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authentic world online  作者: 江上 那智
邪龍復活
51/51

決着カイゼルギア

前話で苦戦しつつ決着はあっさりと

フギンユニットとムギンユニット。

神話ではオーディンの使いとして思考(フギン)記憶(ムニン)を司どり、世界を監視する。


ではカイゼルギアの鎧の機能としての彼らはどうか。

記憶したモノを思考し、思考したモノを実行する。

そしてその結果をまた記憶し、思考する。


つまり現在のカイゼルギアは二台のAIで演算処理をしているのと同義という事である。

フギンユニットは自律思考をして相手の動きに合わせ防衛を、ムニンユニットはその結果の監視と記憶を。

単体でも脅威であったカイゼルギア、その彼が自身の一手を使わずに防御が出来るというのはどれほどの猛威を振るうというのだろうか。


まさにオーディンの名に相応しい。


執拗な下半身への攻撃をいなし、上半身に来る手数のおおい攻撃は剣を巧みに使ってさばく。

その絶妙なタイミングでフギンが動き出し、作り出された隙にカイゼルギアが致命の一撃を繰り出してくる。


「うわわ!」


【オボエタトイッタダロウ?】


再び振るわれた剣を霧になって躱したローズだが、実体化した瞬間に左拳が飛んで来る。


「いい!? いったぁ……」


間一髪で防御が間に合ったが腕が痺れてしまった。

これでは攻撃を止める連撃が放てない。


【アシモトヲハウムシケラガ! イネイ!!】


上半身への攻撃が止んだと見るや否や即座に足止めを行っていた二人に攻撃を繰り出そうとするカイゼルギア。

しかし。


『やらせないわぁ! アクアマシンガン!』


三人の形勢不利を悟ったサルビアが準備していた魔術を行使してローズの代わりを務める。


【ヌ? ググ!】


先ほどの兵装と違い、電気系統はあまり使っていないだろう。

そのため、漏電が起こることはないと思われる。

だが、間断なく発射される水の弾丸は威力こそ低いもののローズの手数を上回る。


僅かでもダメージがあるためカイゼルギアも無視することが出来ず再び防御に偏った。


「ナイス! サルビアさん!!」


そこで痺れが抜けたローズが参加する。


「もうなりふり構ってられないんだからね! 魔透暗拳殺!」


【ググ! コレハ!? ドラクロワの? ギギ、がああああ!】


咄嗟に反応したフギンの防御シールドを突き抜けて衝撃がカイゼルギアの頭に届いた。


言葉の反応が若干だが変わった。

だがそれに気づいたものはいない。

一人を除いて。


「悪い、待たせた!」


「ここからは自分も参戦だお! モンフー、虎皇呼吸法」


頭を抱えて動きを止めているカイゼルギアに対してチャンスと踏んだヤヨイはモンフーの持つ自己バフを発動、それと同時に。


「速体符」


速度上昇の呪符をモンフーに投げつける。


「一意専心! 激発勁。

ローズが見せてくれたお! その硬ったい鎧は浸透系の技が良くきくお!」


『阿阿阿阿阿!!』


一点に力を集約し、相手を穿つことのみにその意識を注いだ一撃。


ローズのもつドラクロワ流と似た攻撃だ。


【ナメ、るなア!!】


「思いのほか減ってないお!?」


【グ、グギギ……いまノでオボエたぞ】


カイゼルギアの体力は僅かに4分の1に届かなかった。

ジーナとのツープラトンで減らした量と同じくらいを一人でたたき出しているのだから充分と言えなくもないがせめてもう少し減って欲しかったというのが本音である。

そして、今のセリフを放ったあとのローズとの攻防を見ていた三人は戦慄した。


この相手は長期戦になればなるほどこちらの動きに対応していく。

大技も耐えきられれば次からは通じなくなる。

それは攻撃に限らず防御面でもそうだ。


そこに光明を見出すならば対応されようがされまいがお構いなしに通用するアクションジャミング。


皆がギースをチラリと見た。


だがその時ギースは別の事を考えていた。


(言葉が少しまともになってきてやがる? 戦線復帰する前に見たのはローズが奥義を頭に食らわせたこと。

そこから変化があった? あとあのユニット、神話をなぞらえた性能を備えている……なら)


そこからは早かった。


「一度しか見ていないがあのフギンの防御壁はクールタイムが設定されているはずだ。

ないなら連続で展開し続けているはずだからな。

体感では約10秒、浸透系の技は通るが奥義はすでに見られているからローズは打つな。

ヤヨイもだ。

ローズは小技でフギンに障壁を使わせろ。

その後の本体の反撃は俺が止める、サルビアはアクアヴェールでムニンを覆え。

たぶんそれで記憶されにくくなる、ヤヨイは転身してジーナと共に機を待て!」


「ええ?」


「わかったお! 転身!!」


「信じたぜ!」


『了解よぉ』


「説明するがあのフギンとムニンというユニットはモチーフがオーディンの眷属たる二羽のカラス。

その役割は思考と記憶だ! 見た限りだがムニンが相手の行動を覚え、それをフギンと本体に伝える。

フギンはそれをもとに思考して自律行動で障壁を張るっつー性能になってるはずだ」


「じゃあ壊したらそれ以上は覚えられないってことだね?」


「HP表示がないから壊せない。

いや、もしかしたら壊せるかもしれないが一定時間後に復活だろうから無視だ」


「おっけー!」


たった一度でそこまでの情報を把握するのは流石と言わざるを得ない。

各々が指示通りの動きを見せ始める。


そこはここまで苦楽を共にしてきた間柄というべきか、それほど言葉を交わさずとも各自がやりやすい位置を取り始める。


『もう覚えさせないわぁ、アクアヴェール』


指示どおりサルビアがムニンを抑えたところから各々が動き始める。


「いつものいくよ! 衝打、衝打、衝打、衝打あぁぁぁ!」


もはや慣れたものでCTが終わった直後の連撃。

通常攻撃とは違いコレは受けてもわずかにダメージが残る。


表情こそわからないがさしものカイゼルギアでもこれは苦悶の顔を浮かべているだろう。


【ク、小癪な!】


記憶こそできないが一連の行動パターンを推測してフギンが動き出す。

ローズの衝打を障壁が受け止め、そこをカイゼルギアが狙った瞬間。


「今だ!」


ギースの投げナイフがカイゼルギアの目前をかすめた。


攻撃を行っていないのに攻撃を行ったという判定がなされ、動きが停止する。


『待ってましたお!』


「鬱憤晴らさせてもらうぜぇぇ!」


「私も間に合ったよ!」


隙の少ない衝打だったためか予想外に復帰の早かったローズも加わり予期せぬスリープラトン。

ムニンが記憶できないのをいいことに三人はそれぞれが大技を再び叩き込んだ。


【が! がああぁぁ!!】


吹き飛ばされた片膝をつき、剣を杖に傅くカイゼルギア。

体力はついに4分の1を下回り、残すところあと2割程度だ。


【かはっ……はぁ……はぁ……私ハ、キサマ、ハイジョ、邪龍、グガガガ】


「様子がおかしいよ?」


「正気と狂気の狭間に居るんだ」


「今ならデバッグツール使えますかお?」


「やってみようぜ」


『皆さんまって、様子が変わったわぁ!』


サルビアの言葉で全員がカイゼルギアの方を向く。

そこにはこちらをジッと見ているカイゼルギアがいた。


【お前たち……私を止めに……ガガガ、逃げろ……ガガ、奥の手が……ガ、ガァァァ】


僅かに戻った正気でカイゼルギアは警告してくる。

奥の手、それが何を引き起こすのか。

そもそも扉は閉じられているため撤退即ち死に戻りだ。

リアルの人間とネルソディラの住人がいる以上「死」は選択肢に入らない。

確定で死があるのはサルビアのみだが、全滅した場合猶予期間である「灰」となったジーナとローズを回収するものが居ないために結局は復活することはないだろう。


「コレがホントの最終決戦か」


「ヘタなボスよりボスしてますお」


「うえぇぇぇ……」


「何が起きたってアタシの脚で粉砕してやんぜ」


『魔力が残り少ないから短期決戦になるわねぇ』


そのような会話をしながらこの隙に回復を行う面々。

そして、カイゼルギアに変化が起き始めた。


【モード、ラグナロク】


その言葉を合図にカイゼルギアの鎧が再び輝く。

ガチャガチャと音を立てて装飾と思われていた部位が動き出し、腰から下に馬の胴体が形作られる。

その足は自らのを合わせ八本。


「これは……」


【ゲリユニット、フレキユニットテンカイ】


その新たに出来上がった馬の胴体部分が開き、その中から狼型の小型ユニットが姿を現した。


「フギン、ムニン、ゲリ、フレキ……そしてあの八本の足をもつ下半身はスレイプニル……最終決戦用兵装ってわけか」


最後に鞘に納めた剣が形を変える。

これは見たことがあった。


「グングニール?」


「ああ、もともとお前の模造神器も神話が元だからな。

あれもイミテーションだと思うが近しい性能をもっているかもしれねぇ……」


だとするなら投擲された時が最も危険というわけになる。

全員がその言葉にゴクリと息をのんだ。


【イザ!】


掛け声と共に加速を始めるカイゼルギア。

取り巻きの狼ユニットが追従する。


「速い! きゃあああ!!」


突進の直線に居たローズがフリットで避けようと動く。

その瞬間手に持ったグングニールが放たれ、右肩に突き刺さった。


「ローズ!」


「だ、大丈夫」


刺さった個所を見るとすでに槍は無く、カイゼルギアの手元に戻っていた。


一度放たれれば狙い違わず、敵を射抜くと手元に戻る。

正に神話そのものの性能であった。


「くっそ、邪魔すんな!」


『めんどくさすぎですお!』


攻撃に移ろうとするジーナとヤヨイは先ほどまでの攻防で脅威とみなされているのか狼ユニットがまとわりつくように行動を阻害してくる。


その隙に再度加速に入るカイゼルギア、次なる狙いは。


「うぐ!?」


『ジーナさん!』


ジーナが体当たりで弾き飛ばされる。

風の揺らぎで来ることは察知していたが防御が狼のせいで間に合わずまともに食らう。


メキメキといやな音が体内から聞こえた。

アバラの二~三本は確実に逝っただろう。

それはLPが減少したことからもうかがえるほどの大ダメージだ。


「くそ、的確にフギンが邪魔してくる」


「ジーナに駆け付けたいのに邪魔してくる。

この狼ダメージがないけどすごく厄介だよー」


『魔術も通りが浅いわぁ』


『全体攻撃が欲しいですお』


突進をかわすと投擲が来る。

少ない隙を突こうにもフギンがいる。

それに加えてゲリとフレキが行動阻害を行ってくる。

これほど厄介極まりない相手はいないだろう。

じわじわと消耗していく。


誰もが諦めかけたとき、吹き飛ばされたジーナだけは一人別の事を行っていた。


(どうやら標的から外れてくれてるらしいな……アタシの生命力は6割……模造神器創造)


模造神器には短くないチャージ時間がある。

標的から外れているのなら好都合。


(あの時マクスウェルのおっさんが警告してくれたけど……キッカリなら大丈夫……だよな?)


生命力がジリジリと減少する。

右手に命を使った神の武器が生成されていく。


その尋常ならざる力は大気を震わせ、すさまじい存在感を放ち始める。

ここにきてカイゼルギアは初めてマズイと本能的に感じる。


仲間たちもジーナが何をしようとしているのかを悟った。


カイゼルギアがターゲットをジーナに向ける。


「させないよ!」


ローズが割込み、攻撃を放つがフギンがそれを阻害する。


『邪魔よぉ』


サルビアが放った水がゲリとフレキを押し流し、わずかなスキを作る。


「要は走らせなきゃいいわけだからな」


ギースが鞭をカイゼルギアの脚に絡ませて走りだすタイミングを狂わせる。


『ついでだお!』


ヤヨイが掌底を放ってさらに後退させた。


「待たせた……な……模造神器「ミョルニル」、雷よ! 食らいつくせ!」


立ち上がる力も残っていないジーナは倒れ伏したまま手にした武器、雷神トールが持つ槌「ミョルニル」を掲げる。

瞬間バチリと音がしたかと思うとミョルニルを起点に無数の雷がほとばしる。


それは戦場全域をおおい尽くした。


【グガアアアア!】


機械人にとって電流というのは弱点属性にあたる。

もちろん外装によってはそれを補うものもあるが今放たれているのは装備による軽減を受け付けない神の雷。


ユニットは全て煙を吹き、活動停止となる。


本体であるカイゼルギアは。


【マダダ! マダ!!】


一度だけ致命傷を1で残す「食いしばり」が発動した。


「みんな……あとは……たのんだぜ……」


ジーナの手からミョルニルが離れ、それは光となって消え去る。

そのあと音もなく白い灰がその場に残された。


「ジーナ! くそ、この王様は面倒なもん持ってるな!」


「でも動けないみたいだよ」


『あと一押し、叩き込むのは容易ですお』


『ジーナさんの思い、無駄にできないわぁ』


満身創痍の身体をひきずりながら全員が動くことのままならないカイゼルギアに向かう。


【アアアアアアAAAAA!】


ソレが本当に最後の一撃となった。


下半身に増設された馬部分が剥がれ落ち、鎧も輝きを失う。

ガシャリと落とした槍は気が付けば剣へと戻っていた。


グラリと支えを失うようにしてカイゼルギアは後ろへと倒れ込み、そのまま起き上がることはなかった。

あっさりすぎましたかね?

読んでいただいてありがとうございます。


モードラグナロクの解説。


人馬一体のケンタウロスのようなスタイルに変形する。

人型でも3メートルはある巨大な王様だが人馬モードになることでさらにデカく……。


突進:単なる突進。


グングニール投擲:立ち止まって唐突に投げてくる他、突進を躱されると発動する。

突進バージョンは立ち止まって投げた時よりも弱く、絶対に急所には当たらないようになっているが、それでも確実に回避不能なのは脅威である。


ゲリとフレキユニット:行動阻害。

ダメージはなく、動きを止めたり攻撃を成立させないようにしたりする。

必死に仕事をこなすが、じゃれている様にも見えてしまうのは愛嬌だろうか。


フギンとムニンユニット:モードラグナロクになると障壁展開のCTが半分になる。

基本的な役割は変わらない。


食いしばり:もはや説明は不要。

一度だけ瀕死でとどまるアレ。

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