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authentic world online  作者: 江上 那智
広がる世界
41/51

決着! レヴィアタン

ボス戦なのにあっさり目。

大会が長すぎたんや……。

それから一進一退の攻防が繰り広げられながらも一行は確実にレヴィアタンの生命力を削っていた。

徐々に追い込まれるレヴィアタンの生命力が残り3割になった時それは起こる。


咆哮から衝撃波のようなものを発生させて自らの周囲に群がるモノを吹き飛ばす。

同時にレヴィアタンの足元(?)に生成される魔法陣。

少しずつレヴィアタンを中心に広がり始めた大渦は吹き飛ばした彼らを今度は逆に引き寄せ始める。


――メイルシュトローム

レヴィアタンの持つ最大スキル。

自分を中心に発生させた大渦に自らの鱗をまき散らしつつ相手を巻き込み、その鱗の刃にて粉微塵に切り刻む発狂時限定、一発限りの超大技。

生半可な防御力では瞬時に生命力すらも消し飛ばされてしまうだろう。

発動前に必ず相手を吹き飛ばす性質上発動を止めることは出来ない。

そう、出来ないのだ。





――本来であれば。





『ぐぎゃおおおおおお!!』

自らを追い詰めたモノを敵と認めた。

認めたからこそ確実に葬る。

この雄叫びは自分の勝利と相手への賞賛の意を込めたモノ。


になる筈だった。


悲鳴が聞こえない。

否、いっこうに何かを巻き込んだ気がしない。

これはおかしいと天を仰いでいた顔を下へと戻すとそこに広がる光景は凪。

渦どころか波の一つも起きていない静かな水中。

一体何が起こったのかと錯乱しているときに感じた強烈な悪寒。

その方向に目を向ける。

あれはいったい何なのか。


――槍

それも神の力を纏っている気がする槍。

アレは受けてはいけないものだ。

絶対に撃たせてはならないものだ。

ゆっくりとこちらに照準が合わさる。


ゾクリとした。


あいつを止めなくては!

チャージする間も惜しいと溜めなしでブレスを放つレヴィアタン。

だが、そんな焦りを見せた一撃は彼らには通用しない。

いち早く攻撃を察知した盾持ちに容易く受け止められた。

そも、しっかりと力を込めた一撃すら凌ぐ輩たちなのだ。

気の抜けた攻撃なぞ木の葉を払うかの如くであろう。


『ぎゃおおおおおおん!!』

もはや逃げる事すら叶わぬ。

いや、放たれればどうあがいてもあれは逃げられない。

諦めにも似た悲痛な叫びが水中祭壇に木霊した。






――少し前の出来事。

レヴィアタンが毒を受けて皆が体勢を整えた時。


「サルビア、ジーナこっちへ」


「わかったわぁ」


「あん? 攻撃に参加しなくていいのかよ」

ギースはサルビアとジーナを戦闘区域の外へと呼び出す。


「二人にはやって欲しい事がある……実はな」

サルビアは初の大物であり、初の大規模集団戦でどうしていいか分からないので素直に従った。

ジーナは不満げだが、ギースが何かを考えているのは分かったので従う。

ギースは今までやって来たゲームの経験上レヴィアタンが瀕死に陥れば確実に発狂モードに入るだろうと睨んでいた。

ナタリエが放った地形すら変えるほどの魔術を受けても変わらない祭壇内には理由があると思っていた。

それはこの満たされた水が関係しているだろうと思考を巡らせる。

それは多分回避困難な大技。

だが、直感的にそれに対処する手札が自分の仲間にあることも気づく。


――天変地異

サルビアの種族ハルフゥの固有スキルであり凶悪なまでの効果を秘めたもの。

地上で放てば術者が瀕死、もしくは死亡するほどのデメリットを持つが今は水中。

魚人族のステージであり、ここでならほぼデメリット無しで使うことが出来る。


そして、天変地異であれば確実に水を変化させてくるであろうレヴィアタンの発狂モードを強制的に終了させられるのではないか?


だが、それだけでは押しが足りない。

確実性を持たせるならばそこに止めを刺せる大技をこちらも用意するべき。

それも手札にある。

ジーナの持つ模造神器。

通常では考えられないほどの溜めを必要とするが、威力はお墨付き。

完全に削り切ることは出来ないかもしれないが、それでもあいての生命力を2割は確実にもっていけるだろう。

そこまでを計算して二人に声をかけたのだ。


「サルビアは水中なら負担が少なく天変地異を使えるよな?」


「たぶん大丈夫よぉ」


「よし、ジーナは何でもいいから模造神器を準備してくれ。あいつの生命力が大体3割まで落ち込んだら必ず動きがある、だから天変地異を起こしたサルビアの後に続くように放てる準備をしてほしい」


「天変地異で何を起こすの?」


「逆だ、相手の技を無効化してほしい」

天変地異とは読んで字の如く天を変え、地を異ならせるものだと想像する。

平穏な状況ならば風を呼び、雨を降らせて雷を轟かせ、海を荒らし津波を呼ぶが逆も然りだと。


そして、事態は動く。

ギースが思った通りの状況が訪れたのだ。


メイルシュトローム。

レヴィアタンがもつ最大級の大技。

もし完全発動すれば壊滅は必死。

目論見が外れれば全滅するだろう。

だが。


「天変地異!!」


「すげぇ……あの凶悪な渦が瞬く間になくなってくぜ……」

作戦を聞いていたジーナですらこの感想だ。

作戦を聞かされていない他の面子はさぞ驚いただろう。


「よし……タイミングはバッチリだ……」

ジーナは手にした神の槍グングニールを引き、照準を合わせる。

放てば確実に命中する槍だが、間違いなく仕留めるために弱点になりそうな部位を探す。


「あの逆さまに生えてる鱗……あやしいな」

それは逆鱗。

触れれば龍種は激昂するとされる鱗は弱点。

故に触れられれば怒り狂う。

狙いは決まった。

後は放つだけ。

だが、レヴィアタンも黙っては居ない。

そうはさせまいとブレスを放ってくるが。


「ふん!」

決め手になる一撃を邪魔されてはならんと近くに居たシマがカットに入る。


「いいとこ無しだったからな、これくらいはしなきゃ面目ねえ」


「助かったぜ! くたばれデカ物、おおおおおらあああああ」

投擲された槍は水の抵抗を完全に無視してレヴィアタンの逆鱗目掛け真っすぐにすすむ。

狙い違わず最も硬い逆鱗を貫き、その生命を刈り取らんと突き抜ける。

ぐんぐんと減っていくレヴィアタンの命を見て誰もが勝利を確信した。


そのときだった。


「くふ、くふふふふふ! いい! 実にいいいいいい!!」

背景に溶け込んでいた悪魔が動きを見せる。

完全にレヴィアタンの命が尽きる寸前に海王の三叉槍を眉間に突き刺したのだ。


「有り難い、ありがたい! これで邪龍様の封印の一つを手に入れたぞおお!!」

レヴィアタンからするりと抜け出た光をその手に掴み、歓喜の声をあげる。


「いやぁ、この守護者がどうにも倒せなかったんだよ」


「どういうことだ?」

代表してギースが問いかけた。


「いやね? あと少しで封印が解けると言ったじゃないか。この守護者の中に邪龍様の力の一部が封じられている所までは突き止めて、何とか出来ないかと思ったんだけどねぇ……私だけでは倒せなかったんだなぁ」


「僕達を利用したのか」


「くふ、丁度いい時に来てくれたので封じられている邪龍様の力に働きかけてあなた方にけしかけたわけだよ。本当にいい働きをしてくれた」


「モンフー!」


『阿!!』


「おっと、危ない危ない。こいつを仕留めたあなた方と戦うようなことはせんよ、きっとまた会いそうだがその時はまた協力願う。くふ、くふふふふふ!!」


「ぬう……消えよったか」


――ワールドクエスト「邪龍の封印」がクリアされました。

これにより各地の魔物が一段階強化されます。

一部のイベント条件が解除されました。

各地の依頼内容と売り物が変化します。


「これでクリアであるか?」


「オーケーオーケー、なんとも後味の悪いイベントだと思うよ」


「ワールドアナウンスが流れたところを見ればそうなんだろうゼ」

どうにも煮え切らない。

むしろしてやられた感が強い。


「一応コレ持って行こうか」

ローズは地面に転がっている三叉槍を拾い上げた。

その時、レヴィアタンの屍から光が溢れ、徐々に縮んでいく。

人型のサイズにまで小さくなった時、中から魚人の男性が現れた。


「な、なんですかお?」


『む……むぅん……』


「生きて……ないな」


「……透けてますね」

背景が透けて見える魚人男性は頭を振って起き上がり、メンバーを一瞥する。


「貴方は?」


『儂は初代魚人族の王ヴァイア・セイドン……儂がこうして話しているという事は封印が破られたか……』


「初代!?」

彼の話は過去の邪龍戦争の話。

強力な邪龍は滅する事敵わず、仕方なしに封印することになった。

ヴァイアは自らの身体に邪龍の一部を封印し、さらに守護獣としてその身を変えることで封印の礎とした。

だが、邪龍の一部とはいえその力は健在で、次第に意識は乗っ取られ始める。

このままでは自分が邪龍となってしまう可能性に気づいたヴァイアは、二代目を就任した自身の息子を呼び出して邪龍討伐にも使用した愛用の三叉槍に籠められた強大な魔力で祭壇のあるこの島を海底に沈め、位相をずらして狭間へと閉じ込めたのだ。

その後しばらくは平穏であり、邪龍の意識も大人しかったのだが、最近になってまた暴れ始めた。

何事かと目を覚ませば表の世界に出ており、島も浮上していた。

これはイカンと必死に邪龍の意識を抑えていたのだが、先ほどの悪魔が邪龍の意識に力を与え、ついにヴァイアは乗っ取られてしまう。


その後は知っての通りの状態である。


「オーケーオーケー、という事はほかにも封印はあるんだと思うよ」


「狭間の王は正直気づかなかったお」


「会うには色々条件があるみたいだね……僕も攻略の最前線に居ながら王の話は初めて聞いたよ」


「でも夜人族の王は気さくだよね」


「どこにでもいるおっさんだな」


「あー……あのオッサンそんなに偉かったんだな」


「雰囲気は王様だったわぁ」


「「「「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」」」」


「「「「え?」」」」

馬鹿みたいな顔してローズたちを見る13人。

そしてここにきてやっとホイホイ王に、しかも物語の結構深いところに関係する人物に頻繁に遭える異常さを理解し始めた四人。

これにはヴァイアも驚いた。


『なんと……夜人族の王に面識があるのか……かの種族は息災か?』


「えっと、今四代目なんですけど元気ですよ?」


『おお……種族を増やす事自体に呪を掛けられていたから心配しておったが……なるほど、息災か……』

最近はアグレッシブすぎて少々困る。


「結局封印はとけてしまったが、魚人王はどうするであるか?」


『儂はここで祭壇を訪れる力ある者たちに加護を与えよう』


「加護?」


『うむ、儂の加護があれば水中でも地上と変わらぬ力を振るえ、かつ水を使う魔術の抵抗が上がる』

さらに魔術師なら水魔術の威力が上がったりするらしい。


祭壇はこのままで、神殿の守護者を倒してここまでたどり着いたものに加護を与える役割を担うという。

正直裏技で来てしまった彼らはちょっと居たたまれないが、レヴィアタン状態のヴァイアに勝ったのだから問題はないとのこと。


「じゃあ偶に遊びに来ますね」


「アノスに頼んだらここまで一瞬だから楽だな」


「ジーナよう……いや、なんでもねぇ」


『これ以上は加護を与えられぬが、いつでも歓迎しよう』

こうして一行は報告のために魚人の国に帰る。

だが、これは始まりに過ぎない。

封印の一つが奪われた。

これはネルソディラにとって凶報である。

封印を担う狭間の王に会う必要がある。

ただのイベント。

そう思うにはいささか後味が悪い。

それくらいこの世界はゲームの枠を超えて生きているのだから。

少なくとも今回のメンバーはそう考えている。

この世界の住人がNPCという枠組みで語ってはいけない事を理解しているから。

追記

――海王の加護。

水中での呼吸は出来ないが、水中行動を地上とそん色なく行えるようにする。

水属性の魔術や攻撃に対する抵抗を高めて、水魔術の威力をあげる。

表記されないためわかりにくいが水棲の魔物に対してダメージが1.2倍になり、エンカウント率が下がる。

ついでに釣りをすると大物が掛かりやすく、入れ食いになりやすい。

魚人族の異性に対してちょっとだけ好感度が上がりやすくなる。

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