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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
他国訪問編
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05:ろいやる家族

短いっ!

 予想外すぎた。晩餐会というからにはと、タキシードでばっちりキメてそれなりの格好で来てしまったのだが。


「何分問題の多い時期ですので。本当は盛大に歓迎したい所なのですが、民衆の目もありますのでこういった形でご容赦下さい」


 多少大きめの長いテーブルに坂上家4名とハイランド王家4人が向き合うような形で座っていた。王族と同じ位置取りで食うというだけで歓待の気持ちは十分伝わるのだが、討伐祝賀会の様な物を想像していたので少し戸惑う。


 ピシっとした服装が浮かないだけの豪華な調度品や、数名のメイドさんや執事さんが居るので救われている気がする。


「いえいえ、そんな時期にお邪魔してしまって本当に恐縮です……」


 謁見の間とは違い、物腰柔らかなフィリス女王に父さんが申し訳無さそうに返す。気取った形式よりは逆に良かったのかもしれない。


「晩餐会などとは程遠い感じになってしまいましたが、両家の交友を深める場としては申し分無いですね。ちなみにこちらの世界は如何でしょうか?」

「いやそりゃもう驚きの連続ですよ。私達の世界では体験出来ないような事ばかりで、良い思い出になりました」

「それは何よりです。私達も公務さえ無ければご一緒したかったのですが」


 少し寂しそうにフィリス女王が微笑む。最近は陳情やら遠方からの来客で食事と睡眠以外の時間は必ず誰かと会談しているらしい。やや痩せこけたようにも見える顔が、その疲労度を物語っている。


「何かすいません、俺達だけ浮かれてて……」

「良いのですよ。魔王や邪神といった者と戦うのが本来の勇者の役目、こういった内政面は私達の戦いですから」


 最近は公の場でしか会う事の無かったフィリス女王、俺の謝罪に対しての返事と共に浮かべた笑顔は何時ぶりに見ただろう。そんな笑顔にほぅと感嘆する父さん。母さんも気になったようで食前酒を飲みながら女王様へと質問をする。


「それにしても女王様はお綺麗ですね~、何かお手入れされているのですか?」

「お手入れ?」

「お肌ケアとか、毎日欠かさずにしている美容法とかですね」

「美容……かどうかは判りませんが、なるべく水分の多い果実を摂るようにはしておりますね。もっとも、水分補給と食事の補助が目的ですが」


 アルテミアには母さんが聞きたかったような美容に関する意思はまだ余り無い。精々が薄い化粧をするくらいだろうか。それもファンデーションを使ったりする訳では無く、食紅のような物を口紅として使ってみたりする程度だ。


 逆に服装は昼間の真由のフリフリドレスからも分かる程に豪華絢爛キンキラキンの物が多い。装飾で飾り立てる方に力を注いでいるので、彫金の技術もそれなりに発達はしている。現代日本の機械生産にも引けをとらない緻密な細工をする職人さんも居るほどだ。


「果物ですか、確かにお肌に良さそうですね」

「ナナコ様も私と大差ないと聞いていましたが、実際10歳くらいは若く見えるので羨ましいですね」


 フィリス女王の言う通り、母さんもまぁ大概な訳で。スッピンでも未だに小じわが気にならない程度にハリがある。お肌の曲がり角手前で一時停止したともっぱらの評判だ。


「ハハハ、互いに美しい嫁を持ったようだな、ソウスケよ」

「そこは否定出来ませんね。国王様もさぞ女性に人気があったでしょうに」


 今度は父同士で会話が始まる。筋骨隆々な巨躯のダグダ国王と平均的日本人の父さん、一家の大黒柱勝負はどう贔屓目に見ても坂上家の圧倒的な敗北な気がする。


「俺はそうでもないぞ? 野蛮な輩と疎まれるくらいだったからな。今でこそそれなりに信頼は得ているが、就任前後は揉めたものだ」


 当時を思い出しながら、やれやれと両手を挙げてみせる。


「牛に国は任せられぬとか、女王を誑かしたとか。こっちがプロポーズされたと言っても誰も信じやしなかった、なぁ?」

「誠に遺憾です。何故この方の魅力が判らないのか、私には判りません」


 その言葉に満足したのか、専用のジョッキをグイと煽りフィリス女王の肩を抱き寄せるダグダさん。食前酒がジョッキという時点で色々とおかしい。


「ソウスケこそ細身ではあるが良い目をしているではないか。最近の兵士にも見習わせたい物だぞ?」


 急に褒められてたじろぐ父さん。多少強持ての部類ではあるが、そこまで目付きは悪く無いので意思とかそういう評価だろう。


「いや、私はしがないサラリーマン。雇われですよ」

「さらりーまんとな、さぞや立派な職業なのだろうな。どうだ、いっそこちらで仕官せんか。ソウジもマユも尽力してくれている、家族揃ってこちらで暮らせば良かろう?」


 どこで気に入られたのか、いきなりのスカウトをしてくるダグダさん。それに対しては俺が何か言うまでも無く父さんが即答する。


「いいえ、こうしてお会いできたのも全ては奇跡の様な事です。それに日本でも私には役目がありますから。そちら全てを終えて、老後の第二の人生には良いかもしれませんが」

「フフ、やはり良いな。まぁまた改めて酒でも飲もう、いけるクチなのだろ?」


 クイと杯を傾ける仕草をして誘うダグダさんに父さんが笑顔で応える。絡み酒にならなけりゃ良いけど。


「そうですね、総司とセリスさんの挙式の時にでも何かお酒をお持ちしましょう」

「ああ、そうだな。それが良いな」


 同意しながらセリスの方に感慨深く視線を送るダグダさん。


「あと一月程か、早いものだな」

「本当に……ついこの間まで無邪気な子供だと思っていましたのに」


 フィリス女王も涙しながら同意する。


「ソウジよ、絶対に不幸にはするでないぞ?」

「は、はい!」

「反対はしないがお前達はまだ若い。何かあったら父さん母さんそれに国王様や女王様を頼れ」

「はいぃ……」


 急に俺に矛先の向いた四人の会話に萎縮しながら返事をする。その様子にセリスも真由もクスクスと笑っているので非常に恥ずかしい。そこに今まで黙っていたアリスが割って入ってくる。


「しかしソウジ様が王家に入るとは、世の中判らない物ですね」

「何だよ、入っちゃ駄目なのかよ?」


 この場で唯一喧嘩腰な態度にはもう称賛するしかない。グラスをクルクルと回しながらこちらを伺うと、面白く無さそうに言い捨てる。


「そういう意味じゃないですわ、何が起こるか判らないという意味です」

「あ、そういう……」


 どうにも悪い方向に受け取る癖がついているようで。気にする風でも無くグラスを傾けるアリスの本心は判らないが、俺も少しずつ慣れて行かねばなと思う。彼女はお義姉さんなのだ。


「お姉様もいじわるな言い方をしないで下さい。そういう所が駄目だと言うのです」

「これは性分ですので、どうにもなりませんわ」

「これ、解放されたからと調子に乗っているんじゃありません。未だセリスからの処分は保留なのですよ?」

「う、承知しましたわ」

「そう言えばセリス、処分ていうかそういうの決めたの?」


 話して無かったなと気付き聞いてみる。


「ええ、決まっておりますよ。新年にでもと思っておりましたけど、この場でも宜しいでしょうか?」


 そりゃ初耳だ。是非聞きたいと言うと皆が注目する中、セリスが静かに合図する。上げられた手に意味があるのか、給仕の人が音も無く下がって行く。何か聞かれると不味いんだろうか?


「お姉様には、次期女王になって頂きます」

「はぁ?!」


 これに声を上げたのは王家全員と俺、中でもアリスの声が一番でかかった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいセリス。何故私が、というより罰が女王というのは如何な事かと」

「まぁ選択肢は有りませんから。何せ私はお嫁に行くのですから」

「……えええ!?」


 今度は俺が声を上げる番だ。あれおかしいぞ?俺も王家の仲間入りじゃなかったのか?


「お嫁にって……ソウジ様がこちらに婿入りするのでは!?」

「誰がそう言いました、私は仮にもこのアルテミアの神に仕えた巫女ですよ? 代行にしろ神に認定されたソウジ様に嫁ぐのは自然な事です」

「あ……ああ……」


 アリスが言葉を失っているが、俺も似たようなもんだ。本人もそんな事考えて無かったんだから。


「お母様には話を通してありますので、お姉様は国政を頑張って下さいね。私はソウジ様の傍でお仕事をお手伝い致しますわ」


 ニコリと笑顔を浮かべるセリス。悪魔だ、悪魔が居る。面倒な事を全部押し付けたのだ。


「そ、そんな。ちょっと待ちなさい、貴方の方が民衆に支持されているでしょうに。それにわたくしは罪人ですよ? そんな者が国を指揮するなど」

「その件も冤罪であったと証言すれば良い事。もしそれでも納得しないのであれば、この前の功績を持って清算したという事にしましょう。ソウジ様も助かったと仰ってましたよね?」

「う、うん。言いましたね」

「マユにしてもソウジ様が戻されて救われたと言ってましたよね?」

「言いましたね……」

「ほら、当事者の勇者様二名がご納得なのです。私もそれが良いと思ってますし、問題ありませんわ」

「そんにゃぁ……」


 ガクリと項垂れるアリスはショックが大きすぎたのか、最後の方がもう言えてないで何か可愛い感じになってしまっている。


「民衆の心は貴女の今後次第でついてくるでしょう。家臣団にも未だに貴女を支持する者もおります、そこまで落胆する事も無いでしょうに」


 フィリス女王がフォローするが多分そこじゃない。最近のラザリスさんとの生活が終わるのが嫌なのだろう。セリスが女王になれば女王の姉というポジションと比較的自由な生活が送れるはずだったのだからこれは確かに良い罰だ。それを丸っと奪ったのだから。


「セリー、考え直しなさい。勇者が王の方が民衆も奮い立ちますよ?」

「ソウジ様は復興でお忙しいですからね、謁見などされている暇は有りません」

「だってお父様もお母様もまだご存命ですし、当分先の事……」

「いえ」


 一言だけ否定して、セリスがフィリス女王へと視線を投げる。だから人払いしたのか。頷くフィリス女王を確認してからセリスが言葉を続けた。


「新年を持って女王は交代です。新時代の幕開けに相応しい、新たな女王が誕生します」

「お母様が退位……?」


 クルリと首をフィリス女王の方に向けるアリス。それに応えるようにフィリス女王が口を開く。


「私は古い仕来りに生きた時代の女王です。これからの時代を背負うには余りにもそちらに慣れすぎています。ですから革新の意味も込めて、退く事にしました」


 在位期間はどれ程だったのだろうか。町でも評判の賢王が退位する、一大事以外の何物でもない。


「安心しなさい、何も一線から退く訳ではありません。貴女の補佐としてしっかりと仕事はします。これからは老兵すらも必要な時代なのですから」

「で、でもそんな急に」

「アリス、貴女は少しだけ変わったわ。同じように私達も変わろうと思うの。女王と王女では無く、サカカミ家の方のような家族として。親と子として支えて行きたいのよ」

「お母様……」


 手本にされると聞いてこちらはたまったものではない。四人全員がギョっとした程だ。


「恐らく私の在位期間最後のお客様です、それがあなた方であって本当に良かった」


 既に女王としての顔より、一人の母に戻ろうとしているその表情。二人の王女に似た優しい笑顔だった。





「良いお湯だったわ~。洋風な大浴場も良いわね」

「そりゃ何よりで。三助さんは居なかったの?」

「当然でしょ、事前にちゃんと話してあるよ!」


 ちゃんと気を利かせたのに心配されたのが心外だったのか、プンプンとご機嫌斜めになる真由。最近はこうして自己表現をするようになったので、少しホッとしている。


 よくよく考えれば昔はこうしてぶつかり合った事も多かったのだ。最近の従順な姿に慣れすぎてしまって、アレが普通だと思っていた自分が少し恥ずかしい。


「三助さんもいるのか。背中くらい流して欲しかったな」

「父さん、江戸時代のフンドシした男の人じゃないからね? 女の人が薄着で居るんだよ……」

「……」


 俺の発言にジロリと母さんと真由から冷たい視線が送られてくる。俺が悪いわけじゃないんだが。


「知ってるって事はお前……」

「最初の一回だけ、既に中に居たから断れなくて背中を流して貰いました。その後は町の方の公衆浴場使うか、ちゃんと出て行ってもらってます!」


 嘘をついてもどうせバレるので正直に一回だけと告白しておく。冷やかな視線が加速するが、どうしろと。


「それにしてもアレだな。夜空を見ると本当に空気の綺麗な良い所だと実感できるな!」


 気まずい雰囲気を察してか、父さんが話題を摩り替える。窓の外に目をやると、夜空は今日も満天の星空。都会では決して見る事の出来ない、TVでも紹介されそうなくらいの夜空だ。


「町の人も星空だけは歓迎してたね」

「『マナの輝き』って言ってた人も居たね。アルテミアから流れ出たマナが、空で輝いているって。そういうロマンチックな発想って良いよね~」


 父さん母さんが並ぶ横に、俺と真由も加わり家族四人で夜空を見上げる。就寝前のひととき、日本に居るならばボケーっとTVを見ている頃だろう。


「どうだった?」


 アルテミアにはそういった物は無い。会話だけがその場で紡がれる。


「ああ……良い国、良い世界だ。本当に老後に来るのも悪く無いかもな」

「皆生き生きとしてたわね。日本の昔の人もこういう時代を生きたのかしらね」


 異なる文化がやってきた江戸時代から明治にかけて、日本が最も急激な変化をした時代。今までの価値観が一新され、地位を追われる人も居たのだろうか。


 今尚歴史の教科書に載っている様な、そんな時代の偉人達。俺は彼らになれるのだろうか。


「いや、ならないと駄目なんだな」


 ポツリと呟く。


「あにぃ何になるの?」

「ちゃんとした人にさ。これからの人達に疎まれないような、立派な人に」


 情景のせいだろうか、少しだけキザったらしい事を言ったかもしれない。そんな俺の頭を父さんがグシャリと掴む。


「出来るさ。お前は勇者なんだろ?」


 その言葉をグッと噛み締めて。老後に来た父さん達が来る時には、また驚いて貰いたいなと思ったのだった。

お読み頂き有難う御座います。

ブックマークの登録や下部の評価点の入力、並びに感想等で一言頂けると、作者が舞い上がり小躍りします。もしお時間御座いましたら、是非お願い致します。

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