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authentic world online  作者: 江上 那智
広がる世界
33/51

本戦三回戦 ジーナともょもと

第三回戦!

次でやっと主人公。

大会長い?

今しばらくお付き合いを

『よっしゃ、サクサクいくよ!』


『第三試合だぜ』


『選手が入って来たゾ!』


『サトーさん、その語尾キツイ』


『うっせ』


『試合開始だぜ!』


『こら、スルーすんな!』








ジーナはいつもの金剛で警戒しつつ、ゴングが鳴っても構える事すらしないもょもとを訝しく思う。


(構えすらしないとは……舐めてんのか? ちょっと口撃してみるか……)

やる気がないならとっとと倒させてもらおうと考えながらも声をかけて見る。


「アンタ、面白い戦闘スタイルなんだってな」


「……」


「アーツを使わないんだって? それでいながら凶悪な攻撃を放つとか」


「……アーツ」


「うん?」


「……アーツは誰でも強力な攻撃を放てる手段……」


「……ふん」


「……お前はアーツについてどれだけ知っている?」


「一般的な知識程度かな」


「アーツにはオートとマニュアルがある」


「……へえ」


「オートで使えば身体が自然に動くが隙が大きい」


「マニュアルは?」


「マニュアルは使うと心に思いながらその動作を寸分の狂い無く放つことで使うことができ、隙が少ない」


「なるほどね」

ジーナは基本的にオートで使用している。

マニュアルで放つことが出来るというのは初耳だった。


「しかし、隙が出来る事には変わりない」


「ほほう?」


「通常攻撃はどのような状況下でも変幻自在の攻撃を繰り出せ、かつ回避されたとしても即座に対応できる」


「確かにな」


「だが、俺はアーツに負けた」


「相手の使い方が上手かったんだろ」

蒙鬼の戦い方はパルミラとの戦闘で把握出来た。

牽制を放ちつつ相手の状況に合わせてアーツを使う上手い戦いだと思った。


「俺は油断していた」


「……」


「PVPにおいて、それまでアーツを多用する相手には負けたことが無かった」


「慰めて欲しいのか? それとも褒めればいいのか?」


「……俺はもう油断しない」

それまで俯いて直立不動だったもょもとの顔が上がる。

その目は眼前の敵を叩きのめすという闘志が宿っていた。


「(いい目が出来るじゃんか……)アタシに勝つってか?」


「ああ」


「ここまでお話に付き合ってやったんだ、ガッカリさせんなよ?」


「期待には応えよう……いざ」


「勝負!」

瞬時に受けの構え「金剛」を崩して突進するジーナ。

会話に付き合ってもらっていたとはいえ、予選で見た構えが受けだと理解していたもょもとは予想だにしていなかったジーナの行動に面食らう。


「そら、そらそら、そらそらそらそら!!」


「ぬ、くっ!」

息もつかせぬ蹴りの嵐がもょもとに襲い掛かる。

しかし、それは盾によって全て受けられ、有効打は当たらない。


「どうしたどうした? 縮こまるだけかい? このまま押し切って……っ!?」

ジーナの感覚が危険を感じ取る。

直後、わずかに前進してきたもょもとの盾が伸びきる前の脚を受け止める。


(コイツ、あえて前に出ることで威力が乗り切る前の脚を止めやがった! 拙い!!)

膝が伸びきっていないのを利用して盾を足場に後方に跳躍するジーナ。

同時に剣戟が繰り出され、具足をかすめた。


「が!?」

かすめた程度、だのにまともに受けたような衝撃が来る。

着地して具足に軽く触れて見てわかるもょもとの爪痕。

ダメージこそなかったが、彼の異常さを理解するには充分だった。


(あんな体勢でもクリティカルとか……オカシイだろ)

他の選手のように激しく追撃などしない。

ゆっくりと歩いて間合いを潰してくるその姿が逆に恐ろしい。


「……俺は……例え空中でも、倒れていても、どんな体勢でも剣さえ振れたならば会心にできる」


「それ、もうオカシイどころじゃないだろう」


「何のことは無い……最も体重が乗った時の感覚を腰の捻りや剣の重さ、遠心力で再現できるなら誰でも可能だ」

要約するならば、内部の計算式が一定の値を越えた時にクリティカル判定に変わるらしい。

ギースのアクションジャミングと同レベルの難易度である。


「バケモンめ」

ジーナはゆらりと立ち上がり、そのまま自然体となる。

はた目からは棒立ちに見え、もょもととの対戦をあきらめたかに見える。

しかし、降参していない事が気にかかった。



――ドラクロワ流格闘術、防御の型「柳」

正中線を真っすぐ保ち、受けに特化した金剛とは違い、自然体で脱力することによって受け流す(・・)事に特化した構え。

これを究極まで鍛えればミス・ホワイト(ランハク)のようになれる……らしい。


「……観念したか? 行くぞ」

彼が最も信頼し、最も多用する大上段からの斬り下ろし。

それを肩で受け、そのまま流れに逆らわずに前方へ宙返る。


「む!?」

いつもと違う手応えにわずかに判断が遅れる。

瞬間、もょもとの頭上からは回転の勢いを丸ごと利用した踵落としが襲い掛かった。


「くうっ……」

盾が間に合わず、回避も出来ない。

咄嗟に動けたのは経験か? 脳天を狙った踵を首を傾けて鎖骨を犠牲にすることで致命傷を回避。

仮に浅かったとしても頭部に食らえば昏倒は免れなかったであろう一撃を躱せた事は賞賛に値する。

その代わりに彼は盾を持つ腕を失った。


「柳で受けきれないとかどんなだよ……」

それはジーナも一緒だった。

見れば片手落ち。

文字通り腕が斬り飛ばされていた。






『ぎゃあああ、スプラッタあああ!!』


『それがウリだろこのゲーム!』


『片や鎖骨が砕けたのか盾を取り落とし、片や腕を取り落とし! 不利なのはジーナ選手か!? ごっそりHPがもっていかれるううう!! これは出血が免れない! LPが徐々に……あんまし減ってない?』


『んなこと……あるねぇ……出血になってない? HPも減り過ぎのような?』


『意味がわからないぞおお!? HP的には危機だが意外に危機的状況でもないのかああ!?』


『つぎで決まるな……』


『バグなのかなぁ……担当だれだっけ?』


『さあ?』







「まったく……シュナイダーといいアンタといい……アタシはこんなんばっかかよ……」


「……」

もょもとは苦悶の表情を浮かべている。

痛覚設定を高く設定しているようだ。


「きっと戦闘スタイルが似通ってるんだろうなあ……」


「……どういうことだ?」


「アタシは細々と連撃重ねるのが嫌いだ。でっかい一撃をど派手にぶちかますのが好きだ」

おい、元聖女。


「……俺は派手なのは嫌いだ」


「一撃の重さを重視してるのは同じだろ? なら同類だ」


「……」


「だから……」


「次の一撃で決める……か?」

もょもとがニヤリと笑う。


「ほらな? 一度も見せたことないような笑顔になってる」


「む?」

本人も気づいていなかったようだ。

やや焦ったような表情を浮かべる。


「これ以上喋ってても埒が明かないな」


「……ああ、やろうか」

ジーナは武舞台の端まで一気に後退する。


「……その技は一度見せてもらった」

予選の時に見られていたようだが、構わずにジーナは助走をつけ始める。


「食らえ! 「猛進脚」!! ……ってね」

技のモーションに入ってしまえばもはや止まることは出来ない。

しかし、ジーナは先のマニュアルの話を聞いて思いついた事があった。


――発生を偽装出来るのではないか?


気づいたのは「使うと思い浮かべながら技の軌跡をなぞる」事でマニュアル発動できると聞いた時。

技をなぞっても使うと思わなければ不発するのではないか?

オート発動のように技を叫んでも使わないと念じれば言葉だけで終わるのでは?

果たして、彼女の思い通りの結果となる。


「な!?」

ジーナの奇策により、タイミングを計り、迎撃しようとしていたもょもとの剣が空を切る。

これがアーツであれば致命的な隙を晒すことになるのだが。


「舐めるな!」

即座に切り返す事が出来るのが通常攻撃の強み!

だが。


「ちょっと遅いな! 「ランス」!」

ジーナの無くなった方の肩から真っ赤な槍が飛び出し、もょもとの胸を刺し貫いた。


「がっ! な……なんだそれは……」


「奥の手って奴かね」

斬られた瞬間に身体に仕込んだブラッドプール。

これも兼ねてから「地面に隠せるなら他の場所に仕込めるのでは?」と考えていた。

ぶっつけになったのは彼女ならではだろう。

本当は傷口に仕込むつもりだったのだが、まさか斬り飛ばされるとは思っても見なかった。

だが、それも今は良い方に結果が出たようだ。


「魔術……ではないんだな」


「残念ながら」


「また……俺は負けるのか……」

この大会に来て上位のプレイヤー(ジーナは違うが皆気づいていない)に負けっぱなしのもょもと。

油断したつもりもなかったが再び負けてしまった彼の思考は暗礁に乗り上げる。

故に普段ならば口にしないような事を出してしまったのだろう。


「俺は……なぜこうも負けるんだ?」


「あん? んなもん簡単だろ?」

あっさりと答えが返ってくると思っていなかった彼はポカンとしてしまう。


「……? どういうことだ」


「アーツが弱い、隙がデカい、じゃあ通常攻撃がいい。そんな理屈つけてアレコレやって実力付けたのは認めるしスゲーって思う、でもな? アーツに一番こだわってるのはアンタなんだよ」


「なんだと?」


「アーツはオートだっけ? それで発動したら隙がデカくなるんだよな? じゃあなんでアンタはアタシの猛進脚を迎撃しようとした? アンタの一撃なら躱してから叩き込んだ方がよっぽど堅実だし危険が無い。だのに迎撃を選んだ、結果フェイントに引っかかり逆にやられた。結局アーツアーツって一番括って目の敵にして、一人で自分の影に挑んで負けてんだよ」


「力を求めるが故に捨て去ったモノが……俺の敗因だったのか……」

言われてみて思い起こす……。

蒙鬼のアーツも迎撃しようとして逆にやられた、気導拳なぞは態々斬る必要もなかった。

ジーナも同じくしてやられた、猛進脚はその発生条件から動けない相手に使うものの筈。

それを敢えて迎撃しようとして負けたのだから反論の余地がない。


「教えてくれ、俺は……どうしたらいい?」


「なにも今からアーツ使えなんて言わないさ。使い慣れてないもん今さら使いこなせるまでったら大変だし、アンタの戦い方は今ので完全に固定されてるからな。無理をせず堅実に攻めてデカい一撃……だろ?」

改めて示唆されたのは新たな戦い方ではない。

それは自分が突き詰めて完成させたスタイル。

事実、ジーナは「アーツを潰す」というこだわりさえ見せられなかったら勝てなかったと思っている。

通常攻撃で押し込んでいたときに対処されたあの反応を常に出されたなら、きっとランハクさん相手でも善戦できるのでは? とさえ考えている。


「くく……ははははは!! なるほど確かに! ああ、目が覚めた……自分の不器用さを他人相手にうっぷん晴らししていただけか俺は! ……言われれば納得だ」

誰も未だ見たことが無い彼の笑顔。

しかし、それは諦めや自虐とは違う何処か憑き物が落ちたような笑顔だった。


「リベンジならいつでも」


「ふ……次は負けん」

もょもとは光となって消えて行った。


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