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authentic world online  作者: 江上 那智
冒険の始まり
6/51

初〇〇とスキルと料理人

山場!!

けっこうきわどい描写ではないかと思います。

でもやりたかったんや!

ギルドからサンプルのナオリ草を貰い、夜の森で採取を続けるローズ、吸血鬼という種族の強みなのか夜目が効くので灯りは必要ないのが楽だった。

30集まり、ハウンドも3は狩れた。夜間専用なのかフクロウの魔物も出たのでそれも2体ほど美味しく狩らせてもらったので、そろそろ帰還しようとした時何かが視界の端を過る。


(空気がおかしい? 張り詰めたような……それに魔物の気配がない? 誰かいる……)

全体の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされている。

ローズの強化された嗅覚が鉄の臭いを感知したのだ。


「こんな時間にデートの誘いかな? もっとムードがほしいね」

普段の彼女からは考えられないようなセリフが飛び出る。

夜のローズは種族の影響なのか、戦闘態勢に入ると酷く高揚感が増し、このような状態になりやすいようだ。


「ち、嬢ちゃん気配感知でも持ってんのか? 俺の隠形を見破るとはな……薬草採取してたから初心者かと思ったんだがなぁ」

木の影から姿を現したのは真っ黒い装束に身を包み、頭巾で顔を隠した男。

種族は分からない。


「そんなに血の臭いをさせてたら隠形とやらも意味ないよ、次からは返り血を浴びないようにしないとね」


「臭いだと? 獣人族には見えねえが……」


「血の臭いには敏感なの」

感覚を全開にして相手の動向を探るローズ。


(何が来ても食い破ってあげる……)

戦闘方法自体は獣染みていて武道の心得もない素人のローズ。

相手は対人を……それも暗殺を生業にしている闇の住人だろう。

言動から初心者をターゲットにしているようだが、抵抗されてもねじ伏せれるだけの実力はあるとみていい。

だが、こちらは生粋の闇の住人である夜人族。

相手にとっての不幸はこの一点に集約される。


「見つかったのは想定外だったが……問題はないな」


「っ!?」

しかと捉えていたはずの視界から忽然と姿を消す男。

直感でローズは頭を下げると、直後に風きり音が聞こえた。


「おいおい、バックスタブを躱すだと?」

背後に現れた男が驚愕する。


バックスタブは気配隠蔽、不意打ち、忍び足の三つのスキルを覚えることで使えるようになる職業暗殺者の戦技スキル。


(今のはヒヤッとした……でも)

ローズの手が相手の首に絡みつき、小柄な体躯では考えられない力で締め上げて釣り上げる。

片手のネックハンギングツリーだ。

短剣から手を離さなかったのはプロ故か? それでも。


「チェックメイトだね」

一撃で致命傷を与えることが出来なかった段階で彼はもう終わりだった。


「く……げぇ……プ、プレイヤーじゃないのか……?」

その単語を口にした事でこいつも漂流者だという事が判明した。

もし住人ならば「プレイヤー」という言葉は間違っても使うことは無いからだ。

こいつの難易度は不明だが、たとえリアルを選択していたとしても今のキャラクターが永遠に消失するだけで現実には影響はない。

その事実がローズの枷をさらに外した。

突如として鎌首をもたげた吸血衝動がローズの心を支配する。


苦し紛れに蹴りを放つ暗殺者。

しかし、力の乗らない蹴りではローズの再生を上回るダメージを与えることは叶わない。


「プレイヤーだよ。さて、貴方はどんな味がするのかな?」

抗う事が難しいその衝動に突き動かされて彼女はペロリと舌を出し唇を湿らせた。

それは子供の様に無邪気で、それでいてとても妖艶な魅力を放っていた。


「あ……なんだ? き……牙!? なんなんだよお前……」


「ふふ……いただきまーす」

ゆっくりと勿体つけるように首筋に口を近づけていくローズ。


「ひいバケモノ! や、やめろ! やめて!」

必死になって脚を振り回し、我武者羅に短剣を揮うが全て再生の範囲内。

あるいは落ち着いて頸椎を狙う事が出来たなら結果は違ったのかもしれない。


ローズは優しく頸動脈へ牙を突き立てる。

まだ噛みつくことはしない。

ドクドクと暖かい命の脈動が伝わってくる。

加減を間違えれば途端に泡沫の夢と消えてしまいそうなくらい儚くも愛おしい命の感触を十分に堪能して、彼女はほんの少し力を籠めた。


ブツリと皮膚を突き破る感触が牙に響く。

同時に、まるで10年物のワインのように豊潤で、最高のパティシエが作った菓子のようにとても甘美な液体が口の中に溢れてくる。

それは何物にも代えがたい至福の時間だった。


「あ、ああ、ああ……あ……やだ……たすけて……」


「……んふ……ちゅ……じゅる……ん……はあ……あまくて……おいし……んふふふ。ああ……こんなに溢れて勿体無い……」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ギルドに帰って来たローズは自己嫌悪に陥っていた。


「な! 何があったんですか!?」


「ちょっと……ね。あ、これナオリ草。あとハウンドとフクロウの解体お願いします」

ジーナとの共闘時もそうだが、どうしても吸血の誘惑には耐えられない。

まして今回は人間の……それもプレイヤー相手なのだから。

気分が落ち着いてからの落ち込みようたるや酷いものである。


「そう……ですか……あまり危険な事はしないでくださいね? ええっと……毛皮の状態は少々痛んでいる程度ですからほぼ満額の解体費を差し引いて……はい、こちらが報酬になりますね」


「……ありがとうございます。あ、ハウンドのお肉と毛皮の分は孤児院に寄付で。フクロウのお金は受け取りで」


「かしこまりました。……何があったかは話してくれないんですよね? でしたら深くは聞きません。そうですね……この時間ならまだ露店に夜店があったかもしれないので気分転換にどうですか? あ、もし行くならこのハンカチで顔を拭いてからの方がいいですよ」

イリアに気を使われたようだ。

イリアは水魔術で湿らせたハンカチを差し出してくる。

つい最近似たようなことがあった気がする。


(露店……そういうのもあるのか……)

やってしまったものは仕方がない、気分を切り替えるのにもそう言ったものを見るのは楽しそうだ。


「あ……ローズさん! 顔……拭いてない……」












そういうわけでたった今稼いだばかりのお金を握りしめて噴水広場にやって来た。

深夜帯ではないが、結構いい時間だというのにちらほらと屋台が出ている。


「お、嬢ちゃん! 焼き鳥どうだ?」

屋台のおっちゃんが焼く香ばしいタレと肉の匂いが食欲をそそる。


「一本30Nだ、どうだ? 食ってくか?」


「焼き鳥……かあ」

夜人族は通常種よりも空腹度が減りにくくなっている為、定期的に魔物から「吸血」していれば食事はあまりとらなくてもよい。

だが、今回は人間らしい食事と言うのはありかもしれない。

いくら空腹感が無くても食べられるなら食べよう。


「秘伝のタレを使った自慢の品だ、どうだ?」


「うん……一本ちょうだい」


「ん? もっとしっかり食わないと空腹ペナルティは抜けねえぞ? しゃあねえ、おまけしてやるよ」

どうやら通常種には空腹ペナルティというのもあるようだ。

いや、夜人族にもあるのだろうがペナルティを受けるほど減ったことがない。

先も言ったように殆ど減らないのだ……が、くれるというなら否はない。


「いいの?」


「ああ、お前さん可愛いしな。宣伝しといてくれや」

ロリ……というわけでは無いようだ。

こういう裏のない言葉の方が心に響く。

ジーナの気持ちが少しわかった。


「お安い御用だね」


「しっかし、せめて顔だけでも汚れ落としてから外にでたらどうだ? 夜遅いから人通りはまばらだが……その……正直女の子がしていい恰好じゃねえぞ? というか魔物に噛みつきでもしたのか?」

言われて気づく。

口周りと装備の胸元辺りが血で染まっている事に。


(ああ……思いの外気が回ってなかったんだ……)

何故イリアがあのような事を言ったのかも合点が言った。

返り血ではあるが血だらけで返ってきたらだれでも心配する。

魔物に対してならば馴れと割り切りが出来ているので普段はしっかり血を落としていくのだが、さすがに今日は無理だった。


「なんでそんな状況なのかは知らねえが、折角可愛いんだからおめかしくらいはしとけ」

ニカっと気持ちのいい笑顔を向けてくるおっちゃん。

心なしか顔が赤い気がする。

やはりロリなのか? ローズは今年21なので合法だが。

いや、女性をほめるというなれない事をした照れのようだ。


「……気を付けるよ、自己紹介がまだだったね。私はローズだよ」


「お、俺はギースってんだ。料理人プレイヤーやってる、食材調達に戦闘も出来る戦う料理人ってな。ほい、焼き鳥」

袋に入れられて手渡されたのは5本。


「え? おまけは一本じゃないの?」


「ん? そんなこと言ったか? まあ食えや」

あっけらかんと言い放つギース。

これはどんな反論も意味がないとあきらめて焼き鳥を頬張る。


「んん!? おいしい!」


「だろ? このゲームは生産職にやたらキビシイからこの味を出すのに苦労したよ」


「もぐもぐ……どういうこと?」


「ほぼ現実と同じなんだよ。全部手作業、上に行けば行くほどほどな」


「ほえー、そうなんだ」


「おう、スキルレベルを上げて行けばOKな一般的なゲームを思い浮かべてるやつからしたら生産は結構過酷だぞ? この世界は獲得スキルは見れるがHP、MP、LPを除く各種データが一切見れないからな。筋力などのパラメータはおろかレベルすら隠しデータだから実力が推し量れねえ」


「そう言えばそうだね」

職人スキルである鍛冶、料理、錬金、大工、細工、彫金、洋裁などなど。

デフォルトで設定されているスキルアシストを使えば普通にモノは出来るが、一定水準以上のモノを作りたい場合はアシストに頼っては出来ないそうだ。


料理で話をするならば、出来た料理には空腹度を○%回復という表示が付く。

アシストに頼らずに作業が出来て半人前。

アシストに頼らず、かつ安定して%が同じものが作れるようになってやっと一人前。

そこから食事に「一定時間スキル習得率10%上昇」などボーナスが付くようになればプロ、ボーナスが安定すれば晴れて上位生産スキルを獲得できる。


上位スキルはオリジナルが作成できる。

オリジナル作品は「名」付けられる。

さらに作品に自分の「銘」も入れることができるようになる。

ここまでたどり着ければ匠と呼ばれるらしい。

ちなみに付くボーナスは完全にランダム。


「味は一定になったがまだ空腹度の回復量がなぜか安定しないんだよなぁ……はあ……職人の道は険しいぜ。いつかは匠って呼ばれるくらいになって見てえな」


「大丈夫! こんなにも美味しい焼き鳥できるんだから」


「ははは、ありがとよ! 俺は料理が好きだ。色んな変わった食材で現実の味を出したくてこのゲームに手を出した。辛い道のりだが後悔はねえ、ローズも悩み事あったんだろうが気にすることはねえよ。結局現実もココも、出来ない事なら出来るように頑張ればいい。自分のやりたいようにな」


「確にね……うん……」

どこで迷っていたんだろう。

この世界で生きると決めた。

個性も強く面白そうだから吸血鬼から変えなかった。

種族のデメリットも受け止めた。

リアルモードだってこの世界の住人と同じ土俵に立ちたかったからだ。

人間から吸血したくらいなんだ、吸血鬼なんだからいいじゃないか。

私は茨戸陽子だけど私はローズ・ツェペシュだ、そう割り切ったとき、スッと心が軽くなった気がした。


「ありがとう!」


「おう! いい顔になったな? さっきまでの表情は見てらんなかったからな」

顔に出ていたらしい。


「ギースさん、フレンド登録しよ?」


「お? いいのか? あと「さん」はいらねえぞ」


「うん!」


【ギースがフレンド登録を承認しました。】


「へえ……ん? 夜人族? なんだこりゃ」


「ああ、それはランダムで決めたら出てきたレア種族だよ」


「なにぃ!? そんな話は聞いたことねえぞ!」


「うん、難易度リアルのみの特典だって」


「って事はローズはリアルモードでプレイしてんのか?」


「うん」


「なんとまあ……んで、この夜人族とやらはどんな事が出来るんだ?」

ローズは今までの経験とシステムに関してを覚えてる限りギースに伝えた。


「日中のデメリットがキツイな……幽鬼の方が使い勝手良さそうにも感じるが……ところで、ローズは掲示板を利用してるか?」


「掲示板? なにそれ」


「掲示板ってのはこのゲームをプレイしてるやつらが得た情報を共有する場所だな。結構色んな情報が飛び交ってるから見といて損はないぞ? 書き込むのが嫌なら俺が当たり障りなく書き込んどくがどうだ?」


「書き込まないとなんかあるの?」


「情報を秘匿するのもいいが、適度に出して置かねえと余計な恨みを買う事にもなる。ひょっとしたらローズと同じ夜人族が出た奴も居るかもしれねえからそう言ったやつにデイウォークくらいは出した方がいいだろう」

ギースの言い分も尤もだ。

レアな種族と言うだけでも目に付くし、今日はPKを撃退したこともある。

ローズの情報が周りに出始めるのも時間の問題に想えた。


「ああ……PKを返り討ちにしたのか……それで血だらけだったんだな……んん? ああ、さっきまでの気落ちの原因は殺人と吸血か。やっちまったのは仕方ねえし死に戻りもあるからこっちじゃ大した問題にはならねえが、ゲームとは言え日本人なら当然殺人に忌避感はあるし、美味いと思いながら血を飲みゃそりゃ自分の人間性を疑いたくもなるわな。そういう事なら早いとこ書き込んだ方がいいかもな」


「まかせてもいいの?」


「おう! こう見えても学生時代にMMOは結構やってるからな、うまいことやっとくさ」


「うん、お願い。私も機会があれば書き込んでみるね」


「新しい情報が在ったら公開していいかまず信頼できる友人に相談だ。もちろん俺でもいい」


「わかった!」


「じゃあ俺はそろそろ店たたんで書き込んでくるわ。焼き鳥の宣伝たのむな! ログインしてるときは大体ここに居るからまた顔だせよ」


「うん、また来るよ! 宣伝は任せて!」


「ほんじゃな、そのうち狩りに誘ってくれ……っと、ローズと行くなら夜間の狩りになるのか」


「それでもよかったら今度誘うね」


「おう、頑張れよ」


「またね」

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