ロザリンの力作とギースの過去と吸血鬼の元聖女
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PVみてビックリ……
――服飾店「夜の風」
「うわぁ……スゴイ……」
「当然ですわ、腕によりをかけて作らせてもらいましたもの」
現在ローズの目の前にあるマネキンにはローズが頼んでおいた服が着せられていた。
希少な素材を使った部位はもとより、ほかの部位も見た目、手触りに於いて遜色がまったく見られる気配はない。
流石は匠の仕事か。
「ロザリンさんありがとう!」
「デザインは私のほうで勝手にやらせて頂きましたが、よろしくて?」
「うん! すっごい良い! しいて言うならスカートじゃない方が良かったけど」
「それは譲れませんわ、あなたはスカートを穿くべきですのよ」
「どういう理屈ですか……」
「兎に角着替えてきてはいかが?」
「あ、はい。そうします」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
名前:ローズ・ツェペシュ・スラヴァード
種族:夜人族【吸血鬼:真祖半覚醒】
装備
武器 :なし
頭 :なし
下着(上):女王絹の高級スポーツブラ
身体 :王蟲絹のカットソー
身体(鎧):なし
腕 :なし
腕(鎧) :ドラクロワのガントレット
下着(下):女王絹の高級ショーツ
腰 :王蟲絹のミニスカート
腰(鎧) :なし
脚 :王蟲絹のソックス
脚(鎧) :鰐革の靴
アクセ1:王蟲絹のスパッツ
アクセ2:なし
外套 :亜竜のAジャン
△ △ △ △ △
ちなみにAはaventuranto(冒険者)の頭文字。
冒険者全般が割と好んで着ている事からそういわれるようになった。
見た目は完全にGジャン。
女王蜘蛛の織物を使った女王絹のブラはしっかりと胸を保持してくれるだけでなく、どんな動きにも対応して擦れないように保護もしてくれる優れもの。
肌ざわりはシルクのようだ。
王蟲絹は女王絹よりも防御力面で劣るが、火の属性に対しての防御が女王絹よりも若干高くなっている。
女王絹の効果でローズの胸はどのような動きにも阻害されることは無く、火に弱い欠点も王蟲絹のカットソーで軽減。
それでいて女の子らしさを損なうことのないこの装備は、ぱっと見で「アンタ本当に冒険者?」と疑いたくなるようなものである。
要するに現実の普段着にしか見えないわけだ。
ちなみに亜竜のAジャンも火属性に強いフレイムワイバーンを使っている。
装備もそうだが、何かと夜人族は火(日)に弱いのでそのためだろう。
「よくお似合いですわ、私の見立ては間違いではありませんでしたわね」
「動きやすいし、凄くいいですよ!」
「一応全体的に合わせれば火属性に対しての防御をわずかなマイナスで済むように調整しましたわ。それでも火に弱い事には変わりなくてよ? 出来れば直接は食らわないようにしなさいな。それと、防御力面では表の街の初心者向け装備くらいでしたら傷一つつけることは出来ませんわ、教会の武器でも皮膚まで割くのは容易くはないと思いますわよ?」
だったら何故スカートにした。
一応スパッツがあるから肌が出ている部分は少ないのだが。
「ありがとうございます!」
「素材もお金も頂きましたから正当な仕事ですのよ、またいらっしゃい」
「ええ、ぜひ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マクスウェルの城に向かう前にローズはギースと合流していた。
「へえ、いい装備じゃねえか」
「うん! 動きやすいし何より可愛い!」
現実ではお洒落というモノと無縁だった為に尚更嬉しく感じてしまう。
「そうだな、ローズはそういう恰好の方がいいと思うぜ?」
「ふえ!? ななな、いきなり何!?」
「なんでそんなに慌てる! 言った俺が恥ずかしくなるじゃねえか!」
どうも彼は天然の要素があるらしい。
「た、他意はないんだね!?」
「どんな思惑が……ああ……その……」
察したらしい。
だが、その反応も自らの首を絞めるという事まで気づかない辺りはやはり天然の要素がある。
「……そ……それより! どうしてギースはシェイド達と冒険しなくなったの?」
「あ……ああ……それな。まあ、色々あるんだよ」
「き、聞きたいな。ダメ?」
露骨な話題転換である。
ギースはあまり喋りたくはなさそうだが、さっきの話題を続けるよりかはいいかと判断して確認をローズに取る。
「別に聞いても大したことじゃないし、面白くもねえぞ?」
「いいよ!」
「ったく……あれはβの頃の……終了間際くらいの事だったな……」
アモーレから南にある「蜘蛛の縄張り」でも世話になった大森林。
それを越えた先の街「迷宮都市ラビリント」で起きた出来事。
いつものように準備を整えていつものように潜る。
いつもと違ったのはβが終了間際だったこともあり、今日こそは迷宮都市最難関ダンジョン「ダイダロスの迷宮」を踏破してやろうと意気込んでいた事。
「回復アイテムも蘇生アイテムも何もかもが無くなりかけて、それでもまだもう少し行けると未踏のエリアに足を踏み入れたんだ……少しでも結果を残したくて焦ってたんだろうな、俺たちは」
「まだいける」は退き時だと言って普段は余裕のあるうちに帰って来ていた。
だが、その時は帰るための余裕の部分もつぎ込んで奥へと進む決断を下した。
ダンジョンボスさえ倒せば地上に繋がるポータルが出るから大丈夫だ、俺たちならやれると信じて。
「それが間違いだった……」
ボス部屋と思しき場所にたどり着いた時にはアイテムは枯渇していた。
ナタリエやアメリアのMPは7割とまだまだ余裕があったが、ボスがどういう出現をするのか不明なために不安は隠せなかった。
「脱出アイテムは無かったの?」
「聞いた話、今は最高難度のダイダロス限定で使用可能な「アリアドネーの糸玉」があるらしいが当時は存在していなかった」
「そう……なんだ……ごめん、続きお願い」
「ああ」
中に入るとそこは闘技場のようになっており、観客席の最上段に据えられた玉座には不敵な笑みを浮かべた3Mの大男、迷宮のボス「アステリオス」が座っていた。
アステリオスは腰も上げずに告げる。
『汝らが我の食事となれるかを見てやろう』……と。
そのセリフが終わると共に現れる視界を埋め尽くす魔物たち。
ギースたちは失敗したと全員が思った。
ボロボロになりながらも襲い来る魔物を全て片づけた時に奴は動いた。
『今回の食事は少しは食いでがありそうだな、では我自らが料理してやろう』
そういってアステリオスは足元に在った牛頭兜をかぶり、立てかけてあった両手斧を持ってギースたちの元へと飛び込んできた。
近くで見るとさらに威圧感がある。
迷宮の難易度もさることながら、ボスは頭一つ抜けている。
目の前で対峙したことでそれが確実に理解できた。
次に思うのは「勝てない」だ。
「ギリギリの戦いは割とあったが、仮にアイテムが十分にあっても絶対に勝てないって分かるような相手に挑むのは初めてだった……ああいう絶体絶命の時ってのはいくら死に戻れるとはいえ本性がでるもんなんだな……パニックになっていたナタリエは覚えていないだろうが……な……」
不意にギースの背中に衝撃が走った。
突き飛ばされたと気づいたのは数瞬後、何事かと思った時にはギースの首は宙を舞っていた。
クルクルと刎ね飛ばされた自らの首が地面に向かって回転しながら落下していたその間、回る視界に映ったのは必死の形相で腕を前に突き出していたナタリエの姿。
そんな事をしてもここはボス部屋、全員が死ぬかボスを倒すまでは出られない。
突然よろめいて首を刎ねられたギースに驚き、皆の動きが止まる。
その後は知らない。
「気が付けば迷宮の入り口だった……本人も何が起きたかわかっちゃいない……ほかのみんなはナタリエの行動を見ていない……だが、俺はそれであのパーティと一緒にいるのが怖くなった……背中を預けるはずの仲間を警戒してまで一緒にはいられねえ……だから、ナタリエがあのパーティに居る限りは近づきたくないのさ……」
広範囲や高威力での殲滅が好きな理由が分かった気がする。
要するに心のどこかではあの時の恐怖が残っていて、大量の魔物に囲まれるのが嫌なのだろう。
だからあの時戦略級の魔術を使ったんだと。
「そう……でも」
「おっと、そいつは言うな。俺は自分の選択を後悔はしていない、アイツを追い出して俺が残ろうなんてのは絶対に嫌だからな。まあ、シェイドには一応伝えたさ。アイツはリーダーだからな、本人に言うにしても上手い事出来るだろうと信頼してる。それでも今のパーティに落ち着いてるのは伝えたうえで纏ったか、未だ伝えてないかだが、そこは俺がとやかく言うところじゃねえからな」
「うん……」
そうこうしているうちにスラヴァード城の前についてしまった。
門前にはいつもの人が待ち構えている。
「よく来た……なぜそんなにも暗い?」
「「べ、べつに暗くないです(ないぜ)!」」
「そ、そうか……ジーナは既に目覚めておる。さあ、治療室へ行くとしよう。時にローズ、ロザリンは良い仕事をしたようだな。見違えるようだぞ」
「ありがとうございます!」
「なんで俺の時と反応が違うんだ?」
蒸し返す気は無かったがつい突っ込んでしまった。
「なんでもないよ!」
「ほほう? そうかそうか……うむ、良き哉良き哉」
「マクスウェル様!? 違うからね!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――スラヴァード城、治療室。
「ジーナ! ……え?」
「ん? その声はローズか!」
「おお、元気になったみてえだ……な?」
「お、そっちはローズと一緒にいたヤツだな? あんときはありがとよ」
「お、おう」
「ん? どうした? ああ、これか? マクスウェル様から聞いたよ、吸血鬼になるときに負った傷は固定化するんだってな。仕方ねえよ、命が助かっただけでも儲けものだ……ローズ?」
ジーナの腕には杭が刺さっていた穴が残っていた。
そして、両の眼がある筈の場所は空洞となり、あの時頬を伝っていた血の跡がうっすら残っていた。
「ごめんなさい……ジーナ……ごめんなさい……ごめ……うぇ……うぇえええん!」
「お、おいおい泣くなよ。さっきも言ったけど今生きてる事の方がアタシは嬉しいんだ、それにあの状態なら伝説のエリクサーでもなけりゃアタシの欠損は治らなかった。感謝こそすれ、謝られる謂れはないさ」
「ぞ、ぞれでぼ!」
まだ何か言おうとしているローズの頭を胸に抱えるようにジーナはそっと抱きしめる。
「ローズ……聞こえるだろう? お前が守ったアタシの音だ……アタシが今もちゃんと生きている証だよ……」
ジーナの胸の奥からトクトクと命を伝える音がローズの耳に響いてくる。
「う”ん……ぎごえでゅ……」
「種族は変わっちまった、今みたいに腕は物がつかめても感覚が薄い。目は普通にゃ見えねえ……でもな? 重要なのはそこじゃない……アタシが、今、こうして、ローズと、生きて話をしている! 重要なのはソコだけなんだよ……」
「うん……」
「だからアタシにしっかり言わせてくれ」
「……なに?」
「……お前が来てくれて本当にうれしかった、お前は最高の友だ。助けてくれてありがとうな、ローズ」
「あ……あだじぼ……生きででぐでてあじがどおぉぉ!!」
「はは、何言ってるかわかんねえよ。それに、両足は健在なんだ。アタシの自慢の蹴りは無くなっちゃいない、命が助かって足も無事。ならそれ以上望んだらきっと月の女神の罰が当たるだろ? ……これで一緒に冒険できるな、ローズ」
「ぐす……うん! これからいっぱい、いーっぱい色んな所に行こう! うえぇぇん! ジーナぁぁぁ!」
「だから何で泣く!?」
「……もう少し、このままでいい? ジーナの音、もっと聞いていたい……」
「……ったく……いいよ……好きなだけそうしてれば」
「……うん」
~ ~ ~ ~ ~
「ううむ……これは……」
「俺たちはしばらく離れた方がいいな、マクスウェルのおっさん。流石にこれに水を差す気にはなれねえ」
「そうだな、しばらく二人だけにしてやろう」




