職業と鉱石集めとダンジョン
8話にてご指摘頂いたローズの戦闘高揚スキル説明を改訂しました
旧、理性が少しだけ外れる
新、理性の箍が少しだけ外れる
指摘頂きありがとうございます
――中央都市アモーレ、冒険者ギルド。
「こんにちはー」
「あら、ローズさん。こんにちは、今日はどんなご用件ですか?」
「職業につきに来ました」
「うっ……」
突然胸を抑えて俯くイリア、一体どうしたというのか。
「ど、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「や……」
「や?」
「やっと無職から脱却するんですね!!」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔で顔を上げるイリア、その目は一点の曇りもない。
「うっ!!」
ズギュン! と胸を撃たれた効果音が出そうな(言葉の)衝撃を受けて今度はローズが胸を抑えて俯いた。
「いやー、初登録から結構経つのになかなかその言葉を聞かないから心配だったんですよ? ひょっとしてこのまま無職を貫くのではと」
「ぐはっ!」
現実の無職とは違う事は分かっているのだが、何故だか無性に心を抉る。
「それがついに、ついに! 職業に就く! これが喜ばずにいられますか!」
(そりゃ私だって働けるなら働きたいよ……うう……じゃなくて!)
微妙に現実と重ねてしまい少々卑屈になるローズ。
「あ、適性見ますのでこの水晶に手を当ててもらえますか?」
「ア、ハイ」
「ふむふむ、ほうほう、ほお!?」
お前はフクロウか。
「何かありました? まさか適性無しとか……」
「いえ、それはありませんよ。安心してください、少々珍しい職が表示されたので……あ、リスト出しますね」
――現在チェンジ可能な職業
格闘家
狂戦士
傀儡師
一級フラグ建築士
連鎖闘士
魔術拳士
「……スゴイ偏りですね……」
「下二つはユニーク職ですよ? それだけでもすごいですよ?」
「あ、そうなんですね。マジックナックルはなんとなくわかりますが……チェインバトラー?」
「それはですね、攻撃を繋げれば繋げるほど強くなる職です」
――連鎖闘士
個人、もしくは仲間との連携を成功させるほど攻撃力が上がっていく特殊なパッシブスキル「連鎖」を持つ。
連携が失敗した段階で上昇率は0に戻る。
一回の連携成功で5%上昇、二回で10%、三回で25%、最大は四回連続成功の50%攻撃力上昇。
それ以上は何回成功しても変わらない。
また、チェインには二つの種類がある。
【協奏】
仲間との同時攻撃による連携、コンマでもズレると不成立。
【追撃】
追いかけるように攻撃を繋げる連携、相手のノックバック終了間際が判定ポイント。
タイミングが早すぎると「連携」ではなく「連続」になるので連続攻撃が終了したタイミングで再び判定になる。
「面白そうですね、ところで……このコトダマイスター? はなんですか?」
「ああ……それはなぜか偶に現れる謎職です。一回辞めて直ぐにもう一度適性を受けると無くなっていることもあるので就職条件はランダム出現だと思うんですよね……」
「どんな事が出来るかわかります?」
「えっと……ちょっと待ってくださいね……確かここに……あった!」
イリアが手にしたのは物凄く歴史を感じる古めかしい本。
「この古文書の……確かこの辺りのページに……あ、ありました! 」
――一級フラグ建築士
魔力を込めて口にしたことが現実になる。
口にした言葉によって効果が異なる。
様々な効果をもたらす言霊だが、一部抜粋して紹介しよう。
【何かあったら○○の事を頼む】
口にすると敵のヘイトが○○とそれを頼んだ人物以外に集中する。
【なんだか今日は身体の調子がいいの…】
一時的に自身の全能力を二割引き上げ状態異常にかからなくするが、効果が切れると死ぬ。
LP? いや、知らないな。誰だい? それ。
【ここは俺に任せて先に行け!】
スキル「捨て奸」と同じ効果。
「なんなんですかコレ……しかも古文書って……」
「うん……私も読み上げててまったく意味がわからないですよ……大昔に選んだ猛者が居たそうです」
「本当に猛者ですね……」
「ええ……本当に……あ、ローズさんは何にします?」
「あっと、じゃあこの連鎖闘士で」
「かしこまりました」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――北の鉱山、採掘場「東」
――カァン! カァン!
鉱山の中で鉱脈に向かい、つるはしを振るう音がこだまする。
「はいよ、コレ頼んだ」
ジーナが血だまりを操って石を運んでくる。
攻撃とは無縁な使い方だが、意外に便利な血器生成である。
「これは銅鉱石……これも銅鉱石……これは錫鉱石か……ミスリルねえなあ……」
「そっか……おーい、ローズ! この辺にはないみたいだ」
「わかったー!」
つるはしを揮うのを止めて二人の下へと戻って来たローズ。
「ごめんねギース、手伝ってもらって」
「気にすんな、今日はたまたま暇だったからよ」
鑑定眼を使えるのがローズの知り合いではギースだけなので必然と言えば必然。
夜は仕込みをしているはずなのだが、そんなことはお構いなしと言ってくるギースは本当に人がいい。
「ギースもローズも悪いな、アタシが昼間も動けりゃ良かったんだが……」
「仕方ないよ、デイウォーカーが無かったら出歩くの大変だもん」
「そうだぜ? むしろジーナが普通なんだろ、今の夜人族的に」
「そうか? そう言ってくれると助かるよ」
「それ、私がオカシイって聞こえるんだけど……」
「実際おかしいだろう? 日没までポーションで凌ぐとか」
「ありゃアタシは諦めたよ……いつかは欲しいけど、無理して取りたいもんじゃない……」
「あ、あはは……」
あると便利だし、昼間に出歩ける方が活動するには色々都合が良いからジーナもデイウォーカーを手に入れようとしては居た。
磔もされて痛みには耐性があると豪語したのもつかの間、一時的に焼かれるのは耐えられたのだが、継続して焼かれ、それが日没まで続くとなると流石に心が折れたようだ。
実際マクスウェルが行っている実験も成果は芳しくない。
囚人たちは皆日没前に発狂してしまうか、苦しみに耐えれず処刑を懇願するかの二択で一向に結果が出ないのだ。
「うーん……日に焼かれた累積時間だったらいいんだけどね」
「累積かぁ……可能性はあるかも……よし、明日から毎日我慢できなくなるまで焼かれよう!」
「やめとけ……と言いたいが、まあ頑張れ。焼き鳥差し入れてやっから」
「やった! これで勝つる!」
「ずるい!」
「心配しなくてもローズのも用意してやっから」
「やた! ギース大好き!!」
「だから抱き着くなって! 俺を社会的に殺したいのか? まあこんなとこで見られることは無いだろうが」
「はいはい、イチャコラしてないで次行こうよ」
「何処行ってなかったっけ?」
「今が東採掘場だから……後は北か」
「西もハズレだったからねぇ」
「あっちはハズレもハズレだ、鉱脈が枯渇してたからな。もっと深く掘りゃなんかでたかもしんねえが」
「流石にそれは面倒だなぁ……とりあえず北に行こう」
「「ああ(おう)」」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――北の鉱山、採掘場「北」
「ここも枯渇してるか……」
「どうしようジーナぁ……ジーナ?」
ローズが意見を仰ごうとジーナに声をかけ、側に居ない事に気が付いた。
一体どこに行ったのか見回すと端っこの岩壁をペタペタと触って何か探しているように見える。
「何してるの?」
「うん? いや、なんかわからねぇがこの壁が気になるんだよ」
「あ? どれどれ? ……ん?」
「ギース、どうしたの?」
「……この辺りから空気の流れを感じる……この裏は空洞みてえだな」
「へえ、壊してみっか」
「何が起こるかわかんねえけど、それ以外にないか?」
「これぞ冒険! って感じがして楽しくねえか? よし、「ブラッド「まって」……どうしたローズ」
「私がやりたい! ジーナがやったらHP使っちゃうでしょ?」
「あー、じゃあ頼むわ」
模造神器と同じく、武器を発生させずに技を解くとHPが少量還元されるのだが、この先が未知であるなら温存しておいて損は無いだろう。
だが、忘れてはいけない。
ジーナの真の武器はその両足だということを。
「いくよ! ドラクロワ流格闘術始技、「衝打」!」
所謂「寸勁」のようなモーションから繰り出される技である。
脇を締め、肘を90度に曲げた状態の拳を足から膝、膝から腰、腰から肩へと回転のエネルギーを連動させていき、恋人にキスをする距離から絶大な破壊力を秘めた一撃を繰り出す技。
これが始技だというから驚きだ。
ドラクロワ流格闘術は全ての始まりの技「始技」、始技より派生する「連技」、連技より派生する締めの技「終技」の三つがある。
各技には属性があり、物理の「打」、貫通の「透」、打ち上げる「昇」、地上より相手を叩き付ける「倒」、空中より相手を叩き付ける「落」、魔力を込めた「魔」の六つ。
今放った属性は「打」。
内部に通すのではなく、打撃面より直に衝撃を加える打ち方だ。
――ピキ
「お?」
――ピシ
「おお!」
――ビシ!
「ありゃ? 足んなかったかー」
「じゃあアタシが、よっこら……せ!」
ジーナに蹴りぬかれた岩壁がガゴン! という大きな音を立てて崩れ落ちる。
ギースの言った通り空洞がそこに広がっていた。
「二人ともすげぇな」
「アタシはおこぼれだよ」
「一発でかっこよく決めたかったなー」
「ローズもなんとかっていう武術っぽいの習得したんだな」
「ドラクロワ流格闘術、まだ最初の技二つくらいしか使えないよ」
「それでもすげぇよ」
「あはは、ありがとう。頑張ったもんね」
「ギース、ローズ。こりゃ思ったより深いぞ」
「分かるのか? 俺はカンテラの灯りがないとわかんねえ」
「なんとなくかな? ちょっと進んで終わりとかいう感じがしないんだよ」
眼に頼っていないぶん、そう言った感覚が向上しているのだろう。
なかなか無下にするには難しい意見だ。
「時間もまだ余裕あるから行ってみようよ」
「んだな」
「アタシら用とギース用の回復薬も使ってないからたんまりあるしな」
「油断は禁物だぞ?」
「わーってるって」
「よーし、行ってみよう!」
――北の鉱山、北採掘場「???」
「なあ……」
「なに?」
「ここってよ……もしかしてなんだが……」
「アタシも思ってた」
「なに、なに? 私だけ仲間はずれ?」
「「ダンジョン」」
「だよなぁ」
「やっぱりそうか」
「え? え? ここダンジョンなの?」
「ああ、途中から壁が変わったの気づいたか? ローズ」
「壁? あ、ほんとだ、レンガっぽい!」
「気づいてなかったのかい……」
「しかも通路が結構広めに造られている……つまり」
「デカい魔物が出てくるって事だね」
「デカいの? どんな?」
「そうだな……ちょうどアレみたいなゴーレムとか……ゴーレム?」
「ありゃ敵だよ! ローズも構えて!」
「え? あ、うん!」
「硬いのは俺じゃ大して攻撃にならねえ! 適当にヘイト稼ぎながら逃げ回ってるわ」
「無理しないでね!」
「おしゃべりはそこまでだ、来る!」
ズシンズシンと地響きを立てながら走り寄ってくる石のゴーレム。
動きは鈍重だが、一歩がデカいのでかなりの速度が出ているように見える。
ギースは短剣を抜き、ゴーレムの振り下ろし正拳を潜り抜けながら足元に一閃加えて背後に抜ける。
「~~っっ!! かってぇ~!! やっぱ俺じゃ無理だ!」
短剣を見ると一撃でわずかに刃こぼれしてしまっていた。
「ちっ、安物じゃやっぱこのクラスはキツイか……じゃあ俺が出来る仕事をしますか」
大したダメージが無かったために、攻撃の照準はそのまま正面にいる二人に向いていた。
再びゴーレムが腕を振り上げる。
「させるかよ!」
投擲用のナイフに持ち替えていたギースは再度ゴーレムの前に戻り、赤く光る眼に向けてナイフを投げつける。
『!!!』
僅かだが怯み、攻撃がキャンセルされる。
β時代に彼が得意とした行動の一つ「アクション・ジャミング」。
魔物すべてに設定された怯みというアクションを強制的に引き起こすこれは彼のPSの産物だ。
そう、これはスキルではない。
「ギース、ナイス! 久々にイクぜ! 食らえ、「唐木折り」!!」
――唐木折り
足技の戦技スキル。
要するに強烈なローキック。
『!!?』
下手したら自分の脚が折れるのではないか? というくらいの全力の蹴りが石で出来たゴーレムの姿勢を崩す。
吸血鬼の膂力がなせる業だ。
「ローズ、今だ!」
「うん! ドラクロワ流格闘術始技、「昇透撃」!!」
――昇透撃
しゃがみこんで溜めた力を跳躍と共に開放する「昇」と「透」の技。
ジーナによってバランスを崩し、膝をついたところにローズの強烈なジャンプアッパーが炸裂。
さしものゴーレムもコレには堪らず青天井にひっくり返る。
「まったく……夜人族ってのは出鱈目だなオイ! ジーナ、奴の心臓あたりをランスで貫けるか?」
「ん? 多分出来る」
「ダンジョン産のゴーレムの面倒な所はコアを破壊しないと問答無用で持久戦させられるんだ」
「!? なるほど、そういう事なら「ブラッド・プール」。ローズ! そいつを起き上がらせるなよ」
「分かった! やあああああ!!」
胸の上に飛び乗ったローズは地団太を踏むように何度も全力で踏みつける。
ゴーレムからしてみれば自分の膝までもない子供の様な生き物がとんでもない力で自分を地面に縫い付けるように踏んでくるのは信じられない状況だろう。
考える頭があるならば。
『!!、!!!?』
必死で身体を起こそうとするが、胸の上の人物がそれを赦さない。
はたして、その時は訪れる。
「ローズ、離れろ!! 念のためだ、半分持ってけ! 五割「ランス」!!」
HP五割を消費した「ランス」。
それは最早槍という大きさではなく……。
「ドリル?」
「漢の浪漫だな……」
ビキビキと音を立てながらゴーレムの背中を削りとり、コアを目指していくランスもといドリル。
数秒後には反対である胸に亀裂が走り、貫通した先端が凄まじい回転と共に飛び出してくる。
『!!……!!……!……』
同時にゴーレムの爛々と輝いていた目の光が消えて、形を維持することが出来ずに崩れて壊れた。
「あー……しんど……五割でギリとかやめてくれよ……」
「お疲れ、皆!」
「このダンジョン難易度結構高いな……どうする? 退くのも勇気だが?」
「勝てなくはないしアイテムもあるから進もうぜ」
「見たところ止めはジーナしか出来ねえが、いいのか?」
「私の分のポーションも使うといいよ」
「だ、そうだぜ」
「まあ、お前らがいいなら俺も付き合うぜ。なら行けるとこまで行ってみるか」
「「おう!!」」




