迷宮の種類とギースの新武器
遅くなりました。
登紀子さんはまだですよ?
明日明後日は諸事情により更新出来ないと思います。
次回更新は金曜の深夜0時付近を予定しております。
今回は説明回のようなもの。
――迷宮都市ラビリント。
迷宮都市ラビリント。
数多の迷宮があるこの都市は初心者から上級者までの全てに対応した難易度の迷宮を備えている。
各迷宮は探索者ギルドという冒険者ギルドとは違った独自のギルドが管理しており、ネルソディラ人から漂流者まで幅広くサポートしている。
探索者ランクというものも存在し、一定の階級が無ければ上のランクの迷宮に入ることは出来ない。
これは無謀なチャレンジを繰り返す探索者が後を絶たなかったので作られた制度らしい。
基本自己責任とはいえ、毎日のように少なくない人数が帰ってこなければ悪いうわさもたってしまう。
そうなれば迷宮が街と密接な関係になっているこの都市は大変なことになるので、少しでも帰ってこない探索者を減らすために定められたルールだ。
「ふわぁ……なんか……」
――どうだいそこの冒険者さん! 迷宮まんじゅう、美味しいよ!
――おや? ソコのかた、これから迷宮かい? ……死相がでとるよ……これを買えば……
――あ、これから探索? なあ兄ちゃん、僕を雇わない? 荷物持ちするよ?
「相変わらずにぎやかな都市だな」
どっちかというと縁日系のにぎやかさな気がする。
「前と変わんないな……どうする、ギース」
「うん? どうするとは?」
「飯かギルドか」
「ああ、そういう事か。お前らは腹減ったのか?」
「ううん、私はあまり減ってないよ。もともと夜人族ってあんまりお腹空かないんだよね。マクスウェル様が言うには吸血でまかなえちゃうから食事はほとんど趣味なんだって」
「そういえばアタシもあまり空いてねえな」
「便利だな夜人族……ああ、だがジーナは食った方がいいな」
「なんでだ?」
「お前は魔物にすら吸血してねえから、気づいていないだけで多分減ってるぞ」
「あ、それは思った。なんで吸わないの? 美味しいよ? ゴブリン以外……」
森を抜けてラビリントまでの魔物は主にゴブリンだった。
ローズ曰くゴブリンは千振茶のような味わいだったらしい。
つまり死ぬほど苦い、というか飲んだことがある方が驚きなのだが?
ゴブリン以外にでる魔物はブルーゼライス(青スライム)。
稀に出てくるこいつはブルーハワイ味らしいのでゴブリンを吸ったあとのローズが血相変えて出るたびに食らいついていたのはいい思い出だ。
スライムは魔法生物じゃないの? 疑問は尤も。
ご安心あれ、アイツは魔力核を持った「液体生物」なので問題ない。
魔法生物は主に人形系の魔物の事。
体液を持たない魔法で動くものがソレに該当する。
ついでに説明すると魔法ではなく機構をつかって動くのが無機生物である。
「あー……前にギースの貰って美味いのは解ってるんだが……その……なんか抵抗が……」
そのあたりは他種族から変異した弊害だろう。
ローズは割り切ったので問題なかったが、普通に考えればなかなか割り切れるものでは無い筈。
ちなみにローズは道中の魔物に「味見!」と言ってちょいちょい噛みついている。
割り切り方が半端ない。
「なら偶に献血するか?」
「いやいやいやいや! それはいい!!」
「じゃあ飯食いにいくぞ」
「お、おう……」
「……」
「どうしたローズ」
「……なんでもない」
先のやり取りでローズになんだかモヤっとした感情が芽生えたが、それが何なのかは本人にはわからず。
微妙に苛立ちを覚えながら、とりあえず奥底にしまっておくことにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
食事を終えた三人はそのまま探索者ギルドへと足を運んだ。
「こんにちは、探索者ギルドへようこそ」
受付にいた赤い髪をした三つ編みのそばかす少女が元気に挨拶する。
「あ、赤毛の……」
「言うな! というかなんで知ってる!」
「? 本日は登録ですか?」
きょとんと首を傾げながらも職務を全うする健気さは見ていて気持ちがいいものだ。
「ああ、三人登録頼むよ」
「(うわ……この人腕に穴が開いてる……痛くないのかな?) かしこまりました、説明は必要ですか?」
「いや、大丈夫だ。だよな?」
「おう、大まかには知ってるから登録だけでいいぞ」
「(ローブで顔は見えないけど声は女の人だよね……やっぱり冒険者って大変なんだなぁ……) では冒険者カードを出してこの水晶に手を触れてください」
それぞれが水晶に手を当てて恙なく登録は終了する。
「はい、完了です。これで登録が終わりましたので冒険者カードのお返しです」
見れば冒険者カードの記載に探索者ランクという項目が増えていた。
探索者ランクは階級別の迷宮を全てクリアすることでランクアップ試験が受けられるようになる。
試験はギルドが保有する試験用ダンジョンに居るボスの魔石を納品することで合格となる。
初級ダンジョンは三つ。
出てくる魔物がそこまで多くなく、迷宮内での立ち回りを学習するのに最適な「チュートの迷宮」
魔物自体はほとんど出ないが、とにかくトラップが多い「ランディJの迷宮」
逆に魔物のほとんどが徒党を組み、集団で連携して襲ってくる「グルバの迷宮」
今の説明でもわかる通り、迷宮探索の基本ともいえるのがこの三つで養える。
「まず俺らが目指すのはチュートの制覇だな。あ、ダンジョンコアには手を出すなよ?」
以前説明した通りダンジョンコアは迷宮の命そのもの。
野良ダンジョンならば問題ないが、ここは迷宮都市。
万が一コアを破壊したらとてつもない損害賠償が請求されるのだ。
「わ、わかった! ……ねえ、中級以上ってどんな感じなの?」
「ん? まあ、先に説明しておいても問題ないか。中級より上はな……」
中級ダンジョンも三つ。
魔物自体は大して強くも無いが、対策をしていないと途端にやられる呪いの迷宮「ファラオの古墳」
グルバほどの連携はしてこないが、とにかく敵の数が多い上に出現するのがアンデッドのみの迷宮「死者の揺り籠」
途中途中でセーフエリアがあるのが唯一の救い? 対策していなければ基本無呼吸を強いられる水没した迷宮「沈んだ遺跡」
「殆ど死者関係だな」
「沈んだ遺跡だけは違うけどな」
「上級は?」
上級ダンジョンは二つ。
ダンジョンと呼べるかわからないのもあるが、ソレも合わせると三つ。
出てくる魔物が無機生物と魔法生物のみ、ギミックだらけの面倒な和風迷宮「からくり屋敷」
ギースのトラウマを作り出した全50階層からなる過酷な迷宮「ダイダロス」
そして、一階層毎にボス戦が続く全72階層の塔「ソロモンの悪魔」
「ソロモンだけ違うね」
「一応ダイダロスをクリアするのに必要な技量を手に入れられるらしいぞ」
つまりダイダロスのボス「アステリオス」はソロモンの悪魔たちよりも強いという事になる。
「つー事はソロモン踏破できればダイダロスも行けるって事か」
「俺の感覚だとそれでやっと食い下がれるくらいに感じるがな」
「どんだけ強いんだよダイダロスのボス……ってかギースはダイダロス言った事あるのか? 今日登録したのに?」
「……俺の知り合いが今三層に居るからな……そいつらから聞いた」
間違いでは……ない。
「そっか、そうだよな。今日登録した奴がどうやって上級に潜れるって話だよな」
「と、とりあえず準備整えてチュートに行ってみようよ」
「ああ、割と長い時間ギースに話聞いてたしな。そうすっか」
話題転換には成功したようで、ローズはホッと胸をなでおろす。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「これがダンジョン……」
「っても初級の初級だけどな」
「ギース、前も思ってたがなんかやけに慣れてねえか?」
「う……まあ、俺も冒険者はそこそこやってるから野良ダンジョンなら少し入った事あるしな」
「ああ、突然フィールドに出るダンジョンの事か……なら慣れてるのもわかるな」
「そう言うこった」
不意にギースの服がクイと引っ張られる。
振り向いたギースにローズは頭を下げるようにジェスチャーする。
「(このまま秘密にするの?)」
「(βの話なんか信じられるか?)」
「(……それもそうか……)」
「お二人さん、内緒話もそこまでだ。敵さんのお出ましだぜ」
眼で見ていないジーナにはお見通しだったようだ。
二人は少々気まずそうにしながらも戦闘態勢を取る。
敵は2。
ゴブリン×2だ。
「どれ、ちょっと新しい武器を試すかな」
「ギース、ナイフ辞めたの?」
「こないだのゴーレムで思い知ったよ。ウチには攻撃力馬鹿が二人もいるから戦闘に関して俺は徹底的に相手の嫌がらせをした方がいいことによ」
「その言い方はないんじゃない?」
「後で一発蹴らせろ」
「……そう言うのが脳筋だって言うんだよ。さて、ちょっと二体とも俺に任せてくれるか?」
「いいぜ」
ギースはおもむろにストレージから武器を取り出して装備する。
ギリギリまで隠しておいたのは驚かせたかったようだ。
意外にお茶目である。
「わ、鞭だ」
「そら、行くぜ!」
ギースは二体のゴブリンのうち一体に目掛けて鞭を揮う。
ヒュッと風を切る音の後に続いてパァン! と破裂音が響いた。
鞭の先端が音速を越えて空気の壁を叩いた音だ。
『ギャギイ!?』
狙われたゴブリンは顔を抑えて痛みに悶える。
見れば目から血が出ているようだがアレを狙ったというのか。
「あんな小さい的を……」
「何が起きた?」
「ギースがゴブリンの眼を鞭で潰したの」
「はあ?」
仲間をやられた怒りに駆られてもう一体が攻撃を仕掛けてくる。
しかし、その攻撃はギースに届くことは無く、代わりに。
『ぎゃが!』
唐突によろめいて攻撃の射線上に躍り出た目を潰された方のゴブリンに相方の攻撃が当たる。
「今何したの!? 急によろけてこっちに来たけど……」
「腕に巻き付けてこっちに引っ張っただけだぜ?」
「マジかよ……振るった気配も感じなかったぞ……」
目に頼っていないジーナですら感知できなかったらしい。
その後も目を潰されたゴブリンが無事なゴブリンの攻撃にさらされ、HPを失い倒れこむまでそれが続いた。
「ごくろうさん」
哀れ残ったゴブリンは首に巻き付いた鞭を取ろうと必死になっている隙に背後に回ったギースの短刀で心臓を貫かれて絶命した。
LP攻撃だ。
「こんなもんか……まあ使えなくはないわな」
「凄いよ……」
「気配で見てたけど相手にはしたくねえな……」
「ん? 嫌がらせに特化すればこんなもん造作もねえ」
「アクションジャミングですら凄いと思ってたのに……」
「アレか? アレはシステムの穴をついたもんだから慣れれば誰でもどんな職でも出来るぜ?」
以前も軽く説明したが、ギースのアクションジャミングは全ての……それこそボスクラスの魔物にも設定されている怯みという簡易状態異常を強制的に100%の確率で引き起こす。
本来ボスクラスの魔物には怯みはほとんど入らない仕様の筈なのだが、どういう訳か「攻撃の瞬間」にダメージにならない視界に入る攻撃を繰り出すと怯んでしまうのだ。
問題なのはこの「攻撃の瞬間」。
どこまでを攻撃の瞬間と呼ぶのか。
これはクリティカルポイントと呼ばれるものの説明から入る必要がある。
例えば剣を揮う動作で説明しよう。
ざっくり分ければ三つのポイントがある。
振り下ろした始めた瞬間(攻撃開始)、振り下ろしてる最中(攻撃中)、振り終わり(慣性による硬直)。
この中の二番目の振り下ろしてる最中、ここにクリティカルポイントが存在する。
それは「体重と剣の重量と速度が一番乗っている場所」。
このタイミングで攻撃がヒットすると某有名RPGで言うところの「会心の一撃」になるのだ。
もっと厳密にいえば「その武器が最大限の切れ味を発揮する距離」であることもクリティカルの条件なのだが、この場においてはその距離感は関係ないので無視する。
さて、ここで話を戻そう。
「アクションジャミング」の成立する条件はこのクリティカルポイントに攻撃が到達する直前にある。
完全に勢いが攻撃に乗る直前に邪魔をすることで攻撃そのものが失敗したという状態に誤認させるのがこのアクションジャミングの正体である。
そのタイミングは平均して僅か6F(0.1秒)。
相手の攻撃速度によってはなんと1F(0.016秒)の刹那的な時間しかないので、小足見てから〇竜が余裕で放てないと無理な代物なのだ。
いくら優秀なゲームと言えど、ゲームである以上はバグを完全に取り去ることは出来ない。
まして、こんな針の穴を遠距離から指弾で通すような行為はもしわかっていても実現できるものでは無い。
それを事も無げにやってしまう彼のPSは事実化け物なのだろう。
本人にその自覚は一切ない。
これは彼が料理の世界に足を踏み入れる前、まだ廃人プレイヤーとしてネット上の話題をかっさらっていた時にまでさかのぼるが……それはまた別の話だ。
「理屈聞いてもさっぱりわからない……」
「そもそもシステムってなんだ?」
「あー……神が定めた世界のルールか?」
「おいおい……神のルールの穴をついて理を歪めるとか……ギースは本当に人族か?」
「たぶん?」
「ローズまでヒデェよ……」




