大会予選とそれぞれの試合
予選開始です。
どうぞお楽しみください。
――予選第一試合
ローズVSゲド
【出場者の方は武舞台に上がってください! 上がってって! 聞いてんのかゴルア!!】
ざわざわとした喧騒のなか、審判の声が響き渡る。
(よし、いっくぞー)
ローズは舞台の上にあがる。
スポーツや格闘技の試合はテレビで眺めていた。
まさか自分がそんな場所に立てるとは思ってもみなかったので興奮が隠せない。
「ああ”? こんなチビスケが俺様の相手か? おい小娘、消えろ。ぶっ飛ばされないうちにな」
小柄なローズは確かに強そうには見えない。
見えないが、それだけで侮ってくれるならくみしやすい相手だ。
「そういう訳にはいかないよ? 私だって頑張って来たんだから」
「威勢はいいな、じゃあ試合中の事故っつーことでその無駄にデカい胸を楽しませてもらうぜ」
名は体を表すとはこの事か?
いや、彼はゲドであってゲスではない。
言動は下衆そのものだが。
【両者、準備はいいですか? はじめぇ!!】
「はっはぁー! 組み伏せてめちゃめちゃにしてやる!」
両手を前に突き出して、何も考えていない様子で向かって来るゲド。
「……ええ~……」
ローズは小細工すらないただの突進を前に素早くフリットで背後に回り込む。
「ありゃ? どこ行きやがった」
「こっちだよ」
背中を向けて無防備にキョロキョロしているゲドに親切にも声を掛けつつ、振りかぶった拳を突き出す。
アーツですらないただのパンチ。
それだけでゲドは予選会場の壁まで吹き飛んでしまった。
「……さあ、こっからだね」
相手が油断してくれていたのも今ので頭から吹き飛んだだろう。
ここからが本番と身構えたローズだったが、ゲドは一向に起き上がる気配がない。
審判がゲドの下に駆け寄り、何かをチェックしたあと頭上で大きく腕を交差し始めた。
【ゲド選手気絶! ローズ選手の勝利です!!】
先の一撃がゲドの意識を刈り取っていたようだ。
余りのあっけなさに臨戦態勢のまま呆然とするローズ。
「……えっと……ごめんなさい?」
予選Bブロック
シェイドVSああああ
(派手だなぁ……)
あまりに衝撃的な一撃KOを披露したローズを見ながらぼそりとつぶやく。
(手の内を見せてしまうのはこれから先不利に……いや、アレはただのパンチか……)
小さな体に尋常ではない攻撃力を秘めているというだけの事。
それだけなら他にも似たようなプレイヤーはいる。
(縮地かな? あの速度は厄介だ……)
当たることになった場合は如何にしてあの速度を封殺するかが肝になる、そんな気がする。
さてどうするかと考え込むシェイドだが今は戦闘中だったりもする。
「お前! 片手間で! やってるな!」
ああああが拳や蹴りを交えながら様々な攻撃を繰り出して来るのだが。
「ん? ああ、ごめんね。考え事してたから」
忙しなくシェイドの腕が動き、ああああの攻撃全てをその場から一歩も動くことなくさばき続けている。
小盾のアーツ、パリングだ。
「馬鹿にしやがって! 「ヘヴィスラッシュ」!」
ああああがスラッシュの上位戦技を放つが、シェイドを相手にするならばこれは悪手。
易々と剣閃がかち上げられ、多大なスキを晒してしまう。
「うーん……念のためこっちも出来るだけ手札は伏せておこうか」
無防備になった腹部へと一撃。
下がって来た顎に向けて続けざまにフックを決めると、ああああは昏倒して倒れる。
勝負が決まった瞬間だ。
【そこまで! 勝者シェイド選手!!】
「ま、こんなもんでしょ」
予選Cブロック
ジーナVS麻呂
「一撃で決めるたあね……流石ローズなのか相手が弱すぎなのか……」
「お嬢、かかってこないのでおじゃるか?」
「ん? こっちはいつでもいいぜ」
「考え事をして居ったように見受けられたでおじゃるが……麿の考え違いでおじゃるかな?」
「ああ、すまない。連れが派手な勝ち方してたからな」
「おお、そうでおじゃったか。憂いは無くなったでおじゃるか?」
「わざわざ待っててくれるとは、優しいね。どっからでもかかってきなよ」
両腕を組み、重心を真ん中に持ってきて仁王立ちになるジーナ。
”不遜”
そう取られてもおかしくない態度ではあるのだが麻呂は。
「ふむん……一見ふてぶてしくも見えるでおじゃるが……そこな間合いに飛び込むは危険とみるでおじゃ」
冷静に分析をしていた。
「……油断はなしか……結構やるな」
これはドラクロワ流格闘術の蹴脚偏にある構え、「金剛」
一見偉そうに見えるこの状態は正中線をしっかりと捉えることであらゆる角度からの攻撃にも対応できるれっきとした構えである。
まあ、腕を組む必要は無いのだが。
「ではこうするでおじゃる」
そういうと麻呂は背負っていた巨大なツボの中身を床にぶちまける。
「……ん? 液体?」
「墨汁というものでおじゃるな」
「これでどうするんだ? アタシの間合いには入ってこれるのかい?」
「言われずともいくでおじゃるよ」
ツボを床に置いた麻呂はだらりと肩の力を抜き、アンデッドのような構えを取る。
「な!?」
ずぶずぶと麻呂の身体が墨汁の中に沈んでいく。
あっという間に全身をその中に沈みこませてしまった。
「反則を取られないという事はアーツか……」
『ほほほ、これぞ墨隠でおじゃ』
「……へえ」
ニヤリと口角を上げるジーナはその構えを崩そうとはしない。
『もう少し焦ると思ったでおじゃる』
「ちょっとはビックリしたけど、アタシには通じないよ」
『強がり……ではなさそうでおじゃる……ではその実力を見せてもらうでおじゃ!』
それを最後に麻呂の気配が墨汁全体に広がっていく。
ジーナが視覚に頼っていないのは見て明らか。
それゆえの墨隠なのだろう。
「!?」
本来なら死角になるであろう角度と方向から無数の何かが飛来する。
ジーナはそれを最小限の動きで躱し、躱しきれないものは蹴り落とす。
「ち、面倒な!」
次々と飛来する何か。
それは軸の尻部分が鋭く尖った「筆」。
『うむむむ、通じないと思ってはいたでおじゃるが……かすり傷すらつけられないとは思わなかったでおじゃる……』
「は! この程度なら修行の方が万倍きつかったぜ!」
『ならばこれはどうでおじゃるか?』
「む!」
不穏な気配を感じ、その場から飛びのくと今までジーナが立っていた場所から日本刀を振り上げながら跳躍する麻呂が飛び出してくる。
即座に反撃に移ろうとしたが、麻呂は着地することなくまるで水に飛び込むようにそのまま床の墨汁にトプンと沈みこんでしまう。
「ああ! くそ!!」
『なんとまあ……』
お互いが決定打に欠ける。
再び先ほどの状態に戻ってしまう。
(飛び道具は大したことねえ。これの狙いは気配を読ませない事……ならもっと集中を……いた!)
じわりじわりと間合いを詰めてくる微かな気配の違いを感じ取ったジーナ。
筆クナイを避けつつも近づいてくる気配に注意する。
(あと5歩……3歩……今!!)
「破!!」
「にょほあ!」
ズン! と腹の奥まで響くような震脚。
それによってジーナの周囲の墨が吹き飛び、中から麻呂の姿が現れる。
「そこだ! 「巨石くだ」……」
「参ったでおじゃ!!」
「……あ?」
ビタリと麻呂の鼻先で止められるジーナの蹴り。
「墨隠が破れてしまっては麿にお嬢に勝つ手はないでおじゃる……」
どうやら隙の無いジーナに対しての技であったようで、それが通じなかった以上は勝てる要素が無い。
という事らしかった。
【麻呂選手降参! 勝者ジーナ選手!!】
「なかなか厄介だったが、なんか煮え切らねえな……」
「スマンでおじゃる……腕を磨いてまた挑ませてもらうでおじゃ。よかったらふれんどになってはくれんでおじゃるか?」
「わかった、いつでも連絡してくれよな」
ガッチリと握手をして二人はフレンドになったのだった。
予選Dブロック
ゴドーVSもょもと
「おうおう、魅せてくれるね。こっちも派手に行くか? なあ!」
「……」
「暗いなアンタ……うお!?」
一瞬のスキを突き、ゴドーに肉薄するもょもと。
体重の乗った斬り下ろしが迫る。
――ギィン!
金属のこすれ合う音が響き、観戦していたほかの選手も息を呑む。
「……む」
「重ってえな……なんて一撃かましやがる……これでアーツなしなんだからたまんねぇよな」
そのまま力技で押し返すようにもょもとの剣を跳ね上げたゴドーは前蹴りで間合いを離し、仕切り直しに持ち込んだ。
「っ!」
「不意打ちとは言わねえよ。油断してた俺が悪い、今度はこっちから行くぜ!!」
身の丈ほどの大きな刀を肩に担ぐように構えてゴドーは駆け出す。
自らの間合いに入った瞬間を逃さずに前に踏み出した右足に重心を滑らせ、加速した勢いを余すことなく剣戟に乗せる。
「ちいぃえすとおおぉぉぉ!!」
「……っふ!」
決まる! 誰もがそう思った。
しかし、立っていたのはもょもと。
一体何が起きたのか。
彼はゴドーの刀を左手に装備した丸盾で流したのだ。
そうして出来た隙を見逃すことなく半歩後ろに下がる。
そうすることで彼の持つ武器のクリティカル距離にはいるのだ。
そう、彼は伊達や酔狂でアーツを使わないのではない。
使うと弱くなるのだ。
アーツには手動再現することでシステムアシストをカットして隙を無くすことが出来る。
単体でも威力があるし、適切な場所で放てば強力なカードになる。
しかし、この便利なアーツはクリティカルが乗らないという特性もある。
一撃打倒の快感に魅入られた彼はクリティカルが乗った時の手ごたえを何よりも喜ぶ。
そこで選んだ道は全アーツの封印。
その結果彼、もょもとは「いつ」「どんな場面で」「どんな状態であろうとも」「全ての攻撃に」クリティカルを乗せる距離を割り出した。
どの角度でどのように打ち込めば、剣のどこに当たればいいのか。
それだけをストイックに追い求め続けた。
人は彼をこう呼ぶ。
「会神のもょもと」と。
踏み込み、体重移動、武器の長さ、重量、当てる場所、全てがかみ合う究極の一撃「クリティカル」。
人間、魔物問わず等しく訪れる無慈悲の一撃は易々とゴドーのLPごと刈り取って行った。
【ゴドー選手戦闘不能! もょもと選手の勝利!!】
 




