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authentic world online  作者: 江上 那智
冒険の始まり
13/51

防具作成の課題とローズの修行

本日は一話のみの投稿

――冒険者ギルド、酒場。


結論から言えば織物は手に入れた。

しかも二つも。

幸い(?)にも女王の巣はあの大規模破壊魔術からギリっギリで難を逃れていた。

そのおかげでシェイド、アメリア、ファンブルの頑張りと憤怒のガントレットの力で5回ほど女王回しが出来たからである。

運のいいことにそれだけの大破壊をやらかしたせいで取り巻きが極端に減っていたのも女王回しの効率に拍車をかけていたことを言っておこう。

ちなみにローズが「森林破壊の痕(コレ)どうすんのさ」と戦々恐々していたがソコは安心。


このゲームのリアルを無視した数少ない点、それは大規模な破壊が行われても数日でフィールドが元に戻ること。

理由は狩場が破壊されると色々と(クレーム対応とかで運営的に)面倒だから。

世知辛い理由である。

とはいえ、やはり数日はかかるのでもし女王の巣が破壊されていたらジーナが目覚める前に織物を手に入れることは不可能だった。


ナタリエとゴドー?

そんな荷物があった気がする。

しかし、女王蜘蛛は「怖い」の一言だった。

今回のような事でもなければ二度とお近づきになりたくはない姿をしていた。

女王蜘蛛はアラクネーという蜘蛛と女性を掛け合わせたような異形なのだが、普通は蜘蛛の胴体に女性の上半身が生えている姿を想像するだろう。

だが、ネルソディラのアラクネーは仰向けになった裸の女性の脚の位置から両脇腹に掛けて蜘蛛の脚が生えているデザインだった。

フランスの画家であるギュスターヴ・ドレが描いた、ダンテ「神曲」に登場するアラニーチェ(アラクネー)の絵を基にしていると思われる。

兎に角その見た目が気持ち悪く、怖いのだ。


「もう戦いたくない……」


「その気持ちはわかるよ」


「アレはいやですぅ……」


「無限湧きの経験値は美味いんだがなぁ」


「殲滅するのが爽快よぉ」


「脳筋二人組は黙るである、また吾輩の謎ドリンクを無理やり飲まされたいであるか?」


「「ごめんなさい!!」」

あの後二人はシェイドとファンブルにこってりと絞られた。

見た目とは裏腹に、普段のファンブルは狂気の欠片も見せない。

やはりシェイドと同じ常識枠だった。

ただし、戦闘時は除く。


「まったく……ゴドーの「捨て奸」もアレだけど、今回の戦犯は完全にナタリエだからね? わかってる? 通常戦闘で「セラフ」は撃っちゃだめだよ。アレ、創ったはいいけど上級すっ飛ばして神代になっちゃったからMPまったく足りないし、撃てば魔力枯渇で行動不能になるし、そもそも戦略規模の魔術はレイドボスか都市防衛戦で相手が遠くにいるときに撃つものだからね? ホントにわかってる? てか聞いてる?」

ナタリエの実力的には先の「セラフィエル・ソング」とやらはオーバースペックのようだ。

確かに持て余している感はあった。

本当は中級魔術を覚えた時に四属性混ぜたらどうなるかを検証してて、どうせなら光と闇も混ぜて見たら最強に見えるんじゃね? という好奇心からやってみたら成功。

結果、失われし古代の禁術が甦ったのだと。


「きーてるわよぅ……ごめんなさいねぇ」


「……ファンブル」


「準備はいつでもできてるである」

右手に持つフラスコからは紫色の煙が立ち上っている。

見るからに身体に悪そうな虹色の液体だが、なぜか匂いは甘ったるい。

匂いだけ嗅ぐと美味しそうに感じてしまう、それがまた怖い。


「ごごご、ごめんなさいもうしませんお願いですから許してくださいシェイド様ファンブル様なにとぞなにとぞおおお!!」

そんなにファンブルの謎ドリンクが嫌なら素直に反省すればよいものを、とローズは思ったが口にはしなかった。


ちなみに飲んだ後は涙に鼻水、涎に尿に汗と体中の穴という穴から体液を吹き出し、ビクンビクンと全身を痙攣させた後に何故か発光してHPとMPとLPが全快。


ゴドーのスキルデメリットすらも帳消しにする効果を発揮したが、効果・匂いと反比例するかのように味は地獄そのもので、同時に麻痺と混乱と幻覚の状態異常が併発する恐ろしさ。

これがデメリットを消しても役立たずになるアイテムかと理解した。


曰く、牛乳を拭いて一週間放置した雑巾から出したしぼり汁に三角コーナーの残飯汁を足して2乗した不味さ。

そも、そんな代物を現実で口にすることは人生どう転んでも無いのだが、それくらい不味いという比喩である。


「効果は抜群に高いのであるがなあ……この『福音の雫』」

名前は物凄く普通、効果は正に神の福音を与えられたかのような絶大さ、味とデメリットは地獄。

なんだこの謎ドリンクは。


「錬金に失敗したゴミを処理できないか錬金したらできたである」


「あ、なるほど」

ゴミ×ゴミ=超絶回復アイテムだったわけだ。

それなら味も納得……したくない。

効果が効果だけに勿体無く思う。


「味を良くする調合も試してるであるが、別のモノを混ぜると途端に効果が激減するである」

もうアレはそういうものだと割り切るしかなさそうだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ロザリンに織物を渡し、余ったもう一つも売却という形でさらに割り引いてもらい、蜘蛛祭りで手に入った素材を売却した金額を足して彼女への用事は終わる。

服が出来るのはジーナが目覚める当日、どうせだからとネフィルの下に行ってみる。


「お? 来たな」


「その節はありがとうございます」


「あん? ああ~……ひょっとしてガントレット(ソレ)のことかぁ? なんて言って渡したんだ、あの駄王」


「たしかネフィルさんに無理言って大急ぎで調整させたって」


「ぷ! あははは!! アレだろ? 聖女救出の時の話だろ?」


「はい、ギースに呼ばれて表のギルドを出発するまでの短時間で仕上げさせたって……」


「そんな短時間で調整なんかできっかよ! ありゃローズが怪我して担ぎ込まれたときにきっと必要になるからってやった代モンだ。あれで残ってた作業は刻印の修復と魔力の充填だけだから駄王しか出来ねえ。アタイはなーんもやってねぇよ」


「え? ということは……」


「照れ隠しだな。いい年こいたおっさんが何照れてやがるんだか……ぷ! ダメだ、笑いがとまらねえ!! あははは!! は、腹痛い!」


「あと、モロック様が言ってたのちらっと聞こえたんですがコレ、結構大事なものだったのでは?」


「はははは! は……はあ……あ~まあいいか。あれな、二代目の王ドラクロワ・スラヴァード様が使ってたもんなんだわ。その頃はデイウォーカーなんか珍しくなかったらしくてな、昼間のデメリットを帳消しにする技術が発展した時期でよ、数々の武具が生み出されたときの名残というか遺品だな」


「そ……そんな大事なものを……」


「駄王がいいって言ったんだからいいんだよ。それに、デイウォーカーが発現しなくなってからはその武具達は廃れた。昼間に戦えないんだからしゃーないわな。んで、そん代わりに今この逢魔を覆っているような魔術が発展した、今は王家しか使えないけどな。なんで王家以外が使えなくなったかは知らん。つー訳で、使い手が現れたなら使った方が道具は本望なのさ。骨董品として飾られるよりも、使えないものとして倉庫で埃かぶるよりも、壊れても良いから使ってあげるのが道具にとって最大の感謝だ」


「……ありがとう……ございます」


「いいっていいって、お礼は駄王に言ってくれ。どんな顔すっかみれねえのが残念だな……ぶふ! っと、用件は防具だったな? 出来るだけ動きを阻害しないような鎧だな? となると胸当てに腰に足か……素材はどうするかな」


「出来れば蜘蛛以外で」


「うん? 蜘蛛素材? ああ、アラクネーか。あれ気持ち悪いよな、安心しろ。アイツの糸は上質な服の素材だが、アイツ自身は良くて中級に上がれる奴がやっとこさ作れる程度のもんしか作れねえ。そんな装備渡したら駄王にどやされっちまうよ」


「別にいいのに……」


「最低でもランクはそのガントレットの二段階下だな。ってかそれと同じもの作るなら魔術と親睦性が高い魔導鋼か……オリハルコンってとこか? どっちもここいらじゃ手に入らないし、取れる場所は普通に死ねる」

どうやらこのガントレットはとんでもない代物らしい。


「そうだなぁ……この辺で取れそうでって言ったら……ミスリル鋼かな? あれなら昔表の街の北の鉱山で取れたな、質は普通だったか? 今はどうか知らないが」


「鉱山ですかぁ」


「早急に必要じゃないんだったらロザリンの服が出来た後でもいいんじゃないか? アタイは依頼を受けて造るだけだからな」


「うーん……そうします」


「焦っても自分を危険に晒すだけだしな、装備が上質なら焦っても多少の無茶は効くが、その上質な装備を造るのに無茶するのは本末転倒だ。何なら地力を鍛えてからでも遅くない」

確かにネフィルのいう事は一理ある。


「そう言えば鍛錬なんかしてなかったや」


「おいおい、まったくの素人戦法で今までやって来たってのか!? 大物なんだか無謀なんだか……ひょっとして職業も?」


「……無職です」


「まじか……表の街でも戦闘教練はやってる、吸血鬼のスキルを覚えたいなら駄王に相談するのもいい。街の周辺で終えるなら今のままでもいいが遠くに冒険したいなら技術は覚えた方がいいぜ?」


「うう……肝に銘じます」


「ま、大事になる前に気づいて……いや、一度大事になってるな……うん、アタイの装備造る前に条件をつけようか。一つなんでもいいから戦技スキルを習得する事、それと職業に就くこと。これだな」


「はい!」


「よろしい、んじゃそういう事でよろしく」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ふむ、それで私の所に来たのか」


「はい、何か私に合いそうなものありますか?」


「うーむ……とりあえずは実際に動いてもらった方がいいか? ランハク」


「はい、これに」

相変わらずどこに潜んでいるかわからない人である。

普段からランオウしか近くにいないところを見るとランハクは裏の仕事をメインにしているようだ。


「ローズの戦闘能力を測るために手合わせしてもらえるか?」


「かしこまりました」


「場所は訓練場を使うとしよう。ローズ、こっちだ」

マクスウェルに案内されて足を運んだのは東京ドーム半個分くらいの広さがある場所。


「ひろい……」


「ここは結界魔術が施されているから多少暴れても周囲に被害は及ばぬ。なにせ夜人族の訓練場だからな」

そう言った意味ではマクスウェルに相談したのは正解だったようだ。

昼間ならさておき、夜の力で全力を出せばアモーレの施設はどうなるかわかったもんじゃない。


「ローズ様、全力で構いませんよ?」


「え? でも……」


「心配するな、こう見えてもランハクは幼体ならば単独でドラゴンを撃破出来る実力をもっておる」

この世界のドラゴンがどれほどの強さかはローズにはわからないが、それでも目安にするには充分だろう。


「わかりました、では行きます!」


「ええ、お好きに打ち込んできてください」


「やああああ!!」

言われた通り今意識的に出せるであろう全力でランハクに飛び掛かるローズ。

対してランハクは水面に浮かぶ木の葉のようにユラユラとローズの攻撃をミリ単位で躱していく。

正直これほどの差があるとは思っていなかった。

人族であれば掠っただけでもHPが半分は平気で吹き飛びそうな一撃を涼しい顔で避け、同時に寸止めでローズの隙が多い場所に打ち込んでくる。

10合も合わせれば自分がいかに矮小なのかありありと理解でき、体力が尽きる前に心が折れた。


「そこまで! どうであったかな? ローズ」


「まったく当たる気配がありませんでした……もしランハクさんが本気なら最初の攻撃で私は……」

嫌な想像をしてしまい身震いするローズ。


「ふむ、ランハクはどうであった?」


「そうですね、身体の使い方は致し方ありませんがパワーはマクスウェル様に匹敵するかと」


「!? なんと!」


「ですのでそのまま格闘術を修めて速度で翻弄し、魔術を駆使して戦う二代目様のような戦い方か、膂力をフルに使って大剣や槌などで一撃打倒を目的としたマクスウェル様のような戦い方が合ってるように思います」

マクスウェルはどうやらチマチマしたのが苦手のようだ。

妙に納得してしまう。


「なるほど……ローズ、其方はどちらが好みかな?」


「えっと……」

一撃打倒を聞き、先日会った赤い髪の侍を思い出す。


(ああいう戦い方ってことだよね……ちょっと嫌かな?)

見ている分にはいいが、自分があのように大柄な得物を振り回す姿はちょっと違う気がした。

決してゴドーを乏しめているわけではない。

何気なく今使っているガントレットに目を向ける。

憤怒の刻印が魔力を帯びて薄っすら光を放っている。


(たしか二代目様が使っていたんだよね……うん、これってきっと運命だよね!)


「二代目様のような格闘がいいです。このガントレットに恥じないように!」


「ふむ(あれ?)」


「なるほど……そういう事でしたら丁度良いのかもしれませんね」

そう言ってそっとガントレットを撫でるランハク。


「うん……きっとそうしろって言われてる気がするんだ」


「そうですね、畏まりました。鍛錬はいつから始めますか?」


「折角やる気に満ちておるのだし、今からでもよいのではないか? (あれれ? 私、ローズに二代目のガントレットって言ったかな……)」


「いいんですか!? ランハクさん忙しいんじゃ……」


「あの一件以来教会も動きにくいようでな、モロックが根回ししているのもそうだが暫くは大したことにならんだろうから表の調査は減らしても構わん(言ってないよなー……どこから漏れた? ネフィルか?)」


「……だ、そうですよ。今からやりますか?」


「お願いします!」


「かしこまりました……ふふ……みっちり仕込んで差し上げます……二代目様が編み出したドラクロワ流格闘術の全てを……」

俯いてニタリと口を三日月にするランハクを見てローズは再び身震いをする。


「……マクスウェル様……私、はやまりました?」


「……あきらめよ……ランオウ、タオルと飲料を用意するように(あとでネフィル問い詰めるか……)」


「はい、既に」


「流石よの。……ローズ……グッドラック(うん、そうしよう)」


「あ、あの……ランハクさん、加減をですね!? あきゃああああ!!」


「ドラクロワ流の基本は脱力! もう教練は始まってます! 水面に浮かぶ木の葉のように、風に揺蕩う柳のように流れに逆らわないのが心得! 力が入っていた場合容赦なくその場所を蹴り貫きます! さあ身体で覚えなさいませ!!」


「ランハクが燃えているな……」


「久々に鬼教官モードですね」


「厳しすぎてアイツに教えを乞うのが居ないからな……」


「それをわかってランハクに相手をさせたのでは?」


「いや、厳しい厳しいとは聞いていたがここまでとは……」


「……後でローズ様の愚痴にでも付き合ってあげるのがよろしいかと」


「……そうする」

謎ドリンクェ……

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