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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
他国訪問編
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97/115

16:グルグな恋の物語

タバコの消費量UP。

カートンで買ったはずが……。

 寝台の上で目を覚まし、石造りの天井を見上げながらポツリと呟く。


「知らない天井だ……」

「あにぃ、それ三回目ね。言ってみたいのは判るけどさ」

「いや、ツッコミ早すぎない? こういうのって多少やってみたくなるでしょ?」

「時々意味判らんやり取りするよなぁ、自分ら……」


 試合が終わって現在はイグニス王城内の医務室、両者KO引き分けの英断を下した審判のおじさんには感謝だ。万が一、ザハルの方が早く意識を取り戻していたらそのまま踏み潰されていたかもしれない。


 顔パンパン状態で運び込まれた俺は、現在は高価になってしまった治癒軟膏を惜しみなく使用してもらってなんとか復帰したらしく、現在も顔がちょっとぬるぬるしているのが気持ち悪い。


「真由、わりぃけどタオルもう一回濡らしてきて。ユキヒメさんも氷か雪作れる?」

「看病される側がテキパキ指示すんなや、おとなしゅう寝とれ」

「ちょっとお水貰ってくるね。ユキヒメさんちょっと宜しく~」


 桶を抱えてパタパタと小走りに部屋を出て行く真由、その姿を見送りながらユキヒメが作り出した氷の塊を未だにグーの形に赤い跡の残るほっぺたに宛がってひと心地。ヒンヤリして気持ちが良い。


「爆破が小規模で良かったなぁ。高温の方やっても下顎消えてたコースやで」

「あんなヘロヘロパンチでこの被害っていうのが怖すぎんよ! で、結局引き分けだとどうなるの?」


 最終的にそこが疑問なのだが。それに対する返事は部屋の入口から返ってきた。


「引き分けでは無い、お前の最初の攻撃で結局意識を無くした俺様の攻撃は無効だ。よってその一撃が無ければ自ずと勝利宣言していたであろうお前の勝ちだ」


 戦闘用の衣装に上着を羽織った服装で、面白く無さそうな顔のザハルさんが立っていた。既に何も無かったように見える程度に外傷は回復しているので、未だに看病されている俺が勝者とか言われてもピンと来ないのだが。


「よもやこの時勢にまだ勇者の力を残して居ようとはな……神剣共が消失したと聞いて出てきたというのに、それが一番の不意打ちだ」


 腕組みしながら俺の寝台の横に腰を降ろすザハルさん。どうやらあんまり納得行って無い様子で。


「まぁ隠し玉って奴ですね。それに勝ちだと言ってくれるなら変に気を使って再戦とか言わないですからね? こっちの事情もありますし」

「くどい。審判がどう裁定しようともあの取り決めの上ではお前の勝ちは揺るがん。さぁ煮るなり焼くなり好きにするが良い」


 デンと構えるザハルさんを見ながら、前々から気になっていた事をユキヒメに尋ねる。


「何となく予想してたけどさ、あれなの? 竜人ってタイマンに負けたら相手の言う事聞かないいけないみたいな決まりでもあるの?」

「別にそういう訳でも無いんやけど、強さがウリのうちらにとって負けるちゅうのは恥以外の何物でも無いからねぇ。それで死ぬならまだしも生き恥晒す訳やし、負けた相手の意思を汲むちゅうのはそれ程不思議や無いやろ?」

「ユキヒメの場合は『ハイランド、及び次世代以降の勇者に助力しろ』だっけ?」

「せやな。まぁ現状あんた以降に勇者は出てこんやろうし、ハイランドが滅ぶまでは友好的にさせて貰うつもりやけどね」

「んじゃそんな感じで良いかな。『アルテミア全土に対し、害を為す存在から民を守れ』、後はちゃんと外交を含めて『国王様を大人しくしとけ』って感じかな」


 そんなとこだろうと口に出した直後、ザハルがポンと膝を打つ。


「合い判った。金輪際この国の王の座は俺が守り抜くと誓おう。富国強兵に勤め、民草一人に至るまで俺が守ってやろう」

「何か微妙に御幣があるような……」

「アルテミア全土を支配し君臨してやろう。それで異存はあるまい?」

「異存しかねーよ! それじゃ最初と変わらねーだろうが!」

「都合の良いようにしか聞こえん耳やからなぁ。もっとこう子供でも判る程度に噛み砕いて説明せんと、コイツは理解出来ひんよ?」


 恐らく本当にその程度なのだろう、不当な評価だとユキヒメに言い寄るザハルには悪いが、先ほどのやりとりで俺もそう思わざるを得ない。


「んー……でも言い聞かせて放って置くのも怖いよな。どう解釈を拡大してくるか予想も付かん」

「だったら手元に置いて置けばええんちゃう? 『俺についてこい』みたいな?」

「やだよ、こんなみえみえのフラグ踏みたくもねぇよ。現状で『やだ、私負けちゃった!ポッ』ってなってないだけ御の字だわ」

「いや、多少はそれも吝かでは無いぞ? どういう形にせよ強い奴は好ましい」

「結構チョロインなんですね……外見に似合わず」

「ハハ、そう褒めるでない」


 何故か照れているので意味は伝わって無いと安心した。チョロインとは言ったものの、条件付きの今回だから勝てたのであって在野で遭遇したら今はもうこの世に居ないと思う。難易度はベリーハード、もしくはそれ以上のヘル・インフェルノ級の攻略ルートだ。


「それに現国王の俺様が負けを認めたのだ、お前がイグニスの国王なのだが?」

「それもパス。俺はそんな暇無いの。外見上は引き分けなんだから、大人しく王様続投しないさいな。民に慕われるような王様ね、武力推進派じゃなくてさ。それが一つかな」

「ふむ……力こそ全て、良い世の中になったと思ったのだがな」

「どこの世紀末救世主だよ、しかも悪役の発想だそれ」

「では、甘んじてその条件は呑もう。武力以外での国の発展、そう取れば良いのか?」

「武力以外でも過激なのはダメね? あくまで平和に、あくまで他国と足並み揃えて仲良くね? OK?」

「おうけい? 了承という意味か?」

「案外理解力あるな、そうそう、そういう意味だ。OK?」

「おうけいだ。他は何かあるか?」

「そうだな……独裁じゃなくてちゃんとご意見番を用意してくれ。知識に優れた人材を登用して、しっかりとした政治をして欲しい。民衆の意見も蔑ろにしないような政治だな」

「だったら前国王が集めていた奴らを呼び戻すか。色々煩いので全員叩き出してしまったからな」

「通りでお城は広いのに家臣いねぇと思ったよ!! 速攻で呼び戻して謝っとけ!」

「む、おうけいだ。お前の言う良き国王になってやろうではないか」

「まぁこっちでも何かと情報は監視するからな? ツッコミ所満載の事してたら訂正させてもらうぜ?」

「フッ、見縊みくびるなよ。俺様に出来ない事は無い。理想の平和な国を作り上げる為に立ちはだかる輩は捻り潰してくれるわ!!!」

「だからそれがダメだっつってんだろうが!!」


 結局、戻って来た真由も交え考えた結果、良識の有る人をサポートに付けねばとなったのである。こちらの意図を理解し、信頼出来る相手でイグニスの住人。そんなの一人しか居ないのだが。





「面倒くせぇ。あの人のお守りとか冗談じゃねぇよ」


 開口一番否定されてしまった。初日に利用した大衆食堂にて、呼び出したのは勿論グルグさんだ。


「まぁそう言わずに、お願いしますよー」

「気持ち悪い声色するな、どんな人かお前らも分かってんだろうが。アレの制御なんか無理だろ?」

「一応サポートの言う事は尊重するように言い含めてあるから、大丈夫だって!」

「言い含めてあるって……お前の言う事なら聞くって感じの物言いだな?」

「公には引き分けになってるけど、ザハル自身は負けを認めたんだよ。だから俺のお願いは結構聞いてくれるみたい」

「そ、そうなのか。いや、改めてお前は凄いな……」

「だから、ね? お願いしますよ~」


 ふむ。と顎に手を当て考え込むグルグさん。そんなに悪い条件じゃないと思うんだけどな。暫し考え込んだ後、重い口を開かれた。


「やっても良い……良いが条件がある」

「何でしょ? お給料?」

「いや、昨日二つ頼みが有ると言ったのは覚えているか? 片方はもう処理したようだが、もう一つもお願いしたい。それが叶えば協力しよう」


 そう言えばそっちの内容は聞いてなかった。国王というかイグニスという国単位の問題に並ぶ内容、どんな重要な案件なのだろう。


「内容を聞いても?」

「う、うむ。実は」

「実は?」

「お前は~……その、こちらの住民とけ……結婚するのだろう?」

「ん? ええ、ハイランドの王女様と。年明けには公にしますけど?」


 何故今その話を?と予想外の話の展開に首を捻る。


「で、まぁ……その、何だ。コツ……そう、そうなる為のコツみたいな物を教えて貰おうかなと……?」


 今までのグルグさんからは想像出来ない程のおっそろしく歯切れの悪い喋り方だ。


「えと……要するにお付き合いの仕方を教えて欲しい、と?」

「ばっか! お付き合いとか気がはええよ! ちょっと話し掛けたり、そういう関係になる為には何かコツが有るんだろ?」


 小学生か。というか俺はこの人にどういう目で見られていたのだろう。


「ちなみに何故それを俺に聞こうと?」

「お前の周囲には女が多いだろうが、それに加えて一国の王女を嫁に貰うって豪語するくらいだ。女の扱いには慣れてんだろ?」

「何か凄いジゴロみたいな言い方しないで?!」


 そもそも俺の周りに女が多いとかどこで聞いたんだ、疑問に思った瞬間ユキヒメが視線を反らすのが目に入った。


「あんたか……」

「な、何? うちがどうしたって?」

「そこの姉さんに聞いた。間違いねぇぜ」

「あーもう余計な事言わんといて。うちはただソウジ君が来たら何とかなるかもとか、嫁貰う言うて浮かれてるとか、第二第三夫人候補に追われて嬉しそうとか言っただけやで?」

「後半もうイグニス関係無いよねぇ?! 寧ろそういう目で見られてたのかと思うと残念でならねぇよ……」

「ああいうのは傍から見てる方がおもろいんやで?」


 存外におばちゃん精神の塊だった竜人の評価を下げざるを得ない。最近は頼りにしていただけに非常に遺憾である。


「まぁ経緯は判りましたけど、俺に助言出来る事は無いかと」

「そんな事ねぇだろ! 姉さんの話じゃ毎晩とっかえひっかえで」

「してねーよ! とっかえひっかえ所か本命とも進展無さすぎんだよ! ほっぺにチューで身を粉にして頑張ってる俺に謝れ!」

「あ、あにぃ、落ち着こ? 赤裸々な私生活がちょっと漏れてる」

「はっ……俺は一体何を口走った……」


 テーブルに流れる微妙な空気。


「ほっぺにチューて……ククク」


 ユキヒメが一人ほくそ笑んでる。後で人の尊厳を賭けて挑まねばなるまい。


「まぁ、そういう訳で俺に期待するのは間違ってます」

「そうなのか……」


 ガックリと肩を落としたグルグさん、そんなに落ち込まないで欲しいんだが。


「でも相談くらいは乗りますよ? もしかしたら改善出来るかもしれませんし」


 何でこんな国外くんだりまで来て恋愛相談に乗らないといけないんだろうか。まぁ本題の国交交渉のネックになるお目付け役の為だ、それも仕方の無い事。決して他人の恋路を楽しむとかそういう目的では無いのだ。決して。


「相談……まぁそうだな。俺はよ、見ての通りの強面でな。どうしても女は怖がって近寄らねぇんだよ。だからそこを意識させずに、こう、気兼ね無く話せるにはどうしたら良いかって思ってな」


 ふむ。俺達の感覚で言ったらグルグさんも他の蜥蜴族リザードも見分けが難しい程に似ているんだが、本人は嘘が言えない勇者なので強面で間違い無いのだろう。


「はいはい!」

「妹、何か良い案が有るのか!」

「兜をかぶる!」

「それじゃあウピヤエと同じだし、フルフェイスなんか被ってたら俺が誰か判らんだろうが。何より気さくに話しかけようとしないだろ、そんな奴に」

「悩んでる割に受身?!」

「わ、悪いか?」

「逆逆、率先して攻めてこ? アピールしてこ?」

「ちなみに普段どんな感じで話してん? うちと話す限りでは結構普通に話してた思うけど?」

「あんたは歳が歳だし、ザハルと同じだろ? 気にかける方がどうかしてるぜ」

「結構キツイ事平気で言うねぇ?!」

「ザハルごと永久凍土に沈めたろか?」

「お、おう……失言だ。謝ろう。と言う事は姉さんに接するようにすれば良いってのか?」

「内心がそういうスタンスだと言葉にも漏れるからなぁ。口調はそのままで、内心は俺の様に紳士になれば良いんだよ」

「あにぃが、紳士……?」

「ないわ~」

「酷くね? その扱い酷くね? めっちゃ紳士じゃん?」

「サカカミ、その紳士道を教えろ。それがコツなのだろう?」

「紳士道って初耳だよ?!」

「険しい道のりだぞ?」

「フッ、望むところだ」

「あ、おにーさーん! 一番強いのジョッキで貰える? 長くなりそやし」

「今までの国の中で一番滅茶苦茶だよ!?」





 イグニスのメインストリートの脇道にその店は有った。華やかな店構えの多い場所から離れているせいか、少しだけ寂れた感じの店先に並ぶのは鮮やかな色の花。そう、お花屋さんである。


 店の様子が確認出来る程度の距離に身を隠し、小一時間程紳士道を伝授した愛弟子の勇姿を見守るのが今の俺だ。


「花屋の看板娘に一目惚れって……一昔前の漫画だよね……」

「一昔で効くか? 古典の部類だぞ、そんなの」

「他人の恋路は楽しいナァ。ザハルもそそのかしてみよカ。楽しそうやシィ……イック」

「あんた飲みすぎだよ?!」


 酔っ払いに注意しつつ、既に花屋へと向かった勇者グルグが行動に出たのを確認する。


「や、やぁタリナさん。今日もお元気そうで」

「あ、勇者様! 毎度ご贔屓有難う御座います。本日もお花でしょうか?」


 店内からいそいそと出てきたのはグルグさんより二周り程小柄な蜥蜴族リザードの少女?だ。若干目が丸みを帯びているし、何より服装がスカートなので女性と判断する。


「頑張れ我が弟子よ。紳士に! ジェントルに! 野獣の如く迫るのだ!」

「あにぃ、野獣の如く迫ったら変態紳士だよ……」

「ハハハ、ソウジ君自体草食の動物やン。どの口が野獣とか言うねン」

「案外酔っ払うとタチ悪いなこの人?!」


 酔っ払いを再度注意し、花屋へと視線を戻す。


「いえ、今日はその、お話をしようかと思いまして」

「あら、そうなんですか? 珍しいですね、勇者様がお話に来てくださるなんて」


 口に手を当ててコロコロと笑う姿は可憐に見えるのだが。緩んだ口元に鋭い牙が見えるあたりが怖い。


「解説の真由さん、今の所脈は有ると思いますか?」

「んー、ちゃんと名前で呼んでくれてないのはマイナス査定かな~。でも全く気にしてないって訳じゃなさそうには見えるね」

「なるほどな、その説が正しいとするとソウジ君の周囲は全員個人名で呼んでる訳やし脈有りだらけってうちの見解も強ち間違ってない訳やね」

「急に冷静に分析しないで貰えますかね。てか酔っ払って無いのかよ」

「あれくらいで酔うわけないやろ。『酔っ払ってるならしょうがない』的な価値観、うちは好きやね」

「余計タチ悪いよ!」


 最早近所のおばちゃんにしか見えなくなったユキヒメは放置。外交の要となるグルグさんの青春の行方を見守る事にする。


「今日は良い天気ですね」

「そうですね、いつもより乾燥も緩やかでお花も生き生きしてますね」

「こ、こんな日は散歩日和ですよね。如何ですか、ご一緒に?」

「楽しそうですけれど、私店番が……」

「そ、そうですよね! いやぁ何を言ってるんですかね、俺は」


 そう言いながら一瞬こちらに殺気の篭った視線を向けるグルグさん。話が違うじゃねーか的なアイコンタクトも同時にキャッチする。


「ぐ……伝家の宝刀『良い天気ですね。お散歩日和』が効かないとは」

「あにぃ、古いよ……」

「まぁ冷静に言わせて貰えば、あんなん『一人だけの店員を誘い出すなんて、この人もしかして盗賊?』とか思われてもしゃあないな。逆効果やで。見てみぃちょっと距離離しおったで」

「うわ、マジだ……ちょっと店の奥に戻りかけてる」


 勇者様とか言ってるのに盗賊の可能性を危惧するのか。世知辛いなぁアルテミアの商人は。だがまだだ!俺は二重三重の策を授けてある!


「じゃ、じゃあ今度お店が休みの日にでも俺と食事でもどうですか? 良い肉使ってる店を見つけたんですよ」

「あー……もしかして新しく出来たあのお店ですか?」

「そうですそうです。最近出来たばかりで評判のあそこです!」


 ナイス切り替えしだ!本来なら散歩しながらの次回のお誘いを自然に繋げるとはやるじゃないか。


「えーと、『話題の店『砂鯨亭』、店の名前にもなっている砂鯨の肉を使った絶品食堂! 少々お高いが味は正にお値段以上!』良い店見つけたって言ってる割にはチラシ頼りっていうのが情けないね……」

「この際何でも良いんだよ、初デートで肉とかガッツリ系な気もするけど蜥蜴族リザードでは一般的な物ってのはリサーチ済みだ。しかも話題の店となれば文句の付け所も無いだろう!」

「まぁ目の付け所は悪く無いんやけどね、何か怪しい雰囲気やで?」

「えー……」


 万全の策に思えたのだが、一体どういうことだと視線は再び花屋へ。


「えと……言い難いんですが、砂鯨亭の開店を飾るお花を納品したんですが、その代金がまだ支払われてなくて……そのせいで、あの……お店も暫くお休みできそうに無くて……」

「そ、そうなんですか……いや、それは……困りましたね」


 ワッツ?!そんなの予想出来るか!グルグさんもこっち睨むんじゃない。事故だ事故!


「何か裏目裏目だよね? いっそストレートに告白しちゃった方が早いんじゃないの?」

「お前、なんて酷な事を言うんだ。グルグさんのハートがブレイクしちゃったら外交問題が一気に難航するんだぞ? ここは当たり障り無くほんのり幸せになって貰った方が良いに決まってるじゃないか」

「あにぃ最初から上手く行くと思ってないでしょ?!」

「しっ! そのチキンハートが動くで!」


 ユキヒメの声の真剣さに兄妹揃って目線を戻す。そこには店先の花を一輪持った勇者が居た。


「ああもう面倒くせぇ。直感が俺に行けと囁いている……」

「えと、こちらお買い上げですか?」

「タリナさん! 良かったら、俺と……付き合って下さい!!」


 全行程無視で仕上げに行きやがった!!あの展開からのまさかの告白って俺もビックリだよ!あんたおとこだよ、グルグロッズ!


 差し出した一輪の花、黄色い丸い花びらを付けた可愛らしい花だ。咄嗟に選んだにしては良いチョイスだと思う。そしてその花をタリナさんが……。


「受け取ったーーー!!!」

「すご! 大逆転だね!」

「あんたら、目悪いんか?」

「「へ?」」


 喜ぶ坂上兄妹に反してユキヒメの冷徹なツッコミ。どう見ても受け取ってるんだけど何だと言うのか。


「あの、お気持ちは嬉しいんですけど、私、伴侶が居ますので……」


 受け取った黄色い花を持つ手、その指にキラリと光る指輪が嵌っていた。左手の薬指の場所に。


「いや、最初から見えてたやろ? え、まさか気が付いて無かったん?」

「確認だけど、あの指輪の位置って俺らの認識通りで良いの?」

「どういう認識か知らんけど、あれは結婚してるって証やな。そっちは違うんか?」

「「同じだよ!」」


 その後の取調べでグルグさんの故郷ではそんな風習は無かったとの事が判明。近距離で見落とす訳が無いもんな……。


 傷心のグルグさんを『仕事に没頭すれば忘れられるし、何より公務員だからモテるよ』とたぶらかし、無事にイグニスのご意見番は確保となった。





 色々な施設の見学は出来なかったが、自ら入院した事で医療レベルは並と判明。発火石という高温で発熱する不思議な鉱石などの輸入に関してはザハルさんが追い出した内政官が戻り次第、グルグさんに一任という形で話をつけておいた。


 最早手慣れた作業で真由椅子に座り込み、出発前にユキヒメとお別れをする。


「いやまぁ助かったで、ザハルが一番厄介だったんよ。あの通り話聞かんしな」

「お陰で迷惑この上無い展開だったんだけどさ……。そっちは後どれくらい掛かるの?」

「後は穏健派の緑竜と黄竜のとこやね。あの二人ならチャチャっと納得してくれるはずや。酒もあるしなぁ。当初の予定よりは早よ帰れそうやね」

「てかさ、赤竜・緑竜・黄竜って流れだとユキヒメって改名前は白竜とかだったの?」

「う……人の歴史を看破すんなや。属性にちなんで名乗ろうって昔決めたんよ」

「竜人戦隊か……案外かっこいいな」

「絶対良い意味の言葉や無いやろ」

「早めに帰って来いよ、ユキヒメホワイト」

「何か腹立つ響きやな……まぁええか。ほな、きーつけてな。ザハルに挨拶してうちも出るわ」


 久々にハイランド縁の顔を見たせいか、ちょっとだけホームシックになった今日この頃。二週間程の旅もいよいよラストだ。


 目的地は恐らくアルテミアにおいて最も魔術以外の技術の発達した大陸ガミネラ。今後の行動において、恐らく切っても切れない程重要な国なのは間違い無い。


 まだ若干違和感の残るほっぺたを摩りつつ、灼熱の大陸の大空に飛び立った。

お読み頂き有難う御座います。

ブックマークの登録やページ下部の評価点の入力、並びに感想等で一言頂けると、作者が舞い上がり小躍りします。もしお時間御座いましたら、是非お願い致します。

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