刑されっちまうぞ!?」


「あ、うん」


「申し訳ないが儂は今回の件では動けぬ、夜人族にと言った以上聖女救出は完全に範囲外じゃ。教会の問題だと言われるのがオチじゃのう……代わりに聖都までの移動は任せておけ、ん?」

ばたばたと廊下を走る音が聞こえてくる。

目的地はこの部屋のようだ。


「間に合ったか!!」

流石に人の敷地で破壊するような扉の開け方はしなかったらしい。

マクスウェルがギルドマスターの執務室に飛び込んできた。


「ぬう! マクスウェル!? おぬし……」


「あ……マクスウェル様……身体が……」


「ん? ああ、久々だったが太陽は結構痛いもんだな。室内ならば僅かだが再生もするし大丈夫だ。たまには日光浴もせんと色が白くなって叶わんからな、はっはっは。っと、それよりもローズ、これを」

小麦色の肌をしたダンディで健康的な吸血鬼の王。

想像しただけでちょっと嫌な気分になるのは気のせいだ。


「これは?」

身体から再生の煙を出しているマクスウェル。

ローズも体験したのでわかっているが、太陽がその身を焼く痛みはかなりキツイ。

それを推してまで届けたいものがあったようだ。

誰かに頼めばいいのにと思うが、重要であればあるほど自分で動かなくては気が済まないのがこの王のキズであり良いところ。

その手には意匠を凝らしたガントレット一対とタリスマンが乗っていた。


「さっき言いかけていた装備のガントレットだ、ネフィルに無理を言って大急ぎで調整してもらってきた。攻撃力と筋力補助の魔術が掛かっているから昼間の力の減退をほんの少しでも抑えてくれる筈だ。急ごしらえだが十分なものであろう? それと、血統魔術の補助をしてくれるタリスマンだ。私も慣れないうちは世話になった一品物だから無くさないでくれよ?」


「ぐす……ありがどうございまず!」


「おい、泣くでない! 私が悪いようではないか!」


「これはおぬしが悪いのう、マクスウェル……そのガントレットの刻印は「憤怒」。そして付与された魔力はおぬしのものじゃろう? 古の夜人族が愛用した憤怒の刻印なぞ今はお前くらいしか覚えておらんじゃろうに……ボソ(それに、腕の部分にひっそりと記されている意匠は先々代のものじゃろう?)」

始祖の時代から少し後、ハイ・デイライトウォーカーを持つ者が少なくなった時代に生まれた刻印の一つ「憤怒」。

減退する昼間のステータスを少しでも補おうと生み出されたもの。

それは、デイウォーカーすら持たない今の夜人族ではほとんどの者が知らない代物。


「あ、こら! ばらすでないモロック! ……ボソ(それは今は内緒にしてくれ)」


「(貸し一じゃ) ほっほっほ。そうじゃ、ローズよ。この魔石を持って行け、それは通信魔石じゃから終わったらそれに魔力をながして儂に連絡をしてくれれば迎えを送ろう」


「(ち、仕方あるまい) フレンド登録でも良かったのではないか? モロックよ」


「こんな老いぼれとフレンド登録なぞしたって面白くもないじゃろう」


「はは、ローズの周りはお人よしばっかだな」


「う”ん”、みんだありがどう”!」


「よし、その涙は聖女を助けた時までとっとけ」


「うむ、準備はよいな? 聖霊よ!!」

モロックの呼びかけに応え、長く美しい緑の髪をした真っ白いワンピースドレスの少女が顕現する。


――風の精霊シルフィード。


「シルフィーよこの者たちを聖都まで頼んだぞ」

モロックの指示を受けてシルフィードがにこりと微笑み、ローズとギースに手をかざす。


「なあ爺さん、嫌な予感がするんだが……」


「馬車で行っては時間がかかり過ぎるでのう。なに、万が一にも墜落はせんよ」


「まあ、これも経験ってことであるかな?」


「それって……」


「さあ、シルフィ! 行くがよい!」


「やっぱり空かよおおおぉぉぉぉ……!!」


「うきゃああああぁぁぁぁぁ……!!」

二人は窓から大空へと射出(・・)されていった。


「二人とも」


「無事に帰って来い」

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