第一章 止まることのない機械
私はあの機械を撒いてからしばらくの間、工場の天井で呆けていた。
工場の背がそこまで高くないため、見える範囲に限りはあるものの、相当遠くまで見ることができる。暗く光しか見えてないが、今見えている光のほぼすべてがなんのために動いているかも分からない機械が発しているものだろう。
でもこの世界の機械はなぜ今でも動き続けているのか。とっくの昔に人類はいなくなったと思うのだが、機械はその動きを止めることなく今現在も動き続けている。目的が知りたいのだが相手は機械なので、意思疎通を図ることができない。つまりは自分で資料なりなんなりを使って調べなければならないのだ。
そうと決まれば探しに行くしかない。私はこの工場の管理室を探した。管理室は全体が見えるようにと高い位置にあるため発見しやすく、そこら中の工場をやたらめったら探すよりはるかに高い確率で昔の資料などが残っている。いわば穴場スポットのようなもので私のわずかしかない知識も大体が管理室の資料から得たものでもある。
探し始めて数分都合の良いことに私の後ろの方にタワーのような建物があったので、そこに向かうことにした。工場の屋根で助走をつけ、隣の屋根に飛び移る。そこから三段跳びの要領で一気に加速し最後の一歩で左足を大きく踏み切る。上に浮く瞬間に、両手からジェットを噴射させる。この機能のおかげで数十mの高さなら私は階段などを使わなくても登れる。両手の出力を調整し、うまくタワーの割れた窓から中へ入る。このジェット噴射の扱いももう慣れたものだ。最初の方は出力も誤って顔面から地面に突っ込んだりしていた。最近では私を襲ってくる機械を迎え撃つため、戦闘にも使えないかと考えている。パンチを加速させたりとか。
「さて、管理室についたことだし資料を探すか。」
そうつぶやいて近くにあった液晶が半分割れたパソコンを起動する。やはり画面の半分は見えないがそれでも充分だ。私は何故か生まれつきパソコンのような機械関係は使える。理由は分からないが直感的に使い方が浮かんでくるのだ。
「でもそんなうまくはいかないよなぁ。」
いくらパソコンが使えるといっても目的の情報を手に入れるためにはそれ相応の操作をしなければならない。それに加え、今ここには何のヒントもないためやみくもに探すしか方法はない。ただでさえ膨大なデータ量を誇る管理室のパソコンだ。見つけるには骨の折れる作業となるだろう。
「地道に探していくしかないか・・・・。」
データの捜索を始めようとしたその瞬間。
ガシャァァァァァァァン!
つんざくような音が響き、私は思わず耳を塞いだ。目の前にガラスの破片に舞い、スローモーションのようにこちらへ向かってくる。顔を手で覆い、何とか守り切る。どうやらすぐ目の前にあった窓ガラスを割り、何かが中に入ってきたようだ。またさっきのようなおかしな機械かと思い半分呆れながらもその何かを見る。
私はその瞬間、強烈な違和感を感じた。さっきの機械とは比べものにならないほど細い体躯をしているのにも関わらず、自分の等身の倍はあるかのような武器を背中に背負っている。そして何より...。
「に、人間!?」
そう、窓ガラスを割りながら入ってきたというのに傷一つついていないその何かは。
「ここでほかの人間を見つけるなんて思わなかったわ。」
今まで、この世界には存在しないと思っていた人間そのものだった。