本戦準決勝第二試合 親友にしてライバル
大変長らくお待たせしました。
すいません、他の作品に浮気したり他の作家様の作品を読んでいました。
発想に詰まったら気分転換。
が長すぎた……ごめんなさい。
『さあ、ついに帰って来たよ! なんだか調子がいいのさ!!』
『そりゃ何か月も充電期間とればね』
※本当にすいませんでした。
『と、とにかくこれが決着すればようやっと決勝だ!』
『さっそく出場選手の簡単な紹介を』
『それやってた?』
『いや?』
『……まあいいや、何故か手元に資料あるし。えーっと』
『ローズ選手は小柄な体躯を生かしたスピードがウリの手数型だぜ! ドラクロワ流格闘術って奴を習得している上に連鎖闘士なんていう聞いたことないレア職についている』
『タチクマさんに聞いたらタイミングはシビアだけど攻撃を連鎖させると爆発的に攻撃力が上がっていく職業らしいぜー! 手数の多いローズ選手にぴったりだ!』
『聞いたのね……っと、たいしてジーナ選手は一撃の重さに重点を置きつつ防御の型を駆使する要塞タイプの戦いをするぞ! 我流蹴脚術+ドラクロワ流格闘術って、こっちもドラクロワ流格闘術だがはやってんの?』
『奇しくも同門対決ですね、ジーナ選手のドラクロワ流格闘術はどちらかと言えば受け身、火が付いたように攻めるときは我流蹴脚術を使ってると思いますよ、あと注目はあの不思議な技。突然槍が身体から生えたりしたからね。あれがどう戦術に組み込まれてくるのか、それをローズ選手はどう崩していくのか。いまからワクワクしますね』
『おお、山田が解説っぽい仕事してる! そもドラクロワ流格闘術ってなにさ』
『レア種族の夜人族、しかも王族にのみ継承されている武術』
『カンペ見てなかったら完璧だったのになー』
『うっさい!』
「来たね」
「ああ」
「手加減しないよ」
「こっちこそ」
二人は不敵に笑う。
ジーナはネルソディラの住人。
それはゲームでいうNPC。
だが、ことこの世界においては生きている。
決められたことをなぞるNPCなどではない。
それは行動を共にしてきたローズが痛いほど実感している。
共に冒険し、共に笑い、共に食卓を囲む。
現実でローズが……陽子が切実に願った存在。
腹を割って話し合える友。
お互いに隠し事は不要。
手の内も実力も何もかも共有していると言っても過言ではない。
だが、今は違う。
この日、この時の為に手札を隠し研鑽を積んできた。
同じ武を学びながらもコインの表と裏のような戦い方がそれを如実に表している。
実況と解説の二人が語ったようにローズは小柄な体躯を十全に使い、手数とフリットの速度で翻弄しながらも連鎖を重ねて手痛い一撃を与えるスタイル。
ジーナはもともと使っていた激しい足技に流派の受け技を重ね、そこに固有スキルの罠を張るスタイルに進化している。
普段の戦いを熟知しているからこそ、今大会の為に用意してきた切り札をどこで切るかが勝負の分かれ目となる。
二人は優勝を狙って等いなかった。
ここが事実上の決勝戦。
上手く試合で当たることが出来たなら程度ではあったが、それが今実現する。
ジーナは両腕を組み、仁王立ちとなる。
ドラクロワ流格闘術「金剛」。
もはや彼女の代名詞とも呼べるこの受けの構え。
不遜な態度とは裏腹に360度どの角度から攻撃を放っても確実にカウンターを返すという気迫が隙を無くしている。
対してローズは右手を胸の前に持っていき、拳は作らずに軽く開いた状態を保持。
左手は軽く肘を曲げて腰の横辺りに持ってくる、同じように拳を作らない。
半身の状態で相対し、ステップを踏み始める。
いつでも踏み込める状態に身体を持っていく。
「いくよ?」
「こいよ」
瞬間、ローズの姿が掻き消える。
視認出来たものはおそらくほぼ皆無。
今大会における自身の最大、掛け値なしの全力全開。
だが
「衝打!」
「衝膝!」
懐に飛び込んだローズの最短最速で突き出される寸勁にも似た拳が、同じく最短最速突き出されたジーナの膝によって防がれる。
受け止められるとは思っていたが、まさか同じ属性の技を重ねられるとは思っていなかった。
僅かにローズは目を見開いたが、即座に思考を切り替えて次の技に連鎖させる。
「落槌打!」
「昇馬脚!」
衝打を受け止められた反動を回転することで背後をとりつつ逃がさずに次の攻撃に移行する。
振り上げた拳を槌に見立てて頭上から振り下ろす。
ジーナはそれをわかっていたかのように振り返ることなく足を出す。
それはあたかも馬が背後の人間を蹴り上げるかのような軌跡を描き、ローズの拳を再び迎撃相殺する。
(ちっ)
ジーナは舌打ちした。
最初の一撃は仕方ない。
だが、二撃目が「相殺」で終わったのが予想外だった。
手と足。
どちらの筋力が上かと言われれば当然足に軍配が上がる。
体躯の差、体重の差も考えれば昇馬脚は少なからずローズの体勢を崩せる筈。
しかし現実は「相殺」
それはお互いの威力がまったく同じという事になる。
対してローズも特段顔色が変わったように見えなかったが、その実内心はかなり焦っていた。
目が見えないために気配や魔力反応でこちらの居場所を探って来るジーナに対して攪乱はあまり意味がないというのはなんとなく理解していた。
だが、ここまで正確に自身の攻撃を攻撃で相殺されるとなると打つ手が無くなる。
まして、連鎖が発動して若干の補正が働いているにも関わらず「相殺」。
それだけ彼女の攻撃の重さを物語っているのだ。
(どうしよう、わかっていたけど強い)
ローズも心の中で歯噛みする。
二人の心中はシンクロしていた。
「このままでは千日手になりかねない。」
お互いがお互いにそう思った。
ならばどうするのか。
「切り札を使う」
コンマの狂いすらなく同時にその思考にたどり着く。
ローズは振り下ろした腕を再び振り上げて、その反動を使いその場で回る。
回転エネルギーを右脚に込めて一気に最短で振りぬく。
そう、この技は……。
「巨石砕き!!」
ジーナのお株を奪う足技、何度も一緒に冒険して幾度となく見て来た。
普段移動に使われている彼女の脚。
フリットと呼ばれる屈強な夜人族すら連発すれば疲労がたまるほどの驚異的な歩法を使いこなす彼女がもし蹴りを放てばどうなるのか。
答えは単純に凶悪の一言。
そこに連鎖闘士のチェインが乗る。
まともに食らえばただでは済まない攻撃。
凄まじい威力を秘めた蹴り。
冒険の時も、初戦から今までも手技しか使って来なかったローズの足技。
意識外からの痛烈な攻撃を感じ取ったジーナがとった次の行動、それは……。
――脱力する。
本来人間は何かの脅威に遭遇すると身体を硬直させて身構える。
いわば本能的な硬化。
土壇場においてその行動は恐怖を克服した強靭な精神力が必要となる。
この脱力、それ即ちドラクロワ流格闘術「柳」に他ならない。
相手の攻撃を迎撃する金剛とは違い、相手の攻撃を無力化。
その勢いをそっくりそのままお返しする受け技だ。
究極はミス・ホワイト(ランハク)が蒙鬼相手に見せたアレになるのだが、そこまでの練度はまだない。
「しぃ!」
上手く身体の右半分で受けるように軸をずらす。
受けた衝撃はそのまま流れに逆らわず勢いに任せる。
ここまでは同じ。
だが、ジーナはここで一つ違うアクションを挟む。
――インパクトの瞬間に軽く真上に跳躍する。
その状態で攻撃を受けた彼女はまるでコマのようにその場で三回転。
あの勢いは不味い!
ローズは直感する。
自分が放ったものが倍加してそのまま返ってくる。
それだけは何としても避けなくてはと即座に足を戻しジーナの射程範囲よりも遠くへ離れる。
が、ジーナもまた意識の外からの攻撃を繰り出して来た。
「ブラッドソード!」
まさかのブラッドスミス。
力が入りにくい腕を起点として伸びる鋭利な血の刃物。
それが遠心力を伴って横薙ぎに振るわれる。
容赦なし! その軌道はローズの首を狙っている。
脚が届かない位置まで下がっていた事で僅かに気が緩んだであろうローズは最早致命傷を免れぬ。
そこは未だデッドライン。
その華奢で柔らかそうな首筋に真っ赤な剣が突き刺さりそうになった刹那。
「くあ!」
咄嗟に右腕を犠牲にすることで凶刃を避けることに成功。
回避したと同時に落ちた腕を拾い、距離をとって仕切り直しとする。
「いっつぅ……」
落ちた腕を切断面に合わせると煙が上がり、再生が始まる。
同時に少しだけLPが消費された。
「ち、仕留めきれなかったか」
実力はほぼ互角。
だが、どちらが不利かと聞かれればローズと答えるだろう。
彼女が持っている技は霧になったり狼になったりと吸血鬼らしい。
だがそれは魔力が伴うので使用すれば途端に反則になってしまう。
だが、ジーナは違う。
ブラッドスミスは魔術判定ではない。
故に彼女は自在に間合いを変えることが出来る。
勿論使用するたびにHPを消費する。
現在は消費したHPを回復したためLPが減っている。
二人は全く同じ消費だった。
ただ、同じなのは消費したLPのみ。
同じ力量、若干の違いはあれど同じ流派ならばそこに手持ちの札が多い方が勝つのが道理。
ジーナはフリットが使えない。
だが、その速度についていける。
つまりは手札たりえない。
隠していた足技も通じない。
それは、ジーナが受けに回っている場合に限り打つ手がないという事。
では相手に手を出させれば。
一般的な人ならこの優位は捨てない。
捨てないはずなのだが。
「次はアタシから行くかな」
あっさりと優位を捨て去る。
これがジーナ。
これが元聖女である。
「受けてみやがれ! 昇斧爆砕脚」
「!? うぐっ!!」
ドラクロワ流格闘術の昇の技に我流蹴脚術の爆砕脚を合わせたオリジナル技。
本来は斧で叩きつけたような衝撃を相手に食らわせてバウンドさせるように空中へ運ぶ技。
物理法則を完全に置き去りにしている。
人間がバウンドした段階でもうオカシイ。
だが、そんなことはお構いなしな技に地面を踏み砕いてその衝撃を浴びせる技を組み合わせる。
するとどうなるか。
勢いよく地面を砕く勢いで踏みつけ、その衝撃は相手を空中に押し上げる。
脚の部分を当てる必要が無くなり、間接的な分威力は若干下がるものの衝撃が広範囲をカバー。
結果、回避困難な打ち上げ範囲攻撃が完成したのである。
「いけない!」
武舞台の袖で観戦していたミス・ホワイトがつい叫び声をあげてしまう。
彼女はドラクロワ流格闘術の継承者。
弱点も熟知している。
そんな彼女がつい声を出してしまうのも仕方ないのだ。
ジーナは自ら死地に飛び込んだのだから。
「龍砕落!!」
中に浮いたローズへ叩き付けの技を発動させる。
しかし、その技がローズに届くことはない。
吹き飛んだ場所に居ないのだから。
「ジーナ、この勝負もらったよ」
「なに!?」
これぞフリットの真骨頂。
右脚が地につく前に左足を前に出す。
これを行うフリットにとっては空中を蹴るなどという事は造作もない事。
つまりローズは空中に於いて自在に動くことが出来る。
そして、ミス・ホワイトが声を出した原因。
それは受け技にある。
ここで前回の言葉を思い返してみよう。
彼女は確かにこういった。
「地に足がついていたのが云々……」
強烈な一撃のみだとわかっている先ほどとは状況が違う。
地上に居たならば体捌きや重心の移動で相手に悟らせることなくあらゆる角度からの衝撃ををいくらでも逃がすことが出来る。
だが、空中であれば十全に行うことは困難、その方向はかなり限定されてしまう。
空中で体力が尽きるまで縦横無尽に動き回り、連撃を放てるローズ。
空中では受け技のほとんどが使えなくなるジーナ。
ここだけ聞いてもどちらが不利か一目瞭然。
こと今の段階においては先の優位性がガラリと逆転しているのだ。
当然その状況を彼女が逃すわけもない。
「うわああああああ!」
「うぐ! があああああ!!」
『おっとこれは凄い! どうやってるのか分からないが空中で様々な角度からローズ選手の攻撃がさく裂するうううう!! 地上に落とされない! 落ちない! 無限に広がる攻撃の結界だあああ!!』
『これは正にドラ〇ンボール……!』
右へ左へ、上から下から縦横無尽に吹き飛んだジーナをフリットで追い越して追撃を重ねるローズ。
その身体からは連鎖闘士のパッシブが最大の効果を発揮しているオーラに溢れている。
このままジーナは生命力を全て削られ、敗北するだろう。
誰もがそう思った。
だが、そこは元聖女。
ただでやられる趣味は無い。
元々が泥仕合上等。
シュタイナーも、もょもとも極限の状態から逆転してきた。
麻呂? どうだったか。
「なめ……るなぁ!!」
「うあ!?」
突如ジーナの身体から真っ赤な針が全身を覆うように突出する。
ジーナはかねてからブラッドスミスについて考えていた。
「何故プールを使う必要があるのか」と。
ブラッドプールは血武器を創るための血だまりを作る技。
プールは使うと増血作用を強制的に引き起こし、聖痕から噴出させるもの。
その増血した余剰分を使って血武器を生成する。
そう、余剰分なのだ。
だったら体内の血液をそのまま使えばプールさせる必要がないのでは?
そういう考えに至る。
試したのは今が始めてだ。
先ほど不意を打ったブラッドソードはあらかじめ聖痕に隠すようにプールしておいたものだ。
だが今回は違う。
彼女はこの土壇場で再び強靭な精神力を発揮し、単なる発想を事実に変える。
結果としては成功。
追撃を行っていたローズは突然の出来事に回避することが出来ず突き刺さり、自身の勢いから肉が削れ飛ぶ。
しかし、ジーナもまた自らの身体を突き破って出現した針に怪我を負い、増血させずに放ったが為に貧血に陥る。
二人は共に舞台に墜落した。
『起死回生の一撃いいいい!!』
『あれはどうやら自分の血を使って創り出しているみたいですね』
『血武器!? 浪漫を感じる! 左わき腹辺りがギュインギュインチャージされていく!』
『浪漫回路もってんの!?』
『あるある、っとそれよりも両者ダブルノックダウン! カウントが入るぞ!』
『1、2、3、4!』
『おっと、ジーナ選手がここで立ち上が……ローズ選手もだ! なんという根性! どん欲なまでの勝利への執念!』
『7、8!』
「ローズ……お前の……勝ちだ」
『ああああ! ジーナ選手ここで力尽きる! カウントは……10! 勝者はローズ選手だああ!!』
補足。
模造神器で作られる神器は実はブラッドスミスと同じもの。
神気を込めて浄化する為発動まで時間がかかるのです。
 




