化け鯨のお腹の中と機械人形
パソコンの不調でただでさえ遅い筆が余計遅く!
大変お待たせしました。
新キャラ登場です。
お楽しみください。
『ぎゃおおおおおおおお!!』
『くっ!? うわ!』
モビーディックは背中で暴れまわるモンフー(ヤヨイ入り)をうっとおしそうにふるい落とす。
本人はちょっと身動ぎした程度なのだろうが乗ってる側とすれば大地震もかくや。
弾き飛ばされるように宙へと跳ね上げられたモンフーはそのまま着水するかと思われた。
『ぐるぁああああ!!』
モビーディックが身体をしならせて空中のモンフーに狙いを定める。
次の瞬間、限界まで引き絞った尾びれを泳ぐために発達した強靭な筋肉の力に任せて解放する。
『!? まずっ、操身かいじょ……間にあわ……あがぁ!!』
慌ててモンフーの身体から出て行こうとするも間に合わず、咄嗟に両腕を交差して身を丸め防御の姿勢をとるのが精いっぱい。
「!! ヤヨイ殿ぉ!」
巨大な尾びれを思いっきり叩き付けられた衝撃はモンフーの身体からヤヨイを追い出すにとどまらず、船上で操ることに集中していた本体にフィードバックする。
「が!」
突然見えない何かに吹き飛ばされるように飛んでいき、マストの支柱に激突するヤヨイ。
HPは全損し、LPも半分が一撃で消し飛んだ。
当然ショックにより昏倒のデバフが付与されるがそれだけにとどまらない。
「骨折と内出血のデバフが付いてますわ!」
「ぱ、パルミラ殿! これを使うでおじゃる!!」
「これは?」
「骨折は治らんでおじゃるが持続的な回復が望める麻呂印の回復軟膏でおじゃ! 流石に女子に触れるには麻呂にはハードルが高いでおじゃる!」
ハラスメントコードもあるので許可が無いと異性には使えない。
「わかりましたわ! ヤヨイさん、失礼!」
他の男性陣には見えない位置までと思ったが思いの外ダメージが大きく、動かすとLPが減少したので仕方なくその場で処置をすることにした。
「分身集合! 敵は抑えるでおじゃ! 絶対後ろを向かないので安心するでおじゃ!」
10人の麻呂は周りを取り囲む形で展開し、視界を遮る壁となる。
見た目とは裏腹に紳士的で気が付く男のようだ。
「おい! ヤヨイは無事か!?」
ギースがバリスタを操作しながら怒鳴り上げる。
「お待ちなさい! まだ死んではおりませんわ!」
乱暴に返事を返しながらもパルミラは一番損傷がひどい両腕と背中に軟膏を刷り込む。
そこには残虐なPKの鮮血姫と呼ばれているような姿は一切感じない。
それもそのはずだ。
彼女はレッドネームなんかではない。
レッドネームハンターなのだから。
分かり易く言えばプレイヤーキラーキラー。
PKKと呼ばれているものに属する。
その常軌を逸した正義感から中でもとりわけ凶悪なPKを率先して狩る、凶悪な輩を相手取る以上仮に手加減などを行えるものではない。
もし手加減するならば尋常ならざる腕が必要となるので致し方ない、それこそランハクレベルだ。
それゆえに持てるスキルはすべて使い、時には暗器にたより、手心など加える間もなく相手を屠る。
その姿が慈悲の心を持ち合わせていない凄惨なPK「鮮血姫パルミラ」像を作り上げたのだ。
また、彼女がソロプレイを行っているのもそこが原因だったりする。
中には懲りずに報復を企てるPKもいるからだ。
そうなれば身内が一番危険に晒される。
それを恐れてパルミラは敢えてソロといういばらの道を歩いているのだ。
彼女は昔誘拐されかけている。
さる財閥の令嬢であったがために。
それを救ったのが名も知らぬ通りすがりの男。
ボロボロになりながらも他人を煩慮し、身を呈して行動するその姿に感銘を受けたパルミラは以後そのような人間になりたいと苦心して努力する。
尤も、現実でそのような事をすれば危険が大きい。
だが、娘の想いもわかる。
その葛藤の末に導きだした両親の答えは仮想現実。
その世界であれば死の危険は限りなく低い。
勿論フルダイブなのでその世界で死を体感すれば脳に何らかの影響は懸念されるものの、現実と天秤にかければさしたる問題ではないと結論付けた。
それが孤高のPKKパルミラがこの世界に存在している理由だ。
そんなパルミラがたとえ仮想現実でも瀕死の人物がいれば行動を起こすのにためらいはない。
そして、行動原理は違えど友を失う事を恐怖する彼女もまた、自らの身を鑑みる事無く動き出す。
「!! まずい! ジーナぁ!」
「どうしたギース!」
「ローズを抑えろぉ!」
「な? ローズ!」
ジーナが振り返ると同時に彼女は飛び出す。
メンバーの中で唯一空中戦が可能な事が仇となった。
「よくもヤヨイおおおお!!」
虚空を蹴り、空を駆ける。
狙うは一点、ヤヨイが付けた傷跡。
「かあああああ!」
だが、頭に血が上っているローズはスキルを発動させなかった。
どの種族よりも高い膂力を持つ夜人族ではあるが現在はまだ昼間。
太陽によるダメージこそデイウォーカーの力で克服しているがチェインをフルに使ってやっと人族よりも少し高いくらい。
浸透系のスキルを使っていたなら結果は違ったかもしれない。
いや、打撃系でも良かった。
しかし、行ったのは通常攻撃。
しかもなりふり構わず、ランハクに教わった事すら抜けるほどの力任せの攻撃。
このような攻撃がモビーディックに痛手を与えるなどとはいかず、ただただ駄々っ子のように拳を振り回すだけ。
対するモビーディックは無視しても問題ないと判断したが、万が一を考えて排除する方向で動き出す。
「ローズううう!!」
「は!? そんなもの!」
ヤヨイが受けた身動ぎ。
これから派生する尾による一撃は下手をすれば致命。
そう、ローズパーティの弱点はジーナ以外の防御力が紙ということだった。
激昂していたために僅かに反応が遅れたが彼女の機動力では誤差の範囲。
相手の身じろぎを跳躍で躱し、再び背中に張り付く。
やはりスキルは使わない。
「くそ! 誰か援護を!」
「だめだ! 長距離砲だと最悪ローズに当たる!」
「何か、何か手は無いのかよ!」
その時、僅かにHPを回復させたヤヨイが目を覚ます。
「ヤヨイさん!」
「皆、助かったお……再召喚」
意識を取り戻して直ぐにヤヨイはモンフーを側に召喚しなおす。
「大丈夫ですの?」
「まだ少しふらつくけど自分の身を守るくらいは問題ないお」
「それは重畳」
そういってパルミラはローズのほうへと視線を向ける。
(!! いけない!)
瞬間パルミラは駆け出した。
「パルミラ殿!?」
ローズを振るい落とすことができなかったモビーディックは次の一手に出ていた。
体表を覆う甲殻の一部がめくれ上がり、まるで散弾のように射出される。
今までと違う攻撃にローズは戸惑ったが躱せないほどではない。
それはモビーディックも理解している。
ゆえにその甲殻弾を目くらましに大量の石を上空にばらまく。
その隙に力は込めていないがここに来るだろう箇所に尻尾を置いておく。
ローズは背後に迫る尾に気づき、方向を変えようとした。
だが、その方向に大量の落石が迫る。
しかし、それにも穴がある。
わずかに見えた突破口。
それこそがモビーディックの真のねらいだった。
眼前には巨大な口が迫る。
誘われたと悟った時にはすでに回避不可能。
もうだめだと目を閉じた刹那、柔らかい感触がローズの身を包み、ともにモビーディックの体内へと落ちていった。
――数瞬前。
勢いよく飛び出したパルミラは分割した蛇腹剣を一直線にして等間隔に浮かべる。
「パルミラ!」
ジーナが叫ぶ。
ギースもパルミラが何をしようとしているのかを理解した。
「ローズさんはわたくしに任せてくださいまし!」
そう言い残して次々に空中の蛇腹剣を踏み台としてローズの、モビーディックの元へと駆けていく。
(!! 間に合いませんわ! ……いえ、離脱は無理でもあきらめませんわ)
大きく口を開けてローズを食らおうとするモビーディック。
離脱は無理でも衛星を防御に回せば守ることはできる。
一人なら厳しい状況でも二人なら打破できるかもしれない。
そのためには何としてもローズを無傷で守る必要がある。
(間に合わなかったけど、間に合いましたわ!)
ローズを優しく抱き留め、周辺に戻した衛星を防御モードで展開し、二人はモビーディックの胃の中へと落ちていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「う……ここは?」
「ここはモビーディックの中ですわ」
「あ、パルミラさ……ええ!?」
「わたくし達はあの化け鯨に食べられたのですわ」
「うそ……じゃあ私たち死んじゃったの?」
「死んでたら会話なんてできないですわ、それよりもここから脱出する方法を探しますわよ」
それもそうだ。
パルミラにたしなめられ、自らの短慮な行動が今の結果につながっているのを理解したローズはしょんぼりとうなだれる。
「あう……ごめんなさい」
「謝罪はあとで皆さんにコッテリと絞られるでしょうから今わたくしからはもう何も言いませんわ」
「うう……」
「さて、こうも暗くては何もできませんわね……『ライト』」
パルミラの頭上に光球が表れてあたりを照らす。
「うわ……気持ち悪い……それにしてもライトなんて魔術よく覚えてたね」
「洞窟を拠点にする方を懲らしめるために覚えただけですわ。よもやこんなところで役立つとは思ってもみませんでしたが」
基本ソロ活動ゆえに器用貧乏タイプなのだろう。
一人ですべてを十全にこなす努力を怠らないのは普通に考えてすごい。
「ここは……胃?」
「のようですわね……船の墓場と言っても差し支えないほどですわ」
消化しきれてないのか何なのか、ぐずぐずになりながらもそれなりに形を保っている船がそこかしこに見える。
「このままここに居たら私たちも?」
「おそらくこの化け鯨の栄養ですわね、微々たるものでしょうけども……あら?」
そら恐ろしいことをさらりと告げるパルミラ。
その視線は船の残骸の一部で止まった。
「? どうしたの」
「あそこ、明かりが見えません?」
「……本当だ」
比較的形がきれいな船の一つが妙に明るい。
誰かいるのだろうか。
「とりあえず行ってみませんこと?」
「そうだね」
二人は脱出のための目立った手がかりがないため、とりあえず明かりがともっている場所を目指すことにした。
「それ、便利な武器とアーツだね」
「貴方の「ふりっと」でしたか? それもたいがい壊れた性能ですわ」
パルミラは衛星を展開して蛇腹剣の節を足場に胃液プールを回避しながら進む。
ローズはローズでフリットによる空中移動だ。
「到着っと、たき火?」
「剣よ、戻りなさい。たき火ですわね」
「……だれ?」
突如声をかけられ、二人は即座に臨戦態勢をとる。
「ひ!」
物陰からトスンと音が聞こえた。
どうやら謎の人物は殺気に気おされて尻餅をついたらしい。
「……どうやら敵ではなさそうですわ」
「怖がらせてごめんね」
姿の見えない相手がかなりの臆病者だということは今のやり取りで十分に理解できた。
殺気に対して身構えるでもなく臆するということは非戦闘員だろう。
剣を収め、危害を加えるつもりはないと伝えると恐る恐る声の主は顔を出した。
「……子供ですの?」
「君は?」
「あ……僕ですか? 僕は試作キリングドール甲型00082番です」
ずいぶんと物騒な名前だが。
「キリングドール?」
「あ、えと……戦争用の対人目的の汎用人型殺戮機械人形の試作機……です」
使用目的も物騒だ。
「君、ネルソディラの人じゃないの?」
「あ、ハイ。でも、僕……その……失敗作で……」
「廃棄されたところで化け鯨に船ごと食べられたってとこですの?」
「あ、イエ。マスターに殺人なんて向いてないから廃棄される前に従者兼使用人として連れ出されて、大陸を渡っている最中に」
なんとも運のない話だ。
「マスターっていい人なんだね」
「あ、ハイ。もともと殺戮用の機械なんか作りたくなかったらしいんですが、技師としての腕を買われて半ば強制的に作らされていたらしいんです。大体の開発が終わってマスターがほかの人に引き継いで故郷に帰る途中でした」
「これは……」
「ローズさんの考えてる通りだと思いますわ」
運がないではなかった。
要するに口封じでわざとモビーディックがでる場所を通ったのだろう。
「マスターはどこに?」
「あ、コチラです」
キリングドール君に案内されて船内へ進む。
それほど時間がたっていないのなら何とか一緒に脱出しようと思ったから。
「……いつからここに?」
「あ、ハイ。およそ730日と22時間32分18秒です。あ、今の間に30秒は過ぎてます」
「こまか……」
二年間もここに閉じ込められていたのだろう。
イベントだといえばそれまでだが、実際にその期間こんなところで食料もなく過ごせるかと言えば……。
「検死はできませんが死してから膨大な時間がたっていますわね」
ほとんど肉が残っていないのでそう見るのが妥当だろう。
無残な姿ならさすがに引いたが白骨ならそこまでではない。
「あ、最初のうちは定期的に来る魚を食べていたのですが、ある時から口や身体の一部から出血するようになって見る間に衰弱していきました」
「野菜や果物の不足から起こるビタミンC欠乏症……船乗りの間では恐れられていた壊血病ですわね」
「博識だね」
食料はモビーディックの食べたもので補えていたが、栄養素までは網羅できなかったようだ。
「試作キリングドール甲型00082番くん……長いですわ。リン君は大丈夫ですの?」
「あ、リンですか?」
「貴方の名前ですわ、試作キリングドール甲型00082番なんて長すぎですの。キリングドールだからリンですわ」
安直といえば安直である。
「というか普通に正式名称覚えてるのがすごいよ……」
「瞬間記憶は淑女のたしなみですわ、それよりあなたのエネルギー的なのはどうなんですの?」
そんな嗜みはいらない。
「あ、僕は空気中の魔素を取り込んで動力とするマギ・エンジンを心臓にしているので無理をしなければそれこそ何千年も動けます。パーツも劣化防止処理に加えてナノリペア機能も備えてるのでよっぽどのダメージを受けなければ早々に動けなくなることなありません」
実はかなりのハイスペックらしい。
心根が優しくて戦闘には向いていないが、家事全般は得意だとか。
ただし、味覚がないので料理だけはだめ。
「……なるほどですわ」
「どうしたのパルミラさん」
「リン」
「あ、ハイ」
「貴方わたくし達とここを出ません?」
「あ、ハイ……ハイ?」
「え? パルミラさん」
「ローズさん、この子はたぶん臆病なだけで戦闘能力は高いですわ。メインにはできませんがサポートとしてなら脱出の手助けには十分なりえますわ」
「うーん……確かにここで会ったのも何かの縁かも」
「それに、ずっとここにじっとしていたという訳ではない。違いますの?」
「あ、ハイ。お魚を捕りに行ったり、最初は僕も出られないか色々動いていたので……」
「道案内も十分できそうですわ」
「だね」
「それで、どうしますの? わたくし達は絶対にここから脱出しなくてはなりませんの。もしよかったらわたくし達に協力してくださるとかなりうれしいのですが」
「あ、えっと……」
ちらりとマスターと呼ばれた男の亡骸に目を向ける。
「なるほどですわ、大した忠義ですの。でもこうすれば……」
するりと男の亡骸が消える。
「あ、え?」
「アイテムバッグですわ。生物以外なら持ち運べる便利なものですのよ。これで脱出できたなら埋葬もできますわ」
にこりと微笑んでリンの頭をなでる。
「あ、は、ハイ」
突然の出来事に戸惑いは見せたものの、大切な人物を供養できるというなら是非もなし。
「ついてきてくれますわね?」
「あ、その……不束者ですがよろしくお願いします」
その物言いに二人はクスリと笑いを漏らしたのだった。
ここまでお読みいただいた皆様に感謝!




