海の王と邪龍の使徒
また出してしまった……蒙鬼。
「なるほど」
「王に会うまでアタイが付き添おう、その方が色々便宜が図れる」
「ソイツはありがてぇな」
レイナからの依頼を受けたメンバーは彼女の提案を受けて従う。
実際突然現れた漂流者+現地人の種族混合パーティよりも国の、しかも信頼あるギルドの長の方が話は色々通しやすい。
「ちょっとまってな。おーい、誰か居ないのか?」
王城の前、本来なら衛兵がいてもおかしくない場所には誰も立っていない。
あの最恐メイドに守られた駄王ですら衛兵は置いていたのにだ。
~ ~ ~ ~ ~
「いっきし!」
「マクスウェル様唐突にくしゃみですか、汚いですね」
「酷くない?」
~ ~ ~ ~ ~
「オカシイな……普段なら誰か居るはずなのに……」
言われてみればどこか違和感がある。
誰も居ないというのもそうなのだが。
「なあ……なんでこの状況で街の人が誰も反応しないんだ?」
ギースが気づいた疑問をレイナに問う。
「!? た、確かにこんな異常な事態は誰かしら気づいてもおかしくない!」
「ねえ、屋根の一部がないよ! それにあの大渦は……?」
ローズがさらに異変に気付く。
「よくよく見たら街の人が素通りしてますお!?」
ヤヨイも外を観察して理解した。
ぶつかる程近くを通っているのに誰も反応を示さない。
「どう見ても異常なのに……まるで……」
まるで、城など存在していないかのように……。
サルビアは最後の部分を口にはしなかった。
だが、皆が理解していた。
「す、すまん。事態は意外にも切迫しているようだ! 駆け足で王の間へむかうよ!」
事態の重さに気づいたレイナは緊張した面持ちで皆を案内する。
間もなく王の間にたどり着く。
が、その前に倒れ伏す人物にレイナは足を止める。
「マリナ!」
アノス王の世話係であるメイド長のマリナだった。
「う……れ……レイナ?」
「どうした、何があった?」
「レイナ……王を……」
「マリナ? マリナ!!」
「気絶したか……」
「アタイがもっと早く動いていれば……」
「レイナさんよ……」
「ギースったか? なんだ?」
「アンタがどれだけ早く動こうが無駄だったと思うぜ」
「!! てめぇ!」
「見たところこの城は認識を阻害されてるんだろ? 俺たち外のものが来て初めて異変に気付いたんだからアンタらだけじゃ絶対無理だったと思うぜ? 仮に城の近くに来ても違和感を感じれなかった……アンタの事だから何回か足を運んだんだろう? 違うか?」
フラグとかスイッチとか言ってはいけない。
「ギース……」
それはほかの面子もわかる。
外的要因があって初めて事態が動いたのだからそれが無ければきっと事が取り返しのつかないところに来るまで気づけなかったかもしれない。
下手するとこの魚人の街そのものが無くなるまで誰も異常に気づけなかったかもしれない。
だが、そんなことは当の本人だってわかっている。
分かっているが、それとこれとは別なのだ。
「~~~~っ!!」
分かっているからこそ怒りをどこに向けていいかわからない。
「まあ、俺で良ければ後で好きなだけ殴れ。マリナとやらも死んじゃいねえ、それより今は王の無事を確かめる事だ」
その言葉でハッとするレイナ。
「そう……だな」
自分たちでさっさと行っても良かったが、それを一番に確認するのはレイナでなくてはならない。
ギースはそう思ったからこそあえて憎まれることを是とした。
「損な性格だよな、ギースは」
「へ、今さらだ」
ゴゴン! という音が響き、王の間へ通じる大扉が開かれる。
レイナが目にしたのは必死の形相で魔力と生命力を放出し大渦を抑えているアノス王の姿だった。
「アノス!!」
「れ、レイナか……」
「アノス! 手を貸す!」
「よく……よく来てくれた……ありがとう」
「ぐ、ぐぐぐ!」
レイナがアノスの負担を引き受け、王は喋る余裕が僅かに出来、礼を告げる。
「アンタが王様だな」
「お前たちは?」
「ひょ、漂流者だとさ……コイツ等が来てくれなきゃ城の異変だって気づかなかったよ……」
「やはり認識をずらされていたか……助けが来ない段階でその予想は出来てたが……」
「何があったか聞かせて、王様」
「レイナのおかげで僅かにつらさが軽減したが、予断を許さんことには変わりない、簡潔で良ければ」
「詳しくされると分かんなくなりそうだからそれでいいぜ」
「むしろそれでいいのかお? ジーナねえ」
「はは……正直な人だ……あれは10日ほど前だ……」
10日前、突然邪龍の封印の様子が変わった。
弱まったのだ。
そのことについてレイナに話した。
若干の不安はあったが封印の宝具「海王の三叉槍」があれば問題ないと思っていた。
だから封印の様子を見に行くときにレイナが追いて行こうか? と言われたのを大丈夫だと返した。
そして三日後。
邪龍の使徒を名乗る悪魔が現れ、王の間に大渦を生み出した。
今目の前でアノスとレイナが抑えているものだ。
一瞬でも気を抜けば城どころか街が崩壊する。
それほどの危険をはらんだ大渦。
悪魔は大渦に気を取られている隙にアノスから宝具を奪った。
マーマンは女性と比べれば膂力は高いが魔力は高くない。
そんなマーマンであるアノスの魔力をブーストしてくれるのも宝具だった。
故に宝具の力を使えなくなったアノスは生命力をも振り絞り、必死で大渦を抑え付けていたのだ。
「(ギース、10日前って)」
「(レイド解禁日だ)」
大型のアップデートによって今まで情報のみだった邪龍がイベントとして作られたのだろう。
これから大規模な都市防衛イベントなどが起こる可能性もあるとギースはコソっと教えてくれた。
「あの島は神殿だ……邪龍の一部を封印するな」
シーパラディスから見える島は神殿の入り口がある。
そこの最奥には邪龍の封印が守られている祭壇。
初代の魚人王は宝具の力を補助に使ったが、島ごと神殿を人目に触れぬように海底へ沈め、さらに狭間へと閉じ込めていた。
それが10日前に狭間より表の世界に位相がズレ、邪神の使徒に存在を感知されたためにアノスの下へとたどり着く。
そして、宝具を奪い、街を破壊する規模の攻撃を仕掛けてそれにかかりきりにさせることで島の封印を解除したのだ。
上手くいけばアノス王も亡き者に出来る。
なんとも狡猾だ。
「よくわかんねえが三叉槍を取り返せばいいって事だよな」
「それでいいですお」
ジーナは聖職者として働いていたころはもう少し頭が回った気がするのだが……。
それは今はどうでもいい。
海王の三叉槍さえ王の手に戻れば島ごと再封印が可能だとアノスは言う。
とにもかくにも神殿へ向かう事になった。
「どうやって行くの?」
「城の地下に祭壇への転送陣がある……私の鱗を持っていけば起動できる」
「ありがとう、間違いなく取ってくるわぁ」
「ついでに使徒ぶっ飛ばしてくるな」
「フラグ臭いからやめてくれジーナ」
「腕がなりますお」
「一族の失態を他の者に押し付けるのは心苦しいが……たのむ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――祭壇入り口。
「見事に水没してるね」
「付けエラ必須なんだろうな」
「水中戦は新鮮ですお」
『これは普通に見て祭壇に通じてるとは思えないわねぇ』
祭壇の入り口は島の洞窟地下にある地底湖の底。
潜って行った先に地下へと続く階段がある。
地底湖に入るにはその前の部屋に居る神殿型ダンジョンを攻略して守護者を倒し、報酬であるポセイダンへの転送アイテム「魚人族の宝珠」を得て表のギルマスに会いポセイダンの情報と付けエラを得てから転移する流れになる。
裏ルートなので守護者は後ろの扉で今も地底湖を守ってくれているようだ。
「ギースどうしたの?」
「元から怖い顔がもっと怖いですお?」
腕を組んだ状態で何かを考え込んでいるギース。
ローズが10日前の話を聞いてからこの調子だ。
ヤヨイの軽口にも反応が薄い。
「……皆、聞いてくれるか?」
いつになく真剣な面持ちに周囲はただ事ではないと悟る。
ギースが懸念している事。
それは海底神殿のボスがレイドの可能性。
アノス王が言うには邪龍の使徒は人型の悪魔という事だったが、ソイツが直接襲って来ないパターンを警戒しているようだ。
もし別の何かや邪龍の一部なんてものが襲ってきた場合、それが普通に戦えるのなら問題ない。
以前遭遇したミスリルゴーレムはレイド解禁前という事もありフルメンバーではない当時の状況でギリギリ倒せた。
が、レイド解禁になったおかげでフルメンバーでも手に余る化け物が現れる可能性も出てきたのだ。
「なるほどですお」
「大丈夫じゃない?」
「俺らはな」
一番のネックはローズとサルビアとジーナ。
加護を受けていないこの三人は生命力が無くなるという事態を避けなくてはならない。
万難を排すならばここは一度戦力を集めて出直すのが正解である。
「ホントはあんまり頼りたくないんだが……」
現在パーティとして呼べそうなのはシェイドパーティ。
その他の面子ならシュタイナーと蒙鬼、もょもとに麻呂と言った人物。
蛇腹剣の人も居た気がする。
個々としては強いがパーティ戦となると連携が肝要なのでやはりシェイドたちに頼るのが一番に思える。
混成パーティはそれで面白そうだが。
「とりあえず6人以上で入れるか確かめたらどうですかお?」
「ああ、その手があったか」
ダンジョンに入る手前でレイドパーティとして登録が出来るかを調べた方が堅実だとヤヨイが提案する。
レイド対応していなければ別枠として二パーティという括りになる筈だと。
「あと、一人軍隊の兄貴を呼ぶことも出来ますお? 来れるかはわかりませんがお」
「それはそれで面白そうだな」
「まあ、考え込んでても仕方ないから連絡してみるか」
そうして捕まったのはシェイドのパーティ「メギドの光」と蒙鬼のパーティ「C&S」。
さらにたまたまログインしていたファウストが参入。
一旦引き返し、アノスに事情を話して付けエラを人数分融通してもらう事を約束。
彼らは現在動けないので、ギルドに直接行って来た。
そうして再び神殿入り口。
「ワールドクエストに連れてってもらえるのはありがたいよ」
「まだ決まったわけじゃねえがな」
「いや、ここまでの状況を見ればほぼ確定であるな」
三パーティ+1は無事にレイドパーティとして認識されたらしい。
「とりあえず自己紹介しませんかお?」
ヤヨイの提案であったことがない面子は簡単なスタイルと名前を伝えあう。
「オーケーオーケー、誰一人見たことがない俺様がトップで紹介させてもらうよ。俺様は稀代の死霊術士ファウスト、今回はレイドだからソロ用のフル面子で参戦させてもらうよ、右から剣士のミク、重騎士のレイ、弓士のアヤ、魔術師のノゾミ、そして盗賊のユリだよ」
「全部骨……」
「こんな兄ですいませんお……現実の彼女の名前をつけてるんですお……」
「爆ぜろクソが、ってか刺されてしまえ」
ゴドーがそういうのも無理はない。
ナタリエやアメリアなんかは引いてる。
「蒙鬼は大会に出てたから知ってる人も居るだろうから簡単でいいよね。俺は人族のリウ、流派は蒙鬼と同じだ」
ここはここで随分と偏ったパーティである。
若干の差異はあるとはいえ、ほぼ似通った戦い方をする全距離対応オールラウンダーの蒙鬼とリウ。
主に後方支援が多いが、近距離もイケる人族で風魔術を操る神父服の男ゲニス。
強力な近接用武装を搭載した機械人族でパーティのタンク役を務めるシマ。
獣人族で素早い動きによる遊撃担当のガロウ
パーティで唯一武器を持った弓使いの女性ナミナ。
「また色々とおっかないメンバーだな……ギリギリが多すぎる」
ギースが頭を抱えてしまった。
何がおっかないかは推して知るべし。
「その気持ちは凄くわかりますお……」
ヤヨイもギースの気持ちを理解しているようだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一行は階段を下りてやたら広い祭壇の間へとたどり着く。
祭壇の前では如何にもな悪魔が作業をしていた。
祭壇の間中央まで歩を進めた時、悪魔が振り返り語りだす。
「随分と遅かったではないか……封印はあと少しで解けてしまうぞ?」
「じゃあその前に倒せば大丈夫だね」
ローズは事も無げに言い放つ。
「くくく……大した自信じゃぁないか……だが、私が黙ってやられるとでも?」
「試してみるか?」
ジーナが楽しそうな笑みを浮かべた。
「いやいや、私は作業を続けさせてもらうよ。君たちにはコイツの相手をしてもらう」
「(思った通りの展開だな)」
「(セオリーであるな)」
悪魔は腕を振り上げて大仰な動作をした。
ここまでテンプレである。
「出でよレヴィアタン!」
悪魔の言葉に従い、展開された魔法陣から巨大なウミヘビが姿を現す。
「な!? マジか!!」
「知ってるの?」
「レヴィアタンは水から生まれた悪魔だ。地獄の海軍大提督を務めており、また、悪魔の9階級においてはサタン、ベルゼブブに次ぐ第3位の地位を持つ強大な魔神だっつー話もある。またキリスト教の七つの大罪では、嫉妬を司る悪魔とされている為動物で表された場合は蛇の姿をもつ」
「流石ギスペディアは健在だなぁオイ」
「あ、やっぱりそうメギド時代も呼ばれてたんだ……強さは?」
「オーケーオーケー。端的に言わせてもらうよ、悪魔らしく恐ろしく強いと思うよ」
「総員戦闘準備だお!」
「「「「「「おう!!」」」」」」




