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authentic world online  作者: 江上 那智
冒険の始まり
8/51

孤児院とローズ、聖騎士と夜人族

本日二つ目。

ちょっと長いです。

ちょっと? かなり?

アモーレに戻ったローズは図書館で本を読んでいた。


――「状態異常の全て」

多数の状態異常を網羅した本。


「……細かい……」

毒や麻痺など一般的なものは省いて、この世界独自の状態異常を調べて行く。


――状態異常「骨折」

骨が折れ、行動に支障が出る状態異常。

魔術による治療は向いていないが出来ないわけでもない。

折れた部位を正確に戻し、添え木をして固定するのが一般的。

一番簡単なのは折れた部分を切り落として「欠損」に上書きし、神代級回復魔術で再生させるのが早い。

使える人が居ればだが。


――状態異常「出血」

多数の裂傷を負う事で行動に支障が出る状態異常。

治療にはポーションを用いるか魔術による治療が一般的。

治療が遅れれば遅れるほど生命力が減っていく。


――状態異常「衰弱」

生命力が1/3以下になった時にかかる状態異常。

この状態になった者はいくら外傷を治しても生命力が減っていく。

緊急性の高いものはライフポーションを用いて生命力を回復させることで軽減できる。

完全に治すには休息と食事での治療。


――状態異常「重傷」

「出血」や「衰弱」と併発することが多い状態異常。

即座に完全回復させるには上級の回復魔術が必須。

一応中級の回復魔術でもなんとかなるが術者に負担がかかる。

もし自然治癒させようとしたなら湯水のようにポーションが必要になるので素直に上級回復魔術が使える人に頼むのが無難。


――状態異常「致命傷」

なぜこれほどの怪我で即死しなかった? と聞きたい状態異常。

急速にLPが減少するので即座に治療が必要。

回復には神代級の回復魔術が必須なので、この状態になったら素直に諦めて遺言を残した方がいい。



――状態異常「病」

呪いの一種。

治療には神聖魔術の浄化が必要。


――状態異常「昏倒」

HPが尽きたときの「気絶」とは違う。

頭部に強い衝撃を受けたり、一撃で7割以上のダメージを受けた時に起こりやすい。

即時回復には水を掛ければよい。


「こんなとこかな……なんか魔術も一長一短というか、現実の薬みたいなかんじなんだね……あ、そうだ」

折角だから自分のスキルをしっかり把握しておこうと思い立った。

どちらかと言えばそれはゲームを開始したあたりでやって置くべきことのような気がするが?


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

名前:ローズ・ツェペシュ

種族:夜人族【吸血鬼:真祖「微覚醒」】

△ △ △ △ △ △


この真祖というのは生まれつき夜人族だったものの事である。

先日マクスウェルに覚えさせてもらった吸血鬼化スキルによって夜人族に転生したものは「屍廻生(しかいせい)」と呼ばれる。

この「屍廻生」から「真祖」へと変わることも出来るとマクスウェルは言っていた。

ちなみに幽鬼の吸血鬼化にあたるスキルは「転魂術」というらしい。

本来なら消えてなくなる魂をアストラル体の状態で止めおく秘術なのだとか。


(複雑だなあ……っと、スキルスキル)


――【戦闘高揚:血】

パッシブスキル。

戦闘時、血を見たり匂いを嗅いだり浴びることで興奮状態に陥り、ステータスが上がる。

同時に少しだけ理性の箍が外れてしまう。

亜種として「闘」「蹂躙」などがある。

ちなみに闘は戦いそのモノがスイッチであり、蹂躙は大量の相手を屠る事で発動する。

ひょっとしてキミは二重人格なのかな?△


――【吸血】

パッシブスキル。

対象に噛みつき、その血を啜る。

噛みつかず、付着した血液を経口摂取する事でも効果がある。

種族によって効果が若干違う。

当然だが魔法生物や無機生物には効かない、というか吸えるもんならやってみろ。

人間族  :HP回復、LP微量回復。

魔人族  :HP微量回復、MP回復。

エルフ族 :MP大回復。

ドワーフ族:HP大回復。

機械人族 :無理。

魔物   :HP回復。△


――【メタモルフォーゼ】

アクティブスキル。

【蝙蝠】【狼】【霧】に変化することが出来る。

【蝙蝠】時は飛行状態になる。また、音響定位により物体の位置を探ることが可能。

【狼】時は嗅覚の強化とスキル「咆哮」が使用可能。

咆哮は一瞬のみ相手を竦ませるが、実力差が大きいとレジストされることもある。

【霧】時は物理無効、隙間があれば障害物をすり抜けることも。

変身中はどの形態も継続的にMPを消費し、痛みなどで集中が切れると変身が解けてしまうデメリットもある。

MP消費:【蝙蝠】小、【狼】中、【霧】大。 クールタイム:変身解除から60秒。 効果範囲:自分。△


――吸血鬼化

アクティブスキル。

自らの血と魔力を与えたものを夜人族【吸血鬼】へと変貌させる。

ただし、その者の同意が必要で、なおかつ純潔を守ってなくてはならない。

変化させる際、その者が変化前に負っていた傷は固定化されるので注意が必要。

漂流者は強力な加護で守られてる為、条件が整っても無理。

変貌した後の純潔は必要ないのでお好きにどうぞ。

MP消費:極大。 クールタイム:24時間。 効果範囲:一人。△


(吸血は便利だと言うのが分かったけど、戦闘高揚:血ってなんなのさ……というか犯人はコイツか……)

ローズはPKとの闘いの事を思い出す。

アレは相手が血の臭いを身体全体に染みつかせていた為に発動してあんなことになったのだと。

色々と突っ込みたい気持ちを抑えて彼女はそっとメニューを閉じた。


だが、説明を見たことで合点がいった。

どんな手段を用いても種を絶やすわけにいかなかった過去の夜人族たち。

スキルの説明にもある通り相手の同意が必要なのだが、攫われて無理やり夜人族に変えられたと「表」の人たちが誤解した可能性は0ではない。

それが今も種族の確執が尾を引いている原因だろう。


「ローズさーん、そろそろ閉館ですよー」


「はーい」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



夜の狩りを終え、一休みしたのちにハウンドの毛皮を換金して寄付に回した後ローズは肉を持ってギースの下を訪れていた。

料理を教わろうとしているのだ。


「うん? 料理か……遠出でもするのか?」


「ううん、そうじゃなくて……」

そう、ローズは炊き出しをしたいのだ。

料理は出来なくはないが、全て我流。

自分で食べる分には問題ないが人に提供するとなると気後れする。

ならばシステムアシストが効くこの世界で覚えれば? という答えにたどり着いた。


「なーるほどねぇ……よっしゃ、俺が一肌脱ごうか。まあ、今日は俺が炊き出し手伝ってやるよ、野菜もねえだろ?」

野菜、失念していた。


「……お願いします」

ローズはギースと共に市場をめぐる。

これはこれで新鮮な発見があった。


「お米がある!」

中世に似た雰囲気の世界なのでないと思っていたものがある。

これは驚いた。


「俺は今屋台だからな、そのうち店を手に入れたら定食やりてえんだ。だから食材の発掘には神経を傾けてる」

ギースも米を発見したのは偶然だという。

美味しくないが量はあるという野生の稲を安値で売っている場所を見つけたのだ。

調理法はこの世界ではまだ出来ていないようで、ギースもこの情報は秘匿しているらしい。


「いいの?」


「実は小さい店なら買えるだけの資金は貯まったんだ。だからこの世界で米が受け入れられるかの実験みたいなもんだから気にすんな」

いつの間にかそこまで話がいっていたらしい。

彼の店は郊外にある小さな空き家を改装するとのこと。

人通りは少ないが、彼ならばきっと多少の不便でも足を運んでくれる店になるに違いない。

そうこうしているうちに孤児院にたどり着いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「こんにちはー!」


「おや、これはローズさん。今日はどんなご用件で?」

この人物は孤児院の院長アンデル。

神父ではないのだがなぜか神父服を着ている。

センが付いたなら色々危険もあるがかなり強そうな名前になる気がするが気のせいにしておこう。


「今日は余った食材で炊き出しに来ました!」


「おお、それはありがたい! 最近は匿名でこちらに寄付してくださる方もいらっしゃって大分子供たちにも満足に食事を与える事が出来てますが、やはり育ちざかり。少々物足りないようでしたので助かります」

そう言いながらチラリとローズを一瞥して微笑むアンデル。

きっとバレてる。


「(なあローズ、匿名の寄付はお前だろ?)」


「(アンデルさんにはバレてるみたいだけど言わないでね)」


「(まったく……お人よしだなお前は……ま、そこがいいんだが)」


「ところで、こちらの方は?」


「ああ、炊き出しを手伝ってくれる私の友達の」


「ギースっていう料理人だ。今日はよろしく頼むぜ」


「こちらこそ宜しくお願いします」

ギースが調理してる間のローズの仕事は子供たちと遊ぶこと。

昼間の力なら子供相手にはちょうどいい。


「おし、出来たぞ並べー!」


「「「「「わー!!」」」」」


「おらガキどもー、お代わりはたくさんあるから遠慮すんなよー!」


「うわ、この串に刺さったお肉美味しい! え? ハウンドのお肉なの!?」


「なに? この白いの」


「コメだって」


「このスープお野菜とお肉いっぱいでおいしいー!」


「ラッシュボアのお肉? トンジルっていうの?」

子供たちは提供された料理に舌鼓をうち、口々に喜びを伝えあっている。


「……これは……私では到底出せない味ですね……流石料理を生業としている方です」

アンデルも大絶賛のようだ。


「褒めても駄目だぜ? 俺の最高の賛辞はよう……」


「「「「「おかわり!!」」」」」


「へ……これに限るからよ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



炊き出しが終わり、ギースに料理指導を受けたあと、いつものように夜の狩りに出かけようとアモーレの門に向かうローズ。

しかし、この日は何かが違っていた。


(なんだろう……妙に胸騒ぎがする)

背後には二人ほど人の気配を感じている。

明らかに尾行している動きだ。


(この間の暗殺者さんかな? 報復に来たとか……)

不意に左手側にも気配が増え、殺気を放っていたので避ける。

殺気を放っていたにもかかわらず追いかけてくる気配はない。

その後も向かう先々で怪しい気配を感じ、都度迂回をしていて気づいた。


(追い込まれてる!?)

気が付けばローズは袋小路に立たされていた。

いざこざを避けようと不審人物を迂回したのがまずかった。

最大限に警戒をしながら待つこと数分。

尾行していた二人組が現れる。


「ローズ・ツェペシュだな?」

現れた二人組は真っ白い鎧に十字架をあしらった鎧を着こんだ男。

声に聞き覚えがある、アレは確か。


「ジーナの護衛の聖騎士様だね?」


「ふん、そんなことはどうでもいい。聖女を誑かし、神に仇なした罪で貴様を断罪する!」

まったく会話になっていない。だが、聞き捨てならないことも言った。

聖騎士はローズの目の前に右手の盾を突き出して視界を塞ぎ、左の刺突剣を突き出してくる。


「うわ! あぶないなぁ」

ほんの少しだけだが足に掠る。

大した傷でもないのにやけに痛む上に心なしか傷の治りも遅い。


「ふむ、やはり少女とはいえ夜人族か。今ので仕留められんとは……」


「だがかすり傷とはいえ傷を与えた、動けなくなるのも時間の問題だろう」


「ねえ、聖女を誑かしたって何のこと?」


「白々しい、その口叩けなくしてやる」


「あれで行くぞ!」


「おう!」

片方の聖騎士がもう片方の背後に回り込む、アレでどうするというのだろうか?


「ジャ!」


「うわわ! うそぉ!?」

前衛を務める聖騎士が先ほどと同じように視界を塞いでから剣を突き出す。

それを今度はうまく躱して反撃を叩きこもうとした瞬間、前衛が半身をずらし、その隙間から後ろにいた聖騎士の剣が伸びてくる。


「いったぁ……」

不意をつかれた一撃は左の肩に刺さり、何か懐かしい痛みを与えてくる。


(まるで太陽に焼かれたときみたいな痛みがある……傷も治りが遅い……なんで?)

夜ならば遅れは取らないと高をくくっていた自分を呪いたくなる。

よくよく考えれば教会の連中は夜人族を相手取るのに慣れているのは当たり前だ。

なにせ殺し方を確立してしまったような連中なのだから。


(まずったなぁ……ギースまだいるかなぁ……)

一縷の望みをかけてフレンドリストを開く。

そこにはログインを示す白文字のギースが。


(やた! お願い繋がって!!)


『おうローズ、どうした? 今仕込み中なんだが』

流石料理人、この時は小躍りしたくなるくらい嬉しかった。

今度抱き着いてやろうとローズは思う。

合法だが見た目ロリなローズが抱き着けば社会的に死ぬ可能性があるからやめて差し上げろ。


『ギース! 今教会の聖騎士に襲われてるの!! ギルドマスターに連絡して!』


『は!? 今なんつった? 襲われてる? ギルドマスターがどうした?』


『冒険者ギルドのギルドマスターモロック様に私が聖騎士に襲われてる事を伝えて! それでわかるから!!』


『わ、わかった! 死ぬんじゃねえぞ!? そのキャラのお前に会えなくなるのは寂しいからな!』

告白だろうか?

伝えるべきことは伝えた、後は死なないように粘るだけだ。


「なかなかしぶといな」


「普通の夜人族ならもう動けなくなっているはず」


「まあ、どうせ始末するのだから嬲る形になっても」


「仕方ないなぁ」


(くう! 段々と動きが鈍くなってるのがわかる……何か出来ることは……あ? メタモルフォーゼ!)


「死ぬがいい!」


「おまえらの種族の罪を数えろ!!」


「この……メタモルフォーゼ【霧】!!」

刺し貫かれる寸前で霧になって躱すことが出来た。

出来た筈なのだが痛みは襲ってくる。


「なんと!? すでに真祖の力を使えるのか!!」


「だが、神の加護が宿った我ら聖騎士の剣にはそのような子供だましは通じぬ!」

やたら滅多に剣を振るわれ、霧の身体に当たる度に焼けるような痛みが襲い掛かる。


(神の加護が原因か……やば、痛みで集中が……)


「あう……」

霧化が解け、しりもちをつくような体勢で地面に落ちるローズ。


「散々手古摺らせてくれたが、ここまでだな」


「断罪する!!」


「くっ!」

傷みに備える為に目をつぶり、歯を食いしばる。

だが、想像していた痛みは一向に襲って来ない。

どうしたのだろうと目を開けると、そこには待ち望んだ援軍が居た。


「ほっほっほ、またせたのローズや」


「助けに来たぜ! っと言っても俺の出番はなさそうだが……」

ローズを襲っていた二人の聖騎士はモロックによって宙づりにされている。

手を使わずに……。


「モロック様! ギース!!」


「さて……お主等に言っておくことがある」


「は、はなせ!」


「モロックよ、これは貴様がでしゃばる問題ではない!」


「でしゃばる問題なのじゃよ」


「「なに!?」」


「お主等教会がひた隠しにしている真実を解き放つときが来たのじゃよ」


「それは……」


「どういう……」


「ふむ……聖騎士と言えど所詮は木っ端かのう……知らされてもおらぬか……まあよい、此度は見逃してやる故、教会に戻りハディスに伝えよ! 『ローズに……否、夜人族に手を出せば儂が相手になる』とな」

強烈な威圧感が辺りにまき散らされ、聖騎士の二人はすっかり戦闘の意思をうしなう。


「目ざわりじゃ、とっとと去ね!」


「ひ、ひいい!」


「おたすけぇぇ!」

こうなってしまっては威厳もなにもあったもんじゃない。


「おーい、忘れモンだぜ!」


「あが!?」


「あふん!!」

ギースが投げた聖騎士の刺突剣は吸い込まれるように二人の尻に突き刺さる。


「おぬし、なかなかいい腕と根性しとるのう」


「褒めても何もでねえぞ? 俺が好きなのは飯のお代わりの言葉だ!」

ぶれない男だ。


「ローズ、いい友をもっているのう」


「二人とも、ありがとう……」


「おっと!」

蓄積したダメージもあり、安心したためか気を失うように倒れこむローズ。

咄嗟にギースはそれを受け止めた。


「聖騎士の剣をこれだけ受けて息があるとは……ともかくギルドに運ぶとしよう」


「わかったぜ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なーんか厄介な事になってんなぁ……」


「これは儂ら全体の問題じゃ……漂流者であるお前さんは巻き込んだ形になるのう」


「構わんさ、大した回数あったわけじゃないが個人的にローズは嫌いじゃないし失いたくない奴だからな。俺に出来る範囲でならいくらでも手伝ってやるよ」

実際昼間を含めれば三回しか会ってない。


「なかなかにいい男じゃの……しかし……」


「当の本人はまだ目覚めねえか……」

聖騎士の持つ剣というのは夜人族にとってかなり凶悪な武器らしい。

夜の時間でもなかなか再生が起きず、回復量は微々たるもの。

ポーションは夜人族には意味がない。

あと出来る事と言えば……。


「吸血だったか? 直接じゃなくても大丈夫なのか?」


「確かの」


「なら話が早え、よっと」


「おぬし……」


「へ、こんなかすり傷屁でもねえさ……おら、お姫さんよ、コイツを飲んでとっとと起きやがれ」

かすり傷とは到底思えない傷、現実ならとんでもないことになっているほどの傷を躊躇い無く作るギースにモロックは感嘆の声を漏らす。


血の流れる手首を口に持ってくと、わずかに喉が動き傷の治りが早まったように見える。

だが、いつもと比べればやはり遅い。


「もう、やめよ……お主がもたんぞ」


「早く起きろよ……俺は死んでも大したこと無いがお前は死んだら終わりなんだろ? 現実のお前は無事でもローズ・ツェペシュには会えなくなるんだからな……くっ」


「もう十分じゃ、エクスヒール!」


――エクスヒール。

水の上級回復魔術。

重傷までの外傷を完全に治す。

致命傷は不可。


「おい……モロックの爺さん、何すんだよ……」

瞬く間にギースの傷が完治する。

しかし、状態異常出血で失ったLPはすぐに回復はしない。


「いくら復活できるとしても無事ではあるまい、もうよすのじゃ」


「でもよう……俺には今これくらいしか……」


「待たせたなモロック!」


「遅いぞマクスウェル!」

ギルドマスターの部屋の扉が勢いよく開かれて長身のダンディなおじさまが姿を現した。

夜人族の王、マクスウェル・スラヴァードその人である。


「聖騎士に襲われたというのは誠か?」


「然り、騎士の剣で全身を貫かれておる……今命があるのが不思議なくらいの消耗じゃった」


「……の割には少しだけ回復しているようだが?」


「それはこやつ、ギースが自らの死もいとわずに血液を与えたからじゃ」


「それはそれは……我らが種の為にそこまでしてもらえるとは……」


「夜人族の……ためじゃねえ……ローズの為だ……」


「それでも……だ。ローズよ、よい友を持ったな」


「で、どうにかなるのかの?」


「結論から言えば問題ない。だが、表では処置できぬ」


「逢魔ならばなんとかなるんじゃな?」


「うむ」


「なあ、おっさん……その、逢魔には見舞いに行けるのか?」


「ふむ……通常では無理だが、ローズの為に命を懸けたほかならぬお主ならば歓迎しよう。これを」


「これは?」


【夜人族の街「逢魔」への通行許可証を入手しました】


「それを持っていれば噴水広場からの転移メニューに我が街逢魔が追加される。決して盗まれたり紛失せぬようにな」


「ありがてえ……ローズ、こんど美味い飯持っていくからな。ちゃんと目を覚ましとけよ? じゃあ行くわ、これ以上俺が居ても何も出来ないだろうから帰って飯の仕込みするぜ」

先ほどよりかは幾分か顔色が良くなったように見えるローズを優しく撫で、振り返らずにギルドマスターの部屋を後にする。

僅かに目元が濡れていたように見えるのは気のせいだろう。


「では、我も行くとしよう。ランオウ、ランハク!」


「「ここに」」

呼びかけに答え、音も無く二人のメイドが現れる。

片方は以前食堂にもいた金髪メイド「ランオウ」、もう一人はランオウに瓜二つだが、髪色が銀の「ランハク」。

料理に身の回りの世話から露払い、斥候から諜報までこなすマクスウェル自慢のスーパーなメイドだ。


「細心の注意を払いローズを我が城の医務室に運べ」


「「御意!」」


「ではモロックよ、積もる話もあるだろうが今はこれで失礼する。息災にな」


「うむ、マクスウェルも達者でな。そのうち飲み交わそうぞ」


「おお、楽しみにしておる。ではな」

挨拶もそこそこにマクスウェルも席を立つ。

残されたモロックは執務椅子に腰かけて溜息をつく。


「……ハディスよ……長年のツケを払ってもらうぞ……」

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