大会予選決勝とそれぞれの戦い①
長くなったので分けました。
麻呂結構お気に入り
「おいおい、あのゴドーとかいうやつ負けちまったぞ?」
「うん、一度一緒に素材集めに行った事あるんだけど、普通に強かったんだけどね……」
「って事は相手がそれ以上ってわけか」
「然り然り。ゴドー殿の攻撃力は目を見張るでおじゃるが、相手が悪すぎたでおじゃ。どのような場面でもクリティカルが出せるもょもと殿の技量でおじゃるが、それを支えるのはあの防御の技術でおじゃる。あれで生み出された隙を逃すことなく急所にクリティカルを叩きこまれては耐えられるものはほぼ皆無でおじゃ……」
「へえ、凄い人なんだね」
「とんでもねえな……って何シレっと混ざってんだよ、麻呂!」
さも当たり前のように会話に入り込んでいた麻呂。
白塗りの顔の麻呂。
眉頭だけを残した独特な眉の麻呂。
口の真ん中だけに朱を入れたあの麻呂。
時代と世界観を圧倒的に間違えている気がしてならない。
「おっと、これは失礼したでおじゃる。麿は麻呂と申すでおじゃる。以後よしなに」
「あ、これはご丁寧に……ローズです。よろしくお願いします」
「おじゃおじゃ」
「質問の答えを聞いていないんだけど……」
「折角なので今後の観戦と激励に来たでおじゃる。ジーナ殿、頑張るでおじゃ」
「お、おう」
真っすぐな眼で純粋に応援に来たことがうかがえる。
ジーナは反応に困ってしまった。
「ふふ……よかったね。あ、そろそろ次の試合だから行ってくるね」
「おう」
「頑張るでおじゃる~」
その後も試合は恙なく進み、ゴドー以外の各々が予選の決勝までコマを進めた。
あーさん?
スピア投げた瞬間に反則負けしてましたが?
予選Aブロック決勝
ローズVSパルミラ
「よろしくお願いしますわ」
豪奢なドレスアーマーに身を包んだ金髪縦ロールのパルミラが優雅に挨拶をしてくる。
「あ、宜しくお願いします」
「貴方、これまでも一撃で勝利をおさめていましたが……ワタクシには通用しないと宣言しますわ」
「は、はい。お互い頑張りましょう」
なんだか的外れな返答になってしまった。
本人は素なのだが、挑発と取られてしまったようだ。
「ふふ……その自信、粉々に打ち砕いて差し上げます! はあ!!」
開始の合図と共に高速で間合いを詰めてくるパルミラ。
無数に振るわれる高速の斬撃、その一つ一つが見せ技ではないと肌で感じ取れる。
「うわわ、は! とう! や!」
しかし、ランハクとの戦闘訓練は伊達ではなく、ローズには当たらない。
「やはり貴方の持ち味はその速度ですわね! ならば!!」
一際早い打ち下ろしがローズに迫る。
これは躱せないとガントレットで受け止めようとした瞬間パルミラの口元が歪む。
「かかりましたわね!」
ガントレットに接触したパルミラの剣は突如その硬さを失い、鞭のようにローズの腕に巻き付いたのだ。
「な!」
「蛇腹剣、ある時は剣のように硬く、ある時は鞭のようにしなる武器ですわ。これで移動は封じましたわ、食らいなさいな」
妙に長いな? と感じていた柄の部分にパルミラは手をかけ、一気に引き抜く。
そこには短剣が握られていた。
「暗器を卑怯とお思い?」
「いえ、卑怯とは思わないです」
一瞬驚きはしたものの、ローズはいたって冷静。
「勢いの乗らない拳などではワタクシは倒せませんわ!」
通常であれば超至近の距離に入れば体重の乗せられない。
それならば軽剣士である自分も一撃ならば耐えられる。
相打ちでもその隙に首を掻き切れば致命になり、勝負は終わる。
パルミラはそう考えていた。
そう、通常であれば。
彼女には恋人がキスする距離で放つアーツが存在する。
「衝透撃」
中国の寸勁に似たモーションで繰り出されるその技は距離を必要としない。
パルミラは間違いを犯したのだ。
足を回し、その回転エネルギーを腰に伝え、逃がすことなく上半身、肩と連動させて放つこの技は腕ではなく足を固定しなければ放つことが出来る。
まして、今放ったのは外部破壊の技である衝打ではなく内部破壊の「透」の技。
ドラクロワ流の拳闘は蹴脚と違い、真の狙いは内部破壊にある。
一週間の特訓でローズは初期に覚えた技の全てに「透」の効果を乗せることが出来るようになっていたのだ。
「が……? は……」
パルミラの身体がくの字に折れる。
鎧には傷一つなく、その衝撃が余すところなく中身に伝わったことがうかがえた。
予想だにしていなかったダメージにパルミラの手から蛇腹剣が抜け落ち、距離が出来る。
「し、しま……!」
慌てたがもはやどうにもならない。
パルミラの目は握りしめた拳を後ろに引き絞っているローズが見える。
「破!」
繰り出したのはやはりアーツではないただのパンチ。
結界の効果でデメリットが無くなっている。
それだけならば問題なかったのだが、ローズが付けているガントレットは夜人族が昼間でも十全に戦えるように作られた逸品。
重装備の聖騎士が耐えられなかった代物をパルミラのような軽剣士が耐えられる筈もなく。
「ば……ばか……な……このワタクシが……」
他の面子と同じように壁まで吹き飛ばされて勝敗が決したのだった。
【パルミラ選手戦闘不能! ローズ選手の勝利!】
「よし! 予選かったどー!」
予選Bブロック決勝
シェイドVSミス・ホワイト
「(ローズの試合を見て居たかったけど……それどころじゃない……僕はこの人に勝てるのか?)」
「緊張していますね? それでは全力を出せませんよ?」
「!?」
「緊張するなとは言いませんが、身体が心の緊張を反映してしまえば……」
「うわぁ!」
――ギィン!
「このように反応速度の遅れが出てしまいます……が、よく受けられましたね?」
一瞬たりとも気を抜いた覚えはない。
だが、このミス・ホワイトという選手はシェイドが瞬きした瞬間に間合いを詰めてきたのだ。
シェイドは自分でもよく初撃を止められたと思う。
「(アーツを使った様子がない? 素の速度であれなのか? 身体が寸でで反応したけど、運の要素もあった……)伊達に鉄壁なんて呼ばれていないからね」
精一杯の強がりを言い放つ。
「なるほど……では、これは如何ですか?」
「く、う、うおおおお!!」
まるで散弾のように広範囲に、それでいて機関銃のように間断なく襲い来る拳の嵐。
それだけの手数を放ちつつも一撃一撃は致命傷クラス。
はた目から見ればミス・ホワイトの猛攻をいつものように受け流すシェイドの構図だが、一発でも被弾すれば敗北する緊張感がシェイドの精神をゴリゴリ削っていく。
それは対峙したものしかわからない。
「……ふむ……これほどとは……」
突然攻撃が止み、ミス・ホワイトが距離を開ける。
もしシェイドが機械人でなければ冷汗を大量に噴出していたであろう。
「はあ……はあ……」
スタミナ切れによる疲労ではなく、精神の疲労で大きく肩で息をするシェイド。
そこへミス・ホワイトが声をかける。
「両手の盾はなかなか面白い発想ですが……惜しいですね。……少しだけ稽古をつけてあげましょう」
「稽古……?」
「小盾のアーツであるパリングをそこまで使いこなしている貴方です。もう少し頑張れば盾がなくとも同じことが出来るはずですよ? そうすればもっと違う事も出来るようになる」
「……どういうことかな」
「論より証拠、私が受け手に回りますから遠慮なく打ち込んできてください」
「く……後悔しないでよね」
口ではそう言っているが、既にシェイドの中では絶対に勝てないと確信していた。
故に少しでも何かつかめるならと立ち向かう。
「はあ! え?」
シェイドが放った拳に対し、ミス・ホワイトは無造作に腕を顔の前に出す。
その手は内旋して親指がシェイドの方を向いている。
「良いですか? そも、パリングというのは盾の正面で受けるのではなく丸みを使って衝撃を外に逃がす技術。これから見せる技術に必要なのは螺旋の動き、理が分かればそのうちできますよ」
シェイドの拳が接触した瞬間勢いよく腕を外旋させてベクトルをずらす。
ズレたベクトルをさらに広げるように腕を動かして外にはじき出した。
「な!?」
「今は分かり易い様に大き目の動きをしましたが、熟練すればこの外旋動作をほとんど相手に見せる事無く最小限の動きで今と同じことができますよ? こんなふうに」
繰り出した攻撃がまるで魔法のように逸らされていく。
それはまるで自分から攻撃を逸らしているような錯覚に陥るほどに。
「(まさかこれほど次元が違うなんて……)」
なにか掴もうなどというモノではない。
本当に稽古をつけられている。
ここまで実力差があると悔しさすら起きないが、やられっぱなしというのも癪にさわった。
「(これは手札を周りに見せたくないとか言ってらんないな……これは僕の意地だ!)」
ここまでシェイドはパリングで相手の疲労や焦りを誘い、大技を崩した後に反撃で勝利してきた。
使うアーツもシールドのアーツのみで、本当の高威力技は本戦まで取って置くつもりだった。
それを解き放つ。
僅かでも驚かせられたらいい。
子供じみているが立派な理由だ。
「「パルスカノン」!」
相手に向けて突き出した手の平にエネルギーが収束していく。
放たれるは高密度のレーザー兵器。
――パルスカノン
機械人族のアーマースーツに内蔵できる特殊兵器。
機械人族の切り札的な代物であり高威力の攻撃を放つことが出来るのだが、燃費が最悪。
一撃放つごとにHPを半分近く消費するために乱発は出来ない。
10分のクールタイムが必要だが、それを待たなくてもHPが足りていれば再度発射は出来る。
しかし、クールタイムを無視して使いすぎればアーマースーツがオーバーヒートになり、一定時間冷却のために行動不能になる。
光学系に属するもので、ほかにはHP消費が無い実弾系や爆破系などがあり、戦闘スタイルによって色々な兵装を組み込むことが出来る。
シェイドは隠し武器てきな使い方を好むため、この光学系の兵装がお気に入りである。
「は……はは……なんだこれ……」
目の前で驚くべき現象が起きている。
シェイドの切り札の一つであるパルスカノンが握り潰されたのだ。
「魔術でもなく、タメも最小で発射できる機械人族の兵装ですか……少々驚きましたね」
ミス・ホワイトの手が魔力を纏っている。
魔術でなければ反則は取られないので問題はない。
そして、驚かせるという目的も果たせた。
「なるほど……高いパリング技術に体術の組み合わせと見せかけての切り札ですか。油断した相手にはとても効果的です」
「く、くそぉ!」
切り札も本当にただ驚かせるだけの結果となったシェイドは苦し紛れに拳を突き出す。
ミス・ホワイトはそれを受け流すことなくその身に受けた。
ドッ! とシェイドの拳がミス・ホワイトの腹部に突き刺さる。
敗退者達が「おお!」と声を上げるが、シェイドは全くベつの感触を味わっていた。
「当たったのに手ごたえが……」
「受け技も極めればこうなります。頑張ってください」
その言葉を最後にシェイドの意識は途切れた。
【し、シェイド選手戦闘不能! ミス・ホワイト選手の勝利!!】




