聖女奪還と吸血鬼化
R-15? 18?な回です。
知り合いに聞いたらコレ18じゃね?
って言われました。
でもやりたかったんや! その2
――聖都、中央広場。
ざわ……ざわ……
――おい、アレ聖女様だろ? なにが始まるんだ?
「その者の腕を抑えよ」
神父服に身を包んだ小太りの男が指示を出し、ジーナの両腕が水平になるように板の上に乗せられる。
黒い目出しの頭巾をかぶった男がジーナの手首より数センチ下、丁度尺骨と橈骨、手根骨の中間に杭を打ち込んでいく。
「が! がああああ! ぐぐ……ぎ、ぎいいいいい!!」
――ひでえ……。
反対の手にも同じことを施し、ジーナは広場の中央に立てられた柱へと引きずられていく。
柱には両手を打ち付けた板が嵌るような鉤が付けられていた。
頭巾の男が両足の脛あたりにも杭を打ち込む。
これは足場代わりになるのだが……。
「ぎ! ぎぃ! ぐああああ!!」
杭を打たれたことにより破壊された正中神経は絶え間ない激痛をその身に与える。
「「蓋」をしろ!」
指示を受けて頭巾の男が取り出したのは黒い鉄製のマスク。
鼻から上、目だけを覆う形のマスクの裏には二本の突起があった。
男はそれをさも当然のようにジーナに被せる。
「いぎやああああああ!!」
両の眼はマスク裏の突起によって貫かれ、ジーナはあたかも血の涙を流しているような状態となる。
――ここまでやるのか……。
――聖女様かわいそう……。
――一体なんの罪なんだ?
「この者は神の敵である夜人族に組した罪で磔にされた、その身に掛かる苦難を懺悔とし、神に許しを請うためにな!」
――は? それだけでこんな拷問みたいな事されんのか?
――しー、下手するとその言動だけでも夜人族を擁護したことにされかねない。
――俺、聖都から出ようかな……。
ざわ……ざわ……
「(聖女ジーナよ、いい身分だなぁ……今ならその態度を改め、私らに従順な信徒となれば助けることも吝かではないが?)」
「け……従順な信徒と言う名の性奴隷だろうが……誰がてめえらの慰み者になるかよ……ぺっ」
「ぬう!! 貴様! この私に唾を吐きかけよったな!」
――さらに鞭打ちまで……ひえ、血が……。
――き、気持ち悪くなってきた……。
「おやめくださいハディス様! それ以上やれば死んでしまいます!」
「ええい、どうせ処刑するのなら今殺しても構わんだろうが!」
「見せしめの意味がございます! 長く苦しんでる姿を見せる事に意味があるのです!」
「ぐぬぬ……ち、ジーナよ。すぐに楽にしてやれずにすまんな、せいぜい長く苦しんでくれ。行くぞ」
「「はは」」
(はあ……いててて……くそ……ローズどうしてるかなぁ……襲われたって聞いたし、無事だといいんだけどな……!!?)
――ゴキリ。
「~~っ!! ぐあああああ!!」
杭によって押さえつけられた両の肩は自重に耐え切れず脱臼を起こした。
肩が外れた事により胸郭に負荷がかかり、横隔膜の活動を阻害。
「くっ、が、がは……ぜひ……ぜひ……」
結果、呼吸することが困難になり、ジーナは徐々に衰弱していく。
息苦しさから逃れようと「わざとそうできるように仕向けられた」杭を足場に力を入れるのだが、その足場は細く、痛みによりバランスを取りにくい体は当然の如く足を滑らせる。
そうなれば身体は勢いをつけて重力に引かれ……。
「ひぎ! ひぐあああああああ!! が、……は……ぜひ……ぜひ……」
再び両の手に先ほどよりも強く衝撃がかかり激痛がその身を蝕む。
上げた叫びは急激に肺の中の空気を外に出し、さらなる呼吸困難を引き起こす事になる。
(は、は……くそったれ! ……死ぬな……これは間違いなく死ぬ……でも孤児院はローズに任せたし……ああ……最後にローズの声が聴きたいかな? ん? フレンド通信?)
『ジーナ!』
(おいおい、今一番聞きたかった人の声じゃないか……くそったれな神も粋な計らいをしてくれたようだ)
「ぜひ……ぜひ……ロ……ズ……ぶじだ……たか」
つい癖で声に出そうとするが、呼吸がままならないので言葉にならない。
『!? ……ジーナ、大丈夫……じゃないよね……何をされたの?』
なので、ジーナは心で答える。
『ああ、今中央広場で磔になって見せしめにされてるよ』
『そんな……』
『ローズ、孤児院はどうなってる?』
『皆元気だよ、今は食事も満足に取れるから毎日が笑顔になってる』
『そっか……よかった……ローズは無事だったんだな。襲われたって聞いたけど』
『うん、私は平気。ジーナ、今ね……貴方の処刑の話を聞いて聖都に向かってるの』
『な!? ダメだ!! がああ!!』
慌てた事により再び杭から足を滑らせ息が詰まる、意識が持っていかれそうになるが今意識を手放してはいけない。
ジーナは三度必死に足で体重を支えようとする。しかし、焦れば焦る程に安定しなくなる。
『だ、大丈夫!?』
『せ、聖都は教会のテリトリーだ……ローズが来たら侵攻してきたって口実を与えてしまう……殺されるよ!』
『分かってる、でもジーナを放ってなんか置けない。ごめんね、一個訂正させて……向かってるんじゃなくてもう居るんだ』
『!!? ……はは……やっぱ噂に聞く夜人族とは違うね……ローズは馬鹿だ……大馬鹿だよ……アタシなんかの為に命かけるなんてさ……』
『馬鹿でいいよ……友達を見捨てるよりずっといい……もうすぐ中央広場につくから切るね』
『……ありがとう』
危険を顧みずに自分の為に来てくれる人が居た。
それだけで満足だ。
(なんとしても生きながらえなきゃな……)
「ぐぐ……ぐぎぎぎ……」
身体の痛みがなんだ、友が来てくれるのならこんな痛み耐えきってやる。
ジーナは己に活を入れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「(居た)」
「(酷えことしやがる……)」
遠目に見えるジーナは明らかに衰弱している。
しかし、必死に足に力を入れて踏ん張っている姿も見て取れる。
それはとても痛々しく、凄惨なモノでもあった。
「(行こう!)」
「(……予想通りにならないといいがな……よし、覚悟完了だ)」
元から完了していたのに今さら口に出すのは少しでも緊張を和らげるため。
二人は既にわかっていた。
これが罠だという事を。
「ジーナ!」
「ぐ……ろぉ……ズ……」
「これはこれは夜人族のお嬢さん、こんなところで何をしているのかな?」
晒し者、という状況にも関わらず周囲に誰も居ない段階で見え見えの罠。
しかし、それが分かっていても突っ込まざるを得ない状況。
その結果が四方を聖騎士に囲まれた今のローズである。
「は……でぃす……」
「ふん、アバズレ一人の為に昼間だというのにご苦労だな。太陽神の加護がないお前には激痛じゃないのか?」
「ジーナを解放しなさい」
「この状況を見てもそんな口がきけるか……おい」
ハディスの呼びかけにより槍を携えた騎士がジーナの横に立つ。
これから何をしようとするかは火を見るよりも明らかだ。
「やめてぇぇ!!」
一瞬のためらいも見せず、そうすることが当然のように聖騎士はジーナを槍で一突きにした。
「が……は……ローず……ごめ……に……げ」
ガクリを頭を垂れるジーナ。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべるハディスのどこが神の信徒だというのか。
「どっちみち死ぬんだ、苦しみが終わったのなら感謝してもらいたいね」
「おまえええええ!!」
握りしめた拳を振り上げ、ローズが飛び掛かる寸前でハディスは騎士たちの背後に素早く移動した。
「おっと、私は戦いが苦手でね。侵攻を確認、迎撃せよ! これは神意である! ではさらばだ」
誰の目で見てもわかる。
先に手を出させるためだけにジーナを刺したのだと。
「待て、逃げるなああ!!」
「おっと、貴様の相手は我々だ!」
「どけ!」
「ふん、昼間の夜人族に何ができ……なに?」
立ちはだかった聖騎士の一人を殴り飛ばす。
想像していた以上に衝撃に踏鞴をふみ、驚愕する聖騎士。
受け止めたシールドは小さな拳の形に凹んでいた。
「噴!」
「邪魔だ!! ジーナああ!」
「もう死んでいる! 無駄な抵抗は止めろ!」
LPゲージはまだ残っている。
完全に死ぬまではまだ少しの猶予がある。
「五月蠅い!」
あの時襲ってきた聖騎士の方が強かった。
今の連中は連携がそこまで上手くはない。
だが、下がっているパラメータはそれでもローズを窮地に立たせようとしてくる。
「く……こんな痛みがなんだ! ジーナはもっと痛かった!」
「な!? 神聖属性が効いていないのか?」
効いていないわけではない。
ただ、神聖耐性(極)は80%の神聖属性減退と状態異常「聖痕」発生率を著しく下げていた。
「どういうことだ?」
明らかに普段と違う状況に聖騎士たちは驚愕する。
何事にもイレギュラーは存在するのだから、そのイレギュラー対応をしなかったのは自分たちの落ち度だろう。
「かあああ! どけ! 道を開けろ!」
「ローズ!」
先ほどから姿が見えなかったギースがいつの間にかジーナの元にたどり着いていた。
既に磔の状態からは脱し、よく見れば色んなポーションを振りかけている。
「なんとか未だ息はある! 俺が守るからお前は暴れろ!!」
彼は狩りをする都合上潜んだり気配を消したりというのに長けたスキルを取得していた。
まさに狩人。
むちゃくちゃな突撃を繰り返したのは二人の策であった。
中央広場を見て、罠だと思った。
そこでギースのスキルを聞き、シーフ系寄りのスキル構成だったのでまず派手にローズが暴れて注意をひきつける。
その間にギースはコッソリとジーナを助け出し、憂いをなくす算段だったのだ。
つまり激昂していたのは演技だったのだ……半分くらい。
「ギース……最高!」
憂う部分が無くなったローズは先ほどまでの突撃を止め、距離を取る。
使うのは切り札。
魔術名を心の中でつぶやくとアシストが働き、勝手に詠唱が始まる。
『我、月の恩寵を受けし夜人の民が汝、月の女神に願い請う』
詠唱が始まるのは中級魔術以上。
魔術名のみで発動が可能な初級、一節の詠唱が入る中級。
上級は二節、神代級はものによるが最低三節から構成される。
『時の流れ、幾年か。一夜に千の月昇る、昼は赤く、夜は白く。光輝く月の檻』
王家の秘術、これは分類で表すならば上級。
だが、秘術であるがゆえに夜人族にとってはその威力たるや破格。
これは、ハイ・デイライトウォーカーを失い、デイウォーカーすらも発現しにくくなった夜人族が邪神の封印を維持するのに常に夜の力を発揮する為、生み出された最高の魔術なのだ。
「幻想魔術……「月千一夜」!!」
逢魔の風景は何度も見ている。
流石にあの規模は真似できないが、この中央広場程度ならばどうにか出来ると確信していた。
広場全体に結界が張り巡らされ、世界が暗転する。
頭上に輝くのは幻想で作り出された偽りの赤い月。
ローズの実力では結界が維持出来る時間は短い。
持って15分だが、それは十分なおつりが来るだけの時間。
そして、昼と夜が反転した世界で……彼女の力も反転する。
「なんだ!?」
「急に夜に!?」
「月が……赤い月が……」
「あはは……貴方達……楽に死ねると思わないでね?」
そこからは蹂躙だった。
昼間の状態でも盾をへこますほどの補正が掛かったガントレットを夜の力で使ったなら防具はまるで意味をなさない。
まして、称号「叛逆者」の効果により神聖特効が付いた彼女の拳は次々に聖騎士の装備を破壊していく。
苦し紛れに放った神聖属性の斬撃も神聖耐性(極)を持つローズには本来の効果をほとんど発揮できない。
再生を阻害することも動きを制限することも出来ない攻撃は、夜人族にとってもはや攻撃ではない。
そして、ローズは聖騎士たちにわざと致命傷を与えず、状態異常「出血」を与えてから手足と顎を砕く。
そうすれば回復の魔術も使えず、ポーションも使えない。
「少しづつ衰弱して死になさい」
騎士たちは絶望と言う名の恐怖をその身に刻み付けながら夜人族に敵対したことを後悔し、死んでいった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
死に戻る事がない住人たちの遺体は魔物と同じくその場にとどまり続けている。
聖都の中央広場はおよそ30にも及ぶ遺体が散乱し、文字通り血の海と化していた。
そんな中で蠢く人影が三つ。
一つはこの惨状を作り出したローズ・ツェペシュ・スラヴァード。
もう一つはその仲間、ギース・チーフコック。
そして……聖女ジーナ。
「ジーナ!!」
「ろ……ず……」
「駄目だ! 衰弱が消えねえ! 血が足りなさすぎる!!」
ジーナは鞭打ちされたことによって状態異常「出血」を起こしていた。
それにより、ポーションで外傷を治し、モロックにより持たされたライフポーションを使い、脱臼を無理やり嵌めてもなお衰弱を軽減することは叶わずにLPは減少を続けていた。
そう、彼女は今「致命傷」と言って差し支えない状態になっているのだった。
「……もう……いいよ……」
「ジーナ!?」
「……助けにきてくれて……嬉しかった……それだけで満足さ…………もう、アタシは助からない……」
傍からもそれは間違いなく理解できる。
ギースは最早見ていることが出来ずに顔を逸らしている。
「そんなことない! 絶対に助ける!!」
「はは……気休めは止してくれ……もう……身体の感覚が無いんだ……LPも……ほとんど尽きてるんだろ?」
LPは一割を切った、すでに一刻の猶予もない。
「やだよ! もっと話をしようよ! 教会なんかやめて冒険しようよ!!」
「ああ、いいなそれ……ローズと冒険したいなあ……したかったなあ……くそ……未練……できちゃったじゃないか……ばかぁ……」
「ローズ……聖女はもう……」
「私は絶対にあきらめない! ……はっ!?」
ローズはここにきて自分がもたらされたスキルの存在を一つ思い出す。
もしかしたらこれならばなんとかなるかもしれない。
しかし、それをやるという事はジーナに今を完全に捨てる事を強要するという事だ。
だが、時間は待ってはくれない。
「ジーナ……あなたは人を捨てても生を掴みたい?」
「……? ……生きたい……それでもいいから……もっと生きたいよ……死ぬのは……やっぱり嫌だよう……」
「(条件の一つは良し!) わかった! ねえ、ジーナは処女?」
「は? おまえこんな時に何を聞いて……」
「大事な事なの!! あなたは処女!?」
この問いには答えず、ジーナは微かに頷くにとどめる。
「(二つ目もよし!!) わかった! ……今からあなたを夜人族に生まれ変わらせる!」
「はあ? そんな事できんのか!?」
「MPは……」
幻想魔術を使った為にMPの消費が激しく、心もとない。
「ギース、MPポーションは!?」
「あ、ある! 念のために持ってきた一つだけならある!」
「出して! 早く!!」
一個ではまだ不安だがないよりはましだ。
「お、おう!」
ローズは一息にMPポーションをあおり、自分とジーナの指先に傷をつけ、お互いの血を重ね合わせる。
「いくよ? 吸血鬼化!!」
「!!? うぐ! ぐあああああ!!」
強制的に流し込まれた血と魔力はジーナの身体を急速に変質させていく。
無理やり作り変えられようとする身体は激痛という形でジーナに襲い掛かった。
「っ!! 耐えて! (激痛が相手にあるなんて聞いてないよ!)」
「あ、あ、あがあああああ!!」
僅か1分にしかならない程度の時間がとても長く感じた。
やがて、叫び声が落ち着いたとき、そこには一山の灰が残されていた。
(失敗? いや、ジーナのLPゲージ僅かにだけど残ってる……灰化……間に合った)
「ローズ……こいつは?」
「これはジーナだよ。……中がどうなってるかわからないけど我慢してね」
ローズは優しく丁寧に灰となったジーナに手を触れてマジックバッグに収納する。
なんとなく出来ると思ったから実行したのだが、灰化状態は一応死体扱いのようだ。
そのまま通信魔石を取り出してモロックに連絡を入れる。
即座にシルフィードが姿を現し、二人は再び大空へと飛び立っていく。
ローズが立ち去った事により制限時間を待たずに結界は崩れ去り、辺りは再び太陽の光に包まれた。
これにより聖騎士たちの遺体は衆目の眼に晒されることになり、聖女を不当に処罰したことによる神罰が下ったとされ、教会はその力を一時的に削がれたのだった。
ちなみにご存知の方もおられると思いますが、足は45度に曲げさせてかかとを合わせるようにして杭を打ち込むのが本来です。
ちょっとマイルドにしたつもり。
幻想魔術は勿論あの有名な某吸血鬼の作品が元ですね。
あまり使わせる気は無いです(笑)。




