本戦第二試合、シュタイナーとミス・ホワイト
大変、大変お待たせいたしました。
最近は執筆時間が大幅に削られています。
出来れば週一回ほどは更新したいのですが、2~3週に一回ほどしか出来そうにありません。
この時期を過ぎれば前のペースに戻せるとは思うのですが……。
申し訳ありません。
『さあ盛り上がって来たぞおお! 第二試合だああ!!』
『きゃあ素敵! 抱いて!』
『あ、お帰り』
『冷めてんな! もっとこう熱いツッコミ期待してたんだが?』
『しらんちゃ、ツッコミしにくいボケありがとう?』
『どういたしまして。じゃなくて!』
『選手が来たぞ! シュタイナーとミス・ホワイトだ!』
『無視?』
「こん大会は凄ぜ奴が多えなあ」
シュタイナーは強い奴と戦えるのが楽しみで仕方ない様子だ。
「貴方の戦い方は初めて見ますね。れすらあ……でしたか? 派手な投げ技を多用していましたね」
「打撃もあったっどん、あたや派手なのが好きじゃっでね」
「聞きなれない言葉ですね」
「あはは、方言じゃっでね。まあ、治らかす気は無けど」
「それでも言わんとしている事はなんとなくわかります。では私も少々派手に行かせて貰います」
「真っ向勝負か……楽しんだなあ」
真っ向勝負とは言っていないが、その言葉だけで瞳をギラギラと輝かせるシュタイナー。
「ではそろそろ……」
「行っぞ!」
シュタイナーは腰を落とし、いつでも飛び掛かれる準備をする。
対するミス・ホワイトはまるでメイドさんのような綺麗な姿勢で両手を重ね、腹部に添えている。
そんな大凡戦う構えには見えない姿勢をしていながらも、対峙しているシュタイナーは隙を見いだせずにいた。
そして、二人が構えを取った僅か後のタイミングでゴングが鳴り響く。
初めに動いたのはやはりシュタイナーだ。
ジーナ戦と同じく低い姿勢からタックルを狙う。
「だあらっしゃあ!」
ドン! という衝突音が響くがシェイドの時同様にミス・ホワイトはどうやっているのか不明だが衝撃を受け流し微動だにしない。
「なとよ? 手応えが……なら!」
そのままスライドするように滑らかに背後に回るとミス・ホワイトの腰をガッチリと掴み、そのままブリッジ。
へそで投げる。
「ジャーマンスープレックスだ!!」
『おお! しょっぱなから大技炸裂うう!』
武舞台にヒビが入る程の衝撃がミス・ホワイトの後頭部を襲う。
そのまま下半身のバネと腹筋を使いミス・ホワイトを捕まえたまま跳躍。
「もういっちょ!!」
『凄い! 二連続でジャーマンなんてゲームでしか見たことないぞ!』
『そんなことないんだけどね、ってかココもゲームっしょ?』
『黙れ山田!』
再びジャーマンスープレックスを敢行。
もし現実でやられたなら脳震盪の一つでも起こしかねない衝撃が二度襲い掛かる。
「どうだ?」
クラッチを切って立ち上がり、距離を取るシュタイナー。
ジーナ戦のあと、わずかだがシェイドとの闘いを観戦出来たのが生きている。
彼女は油断なく構えを続ける。
(こん程度で倒せる筈が無……)
それもそのはず、二連続の渾身のジャーマンすらも手ごたえが薄いのだ。
『流石に堪えたか!? ミス・ホワイト動かない!』
『普通に考えればアレは大ダメージですからね』
『何かしおらしい山田! キモイ!!』
『辛辣!』
「……ローズ様に影響されてマクスウェル様ともども狭間を出てきましたが……なるほど、面白いです……」
「なとよ?」
「ドラクロワ流しか知らなかった私は今感動しています」
「……どげな事だ?」
「かように派手で苛烈で刺激的な投げ技を私は初めて受けました……受け流しが完全に成功しなかったのも久方ぶり……」
倒れたまま言葉を続けるミス・ホワイト。
その両足の裏が地面につき……。
『おお!? アレに耐えた! ミス・ホワイト選手起き上が……キモぉ!!』
強靭な下半身と腹筋を使い、手を使わずに最初の構えのまま起き上がる。
「どげな筋肉しちょっんだよ……」
流石にコレにはシュタイナーも度肝を抜かれた。
「……楽しませて頂いたお礼にほんの少しだけ本気をお見せしましょう……」
ニヤリと口元が歪む。
シュタイナーはその奥にはチラリと牙のようなものが見えた気がした。
(来る……な!?)
気が付いた時にはすでに目の前。
足を踏み出した様子も見られず、まるで瞬間移動のように直立不動のまま現れたように感じた。
(こや拙い!!)
「ジーナ様に言っていましたよね? どんな攻撃にも耐えて見せると。見事耐えて見せてください」
ゾクリとシュタイナーの背中に悪寒が走る。
攻撃を受け止める事こそが美学と信ずるシュタイナーの身体が、心と裏腹に回避行動をとろうと重心が後ろに下がったのを自ら感じ取った。
(プレッシャーに負け……あたいが……退く!?)
それだけは許せなかった。
例え敗北するだろうとも、攻撃を避けるという選択肢を取るわけにはいかなかった。
それが愚かな選択だと本能が理解していても、彼女はソレだけはしたくなかった。
(音が……色が消えた? ……迫る拳が……スローに!?)
それは脳の処理速度が上がった時の現象。
極限の集中力”三昧の境地”と呼ばれるものであった。
武術の達人が至る境地。
シュタイナーの知覚をその高みへと圧倒的な「死」を象徴するミス・ホワイトの本気の拳が強制的に押し上げたのだ。
それは生存本能。
五感の不要なモノをシャットダウンし、知覚に集中することで生き延びる道を模索しているのだ。
そして、その境地がシュタイナーの確実な致命傷を避けるきっかけとなる。
「魔神絶衝打」
――魔神絶衝打
ドラクロワ流格闘術、拳撃。
「打」の技の奥義。
魔力を拳に集中し、腰の切り返しによって加速した拳を当たった瞬間に腰を入れ、脇の下から手首までの筋肉を瞬間的に締める事で下半身や体感で生み出されたパワーがロス無く拳に伝わる。
近代では剛体術とも呼び名されるものと同じようなものと思ってもらって構わない。
「くうああああああ!!」
刹那、確実に心の臓を狙って放たれた拳を倍加したシュタイナーの知覚が感知。
それにより僅かに狙いを逸らす事が出来た。
そして、それが一撃で武舞台の外にはじき出されるという事態を回避し、彼女は何とか致死の一撃に耐えることが出来たのだった。
「……お見事」
まさか一撃で終わらないとは……期待はしていたが、本当にそれを実現させた事にミス・ホワイトは仮面の奥で瞳を見開いた。
「へ……耐ゆった……けど……もう無理だぁ……」
だが、シュタイナーも反撃どころか動けなかった。
声を出したのが奇跡に近い。
そうこうしているうちに残っていたLPは砕け、徐々に光に変わっていく。
「本当に……耐えるとは思いませんでした……よろしければ……いえ……そうですね……機会があればまた」
逢魔への立ち入りはマクスウェルに聞かなければいけないのだ。
だが、彼女の才はもっと伸ばしてみたい。
ミス・ホワイト……ランハクはそう思ったのだ。
叶うなら逢魔に招いて直接指導してみたい、その願望をランハクは飲み込んだ。
代わりに再会を約束したのだ。
夜人族である以上逢魔からは今回のような特別な事が無ければ日中に出歩くことは出来ない。
それでもそう言わずにはいられなかった。
「……へへ……嬉し……お誘いだぁ……」
嬉しそうな笑みを浮かべ、武舞台から完全に消失。
今頃は控室に転送されているだろう。
この時ほど彼女は何故現代の夜人族がデイウォーカーの習得を出来ないのかを考えたことは無い。
悔しさに歯噛みしつつも、ローズという習得者が居ることに希望を見出し、帰ったらさっそく習得のための拷問を受ける許可をマクスウェルに申請しようと決意するのだった。
 




