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authentic world online  作者: 江上 那智
広がる世界
45/51

緊張感のないクジラ戦・中と外

お待たせしました!

キーボードいいね!

――シークレットミッション開始。

モビーディックの中に廃棄された機械人形を外へと連れ出せ。


失敗条件:機械人形の行動不能


成功報酬:殺戮(笑)機械人形が仲間になる。



「これは……」


「シークレットミッションだね」


「つまり、このリン君を無事に外に出せればよいのですわね」


「そういうことだけど……これ、ちょっとひどくない?」


「言ってはダメですわ」

クジラの体内のはずなのにモンスターが湧いてきた。

これ自体はどうってことないのだが、キリングドールとはいったい何なのか。


「あ、こっちでわひゃ!!」


「下がって! って奥に行かないの!!」


「ええい! 突き殺して差し上げますわ!」

勝手に案内して勝手にモンスターに遭遇。

指示をまったく聞かずに逃走、そしてタコ殴り。

ナノリペアでわずかに回復するがそれよりもとっとと助け出さないとダメージのほうがでかい。


「厄介な!」


「あ、助けてーです!」


「衝打!」


「あ、ありがとうございます」


「勝手に先に進まないの」


「あ、ハイ」

返事はいいがやはり先行して先に行くのはこのイベントがそういうものなのだろう。


いつの間にかクジラの体内というのも忘れそうなほど入り組んだ場所に来た。


「これ、ダンジョンですわね」


「ボスの体内にダンジョンってなんか変」


「そういうものと納得するしかありませんわ」


「あ、お二人ともこっちです……あれ?」

ぎょむ、という音とともに背後の道が閉ざされる。

進むべき道はわかるがそちらも閉ざされている。

この事象から導き出される答えとは。


「モンスターハウスですわ!」


「リン君! 動かないで」


「あ、はわわわ! 魔物が、魔物が!」


「面倒ですわ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そのころ外の面々は。


「急に動かなくなったぞ?」


「攻撃も効いた様子がないぞ」


「ローズたちは無事なのか?」


「フレンドリストはついてるから無事よぉ」


「とりあえずチャンスでおじゃ、今のうちに回復するでおじゃ。ほれヤヨイ殿、麻呂印の状態異常回復薬「比較的早く治る君」でおじゃ」


「な、なんかひどいネーミングだお……でも感謝だお……苦ぁ!!」

暇していた。


何度か攻撃を試みるも何かしらの力が働いているのか全くダメージを受けた様子がない。

打つ手がない以上は見に回るしかないのだ。


(しかし……あの動きは妙だったな)

考える時間ができたのでギースはモビーディックの一連の動きを思い返していた。

逃げ場を一方向のみ残して塞ぎ、相手を食らう。

普通の生物だとしてもかなり頭が回らなければ行うことはない。

もしくは集団での狩りに慣れた生物くらいだ。


いくらこの世界のAIが成長するといってもさすがにアレはおかしい。

そこまでこっちの行動を読んでくるのであればだれも勝てなくなる。

ここはひとつの世界なのだからそれはそれでアリなのかもしれないが、ゲームとしてはナシだ。

そのあたりの線引きがどうなっているかなど運営でもなければわからないが、少なくとも「勝てない」という事態にはならないようになっているだろう。


(だとするなら……何かのトリガーを引いたか?)

さすがに廃人と呼ばれるレベルで過去に君臨しただけある。

一発で答えにたどり着いた。


そう。

モビーディックの行動はシークレットイベントのトリガーが引かれた結果なのだ。


その条件とは。

「モビーディックが船の遠距離攻撃しか届かない間合いにて近接を挑み、身じろぎを一度回避して再び近接を当てる。」

こんなもん誰がわかるんだと叫びたくなる。


モンフーは一度目の身じろぎで吹き飛ばされたのでトリガーが引かれなかった。

ローズは空中を移動できる手段があったので成立した。

それだけである。


そもそも空中を移動できる手段なんぞは機械人族のアーマーにバーニアパーツを組み込むか魔術で飛ぶという選択肢が一般的だ。

しかも、そのパターンで飛んでいる人たちは大概が空中からの遠距離砲撃を主体とするのでわざわざ近接を挑むなどという行動はとらない。


空気そのものを足場にして空中を移動するローズはイレギュラーな存在なわけで、そんな彼女でしかこのトリガーは引けなかったりする。

まさかシークレットイベントを起こされるとは思っていない運営はきっと今頃驚いているだろう。


(ま、パルミラを信じて待つしかないか)

結局答えが分かったとしても現状ギース達にはそれしかできないのであった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そのころ体内では。


「本当にこっちでいいの?」


「あ、ハイ。今度こそ間違いないです」


「それ3度目ですわ」

絶賛彷徨い中であった。


モンスターハウスを通り抜けた後数度の分かれ道の後にモンスターハウス。

これが二回続けば疑心暗鬼にもなるというものだ。

とはいえ、着実に内部の様子は変わっているので進んではいるのだろう。

一応断っておくがモンスターハウスを通ろうと通るまいと先へは進む。

試練があるかないかの違いだが、このイベントにおいては確実にモンスターハウスを通るようになっているのだ。

もちろんイベント中の二人はそんなこと知る由もないが。


そんなこんなでポンコツ人形を守りながら最後の部屋にたどり着く。

魔物の体内で部屋というのもなにやらおかしな感じがするがとにかく部屋だ。


「行き止まり?」


「ここで合ってるのかしら?」


「あ、ハイ。いえ、ここどこですか?」


((こいつ……))

二人の思考は一致した。


「不明な行き止まり部屋という事は」


「まあ、十中八九ボスですわね」

ボスの中でボスというのも以下略。


ギュムリという聞きなれた音が響き、退路が断たれる。

正面にある肉の壁が脈動をはじめた。


「これって」


「心臓……ですわ」

信じられないほどでかい心臓、どうやらこれを破壊するらしい。


「心臓だけに攻撃はしてこなさそうですわ、ね!」

そういいながら安全マージンをとり、中距離から得意の刺突で突き刺す。

攻撃が通った瞬間モビーディックが暴れ始めたのか地面が大きく揺れた。


「敵!」

攻撃を受けたと認識した途端に大量の雑魚が湧いて出てきた。


「なるほど、このポンコツを守りながら魔物を蹴散らして心臓を攻撃するのですわね。なんていやらしい」

パルミラですらリンの事をポンコツ呼ばわりし始めた。

それも当然。

道中でどれだけほっぽりだそうと思ったか。

それほどまでになぜ戦わないお前は敵の真ん中に行きたがるのかと。


「メインアタッカーはどうするの?」


「総合的な攻撃力を鑑みればローズさんの方が高いですわ、露払いはわたくしに。それに、範囲殲滅はわたくしの得意とするところでもありますわ」

衛星をひとつづつ綿密に操作できるパルミラならば造作もないことだろう。

速度はあって殲滅力が高いとはいえ、そこに防衛という項目が入るならローズは一心不乱に心臓を狙い続けてもらったほうが間違いはない。


細かいところは割愛するが、結果はどうなったかというと圧勝。

雑魚は所詮雑魚でしかなく、守りながら戦うという不利をものともしないパルミラの存在がでかい。

というのも、条件的にこの体内に入り込むイベント自体が本来ソロ仕様なのだ。

そこにパルミラが飛び込んだことで難易度が激下りしたため、いささか拍子抜けなものになり下がった。


心臓部がHPを全損(LPはなかった)させると室内に水が立ち込める。

どういう理屈かは不明だが瞬く間に室内が水没すると続けて地響きが起きた。


「これってアレかな」


「ですわね、リン君しっかりつかまりなさい」


「あ、ハイ」

地響きが収まると水の流れが勢いを増してそのまま打ち上げられるように外へと放り出されたのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「な、なんだ? いきなりかなりのLPが削れたぞ!」


「おや? モビーディックのようすが……」


「あーさん、それはだめだ」


「潮吹きだお」


「壮大ねぇ」


「あれを見るでおじゃ!」

壮絶な勢いの潮を吹いたモビーディック。

その潮に乗って二人と一体は盛大に空へと打ち上げられる。

ローズとパルミラは慌てることなく船の方向を見極めてそのまま帰ってきた。


「ただいま」


「もどりましたわ」


「おかえりなさい」


「ん? 誰だこいつは」

ギースの問いに二人はリンの紹介をする。


「この子はモビーディックの中に遺棄されていた殺戮機械人形試作型のリン君ですわ」


「「「「「「殺戮機械人形?」」」」」」

聞いたこともないフレーズに面々は驚く。


「あ、ハイ。試作キリングドール甲型00082番です」


「長いからパルミラさんがリンって呼んでるよ」

ほほうと皆は納得した。


「とにかく無事でよかった」


「あ、ヤヨイさんも無事だったんだね」


「おかげさまで無事ですお」


「そっちはどうだった『姐さんがた! どこかに掴まってくだせぇ!!』え?」

船長の怒号が響く。

見ればモビーディックが船の目の前に迫っていた。

慌てて衝撃に備える。


――ドォン!!


かなりの衝撃で思わず吹き飛ばされそうになるが何とか全員がこらえた。

船長と船員たちはあわただしく損傷を確認している。

あの一撃で船の耐久を3割は削られたらしい。


「くっそ、戦闘が終わってねえの忘れてた」

ジーナは悔しそうに言う。

しかし、忘れていたのは全員が全員である。

だが


「これはチャンスだ! あーさん拘束バリスタだ!」


「お? おお!」

ギースはいち早く立て直し、バリスタの近くに居たあーさんに指示を出す。

それを聞いたメンバーも好機と動き出した。


「鬱憤を晴らさせてもらうぜ! おおおおおらああああああ!」

拘束バリスタが突き刺さり、モビーディックが船から離れられなくなったと見るや否やジーナは即座にモビーディックの体を駆け上がる。


「続くお、モンフー!」


『阿!』

ジーナのタイミングに合わせるように転身したモンフー(ヤヨイ)も跳躍する。

蹴りを主体としたジーナと中国拳法のようなものを扱うモンフーの蹴りが同時にさく裂し、モビーディックの身体が逆方向に「く」の字に折れ曲がる。

それは単体で行ったものよりも凶悪にして強大。

技の威力を乗せていないただの通常攻撃であるにもかかわらず盛大にモビーディックのHPを削り、それはLPにも被害を与えた。

それを皮切りに次々とメンバーが攻撃を加えていく。

心臓を傷つけられたモビーディックのLPは大幅に減少しており、猛攻によって3割を割った。

LP残量を確認した面々は即座に退避する。


「発狂するぞ!」

ギースが叫ぶ。

瞬間、拘束していたバリスタは振りほどかれ、そのまま海中に沈みこんだ。


いったい何が起こるのか。

最大級の一撃を慣行してくるのはレヴィアタンで経験済みであったので皆即座に回避に移れるように身構える。

ここにタンクが居ないのが悔やまれた。


ほどなく、船から距離を取った位置にこちらを向いて出現するモビーディック。

その巨大な口を限界まで広げた口腔内に光の粒子が集まり始める。


竜の息吹(ブレス)がくるぞ!」


「あれ、竜だったの!?」

ローズの反応も尤もだが、一応カテゴリは海竜に入っているらしいのは後日公式で調べた。


「タンクの後ろにって、いないでおじゃるな」


「わたくしたちはどちらかと言えば回避主体ですわね」


「一発だけなら耐えてやらあ!」


「装甲は基本紙ですお」


「あれ? 詰んだ?」


「私は水の中に逃げますねぇ」


「「「「「「ズルい!」」」」」」

海王の加護がついているメンバーはそれが可能なことに気づいていない。

そこへキャプテンが寄ってきた。


『皆さん、船室に避難してくだせぇ! 一撃だけならこの船の装甲で何とかなりまさぁ!』

二発食らったら沈みやすが、と注釈を加えたが発狂後の一撃は基本的に連発はしてこないのでこれさえ凌げば勝機が見えるのは明白。

攻撃力自体は足りているのだから。

全員は慌てて船の中に逃げ込む。

ちなみにリンは早々に船の中だ。

そして、全員が船の中に退避した瞬間強烈で凶悪な力の奔流が放たれた。

今更補足。

LPは弱点を突くとHPに関係なくへらせます。

弱点攻撃はうまくいけば一撃でLP全損も可能。

ボスクラスには弱点特攻は効きません。


クリティカルが入るとHPに加えてわずかにLPを削れます。


HPを削り、HPが全損するとダウンという状態になり、一定時間相手は無防備になります。

それが終わるとLPが2割ほど減少しHPが回復します。

つまり、武道大会のあの人のようにクリティカルを連発するか、弱点を狙わないで倒そうとした場合4回相手をダウンさせなくてはなりません。

単純に言えばHPバーが5本あるような状態ですね。

ちなみにダウン中の攻撃は一律とはいえLPに直接ダメージが通るので、厳密には4回ダウン前に終わったりする

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