本戦準決勝 蒙鬼とミス・ホワイト
おまたせしました。
最近はなかなか筆が進まず、読み手に一時的に戻ってました。
他の方の作品はいい刺激になりますね。
『おっしゃあ! 準決勝だああ!』
『一体どちらが決勝にコマを進めるのか?』
『ちなみに山田はどっちに賭けた?』
『ミス・ホワイト』
『だよねぇ……』
「……加減はせんぞ、強者よ」
「何処からでも構いませんよ?」
「無論! いざ!!」
もはやお約束となった蒙鬼の気導拳が牽制で放たれる。
ミス・ホワイトは微動だにすることなくその場で握り潰す。
「面白い流派ですね。ですが、些か威力が足りないのでは?」
「元より承知よ! ぬん、「獄炎気導拳」!!」
僅かな溜めをつくり、拳から放たれるその気導拳は通常のモノとは異なり、炎のようなものを纏っていた。
「少々違うようですが、何が変わった……これは?」
同じく握り潰そうと差し出した手に炎が纏わりつき、焦がしていく。
「……破ぁ!!」
大したダメージではないが、受け流しも出来ないと悟ったミス・ホワイトは拳に魔力を溜めて炎を弾き飛ばした。
「隙あり! 「蒙昇拳」!!」
既に懐に入り込んでいた蒙鬼の強烈なアッパーカット。
全身のバネを使い、自らが跳躍するほどの力を込めた一撃は咄嗟に受け流したミス・ホワイトの身体を宙に跳ね飛ばす。
「く! 受け流せはしたもののこれでは……」
強引に浮かされたミス・ホワイトと自ら跳んだ蒙鬼。
どちらが有利かは誰の眼にも明らか。
「「激・嵐旋脚」!!」
もょもと戦で使った嵐旋脚よりも凄まじい回転の蹴り。
それは正に嵐と呼ぶに相応しい。
「う、く……ああああああ!!」
今大会で初めてミス・ホワイトが叫ぶ。
無数の蹴りを叩きこまれ、止めとばかりに地面に向かって蹴り飛ばされる。
だが、蒙鬼の追撃はまだ終わりではない。
「「烈破翔空気導拳」んんん!!」
未だ宙に居る蒙鬼の両の手から交互に繰り出される数十発の気導拳が地面に倒れているミス・ホワイトに襲い掛かる。
――ズドドドドド……
『これは予想外!! 予選から圧倒的な実力を発揮していたミス・ホワイトがなすすべなく蹂躙されているうううう!!』
『まるでベジ〇タばりの連続エネルギー弾ですねぇ』
『ベ〇ータいうなし』
『物凄い弾幕の嵐、ゲーム間違えてない?』
『東〇?』
『そう』
「ぬりゃあ!!」
一際大きい気導拳を放ち、地面に着地する蒙鬼。
そこに油断などはない。
「立てい! ぬしがその程度で終わるわけが無かろう!」
「その通りですね」
蒙鬼の背後から声が掛かる。
即座に反応し裏拳を放ちつつ振り向くが当然の如く受け止められる。
「好き放題やってくれましたね。おかげで服が汚れてしまいました」
「致命には程遠いとは思うたが……想定よりも手傷を負わせられんかったか」
「肉体ダメージよりも精神ダメージはかなりですよ? まさかここまでやられるとは私も想定外でした。お礼をいたしたく存じます、「斜昇打」」
「ぬぐ!!」
斜め下から顎をかち上げるように掌底が叩き込まれる。
ガードはしたものの、蒙鬼は先ほどと逆に宙へと飛ばされる。
「易々とはやらせぬ! 「嵐旋脚」!!」
追撃を恐れ、旋風脚を放つ蒙鬼。
だが、ミス・ホワイトはそれすらも上回る。
「その技は言わばハリケーン。ならば、中心は無防備。「落鳳破」」
回転する蒙鬼を追い越し、頭上を陣取ったミス・ホワイトは台風の目ともいえる蒙鬼の脳天目掛け、腰だめに構えた両手の掌底を繰り出す。
「ぐあ!」
「貴方のように遠距離から攻撃する事は出来ませんが……同じような事はお返しできますね」
叩き付けられた蒙鬼の側に空中からフリットを使って素早く追いつくと、倒れ伏す彼に無数の拳撃をお見舞いする。
「「流星乱衝打」」
『おおおお! これは凄い反撃!! まるで流星のような拳の嵐! これは決まったか!?』
『天馬流星拳かオラオラか……』
『さっき技名叫んだろ!』
「……おや?」
気が付けば手ごたえが軽い。
いつの間にやら抜け出されたようだ。
「「楔」!!」
「無駄!!」
――スパン!
「……これは想定外ですね」
受け流すために振り上げたミス・ホワイトの腕が宙を舞う。
「よもや腕一本とは……しかし、それでは逆転も難しいであろう。降参せよ」
「……」
手刀でまさか切り裂かれるとは思っても見なかった彼女は暫し傷口を眺め、呆けている。
「……ふふ……」
不意に口元が弧を描き、笑い声が聞こえた。
「気でも振れたか?」
「……まさかローズさんの前に全力を出せるとは思いませんでした」
「なに?」
落ちた腕を拾い上げて愛おしそうにしているミス・ホワイト。
その姿に蒙鬼は僅かながら戦慄を覚える。
「腕を飛ばされるなんていつぶりでしょう……」
ぐちゃりと無造作に傷口同士を合わせると、即座に超再生が始まった。
見る見るうちに傷が癒え、「ふむ……」と二~三回ほど腕を回して具合を確かめる。
「化け物であったか……」
その様子を人外を見る眼で蒙鬼がつぶやく。
「あら? 心外ですね。私はどこにでもいるメイドですよ?」
「そのようなメイドが居て堪るか」
『なななな? なんじゃそりゃああ!』
『あれは超再生スキルですね』
『超再生?』
『だからもっと勉強をしてください。超再生は欠損部位さえ残っていれば治癒可能なパッシブのスキル、基本的には魔物が持っている事が多いんですが』
『彼女はどう見ても魔物じゃないぞ?』
『そこなんですよね……どうやって身に着けたのか……バグ?』
解説と実況が二人して首を傾げていると、二人の間に転送陣が展開され、あのお方が再び降臨した。
『そこは私がお答えしよう』
『『タチクマさん!?』』
『彼女はレア種族の夜人族だと思う』
『夜人族?』
『レアってあのデメリットの塊みたいなレア種族?』
『一応デメリットを打ち消す方法は各レア種族に用意しているよ? 解放条件が難しいだけで』
『何人犠牲者が出たと思ってるんですか……』
あまりの過酷さにアカウント削除した人が結構いたらしい。
そのせいか現在はリアルモードを選ぶ人が激減。
かなり酔狂な部類に入ると思われる。
『何事もトライ&エラー。ネバーギブアップ精神がレア種族を使いこなせるのだよ?』
この発言により、死なないギリギリの範囲で何かすればデメリットを消せると理解した察しのいい人々のおかげでわずかながらリアルでレアな種族が増えたのは別のお話。
「シュナイダーとやらの時は、主の本気ではなかったと?」
「アレはあれで本気ですよ?」
いったいどこまでが本当なのか表情からうかがい知ることは難しい。
「……大言か否か、見極める!」
残像を残して蒙鬼の姿が消える。
パルミラ戦で見せた「閃空瞬歩」だ。
「受けよ! 我が一撃は驟雨の如し、「絶・閃獄掌」! ぬりゃああああ!」
まるで一発の攻撃に見える閃光の如き連撃。
その一撃一撃が全て必殺。
インパクトと共に気導拳を放ち、相手の体内にて炸裂させる蒙鬼の最終奥義。
拳12発、気導拳12発の計24発を刹那に叩き込む究極の技。
まともに食らえばLP全損は必須!
そう、まともに食らえばだ。
「凄まじい技ですね……一瞬たりとも気が抜けませんでした」
誰もが地面に倒れ伏すミス・ホワイトを想像した。
だが、現実は……。
「どうやって?」
「ドラクロワ流格闘術が受けの奥義「因果」……貴方の攻撃の全ての威力は頂きました」
「頂いた……?」
「言葉通りです、私の足が地についていた事が災いでしたね。そしてこれがドラクロワ流格闘術が返しの奥義「応報」です」
やさしく蒙鬼の腹部へと手を添える。
「……まさか!?」
「そのまさかですよ? ご自身の技の威力はご自身が良く理解しておいででしょう」
「……見事……やれい!」
「……破!」
蒙鬼の奥義。
その威力がまるまる纏めて本人に返り、耐え切れなかった腹部は骨を残して四散する。
「また死合おうぞ」
「是非もなしです」
「ふ……」
蒙鬼は満足そうに笑うと、天を仰ぎ拳を突き出して消えて行った。
それ、違う奴や。
 




