あっさり迷宮と微妙に正月、のちに出航
一週間も過ぎましたがあけましておめでとうございます。
今回はちょこっと正月テイストを入れつつ普通に本編。
ほとんど閑話挟まないのでいつも通りという……。
今年もどうぞよろしくお願いします。
目的であった付けエラを手に入れた一行は件の迷宮「沈んだ遺跡」にチャレンジした。
結果は散々だった。
……迷宮が。
理由は単純。
沈んだ遺跡が中級たる所以は偏にそのフィールドにある。
水中戦が多く、無呼吸での戦闘を強いられる場所や息継ぎポイントまでギリギリな場所。
行動が制限された状態で襲い来る罠。
このいやらしさが中級ダンジョンである沈んだ遺跡なのである。
つまるところ、付けエラによって水中の呼吸を確保するだけでも割と動きやすくなることに加えて、水中でも地上とそん色なく活動できる海王の加護なんてものを貰ってしまった為に難易度が激下がり。
もっと言えばそのメンバーの中に水中戦特化の魚人族が居る状態も拍車をかけていた。
哀れだったのは「沈んだ遺跡」のボスである。
第一回戦は水中にてゴーストシップと対戦。
これは体当たりしかしてこないので大したことは無い。
いや、実際は巨大な船が動きにくい水中で体当たりを敢行してくるだけで脅威なのだが。
それを下すと今度は水が引いて行き、陸地が現れる。
ゴーストシップは陸地に着けてタラップを下ろし、無数のスケルトン・パイレーツが飛び出してくる。
これを一定時間凌ぎ続けると船上からキャプテン・パイレーツが現れて参戦。
ゴーストシップの援護射撃とスケルトンの群れを相手にしながらの頭獲りをしなくてはならない。
何故遺跡のボスなのに海賊なのか。
実はココ、こじんまりとした無人島で元海賊のアジトという事だからだ。
元海賊のアジトが、かつて邪龍の攻撃の余波で水没し、その瘴気からダンジョン化して異界に迷い込み、長い時を経て迷宮都市に顕現したという事らしい。
ちなみにご褒美というかダンジョン踏破の報酬は海賊船だった。
そして現在一行は邪龍の封印の件を尋ねるために逢魔に訪れたのだが……。
「なんだコレ」
「うわぁ、見て見て! タコ上げてるよ!」
「これはどう見ても……」
「正月ですおね……」
『ですよねぇ』
シレっとヤヨイが居るのは最早気にしない。
というか正式メンバーになったらしい。
理由はファウストが暫くログイン出来なくなったから。
何故ログイン出来ないのか聞いてみると思いの外あっさりと答えてくれた。
「刺されましたお」
入院中らしい。
運のいい事に主要な臓器は避けたので命に別状はないそうなのだが。
「だからとっとと身辺整理しとけと言ったですお、怠った結果がコレですお」
とのこと。
クランハウスの鍵は知り合いの魔術師に譲ったそうだ。
実際人間は二人なので必要ないと言えば必要ない。
魔術師は「魔導研究会」というパーティを組んでおり、オリジナルの魔術の研究にログイン時間を費やしている変わり者の集団。
涙を流して喜ばれたそうだ。
良き哉良き哉。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――マクスウェルの城、謁見の間。
「おお、ローズか。丁度いいな」
「丁度いいですか?」
謁見の間に入るとなにやらいそいそと準備していた着物姿のマクスウェルがいた。
これから餅つきをやるという事で訓練場に行くところだったらしい。
「お前たちも来るといい」
ここ逢魔では餅つきは一大イベントのようで、街からも見物人が多く集まるとか。
「まあ、そう言う事なら」
「行きますお」
邪龍の事は聞ける雰囲気ではない。
――訓練場。
訓練場につくとランオウとランハクが餅を準備していた。
水桶が近くにあるという事はランハクがこねる側なのだろうが、ランオウの方に杵は無い。
「皆の者! 今日も恒例の餅つきが始まるぞ! 存分に楽しむがよい!」
マクスウェルの始まりの合図と共にランハクが手に水をつけて餅を捏ねた。
そしておもむろにそれを担ぎ上げて……。
「投げたあああ!?」
「なにぃぃ!?」
「向かいのメイドさんがガントレットつけてますお!?」
投擲されて物凄い勢いで飛んでくる餅。
それをさも当たり前のようにガントレットをつけて迎え撃つランオウ。
「衝打!!」
ドム! という衝撃音を受けてランハクの下に跳ね返る餅。
それを濡らした手で華麗に衝撃を逃がして送り返す。
「ハイ!」
「衝打!」
「ハイ!」
「衝打!」
リズミカルに打ち返されては捏ねられて投げられる餅。
次第に食べごろになっていくのがわかる。
「こ、こんなの餅つきじゃねえよ……」
『衝撃過ぎるわぁ……』
一種の曲芸レベルであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……なるほどな……魚人族の封印が……」
「「「「『……』」」」」
「マクスウェル様、アンコが口につき放題ですが」
「む!?」
シリアスな話題もコメディーである。
この人にシリアスを求めるのは間違っているのだろうか。
「よし、これでいいだろう。して、ココの封印の件だったか」
「はい」
「案ずるな、ここの封印は他と比べれば強固だ……なにせ「マクスウェル様」……幻想魔術を破れるものがおらんからな」
咄嗟にランオウが口止めをした。
無理やりごまかしはしたが何かある。
だが、この情報を聞くにはまだフラグが立っていないのだろう。
「まあ、そういう事だから大丈夫だ」
ここは納得するより無いだろうと一行は判断した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「大した情報聞けなかったね」
「まあ、まだ他の情報が出そろってないからな」
「RPG的に言うとフラグが足りないですお」
「この後どうすんだ?」
「どうしよっか……」
とりあえず他の街に行くという選択もあるが、今はそんなに乗り気ではない。
どうしたものかとウンウン考えていた時にサルビアが。
『海賊船使ってみません?』
「お?」
「いいなそれ」
「面白そうですお」
「海賊王になっちゃう?」
すっかり空気になっていた海賊船を使うという事で落ち着いた。
――再びシーパラディス。
「よっしゃ、この辺の浜辺ならほかの船の迷惑になんねえだろ」
「だすよー! ほい!!」
ローズが取り出したボトルシップを海に向かって放り投げる。
まばゆい光を放ち、それは巨大な海賊船へと変貌した。
「おー……お?」
「ボロくね?」
「こりゃあの幽霊船だな」
「動くんですかお?」
『大丈夫よねぇ』
一瞬コレ大丈夫か? と考えたが、現在もしっかり浮いている所を見ると大丈夫そうだ。
どうやって乗り込むのかと眺めていると何やら声が聞こえてきた。
【野郎ども、帆を上げろー錨を下ろせー!】
【【【【【アイアイサー!】】】】】
【【【【What shall we do with a drunken sailor
What shall we do with a drunken sailor
What shall we do with a drunken sailor
Early in the morning】】】】
――コーラス
【【【【Way hay and up she rises
Way hay and up she rises
Way hay and up she rises
Early in the morning】】】】
テキパキと骸骨たちが錨を下ろし、帆を上げてタラップを下ろす。
それにしてもこの骸骨たちノリノリである。
「ロバート・ショウ合唱団のシーシャンティズ収録、「酔いどれ水夫」か……」
ギスペディアはこんな情報でも拾うようだ。
ぞろぞろと船から降りてきて左右に散会し、整列したところを骸骨船長が悠々と降りてきた。
【お呼びいただき光栄でさぁ、姐さん】
「え? 私!?」
「そりゃアイテム使ったのローズだからな」
「よっ姉御!」
「ジーナ!!」
【ささ、汚い船ですがどうぞお乗りくだせぇ】
あの時戦った船長がへりくだってどうぞどうぞと促してくる。
微妙な気分がするのは気のせいだろうか。
「ま、まあ乗ってみようか」
「お待ちなさいな!」
ローズが恐る恐るタラップに踏み出したとき、横合いから待ったがかかる。
「だ、誰だ!!」
「何だかんだと言われたら、答えてやるのが世の情け……じゃないですわ!」
「ノリのいい人ですおね」
「あ! 蒙鬼さんと戦った……パラケルススさん!」
「貴方とも戦ってますわ! それとパルミラ! パールーミーラー! ですわ、医術師じゃありませんわよ!」
ノリツッコミも完璧のようだ。
「パしか合ってないじゃねえか」
「んで? そのパルさんが何のようだい?」
「ぱ、パルさん……ま、まあいいですわ。貴方達、この船の持ち主?」
『そうですわぁ』
「せ、石板? ……でしたらワタクシも乗せて下さらないかしら?」
気にしないことにしたようだ。
「うーん……大丈夫?」
【へ? この船ですかい? 定員はまだまだありやすから平気ですぜ?】
キャプテンなのに下っ端臭が酷い。
ボス時代もこんなキャラだったのだろうか。
「いいんじゃねえの?」
「手合わせしようぜ」
「旅は巻き添えですお」
『賑やかなのはいいわぁ』
メンバーも別に問題なさそうだ。
戦闘狂は置いておこう。
「恩に着ますわ」
彼女も海の向こうに用事があるのだろう。
多少なりとも縁があったのだからここは快く乗船を許可する。
【よーっし、野郎ども! 錨を上げろ、帆を下ろせー!】
【【【【アイアイサー!!】】】】
【【【【I'll sing you a song,a good song of the sea
Way - hey, blow the man down.
I trust that you'll join in the chorus with me
Give me some time to blow the man down】】】】
――コーラス
【【【【Blow the man down, bully, blow the man down
Way - hey, blow the man down.
Blow the man down,boys, from Atradam town
Give me some time to blow the man down】】】】
降りて来た時同様海賊の子分たちがキャプテンの掛け声で歌いながらノリノリで作業を始める。
どうやら口頭の指示で操縦までやってくれるようで楽ちんだ。
「今度は「そいつをぶっ倒せ」か……微妙に町の名前が違うのはこっちに合わせたか?」
こっちも全開のようである。
やってみたかったシリーズ。
船乗りの歌を入れたかった。
最初は掛け声だけだったのは余談。




