称号と図書館と初依頼
また体調くずしてます。
でも期間までに10万文字がんばる……
今回も長くなったので分割
次の日、いつものように起きたローズは周囲の風景が違う事に違和感を覚える。
(あ、アモーレの孤児院か……)
知らない天井はやらなかったらしい。
というかそのネタを知らない可能性もある。
「おはよう」
「おう、おはようローズ。昨日は恥ずかしいところを見せちまったな」
「気にしないでいいよ、ジーナはこの後どうするの?」
「お勤め一日サボっちまったしなぁ……嫌だけど頭下げて怒られに行くか……」
「私も行こうか?」
「いや、いい……これはアタシの問題だからな……ていうか普通に朝から起きてくるのな」
「うん? あ!」
言われて気づく、朝から活動すればダメージを受けることを。
なんども言うが学習しない子だ。
「……ってか普通に日が入ってるところにいるんだが……大丈夫なのか?」
「ああ!? あれ? ピリピリするけど痛くない?」
「……ええっと……」
「昨日はずっと体中痛かったのに今は痛くないんだよ! なんでだろ」
ローズはメニューを開いて確認する。
「スキル増えてる!」
――【デイウォーカー】
パッシブスキル。▽
「なに!?」
「……間違いない……えっと……デイウォーカー?」
「デイウォーカー? 聞いた事ないな」
「えっとね、デイウォーカーは……」
ローズは意識して折りたたまれている部分を表示する。
――【デイウォーカー】
パッシブスキル。
夜人族の始祖が使えたとされる伝説のスキル「ハイ・デイライトウォーカー」の劣化版。
太陽の下を歩けるようになる。
数多の時を経て始祖の力が弱まったのか、現在はほとんど確認されない。
種族全体の悲願でもある。
長命種である彼らが長年習得方法を研究しているが、発現するのは未だほんの一握り。
幽鬼は日中の実体化に伴うMP過剰消費軽減、吸血鬼ならばHP継続ダメージが無くなる。
あくまで日中出歩いても大丈夫になるだけでステータスのデメリットは消えない。△
「おお! すごいな」
「でもなんで?」
「昨日何かやったか? アレか? 一日日の下にいたからか?」
「ありうる……あ、称号も増えてる……」
「称号? ああ、漂流者独自の加護だったか」
どうやら運営などが絡めば全て加護扱いのようだ。
――【無通道引】
無理が通れば道理引っ込む。
正しい道筋ではない事を押し通した者に送られる称号。
強引な方法や手法を用いることでスキルを習得しやすくなる。△
――【太陽を克服せし者】
夜人族たちが苦手とする太陽を克服したものに送られる称号。
スキル【デイウォーカー】を取得する。△
――【聖女の友】
聖女ジーナと友好を結んだ証。
神聖属性に対する耐性を得る。
「私たち、ズッ友だよね?」△
――【リリィの加護】
案内精霊の羽人リリィから受けた特別な証。
幸運値にボーナス。
他にも何かあるようだが……?
「ローズ、あんまり無茶しないでね」 △
「……これ……」
「リリィってあの創造神の眷属精霊だろ? 凄いじゃないか! それにほら、これで日中も出歩けるだろ?」
リリィはこっちでも有名らしい。
「う、うん……日中は変わらず弱いけどね」
「そう言うなって、日中は戦闘以外のことやって夜に狩りに出れば」
「そっか……そうだね!」
「よし、そういうことで! じゃあアタシはそろそろ怒られに行くよ」
「うん……いつでも連絡ちょうだいね?」
「ああ、そっちもアタシの都合気にしないで連絡してくれていいんだからな?」
「わかった! ふふ」
「くくく」
「「あははは!」」
「ローズ、頑張れよ。孤児院頼むな」
「うん、そっちも頑張ってね」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ジーナと別れ、孤児院を後にしたローズは今日こそはと図書館に向かう。
「こんにちはー」
「ようこそ、ご利用は初めてですか?」
「はい」
「では冒険者カードの提示をお願いします……はい、確認しました。ローズ様は何かお探しですか?」
「あれ? お金はかからないんですか?」
「はい、基本的にご利用は無料となっております。ただし、禁書庫のみ閲覧許可証と閲覧料100Nかかります」
「閲覧許可証ですか?」
「はい、信頼に値する方にのみ発行されます。禁書の中には戦略級の魔術書もありますので……」
(あ、察し)「分かりました、では魔物図鑑とスキル関連の本が見たいのですが」
「はい、それでしたらA-3。すぐそこの書棚になりますね」
「ありがとうございます……ええっと?」
「私は司書のサリナと申します」
「はい、サリナさん。ありがとうございます」
指示された書棚を見ると探していたではなく、別な本に興味を惹かれた。
――「邪神戦争とネルソディラの歴史」
まずはその歴史書を手に取って開く。
~~およそ1000年前、世界を滅ぼさんとする邪神がいた。
邪神は数多の魔物を世界に放ち、全ての種族は恐怖に慄いた。
魔物の大侵攻により、街は破壊され、多くの者が命を落とし絶望する。
そのとき、各種族から神より加護を授かりし勇者が現れる。
人族のブレイブ。
魔人族のマギア。
獣人族のバイタン。
エルフ族のエレーナ。
ドワーフ族のスミノフ。
そして機械人族ガーディア。
彼らは何処かの地より神によって使命を受けた漂流者だった。
6人の勇者と邪神の戦いは熾烈を極め、森を焼き、山を砕き、大地を抉った。
そして、邪神は勇者の戦いに敗れて封印された。
勇者たちも封印するのが精一杯だったのだ。
邪神の本体は現実世界の中央都市地下深くに置かれ、簡単には破壊出来ぬよう中央都市を囲む次元の狭間に各種族が封印を管理する形で今の国が造られた。
勇者たちは各狭間の街の主となり、子々孫々封印を守り続ける事となる。
その功績は今でも語り継がれ、6人の勇者にあやかり、パーティは6人で組むのが定石となった。~~
(これ、どう見ても結構重要だよね……歴史書、邪神か……)
邪神の脅威は去ったが、魔物の存在は消えていないのでソレを狩るのがこのゲームの基本らしい。
現在は邪神の封印が弱まっているのか、それぞれの種族に適応した邪神の封印を守りし狭間の街に繋がる空間が開かれ、アモーレの噴水広場から跳べる。
種族専用の拠点みたいなものだ。
狭間の外の世界は向こうの住人に「表」と表現されることが多い。
読み進めると、夜人族の記述もあった。
戦争の際、邪神に組して勇者と戦った裏切り者の一族とだけ。
(さて、歴史はこの辺にして次は……あ、魔術の基礎知識だって! これにしよう)
魔物図鑑はどこに行った?
――「魔術の基礎知識」。
魔術は属性魔術、神聖魔術、空間魔術、時魔術、幻影魔術から存在する。
属性魔術は四属性プラス2。
火の魔術。
水の魔術。
風の魔術。
土の魔術。
光と闇の魔術。
各魔術にはそれぞれに外傷と麻痺や毒などの状態異常の回復魔術が備わっている。
火は攻撃的な特徴が強く、広範囲に及ぶ強力な魔術が多い。
水は治癒的な特徴が強く、複数を同時に回復させるような魔術がある。
風は補助的な特徴が強く、速度を上げたり空を飛んだりと言ったものがある。
土は防御的な特徴が強く、壁を作ったり身体にまとわせて防御を高めたりといった感じだ。
光と闇については使い手が殆ど居ないらしく、そう言った魔術がかつてあったとだけ書かれている。
火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。
光と闇はお互いに相性が悪い。
例えば火の魔術を放たれたときに水の魔術で打ち勝つことが出来る。
もし弱属性で強属性に勝ちたいなら籠める魔力量を多くしたり単純に階級を上げればいい。
籠める魔力を多くするには魔力チャージというスキルが必要。
どうやったら覚えれるのだろうかとローズが思っていたら備考にスキル大全参照と書かれていた。
デフォルトで設定されている魔術は初級、中級、上級、神代とランク分けされている。
先の階級はコレ。つまり、火で水に勝ちたいなら水の初級に対して火の中級をぶつければいいという事である。
神聖魔術は呪い解除や結界防御、精神防御のバフにアンデッド系の魔物特効だ。
呪いに属するのか、他の属性魔術では治せない状態異常「病」も治すことが出来る。
一般的に聖職者と呼ばれる人たちが得意とする魔術のようだ。
空間魔術は短距離転移や長距離転移、大規模転移に次元収納が使える。
熟練者ならば異空間に拠点を造ったりもできるらしい。
次に時魔術。
これは時間に干渉する魔術、対象の時間経過の速度を上げるアクセルに下げるスロウ。
単体の時間を止めるストップ、自分だけの時間を超加速して、まるで停止した時間の中を移動するようなクイック。
空間魔術と合わせて時間経過のないストレージやインベントリを造ることもできる。
気をつけるのは、風魔術の速度上昇と違って「時間加速」というものなので、状態異常にかかっていた場合進行をも加速させてしまう。
最後に幻影魔術。
これは人狐の幻惑魔術と似ているが別もの扱いである。
例えば幻を相手に見せるファントムの魔術があるが、これは相手の視覚に作用する。
蜃気楼のような錯覚を起こさせるのが幻影魔術。
幻惑魔術はどちらかと言えば混乱などの状態異常を相手に付与するタイプなのだ。
(へー、私は何がいいかなぁ)
ギルドで戦闘教練をやっていると言っていたので魔術もやってるだろうとローズは考える。
そのうち聞いてみよう。
(お? これがスキル大全か)
スキルを習得するためには必要な行動を繰り返すか、教導できる人物に習う事で覚えられる。
上位のスキルの中には下位スキルの複合で派生するものがあるので色々と試すとよい。
(要するにとにかくやってみろって事かぁ)
「間もなく閉館時間になりますよ」
随分長い事見入っていたようだ。
「あ、すみません。今出ます」
図書館で日中を過ごしたをローズ。
先日ジーナと共に狩ったフォレストハウンドの毛皮と肉が少しだけあるが、それだけで数日過ごす事はできず、孤児院の事もあるので狩りに出かけようと画策する。
折角だから今ある分のハウンドの毛皮売却代金は孤児院当てに寄付しよう。
現在の時間は夕方、もうすぐステータスが逆転する時間だ。
「こんばんは」
「こんばんは、こんな時間にどうなさいました?」
ギルドはプレイヤーがどの時間帯にログインしても換金できるよう24時間営業である
「これから少し狩りに行こうとおもいまして、折角だから何か緊急な依頼でもないかと」
「現在漂流者の方々が精力的に魔物狩りに出てくださっているので火急を要する依頼は……ああ……」
イリアは依頼ボードから申し訳なさそうに一枚の紙を取り、差し出す。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
薬草が足りないぞ!
依頼主:ギルド錬金術師
依頼内容
ちょっと、駆け出しなんだから薬草採取依頼受けろよな!
どいつもこいつもポーション買うだけ買って魔物素材だけ売って……。
薬草納品しないから枯渇気味だぞ! 商売あがったりだぞ!
アタシは出るの面倒だから誰か早くナオリ草取ってこいよな!
ナオリ草10束の納品
達成報酬:30N
△ △ △ △ △
(なんだろう、この依頼内容の文……採取はいいけど何故だかスゴク受けたくない……)
「その……漂流者の方々はそう言った採取系をほとんど受けてくれないのです。住人の冒険者の方々が納品してくれる量ではとても足りなくて……なのでポーションの材料であるナオリ草の備蓄が減ってしまい、結構厳しい状態なんですよね……それこそ緊急依頼になる寸前で……」
「あー……なるほどですね……」
ローズが今の状況を納得してその依頼を受けようとした時、奥からエルフの少女が現れた。
「あー、アンタ! 薬草納品依頼受けてくれるのか!? いやー最近在庫が減る一方で困ってたんだぞ。このままだとポーション値上げするつもりだったし、受けてくれるんだったら上げなくてもいーぞ。受けてくれるんだよな? 受けるよな? 受けような」
異様なほどグイグイ来る子である。
「わ、ちょ、いきなり何!? イリアさん!」
「すみません……その方がギルド錬金術師のエレノアです」
「おう、ポーションから解毒ポーション、果ては麻痺治しまで初心者の味方、大錬金術師エレノア様だぞ! ひれ伏せー」
色々と残念な人物のようだ。
「え?」
「今子供だと思ったろ! こう見えてもアタシはひゃ……18歳だぞ! レディだぞ!」
「今、百って……」
「18だぞ!」
押し問答になる予感がしたのでローズはそれ以上突っ込むのを止めた。
「その……なんかすみません」
「いえ、イリアさんが謝る必要はないですよ」
「で、受けるんだよな!? 受けてくれるんだよな? 受けてくれよー」
「あー、もう! 受けるよ! イリアさん、手続きお願いね!」
「あ、はい」
「ありがとうだぞ! 感謝だぞ! 依頼は10だけどもっと持ってきても良いからな、そん時は追加で報酬出すぞ! ギルドが」
「そうなんですか?」
「はい、今回は緊急一歩手前でしたが普段は常時依頼なんですよ。薬草採取」
やはり地味で根気のいる作業はどこの世界でも人気は少ないようだ。