ローズの修行とチートなジーナ
あと少しで10万文字。
四話分くらいかしら……
ジーナの実力開示回
次の日――スラヴァード城「訓練場」
「右足が地面につく前に左足……右足が地面につく前に……あきゃ!」
「もぐもぐ……ローズはなにをやってるんだい?」
「ランハクとの稽古だ、アレは吸血鬼の基本歩法「フリット」の練習だな……ギースよ、もう一本もらえるか? (まいど)」
「……アタシももう一本……フリットってどうやるんだ?」
「あぐ……みぎあふぃ……ごくり。右足、左でもよいのだが、とにかく片方の踏み出した足が地面につく前に次の足を出すのだ」
「……それ、物理的に可能なのか? ほら、焼き鳥。(サンキュー)」
何故かギースが今日もいた。
理由は昨日ジーナに頼まれた焼き鳥を届けに来ただけなんだが、気が付けば大体いつもの面子に混じるようになった。
現在はどうせならと訓練場で屋台を開いている。
「ん? 可能だとも、出来ればこういう事になる」
そういうとマクスウェルは滑るように一瞬でギースの屋台の目の前に移動する。
「うお!?」
「さらに長距離も可能だ」
そう言って今度は訓練場の端に一瞬で移動した。
遠目で確認できたので分かったのだか、「普通に歩いてる」ように見えるのだ。
足を動かす速度が一般のそれと同じように見えるのに速度と一歩の距離が尋常ではない。
姿勢が変わってないのがなおチグハグに感じて余計に気持ち悪い。
「す、すげぇな夜人族……」
「夜人族というか吸血鬼だな。細かい話をするならこれは物凄い速さで何度も足を動かして高速移動しているだけなんだよ、物凄く疲れるから短距離フリットを連発するとさすがの私でもしんどくなる」
気が付けば再びギースの屋台の真横に戻ってきているマクスウェル。
「うおわ!! 心臓に悪いぜマクスウェルのオッサン……」
「へえ……なんとなくやってることはわかるな……アタシにもできっかな?」
「うむ、なり立てとは言え其方も吸血鬼。鍛錬を積めばすぐに可能だろう」
「本当か!? っとと、本当ですか!?」
「別に敬語なぞ要らぬが?」
「いや……そうもいかねえ……いきません……ああ! なんでだ? 教会の時は普通にできたのに!」
「そりゃこのオッサンの雰囲気じゃねえの? 俺なんか間違いなく不敬罪で打ち首だと思うぜ? マクスウェルのオッサンだから問題ねえが」
「だったら改めろよ……」
「構わんよ、王にもなるとフランクに話せる友人の方が私は貴重だと思っているからね。それにここには我々しか居ないから問題にはならぬよ?」
「いや、でもアタシはここで厄介になってる立場だし……ですし」
「それこそ気にするな! だ。ほかならぬローズの親友なのだからな」
「随分慕われてんだなぁ……ローズ」
「あの前向きな姿勢は皆に希望を与えておる、其方の事もまた然りだ」
「どういうこった……ことですか?」
「其方は吸血鬼になる前は何であったかな?」
「魔人族?」
「ああ、なるほどな。「教会」の奴って事か」
「然り、ローズは夜人族であるにも関わらず其方と友人関係だった……ジーナよ、種族の事は知っておるな?」
「そうか……」
「種族の確執が未だ解けておらんのに聖女と友人……これが我らにどれほどの希望をもたらす事か」
邪神との闘いが終結してから千年。
決して短くはない時を夜人族は全種族の敵として過ごして来た。
もはや他の種族と交流を持つことが永遠に叶う事は無いと思っていた。
それをふらりと現れた夜人族の漂流者があっさりと打ち崩したのだ。
「思うのだよ……彼女、ローズは私たちが成しえなかったことを本当にやってしまうのではないかと」
「ああ……そうかもなぁ……」
「あれでなぁ……」
(足の動かし方が足りません! もっと早く!)
(無理! 攣る!!)
(もっと早く!!)
(勘弁して~!)
「本当にできるのかねぇ」
「俺にはわかんねえな」
「私も少し自信が無くなってきたな……」
「……なあ、マクスウェル様」
「ん? どうしたジーナ」
「一つ気になったんだが、アタシのステータスにある「血器生成」って言うのは聞いた事あるかい?」
「? 否、聞いたことが無いな……見せてもらえるか?」
「ああ、今出すよ」
敬語は諦めたようだ。
ジーナはステータスを表示させ、他者に見えるように可視化する。
メニューは脳内に投影されるので目が見えなくとも確認はできる。
「どれ……なんだコレは!」
――血器生成
聖女の想いと吸血鬼の少女の祈りが混ざり合い、生まれたもの。
血液を媒介にして様々な武具を生成することが出来る。
これは魔術ではない。
武具を生成するためには代償が必要であり、HPを消費することで使用可能。
また、LPを消費することで模造神器を創造することも。△
「なんか……スゲエな。俺さっきからこれしか言ってねえな」
「説明を見るにとんでもない代物のようだが……ランオウ、Bポーションを用意してくれ」
「はい、直ぐに」
「ん? 使ってみろってことか?」
「理解するにはそれが一番であろう」
「確かに」
「用意できました」
「ご苦労、ではジーナよ」
「おう、まずは……これかな? 「プール・オブ・ブラッド」っ痛う!!」
先ほどまでなんでもなかった両手に穿たれた穴より血液が流れだす。
それは足元に血だまりを作りだしていく。
見れば「出血」になっていてもおかしくない量の血だまりが出来上がっているのだが……。
「状態異常にはなっておらんのか?」
「ああ、平気みたいだ……でもこれ割と痛いな」
HPは一割ほど減っている。
「直訳でまんま血だまりか……これからどうなるんだ?」
「まて……ああ、なんとなくわかった」
そう言ってジーナが少しだけ集中すると血だまりが前の方に移動していく。
両手からの出血は止まっているようだ。
「自由に動かせるのか……」
「これ、準備段階らしい……穿て、「ランス」!」
ジーナの言葉に反応し、血だまりから勢いよく真っ赤な槍が飛び出る。
それは僅かな時間存在し、のちに血だまりごと消失していった。
「アレは……血を槍の形にしたのか」
「槍が剣山みてえに……あの場所に居たらメッタ刺しか……」
「初めて見るモノですね」
「地面が土なら染み込ませて隠したりも出来るらしい……なかなか汎用性がありそうな技だなコレ。HPの消費量で威力を変えられるみたいだし」
三人の反応は驚愕だったが、本人は楽しそうだ。
「次はこれにしてみっか、「ドロップス・オブ・ブラッド」」
今度は右の手から血が滴るが地面に零れる事無く消えて行く。
「……ああ、これはそういう技か。マクスウェル様、的はあるかい?」
「それも準備段階なのか……今出そう、「クリエイトゴーレム」!」
これは土の魔術の初級。
魔力で操作可能だが、タダのデコイとしての役割が強い。
中級にはクリエイトストーンゴーレムがある。
こっちは自律行動をとるので相手にしたら厄介な上に硬い。
「よし、いくぜ……」
見えないはずなのに彼女はまるで普通に見えているかのようにゴーレムに向けて手を振り上げる。
「切り裂け! 「カット」!」
素早く振り下ろした手から三日月状の血で出来た刃が放たれる。
初級魔術とはいえ、生半可な攻撃では真っ二つにすることが難しいゴーレムをあっさりと縦に割って刃は消失した。
「凄まじい切れ味だな」
「βやってた時もあんなにきれいにゴーレム切った奴いなかったぞ」
「これも初めて見ますね」
「この威力でHP消費三割程度なら破格だなぁ……やっぱり痛いけど。LP使ったら呼び出せる模造神器って何だ?」
「生命力消費だからおいそれと使うものじゃ無えが、安全な今試すのは在りだな」
「ライフポーション持ってきましょうか?」
「うむ、頼んだランオウ」
「持って参りました」
相変わらず仕事が早い。
「よし、いいぞジーナ」
「オッケー、ええっと……これは技名じゃなくて消費量で決まるのか……んじゃ折角だから八割で」
「いきなり自分を瀕死に追い込むのは馬鹿か?」
「ま、まあ、本人がそれでよいなら良いのではないか? 今は戦闘中でもないし万が一の時は治療も出来る」
「折角だからで八割はどうかと思いますが……」
実際にLPは八割減ったが何か変化がおこる兆しはまだ見えない。
「なんだ? 不発か?」
「いや、まて……なんだこのとてつもない魔力は……」
「凄まじい威圧感です……」
「くう……ああああああ!!」
突如ジーナが苦しみだす。
眼は見開かれ、そこから血が溢れては消えて行く。
両の手からもとめどなく血が溢れて何かを形成しようとしている。
「おいおい、これヤベェんじゃねえのか?」
「大丈夫ですかジーナ様!」
「ぐ、ぐううう……はあ……はあ……これは?」
いつの間にか血は止まり、その手には一本の槍が納まっていた。
「そ、それは一体なんなのだ!?」
「ああ……こいつはグングニールというらしい……一度放てば確実に相手を穿つ神の槍……だそうだ」
「オーディンの槍か!」
「ギースよ、オーディンとは?」
「ん? 確かこっちの世界にある北欧だかの神話に出てくる神様が持っている槍だよ」
「漂流者の世界の神……か」
「すっげえなこれ……」
何気なくジーナは投擲の構えを取る。
瞬間、マクスウェルが叫んだ。
「!!? ならん!! それを放ってはならん!!」
「え!?」
寸ででジーナは踏みとどまることが出来た。
「どうしたんだ? マクスウェルのオッサン」
「それは放ってはならん代物だ! 放てば月の女神の恩寵である月千一夜を破壊してしまう! 構えた瞬間の気配で分かった!」
「月千一夜ってローズがジーナを助けるときに使ったやつか」
「この逢魔全体を包んでいる結界魔術だ、もし壊れればこの街に住む民が日の光で大やけどを負う」
「そ、そりゃ不味いな……消せるのかコレ? ……消えろ消えろ……あ、消えた」
どうやら使わなくても自在に消せるようだ。
すると消費していたLPの二割ほどが返ってきた。
「ふう……肝が冷えたぞ……」
「わりい、マクスウェル様……」
「いや、ジーナのせいではない……しかし恐るべき技だな……その血器生成とやらは……八割もLPを消費して「衰弱」はせんのか?」
「たぶん放ったらそうなってた気がする、消したらLPが幾分か返ってきたし」
「ふむ……便利……なのか?」
「なあジーナ、他の消費量だとどうなるんだ?」
「ええっと……最低が三割消費で……生成されるのが……」
――血器生成
神器生成
LP三割消費――ダーインスレイヴ――血を求める剣、斬りつけることで種族問わず出血の状態異常にする。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
レプリカ故に一度の使用で消失する。
四割消費――テイルヴァング――呪われた剣、斬りつけた相手を種族問わず神聖魔術でも治癒出来ない病の状態異常にする。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
レプリカ故に一度の使用で消失する。
五割消費――レーヴァテイン――炎の剣、斬りつけた相手を死ぬまで消えない炎が包む。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
レプリカ故に一度の使用で消失する。
六割消費――ミョルニル――神の雷を宿した槌、ひとたび振るえば広範囲に戦略級の雷を降らせる。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
レプリカ故に一度の使用で消失する。
七割消費――エッケザックス――巨人の剣、他の神器のような特殊な力は持たないが一薙ぎで千の相手を屠れる切れ味と大きさを誇る。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
一定時間(およそ3分)の使用で消失する。
八割消費――グングニール――神の力を宿した投げ槍、ひとたび放てば必ず相手を貫く必殺の槍。
これは鎧などで防ぐことは出来ない。
レプリカ故に一度の使用で消失する。
「だそうだ……」
「どれも凶悪なんだが……」
「言葉が出ませんね……」
「私にはエッケザックスとやらが毛色が違うように感じるのだが?」
「ああ……えっと……わかった。エッケザックスだけ消失条件が使用じゃなくて時間になってる」
「どういうことだ?」
「どの武器も一回で消滅するみたいなんだが、エッケザックスだけは生成してから一定時間消えないっぽい」
「それまたひでえな……デメリットはねえのか?」
「あー……ライフポーションによるLP回復は本来の効果の一割しか回復せず、LPの回復速度が1時間の間1/2になるらしい、クールは無いから連発は出来るみたいだ」
通常のライフポーションによるLPの回復は一律で一割回復、つまり10本飲めばいい。
今さらだが一本1000Nの高級品。
高級ライフポーションは一律二割、こっちなら5本で1本5000Nの超高級品。
高級は作れる錬金術師がほとんどいないから見つけたら買っておいて損は無い。
「一応財力で連発は可能か……チートくせえ」
「ギースよ、チートとは?」
「ああ、要するに強すぎてズルいって事だ。厳密にいえば若干違うが大体そんな感じで覚えといてくれ」
「私の知らぬ言葉がたくさん出てきて面白いものだな、あちらの世界は」
「俺たちからしたらありふれたもんだけどな」
「逆に其方から見ればこちらは新鮮なのだろう? そういうものよ」
「確かにな」
「できたー!!」
「おめでとうございますローズ様」
こっちで散々色んな事をやっていたのに向こうはマイペースに修行を続けていたらしい。
ローズがヌルヌル駆けずり回ってる。
「あっちはあっちで着々と修行の成果がでてるみたいだな」
「うむ、いいことだな」
「アタシも負けてらんないね」
「お前は能力的に少し負けててもいいんじゃねえか?」
「おいおい、そんな事言ってたらあっという間に置いてかれちまうよ。おーい! おめでとうローズ! 後でアタシにも教えてくれよ」
「俺もあの「ふりっと」とかいうの使えるかな……」
「いーよ! 私にもさっきのジーナのじっくり見せて! ギースもやってみる? あ、焼き鳥ちょうだい!」
「ああ、いいぜ」
「お? 待ってな、今焼いてくる」
ギースとジーナはローズの下に駆け寄り、先ほどの事を共有し合っている。
マクスウェルとランオウ、そしていつの間にか近くに来ていたランハクはそれを微笑ましく眺めていた。
「……向上心があるのは良い事ですね。マクスウェル様、ランハク」
「うむ、夜人族の未来は本当に明るいのかもしれんな……仲良きことは素晴らしき哉……だ」
「そうですね……街の人があの三人のように種族関係なしに笑い合う日は……きっと来ますよ」
マクスウェル達は、はしゃぎ合う人と元魔人と夜人の三人を見て何とはなしにそうつぶやいたのだった。
血を使ったプチチートクサイ技は設定のままだったのですが。
筆が滑るままに書いたらさらにチート技に……あるぇ~?
まあ、何とかなるさ。




