ダンジョンボスと大激戦
おそくなったっす
ストックが尽きていましてね……。
あとちょっとで10万
そしてあとちょっとで一章が終わる。
って、うわああ!
総合評価1000超えてる!?
皆様本当にありがとうございますううう!!
「ジーナはダンジョンに入った事あるの?」
「入った事はない、聖女の仕事でラビリントに行ったときにダンジョンの入り口から中の雰囲気を見ただけだ」
「そうなんだ、ギースと二人ですぐにココが分かってたみたいだったから」
「あんときは入って見たかったんだが解呪の仕事が山積みだったからなぁ……」
「解呪って事は「ファラオの古墳」か?」
「ああ、そうだ」
「あー……ダンジョン自体の難易度はそこまで高くないんだが、あそこの魔物はほとんどが呪い持ちだから難しく感じるんだよなぁ……防呪系のアクセ持たないで入ったんだな」
「まさしくその通りだよ……粋がった冒険者が呪いなんて当たらなきゃどうって事無いぜーって」
「範囲で呪ってくるのも居るのになぁ」
「碌に調べもしないで突貫して呪われて帰ってくる阿呆が居たんだよ……」
「漂流者か?」
「いや、住人だ。漂流者の方が下手したらその辺をわきまえてるのが多いぞ?」
住人からすれば漂流者は世界の知識に疎いが、こと迷宮などの施設なんかは人によってなぜか現地人よりも詳しい場合が多いらしい。
ダンジョンの特徴をほんの少し話しただけで即座に必要なものを割り出して売ってる場所を聞いてきたり、必要な属性装備を整えられる素材がある場所を聞いてきたリと変に石橋を叩く。
冒険者にとって安全マージンを確保するのは常識なのだが、現地人からすればやり過ぎなのでは? と言いたくなるくらいガッチガチに固めてくるらしい。
その辺は、「このくらいの装備と腕があれば行ける」という知識的なものと慣れの差ではないだろうか。
漂流者にとってはどの場所も初見なのだから、いくら先人に聞いても不安はぬぐいされない。
ならば自分たちが納得するまで下準備を行うのは必然の行為に思える。
「死なない」と「復活できる」は違うのだ。
死の瞬間というのは何度も体験したいものでは無い。
生き返れるとしても誰だって死にたいとは思わないのだから。
「ところで、二人とも、私さっきから気になってたんだけど……」
「うん? どうしたローズ」
「何かあったか?」
「ここ、ダンジョン(迷宮)っていうほど複雑じゃないし、ゴーレムも散発的にしか襲って来ないじゃない?」
「ん? あー……そう言われれば……」
「どっちかって言うと何かを守っている施設みたいに感じるんだけど……どう思う?」
「……確かに。今だってこうして雑談に興じれるくらいの余裕はあるね」
「多分ココはダンジョンが本来の意味で使われてるのかもな」
「どういう事?」
「本来って事はアタシらが何時も言っているダンジョンとは違う意味があるのか?」
「本来ダンジョンっつーのはな……」
ダンジョンとは大昔に於いて天守閣を意味する最重要施設を指す言葉だった。
ダンジョンは外壁が占領された後、守備兵達が立てこもる最後の砦であり、城の塔の中でもっとも堅固な部分であった。
壁の強度を保つため、塔の下部には窓がなかったりもする。
君主の安全を守り、かつ力を誇示するような堅牢な城が出来てからはこのダンジョンは防衛施設として使われることが無くなったが、頑丈なつくりは囚人を閉じこめておくための場所として最適だとして使われるようになった。
また、ダンジョンは典型的な城の作りとして城の真下に作られる為、地下納骨堂として利用されたりすることもあったようだ。
「ほえー、そうなんだ」
「博識なんだな、ギースは」
「とまあこんな蘊蓄はどうでもいいとして、迷宮ではなく天守と考えた場合……」
「何を守っているのか? だよな」
「普通に考えたら王様かな?」
「だったらここのボスはリッチかワイトキングだな」
「うわ……神聖魔術が恋しくなったよ……」
神聖魔術が無くなった代わりの血器生成ではアンデッド系にダメージを与られるかわからないのが怖い。
模造神器を使えば多分問題ないとは思うが。
「でも、それならゴーレムの守護はおかしくない?」
「ん? あー、それもそうか……」
「まあ、なんにせよ辛いなら引き返せばいいから行こうぜ。死体が出るか邪霊が出るかは見てのお楽しみで」
「どっちみちその二体なんだ……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「これ……」
「また豪華な扉だな、これってもしかしなくても?」
「ああ、ボス部屋だな。どうする? 適正レベルから言えば多分ギリギリだとは思うが……」
「よし、行こう!」
「だな、ワクワクしてきたな!」
「……だよなぁ……しゃあねえ、覚悟決めるか……一応断っとくが、ボス部屋はデスマッチだかんな。絶対にHP管理は怠るな! 特にお前らはな!」
夜人族のような特殊な死に方をするのはどうなの? と思うがソコはちゃんと設定されている。
パーティが全滅した段階で問答無用で何故かLPが全損する。
そうでなければ不毛な争いになること請け合いだし、上手くLPを削られないような状況を作り出せば通常種でもゾンビ戦法ができたりするからそれを嫌がった運営がそのような仕様にしたのだ。
「「もちろん!」」
「よーし、開けるよ!」
ゴゴゴゴゴと重たい観音扉が開き、部屋の中の全貌が明らかになる。
かなり広めにとられた闘技場のようなサイズの四角い部屋。
中には何もいない。
「なにも居ない?」
「ローズ、油断するな! ヤバイ気配がビンビン来てる!」
「……ん!? 影が大きく……。っ!! 上だ、散れぇ!!」
ギースの掛け声と共に全員が反応し、三方向に跳ぶ。
間一髪で上空からの不意打ちを回避することが出来た三人は即座に起き上がり、相手を視界にとらえる。
「おお!? 銀色のゴーレム……」
「きれー……」
「おいおい、いきなり適性すっ飛ばすんじゃねえよ! せめてアイアンゴーレムだろうが!」
二人はその鮮やかな白銀色に目を奪われていたが、鑑定眼を持つギースだけは驚愕に満ちていた。
「ギース、アレはなんなの?」
「アイツはミスリルゴーレムだ! 道中のストーンゴーレムなんかとは比較にならねえ硬さだから気を付けろ!!」
一応比較するならクレイ<ストーン<アイアン<ミスリル<アダマン<オリハルコンの順で硬く、そして強くなる。
見事に一段階すっ飛ばしている。
余談ではあるが、大体のダンジョンは道中の一段階上がボスの場合が殆ど。
周知されているダンジョンで当てはまらないのはダイダロスくらいだ。
「マジか!? っ! 来る!!」
『!!!、!!!!』
先ほどまで相手をしていたストーンゴーレムとは比較にならない速度で射程圏まで移動し、後方に溜めを創った拳を移動の勢いを乗せて真っすぐに打ち出すミスリルゴーレム。
「な!? 早い!!」
「ジーナ!」
「クソ、なめんな! 「巨石砕き」!」
――巨石砕き
足技の戦技スキル。
足を中段に構えてその場で後方に一回転し、引き絞った弓が放たれるかのように勢いを乗せて相手の腹部を蹴り貫く技。
ガギィン! と生身と金属がぶつかったとは思えない音を響かせてジーナの脚とゴーレムの拳がかち合う。
「ぐあ!!」
拳を止める事には成功したものの、体重差で吹き飛ばされて壁に激突するジーナ。
今の一撃で勢いを殺したというのに半分のHPが持っていかれた。
「……威力を相殺してなおこのダメージ……まともに食らったら危なかった……」
「大丈夫か! 「ポーションピッチ」!」
――ポーションピッチ
投擲の戦技スキル。
ポーションを投げる、それだけ。
「さんきゅ!」
「よくもジーナを! 「衝打」!!」
今のやり取りの隙にフリットで肉薄していたローズがゴーレムの脚に向けて戦技をぶつける。
――ガギギン!!
「かった~!! 痺れたああ!! はりゃ?」
僅かに怯んだようだったがゴーレムにとっては蚊に刺された程度。
殴った手をフルフルしていたローズに向けて足を振り上げる。
踏み潰すつもりだ。
「ち! させるかよ!」
いち早く反応したギースがストーンゴーレムの時に見せたアクションジャミングを敢行する。
行動を阻害されたゴーレムは片足だったためにバランスを崩して転倒した。
「ありがとうギース!」
「礼よりも畳みかけろ!」
「うん、ジーナ!!」
ジーナに声をかけると同時にローズは天井に向けて跳躍する。
「ブラッド・プール!!」
ゴーレムとの戦いでお決まりになりつつあるパターン。
「くおんのぉ! ドラクロワ流格闘術始技「昇透撃」!!」
天井に「着地」したローズはそこで再び足に力を込めて地上に向けてエネルギーを開放する。
それは本来相手を打ち上げる技だが、天井から下に向けて放つことで落下のエネルギーすらも利用し、現在彼女が放つことが出来る最大級の一撃となった。
『!!!!、!!!?』
流石のゴーレムもこの一撃はかなり衝撃があったようで、ダメージこそ微々たるものであったが起き上がるのを阻止することに成功する。
「よくやったローズ! 持ってけ八割「ランス」!」
『!?、!?、!!?』
ギャギギギ! と耳が痛くなるような音が響き、ゴーレムの装甲とジーナのランスがせめぎ合う。
「ぐぐぐぐ……少しでも安全を取ったのが不味ったか……九割だあぁぁぁ!!」
このままでは装甲を削り切れないと判断したジーナはさらに一割のHPをランスに注ぎ込む。
再生は全体HPのおよそ5%が10秒に一回回復する程度の気休め。
どちらかと言えば外傷に対しての効果が高いので、実はこういった自傷系の技と相性が良くない。
だからこそせめて二割は残しておこうと思ったのだが、このままでは間違いなく装甲を貫けない。
ならば貫くには自らを瀕死に追い込まねばいけないとジーナは判断したのだ。
「お願い、壊れて! やあああああ!!」
胸側からもローズが必死に殴り続けている。
しかし、無情にもゴーレムの装甲を貫くには足りず、ランスの方が砕け散ってしまった。
「……はあ……はあ……うそだろ?」
「あ、きゃあああ!!」
胸の上に居たローズは払い落され、ゴーレムは立ち上がり拳同士を打ち付けている。
眼の光も強くなり、心なしか怒っているように感じる。
「「ポーションピッチ」! ジーナ、動けるか?」
「なんとかな。だが、あれでダメならもう切り札使うしかねえ!」
「模造神器だな? アレは防御無視だから確かに発動出来れば間違いなく攻撃は当たる、だが使うのは?」
「心臓を破壊しないといけないんだろ? だったらグングニール一択だ!」
「しかねえな! ローズ、聞こえたか? 絶対にジーナにゴーレムを近づけさせるな!」
「分かった!! 「衝打」、「衝打」、「衝打」あああああ!!」
「とことん嫌がらせしてやるぜ!」
「よし! LP八割消費! グングニールよ……来い!!」
ジーナの目元と両腕から血が噴き出す。
生成されるまで約30秒、限りなく長く感じる30秒が始まった。
何かを為そうとしているのは分かる。
阻止せねば自らが危ういのも気配で分かる。
何としてでも止めなくてはとゴーレムがジーナに向けて動き出すが、動き回る二匹の羽虫がそれを赦さない。
「うわあああ!! 衝打! 衝打! 衝打! 衝打!」
ローズが使える透の始技は昇透撃のみである。
このように硬い相手には透の技が効くのは知っているが、如何せん昇透撃は溜めがいる。
今は一瞬でも溜めてしまっては抜けられる恐れがあるので使えない。
ならば残された手は通りが悪いとわかっていても打の技を連発するほかないのだ。
「一切テメエには攻撃なんかさせねえよ!」
ローズの攻撃が緩んだ瞬間を縫って反撃しようにもギースがそれを良しとしない。
そして、奇しくもその「連携」が思わぬ効果を発揮する。
「衝打! 衝打! 衝打!」
ローズの身体が淡いブルーのオーラを纏い始めたのだ。
それは徐々に色を濃くしていき、青から紫へ、紫から赤へと変化していく。
連鎖闘士のボーナスだ。
赤のオーラはMAXに達した証。
50%の攻撃力上昇が付いたローズの一撃はついにミスリルゴーレムの脚に罅を入れることに成功する。
「くあ! はあ……はあ……う、腕が……でも! しょうだああああ!!」
ローズの腕は硬いゴーレムを殴り続けたためにガントレットの保護があってなおダメージを受けていた。
そのため骨が砕け、皮膚が裂け、血が流れ、再生スキルが発動している証拠の煙が立ち上っていた。
今腕を動かすのを止めれば二度と拳は振るえない。
ローズは必死で腕を動かす。
『!!!!!!』
足元の虫はヤバイ。
だが、近くをちょろちょろしている虫を何とかしないと足元の虫も倒せない。
そう理解したゴーレムは散々やられた行動を学習していた。
まず、何をするべきかを正確に理解し、実行した。
「なにぃ!?」
左の手で自分の目元を覆い、行動を阻害されるのを防ぐと同時に拳ではなく手の平を使って範囲を広げ、周りを飛び回る羽虫を叩き落としに来たのだ。
「!! ギース!」
「くそ!」
何とか身をひるがえして攻撃範囲から逃れようとするが、ギースもナイフを投擲していたために一瞬行動が遅れる。
βからの戦闘経験が即座にこれは躱せないと判断を下す。
(躱せねえならせめて致命傷を避けて!! ぐっ! なんだ!?)
突如ギースの横から衝撃が走る。
いつか体験した衝撃。
即座に衝撃が来た方向に頭を向けるとそこには両手を突き出して必死な顔をしたローズが立っていた。
「ば! ばかやろおおおおお!!」
ギースが今まで立っていた場所にローズが居る。
スローモーションのようにゴーレムの手がローズに迫る。
ローズとギースの目が合った。
彼女はそれに気づくとニッコリとほほ笑んで……壁に激突した。
「ロォーーーーズゥーーーーー!!」
「かはっ!!」
ギースは即座にBポーションを準備する。
「ま……て……今こっちに来たらジーナが……」
生成完了まであと10秒を切った。
だが、妨害が無い状態の10秒はあってないようなもの。
「クソが……てめぇ……こっから先、一歩もそこから動けると思うなよ?」
アクションジャミングの特性を相手が理解しようと関係ない。
極限の集中力は相手が行動阻害を回避しようとした動きの穴をついてジャミングを成功させる。
ギースの宣言通りゴーレムはそれ以上動くことは出来ず、タイムアップを迎える。
「よくもローズをやってくれたな……この礼はテメエの命で払ってもらう、命置いていけ! 貫け、グングニールよ!!」
ジーナの手から放たれた神の槍は一条の光となって一直線にゴーレムの心臓を穿たんと進む。
『!!、!!!』
今まさに心臓を貫かんとした瞬間、ゴーレムは握りしめた両拳を胸の前で合わせるように打ち付けた。
「し、白刃取り!?」
グングニールのエネルギーがバチバチと放電ににた現象を引き起こし、ゴーレムの心臓を食らおうとする。
それだけは阻止しようと全力を以って止めるゴーレム。
その力は拮抗しているかに見えた。
――ピキ
『!!?』
――ピシ
『!!!』
――ビギィ!
『!!、!!?』
ゴーレムの腕に亀裂が走る。
徐々にその崩壊が手首から腕、腕から肘と広がり、ついには肩から崩れ落ちた。
「防御出来ない神の槍、そんなもんで防げると思うなよ?」
「もうとっとと死んでくれ」
『GAOOOOOON!!』
ゴーレムが哭いた。
そんなバカな! とでも言いたげな悲痛な雄叫びを上げてミスリルゴーレムは倒れ、目の光は消えて行った。
そして、後に残ったのは大量のミスリル鉱石の塊だった。




