大海原の戦い、巨大海洋生物
お待たせしました。
ストレスを糧に執筆するとこっちがまるで進みません(笑)。
お待ちしている方には大変申し訳なく思います。
読んでくださる方に感謝を。
――シーパラディス沖合。
「んで、パルミラさんはなんで海を渡りたかったんだ?」
「ああ、それでしたわね。簡単な話ですわ」
一応シーパラディスでも船は出ている。
が、通常の船だとボスを迂回するルートを通るので三層の街には海上都市オーシンしか動けないらしい。
三層を自由に動くにはボスを倒せという事だ。
ちなみに他の場所のボスを倒して三層に行ってもいいが船でしかこの街に入れない。
一応港町のようなものはあるが、三層ではこの二層の海に居るボスを倒していないと船を出してくれないのでかなり不便になる。
ついでに言うと船の購入権もこのボスを倒すことがフラグになっていたりする。
正規ルートで行くならギルドの依頼である「巨大海洋生物調査」を受ける必要があるが、現在かなり混雑しているので船待ち状態なのだとか。
依頼受注に上限は無いが、一応ボス戦なので一度に出せる船には上限があるそうだ。
「なるほどな」
「やっぱりボス居るんだ」
「そりゃ境界をまたぐから居るおね」
『ところでローズさん……アレ何でしょう?』
サルビアがローズの肩を叩いて石板を見せてくる。
メンバーなら念話可能だがパルミラが居るから自重してるのだろう。
「うにゅ? ……筏?」
「何言ってんだローズ? こんな大海原に居るわけないだ……筏だなぁ」
「げ!!」
「なんですの?」
ギースのこの反応はきっとヤツだ。
船は徐々に筏に近づいて行く。
その上に乗っている人物をハッキリ視認したメンバーは驚きを隠せない。
筏に西洋鎧を纏ったオッサンが短剣を投擲しながら海の魔物を屠っているのだ。
しかも筏は波に逆らい、まるでオッサンの思うがままの方向に自在に動く。
「あ……あれ」
「もしかして」
『もしかしなくても』
「あーさんだ……」
「誰ですの?」
「ギースさんはあの危険人物を知っているのかお?」
ギースが疲れた顔で説明する。
やはりヤヨイはレトロゲームに造詣が深い。
ヤヨイも説明を聞いて疲れた顔をした。
そうこうしているうちに彼の方もこちらに気づいたようで警戒している様子が見て取れる。
安心させるためにローズは目立つ位置に立ち、手を振った。
彼女は万が一でも空中移動できるので安心だ。
「おー、ローズ殿の船であったか」
「あーさんこんにちは、その筏は?」
「うん? コレは魔術で作った筏だ。凄いだろう?」
――不思議で便利な丸太船
丸太「船」と言ってはいるが丸太を板に加工せずそのままロープで縛ったデザイン。
つまり筏。
どんな大荒れの海でも自在に動くことが出来る不思議で便利な魔法の筏。
海以外で使用する場面がない。
「……また危険な術を……」
「危険か? 転覆もしない安全な筏だぞ?」
「そっちの意味じゃないですお……」
「?? まあいいや、見たところお前らもボス戦か?」
「おう! 腕がなるぜ」
「……もしよかったら同行させてもらえんか?」
珍しい提案である。
「何故だ? お前はソロプレイヤーだろう?」
「いやーそうなんだがな……どうもこの先のボスがレイド推奨っぽいんだな。一回負けてるしよ」
既に挑んだ後らしい。
「レイド……ですの?」
「ああ、パーティでも行けなくはないが出来ればレイドバトルにした方が楽みたいだ」
どうもそれほど巨大なボスらしい。
一度に出せる船もレイド最大人数分。
一隻の船には最大で二パーティの12人が乗れる仕様。
最小で三隻、最大で五隻という形。
船が足りなくなる訳である。
「先に出ていた船は全滅した。一応救助船も近くに居るのがルールみたいだから現地人で死者はいないが……」
「という事は私たちのパーティしか今は居ないって事?」
「ま、そういうこった。だが、頭数が居れば少しは楽に戦えるのは確かだ」
それも確かにと一行は頷く。
船が一隻しかなくとも、戦闘できるものが複数乗っているだけで違いは出る。
「でも八人で大丈夫かな」
正確には7+キョンシー。
「まあ、なんとかなるんじゃないか? ギースもいるし」
嫌がらせ特化の期待が高まっている。
「話は聞かせてもらったでおじゃ」
「「「「だ、誰だ!」」」」
「おじゃ? この語尾は……」
ジーナが名前を言いかけた瞬間、積み荷のタルが一つ激しく揺れ始めた。
皆の注目が十分に集まった瞬間!
「とう!! でおじゃ!」
樽の中からいつぞやの男「麻呂」が現れた。
「ああ!」
「お前は!!」
「ふっふっふ……そう、麻呂が噂の【密航だー! 縛り上げろー!】あ、ちょっと、止めるでおじゃ! いたたた! あ、なんでそんな縛り方!? それは、食い込むでおじゃ! アッーーー!!!」
痛覚レベルは高めのようだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
なんとかキャプテンたちに知り合いだと納得してもらい麻呂は拘束から解かれた。
「なんで密航?」
「実はパルミラ殿と同じ理由で途方に暮れておったでおじゃ。そこに立派な船を持つジーナ殿!」
(立派か?)
(船出したのローズさんですお?)
「これは乗せてもらうしかない! といった矢先にパルミラ殿、同じであったなら芸がないでおじゃる」
(芸とかいらねえだろ)
『(そこは個性という事に出来ませんかぁ?)』
「なればここはひっそりと積み荷に紛れ込み、折を見て颯爽と登場する麻呂! これでドッカンドッカンと笑いが……」
「いや、笑いはいらないし笑えないから」
ジーナから激しいツッコミ!
麻呂に効果はバツグンだ!
「ふぐお!! 無念でおじゃる……」
胸を抑えて倒れこむ麻呂。
「バカですかお?」
「バカだな」
「バカですわね」
「バカ……うん、バカ」
「分かり切った事だな」
『そんな事言ったら可哀相よぉ、ちょーっと頭が弱いだけよ。ね? 麻呂さん』
「げふあ!!」
一番の止めを刺したのはサルビアだった。
【姐さん姐さん】
「どうしたの? キャプテン」
【そろそろ問題の海域に入りやすぜ】
「え?」
麻呂で遊んでいるうちにどうやらボスエリアに侵入していたらしい。
よくよく見れば嵐になりそうな天候に変わりつつある。
「おいでなすったな」
「あーさん」
あーさんは一度戦っているからこの場所の演出を知っているのだろう。
そして、指をさした方向に一行は目を向ける。
「おいおい、冗談だろ?」
「凄く……おおきいですわ……」
「あれ、どうやって戦うんだよ」
「隠れておけば良かったでおじゃる……」
『すごいわねぇ』
「ふわぁ、鯨だぁ」
「レイドの意味がわかりますお」
「来たぞ! あれが……」
此方の船の近くから一気に浮上し、そのまま空へと跳躍する。
巨大な一本角を生やした真っ白な鯨が船の上を通り過ぎ、反対側へと着水した。
――エリアボス・一角白鯨「モビーディック」
名前もそのまま、色もそのまま。
角が生えている以外に白鯨そのものである。
【面舵いっぱい! 奴に側面を向け、並走しろ! 大砲の用意だ野郎ども!!】
【【【【アイアイサー!】】】】
骸骨たちは慌ただしく戦闘の準備を進める。
甲板の上では様々な兵器が用意されていった。
【姐さん! コレはバリスタでさあ。あっちには弾薬が50、それと10のアンカーがございやす。それと、これがバリスタ用の滑車、比較的簡単に引けるとは思いやすが扱いに気をつけて役立ててくだせぇ】
「わかったよ、ありがとうキャプテン」
【そっちには大砲がありやす、弾は同じく50。火薬を入れてから砲弾を詰め、後ろにロープをねじ込んで火をつければ発射出来やす。こっちはこっちで援護するんでうまく使って下せえ】
どっちも意外にレトロな発射方法だった。
「よし、遠距離組は牽制だ! 近距離組は大砲とバリスタに配置についてくれ! バリスタはコッキング役と発射組。大砲は火薬と火付け、砲弾投入と手分けしてやってくれ!」
ギースが指示をだし、それぞれがそのように動く。
キャプテンたちは自動で戦ってくれるようだ。
「アンカーは近くに来た時に打ち込んでからだ! 遠距離はひたすら大砲とバリスタでダメージを稼ぐ」
接近したときにアンカーで固定し、こちらの最大戦力で一気に決める作戦。
現在のパーティの状況的には最適解だろう。
【射程に入ったぞー! 野郎ども、かましてやれぇ!!】
キャプテンがマイクのような管で船室の中に居る骸骨たちに号令を出す。
どうやら甲板のモノはプレイヤー用らしい。
よくよく見れば船の側面から無数の大砲が顔をのぞかせている。
【【【【アイアイサー!】】】】
船の中からとんでもない声量で返事が返ってくると次々に発射されていく大砲。
その全てが着弾するというすさまじい練度を見せてくれた。
流石海賊である。
打ち終わった大砲はガラガラとレールの上をスライドさせて中へ引っ込める。
速やかに次の砲弾が準備されて再び窓から砲身を突き出すと矢継ぎ早に轟音を響かせて打ち出されていく。
思わずため息が出るほど鮮やかな手際だ。
「装填完了!」
「火をつけますわ!」
――ダゴォン!
耳を劈く轟音。
あれだけの巨体であれば多少甘く狙ったとて命中する。
「いいでおじゃ!」
「しゃあ! くらえやぁ!」
遠距離攻撃を持つものも流石に射程距離外であれば威力は減退する。
今は砲撃しかすることが無い。
【皆さん、気をつけてくだせぇ! 投石がきまさぁ!!】
キャプテンの注意喚起が響く。
投石? と皆は首を傾げたが理由は直ぐに理解できた。
モビーディックが大きく口を開き、水を大量に吸い込むみ塩を吹いた。
その背中の穴から巨大な岩が無数に飛び出してくる。
体内に貯蔵されている岩を射出しているのだろう。
「うおお! また危ない攻撃方法を取りやがって!」
ギースがこういうときは何かのパク……なんだろう。
「落下してくる岩の影を見て躱すんだお!!」
ヤヨイもきっと理解している。
即座に回避方法を提示する辺り間違いない。
「あれはなんでおじゃ?」
モビーディックの方から水しぶきが近づいてきた。
「!? バイトフィッシュの群れですわね、蛇腹剣!!」
数を見て即座にパルミラは衛星を展開する。
「ふおお! 麻呂! 分! 身!」
麻呂の姿がブレ、10人の麻呂が現れる。
濃ゆい。
(! さっきよりモビーディックが近いお……これならいける)
ヤヨイが何かを起こそうとしている。
「パルミラさん、麻呂さん、私を守って欲しいんだお!」
「何をするのかしら?」
「かまわんでおじゃるよ」
「どっちかで大丈夫だと思うお。これから一切行動出来なくなるお」
「ふむ、では麻呂の分身を数体つけるでおじゃ。討ち漏らしはパルミラ殿に頼んだでおじゃ」
「まかされましたわ」
「よし! ジーナさん!!」
「あん?」
「モンフーを思いっきりモビーディックに蹴飛ばして欲しいお!」
「へ? わ、わかったぜ。おおおおおおらぁあああああ!」
――ガオン!!
「操身転移! 急々如律令!!」
ガクンとヤヨイの身体が崩れ落ちる。
そして、そのまま飛んで行ったモンフーはモビーディックの背中までたどり着くと。
『激震脚! 呀ー!!』
ズズン!!
地上にいたならば大地の揺れを感じられたかもしれない衝撃音と共にモビーディックの身体が弓なりに曲がる。
『ぎゃおおおおおおおおん!!』
大砲の攻撃を幾度となく食らっても歯牙にもかけなかったモビーディックが初めて哭いた。
『まだまだ終わらないお!! 散打双倒掌!!』
蹴り穿った場所に右の掌底が叩き込まれる。
ぶつかった瞬間衝撃に逆らわず即座に腕を背中まで引く。
即座に溜めを作っていた左の掌底が同じ個所にヒットする。
再び跳ね上がるように返る左を引くと同じように右が振ってくる。
『破ぁぁぁぁぁぁぁ!!』
右、左、右、左と交互に繰り出される掌底はまるで蛇のようにうねり、鞭のようにしなり、その速度を速めて行く。
遂には攻撃している手が透けるほどの速度に到達した。
「遠目だけどすっご……」
「あんなん魔術師が食らったら即座に昇天するわな」
というか運営が職分けの時に間違ったとしか思えない。
『ホワッチャアー!!』
止めと言わんばかりに限界まで後ろに引いた両手での双掌打。
それは見た目で言えばゴムゴムのバズ「言わせねえよ!」。
「ギースどったの?」
「いや、なんか知らんが悪寒が走ってな」
チっ。
「はっはぁ! いいぞいいぞ! 儂も続くぞお!」
あーさんがいきり立ってバイトフィッシュを狩りまくる。
すると近くに突然宝箱が現れた。
「いよっし! 来た来た来た!! そうっちゃく!」
「今の宝箱どこからきたでおじゃ?」
「たぶん気にしたら負けですわ!」
パルミラ正解。
「ぬううううん! 錬成「短剣」、いくぞお! ドラゴン招来じゃあああ!!」
気合を溜めたあーさんの頭のあたりから龍が現れ、周囲を薙ぎ払って天へと帰っていく。
「パルミラ殿」
「気にしたら負けですわ!!」
『私も負けていられないわぁ』
ざぶんとためらいなく海に飛び込んでいくサルビア。
「あ、ちょっとサルビア殿……おおお!? 人魚!?」
思わず麻呂の口調が崩れる。
やはりあれはロールだったか。
「いくわよぉ……『海よ、海よ、海よ。嘆くことなかれ、汝らの憂いは我が聞く、汝らの苦しみは我が汲む、そなたらはただ我の声に従い海を荒らす無法者を断罪せよ。メイルシュトローム』!!」
かのレヴィアタンの必殺技。
海王の加護が魚人形態の魚人族にとってそこまでメリットとなるものが無かったので追加してくれたらしい。
ただ若干の弱体化はしているようで、鱗の代わりに水流で鋭利な刃状の何かを作り出す効果になっている。
切れ味はレヴィアタンほどではないが雑魚殲滅なら言うことなしである。
「あとはあの大きな鯨さんだけよぉ」
「「「なにそれ!!」」」
ふだんからローズパーティに居ない三人はあまりの理不尽さに驚きを隠せなかった。
パーティ内で付き合ってると意外に分からなくなるこの理不尽戦力。
チートではないと言いたいけどもチートだなぁ。
人が増えてきたので覚書程度に。
ギース:攻撃能力はほとんど期待できないがバグに近い「アクションジャミング」をはじめとする行動阻害に長ける。本人は普通だと言ってるが明らかに異常なプレイスキルである。戦況が不利でも単体相手なら彼一人で抑えが効くので立て直しが容易、間違いなくナチュラルに本人がチート。
ローズ:最近吸血鬼成分がフリット移動しかなくなりつつある、高い動体視力でしか追えない速度で連撃をかましてくる恐怖の少女、防御貫通も完備。本体はベッドで寝た切りの為ゲーム内ではかなりはっちゃけてる。突拍子もない行動が良縁と幸運と結果を引き寄せている。自覚無しって怖い。
ジーナ:ネルソディラの人で元聖女、現在は戦闘狂でローズと真逆にどっしりとかまえて凶悪なカウンターを使う、ほかにもデメリットがきついがボスですらタダでは済まない模造神器や血液の武器を隠して使ったりと意外にサポート面も強いが本人は突貫して大ダメージが好き、戦い方が泥臭い。
サルビア:この頃ようやっと人魚らしさが出てきている、水があれば無敵なキャラを操るゲーム初心者。馴染みっぷりが玄人だけど目をつぶって欲しい、病院関係者で血に慣れてるのか意外に肝は座ってる。
ヤヨイ:新メンバー、魔術師というには物理寄り。本編でもチラリと言ったが運営が魔法職に間違って振ってしまったとしか思えないほどキョンシーの火力が高い。完全に操ると本体が無防備になるのが弱点と言えば弱点だが、パーティプレイなら気にならない。多分メンバーの中で平時でも最大の火力は彼女だろう、変わった口調が癖。真価はキョンシーと本体の同時攻撃、タンデム……おや? 誰か来たようだ。




