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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
騒乱編
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06:閃光の勇者 ②

「随分と多いな。些か君の人徳を見誤ったか」


 男は昨日と同じ場所、切り倒したのか切り株の上に腰を降ろして待っていた。こちらを見るなり仰々しく驚いたように肩を竦ませるが表情は枯れたまま、目も濁ったままだ。


「最後にもう一度訊ねよう。この世界は間違っている、それでも救いたいのか?」

「愚問だ。また別な奴が来るならその時居る奴がなんとかすれば良い。俺は今この場を、セリスや仲間の居場所を守る」

「良い答えだ、それもまた正解だろう。後はどちらが我を通せるかだけだ」


 近藤が立ち上がるのを見て、それぞれが戦闘態勢を取る。


 ユリウスが盾を前面に向け、シェンナとラザリスさんが杖を構え、アルマが短剣を抜き放つ。メビウスはいつでも動けるようにと重心を下げ、ユキヒメが最前列で拳を握り締める。


 最前列はユキヒメ、ユリウス。中衛に俺とアルマ。後衛に真由を防御役で配置し、残り守るという布陣。魔王戦より豪華な程だ。


 この場に居る皆に感謝をし、誰一人欠けない事を祈る。


 真由と俺が最後に神剣を構え、近藤の腰が沈んだ瞬間戦闘が始まった。


「ハイランドの名を借りて願」

「我が身体は、稲妻なり! 神力<雷光一閃ボルテック>」


 近藤の身体が光りを放ったのまでは確認出来たが、後は全く何が起きたか判らなかった。タイヤの破裂するような乾いた音がして、気が付いたら俺居たであろう場所に神剣を抜き終えた状態の近藤が居て、俺は吹っ飛んでいた。


 突然真横に現れた近藤にユリウスとユキヒメが仕掛けるが、既に退避を選んでいた近藤は難なくその挟撃の手から逃れる。


「いってぇ……ああ、畜生! ピリピリするじゃねーか!」


 後列くらいまで吹っ飛ばされて、起き上がり喚く俺を見て近藤が不可解な顔をする。


「ふむ、動けるのか?」

「なんとかね。皆、焦るな! 次で行くぞ!」


 一瞬の出来事に全員が動揺する中、声を上げ立ち上がる。本当に吟遊詩人は嘘つきだ、何が決め技だ。最初から全力じゃねーか。


「……<雷撃ライトニング>!」


 無造作に放たれた光がユリウスの構えた盾に直撃する。盾を構えた場所に放った一撃は、ぶち当たると良い音を立てて消えうせた。


「ぬう。ソウジ、やっぱりかなり通るぞ?」

「だからあくまで保険だって言ったでしょうが、当らないようにしろ!」

「無茶を言うな……」


 本当に多少はマシ程度だろう。まさか夜中に粘土層を探し、高級食材の砂糖を混ぜて工作するハメになるとは思わなかった。


 だが、まだマシ。真由の科学の先生に帰ったらお礼を言うように言わないと。ゴムなんて無いこの世界で電気の絶縁体なんて想像も出来ない。探せばあるかもしれないが、時間も掛かる。それを見越しての近藤の余裕だったのだろうが、まぁそこが奢りなんじゃないだろうか。


 子供の科学、安全な電気回路の作成に塩と砂糖を混ぜた粘土を使う物があるらしい。全然知らないが、食塩水とかと同じ原理だとか。鎧の内側に万遍無く塗りつけてるので重いのが難点だが。


 ユリウスの盾はミルフィーユ仕立てだ。木製盾に粘土を塗りつけ最後に金属を固定。前に重いと嘆いていた新品の盾より更に重い、今回限りの特別仕様。鎧も合わせて総重量二倍くらいなんじゃないだろうか。


「思ったより面倒そうだな。後ろから行くか」


 防具に細工有りと睨んだのか、近藤の狙いが後衛に移る。


 開幕は上々。いきなり必殺技でビックリしたが、近藤の力を見せるのが俺達の役目。メインはあくまで真由だ。


「我が身体は、稲妻なり! 神力<雷光一閃ボルテック>!」


 先程聞いた宣言を聞いた瞬間、咄嗟に防具の無い場所を庇う。顔面とかに食らったら流石にアウトだ。


「やぁ!」


 多少気の抜ける掛け声と共に、金属の触れ合う音は後方から聞こえてきた。慌てて振り返るとシェンナの前で真由と近藤が神剣を交差させ、睨みあっている。


 その近藤が手にしている片手剣が目に入る。装飾も刀身も『ハイランド』と同じデザインだが柄の部分の黄色っぽい宝石の横に漆黒の宝石が四個追加されている。神様謹製の品を乗っ取るとか、アレはアレで卑怯だなと思う。


「小娘、お前本当に人間か?」

「まだ全然人間ですっ! <重力陣グラヴィフロア>!」


 自分の必殺を防いだ真由に驚いているのだろう。動きの止まった近藤を中心に自分ごと術に巻き込む真由。ガクンと崩れた体勢のまま先程の術で逃げる近藤。重力の束縛の影響を微塵も感じさせぬその術を推察する。どうやら速くなるのではなく、本当に雷になるとかそういう原理らしい。デタラメすぎる。


「初手は小娘の方だったか……」


 忌々しそうに真由を睨む近藤だが、慎重になったのか抜刀術のような姿勢のまま次の狙いを定め兼ねているようだ。


 その僅かな時間に脳をフル回転で情報をかき集める。


 近藤の術、雷化とでも言うのかだろうか。神力行使の宣言が無ければ、何も出来ないくらい速い。だが、少し欠点も見えた。


 あれは移動技だ。電撃によるダメージは付いて来るようだが、速度の乗った物理攻撃ではない、もしそうなら最初の一撃で俺は木っ端微塵だっただろう。


 自分自身を目標地点に落雷させる術、それで間違い無いと思う。俺が吹っ飛んだのは単純に腕力だろうか。それはそれで十分にデタラメだが。


「……」

「黄色!」


 沈黙し様子を伺う近藤を見ながら真由が突然叫び、その声に合わせ打ち合わせ通りに全員が回避行動を取る。


「何なんだ、その娘は!」

「ただの可愛い妹だよ」


 詠唱無しの段階で術の先読みをするとか、俺の知らない所でうちの妹はどうなってしまったのだろうと思う。だが、頼りになる。もう守ってあげるだけの対象じゃないと認識を改めるが、一線は越えさせない。それと戦力で頼る事は違う事だ。


「我が身体は、稲妻なり!」


 閃光の勇者。確かに前情報無しで、しかも一人でやっていたら確実に勝てなかっただろう。最初の一撃で行動不能。その間を守ってくれる人も居らず、簡単に終わりだ。


「神力<雷光一閃ボルテック>!」


 アルマの真横に稲妻が走る、軽装な上に中衛で孤立しているから妥当な判断だろう。


 アルマを挟んだ俺の丁度向こう側、低い姿勢で神剣を抜き放つ近藤の一撃がまともに外套の上から入り、鈍い音を立ててくの字になったアルマが吹っ飛ぶ。


「外套にも仕込みか、忌々しい!」


 ヒラヒラ揺れる軽装っぽい外見とは裏腹に。外套と外套を二枚合わせ、その空間にチェインメイルの生地を縫いとめて、適度に粘土を仕込んだこちらも特別仕様の重量級外套だ。避けるとか軽口叩いていたが絶対に危ないからと無理矢理着せた物。やっぱり役にたったじゃないかと安堵する。


 アルマは囮を買って出てくれた。俺と共に常に全員の中央に位置し、手間が掛かると判れば自ずと他のメンバーを狙うだろうと、その時に狙いやすいポジションに立ったのだ。


 勿論反対して、それならばと俺が横に立つようにはしたのだが。全く役に立たなかった自分がポンコツすぎて涙が出る。


 自分が狙われたら意地でも一瞬だけ時間を作ると豪語していたので、そのタイミングに全員が合わせる。


「我が身体は、稲妻な……くっ!」


 飛ばされながらの本当に意地の一刀。投げられたナイフが退避しようとする近藤の顔を襲う。それを手に持った神剣で打ち払うが、宣言が止まった。


「ハイランドの名を借りて願う、大地の力よ!」

「<火炎砲ファイアキャノン>!!」

「<水流砲ハイドロキャノン>!!」


 シェンナとラザリスさんの術が併走し、触れ合う場所から水の弾ける音と共に水蒸気が立ち昇る。近藤が素早く転がり、水流と炎の帯を回避した場所を指定。


「大地に穴を穿て! <落とし穴ピットホール>!」


 ズブと沈む地面に気付き、咄嗟に離脱を試みる近藤。そこにアルマが襲われたタイミングで既に距離を詰めて居たユキヒメの蹴りが襲い掛かる。


「しゃああああ!」


 ローリングソバットというか上半身でバランスを取り、渾身の回し蹴りだろう。風を斬る音と共に放たれた蹴りを逆に落とし穴に身を投じる形でやり過ごす近藤。


 一撃入れれば勝ち! とすぐさま俺も神剣を振るう。縦に振り下ろす俺、華麗に回転しながら二撃目の蹴りを見舞うユキヒメを見て笑う近藤。


「<雷陣ライトニングフィールド>!」


 近藤を中心に巨大な落雷が起こり、ユキヒメと俺が悲鳴を上げる。薄れそうになる意識を必死に繋ぎ、ショックで動かない体で無理矢理踏ん張る。


 眼下で笑う当の近藤はダメージを追った素振りも無い。自分には無効とか都合が良すぎると愚痴りながら、振り下ろそうとしていた神剣を握る手にだけ力を込めて叫ぶ。


形状変化トランス!『大鎌』!!」


 声に反応して真っ直ぐに。刀身の切っ先の側面から伸びた刃が高速で近藤の腹辺りに向かって行く。それすらも穴に片足突っ込んだ姿勢のまま、体を横に捻るようにしてかわされる。どんだけだよと思いつつも、これでもう後は無い事を祈るだけ。


「我が身体は、稲妻なり! 神力……」

「いやああああああ!」


 乗り切ったと勝ち誇り、詠唱を始めた近藤の真後ろ。水蒸気の煙幕から真由が高速で飛び出してくる。いつぞや見た直線特攻技、真っ直ぐに剣を突き出して弾丸のように近藤へと突っ込んで来る。その勢いに逆に俺が青くなり、声を上げる。


「<雷光一閃ボルテック>!」

「<重力添加モアグラヴィ>!!」

「殺しちゃだめだぞ!」


 三つの声は同時に重なり、直後に何度目かとなる軽い炸裂音と共に近藤の姿が俺達の包囲網の外に現れた。


 踵でブレーキを掛け、勢いを殺すように地面を抉りながら着陸する真由。神剣を戻し、その場に膝を付く俺、その横に立つユリウス、少し遅れてちょっと焦げたユキヒメも立ち上がる。後方ではシェンナがアルマの手当て、ラザリスさんもその傍らに居る。


「仲間を囮に一斉攻撃か、未だにあの神の配下にいるのも頷ける戦い方だ」

「保険は掛けたし、俺も囮だよ。あんたが強すぎんだ、本当なら最初の一撃からやってたさ……」


 油断していたつもりは無いが、開幕からぶっ飛んでくるとは思ってなかった。予定していた反撃も出来ず、あまつさえアルマが起点になったのは俺のミスだ。そこは俺も痛いほど判っている。結局俺は仲間を危険に晒すし、それを守れる力も無い。愚鈍な勇者だ。


「しかし、そこまでやってこの始末。さて、続きをやろうか」


 頬から流れた一筋の血を手でふき取り、近藤が再び抜刀術の構えを取る。


「いや、もう終わったんだ。真由が一発入れれば勝ちなんだ」

「何?」


 腰を落とした姿勢で近藤がその変化に気がついたようだ。剣を握る手、地面を踏みしめる足に次第に力が入るようになっている。


「悪いね、こっちも大概にデタラメなんだわ。あんたは魔族に俺が勝てたのは何かのルールがあったお陰だからとか言いたかったかもしれないけどさ、あんたも手加減されてたんじゃない?」


 高速の移動術、行動不能にする強力な電撃、猛攻をほぼ無傷で凌ぐ判断力。確かに強いが、それだけで一人で全部勝てたなど、流石に出来すぎた話にも思えた。


「ぬううう!」


 苦悶の表情で片膝を付いた近藤を見ながら少し安堵する。移動前の剣戟で指定したのが現在も生きているのだから、これでもう高速移動されても直後に重さで動けないだろう。あの術で変化すると対象指定が切れるとかだったらもうお手上げなので、その時は逃げる気だった。


「アルマは大丈夫か?」


 シェンナが大きく丸の形のジェスチャーを示す。うつ伏せのアルマの尻尾もユラユラと横に振られていた。特製外套に加え、城の宝物庫にあった防御系バフのスクロールを惜しみなく投入された状態であの始末なのだから、そういう準備をしない魔族は一たまりも無かったのだろう。


 入念に対策したのも有るが、ここまで思惑通りに嵌るというのも締まらない話だ。それにそんな相手に無策で何度も挑むとか。いくら馬鹿でも少しは考えそうな物。そういう行動がこの世界のルールなのだろうかと、少し考えてしまう。


 人の姿をしては居るが魔族に組した近藤が俺に時間を与え、そして策に嵌った事にも少なからずその影響が出ているのかもしれない。


 少し信憑性が増した近藤の話、もう少し何か聞けないかと歩み寄る。


「あにぃ、あんまり近づいちゃダメだよ!」

「ああ、分かってるよ」


 元の場所から半分ほど距離を詰め、どんなに大振りでも届かない間合いで止まる。左右にユリウスとユキヒメがついてくれたので、万全の体勢で近藤に語りかける。


「甘いって言うかもしれませんけど、俺は人殺しなんかしたくない。神剣を手放して大人しくしてくれませんか?」

「断る」

「今回魔族が少ないのには意味があるんですか?」

「……」

「他に伏兵は?」

「……」


 聞き方も投げやりだが、当然喋らない。そんな事は判っていた。


 だから俺は予定通り、説得を試みる事にした。神への復讐を謡いながら、世界を滅ぼす事に加担すると言いながら、最終的には世界を救う事になると言った男。その最後の良心に訴えるように、歳若い格下の俺が持てる最大限の敬意を払いながら、語りかける。


「近藤さん、貴方はこの世界を救いたく無いんですか?」

「邪神を倒した後はどうする。あの神も倒すのか!」

「あの爺さんを倒せたとしても、それはそれでこの世界が無くなっちゃうんだったら意味がありません。説得してみせます」

「神を説き伏せる……本当にそんな事が出来るとでも思ってるのか?」

「出来る出来ないじゃなくて、やるんですよ。どの道俺の望む世界の実現の鍵を握っているのはあの爺さんだ。話し合うのは避けられないんです」

「……お前の望む世界とは何だ?」

「今生きている人は当然として、その子孫も笑顔で暮らせるような安全が当たり前の世界にする事です。日本みたいな、それが当たり前って思えるような世界を望みます」


 絵空事、そんな風に言われるかもしれない。ユリウスが何時か呟いた夢、アルテミアがこれくらい平和だったらなと言う言葉を思い出す。


 皆仲良く手を取り合ってなんてのは無理かもしれない。けれど、命の危険に怯えない程度には出来るんじゃないかと思う。俺の今後の人生を捧げ日本の価値観を持ち込めば、死ぬまでの間には無理でもいつかはそうなるんじゃないかと思う。


 危険な生物が居たりもするが、日本にだって熊は出る。同列にするのは失礼かもしれないが、その程度の認識にまではなるかもしれない。


 それを成す為に、俺は何度も仲間を頼るハメになるだろうし、都度迷惑も掛けるだろう。それでも今回のように命を張ってくれる仲間は居る。俺は恵まれている。


 近藤にもこういう仲間の一人や二人居れば、もしかしたら今も大陸で勇者として控えていたかもしれない。ほんの些細な行き違いなんだと思う。同じ経験をした者として、俺がこの人の話を聞いてやれればと、願いを込めて語りかける。


「お願いですから神剣を捨てて下さい。神力を使い、間違った手段でも世界を救うと言った貴方はまだ勇者だと俺は思います。大丈夫、勇者全員でごねれば爺さんだって少しは考えてくれますよ!」


 実際、爺さんがどういうスタンスを取るかなんて判らない。もしかしたら全く考えを変えずに戯言だと一蹴されるかもしれない。その時はその時だと思う。今回のように、また仲間と力を合わせれば、なんとか出来るはずだ。


 願うように見つめる中、近藤の手から神剣が離れた。


 そのまま懺悔するように四つん這いに崩れ落ち、これが証拠だと言わんばかりに思い切り神剣を遠くへ弾き飛ばした。


「俺は間違っていたのか……?」

「世界を救うなら、それこそ永遠に救わなきゃダメですよ。まだ間に合います」

「……俺の負けだ、降伏しよう。『秩序ジャッジメント』をどこかにやれ、それが証だ」


 そのまま力なく頭を抱えて身を丸める近藤。泣いているのか身体を震わせとても小さく見える。時折嗚咽も混じるその姿がとても気の毒になった。


 ユキヒメに頼んで遠くに飛ばされた『秩序ジャッジメント』を氷漬けにして貰い、近藤に歩み寄る。ユリウスに止められるが、神剣も無い状態ならと静止を振り切り、近藤の肩に手を置く。


「今から真由に言って術を軽くします。完全には解かないけど、まぁ歩ける程度にしますんで。全部とは言いませんが、俺には貴方の気持ちも少しは判ると思います。だから」


 トンと右腹に衝撃を受けた。


「何か有ったら……あれ?」


 言葉を囁きながら、違和感の元に目をやると近藤の手が伸びている。その手元にはどこから出したのか、黒い柄だけが見える。剣の柄のようにも見えるが、そこから先の刀身が俺の腹の中に有るかのように、柄の部分が腹にピッタリと張り付いている。


「本当に……この頭痛は酷い。数える程だが、慣れた物ではないな」

「近藤さん?」


 何を言っているのか判らないと問いかける俺に、男が囁く。


「本当に甘いというのだ。平和ボケした日本人らしいお前にはこの剣をやろう。本当は俺か小娘用だったらしいが、お前でも面白そうだ」

「何を言って、ぐぅ?!」


 言いかけた瞬間、脇腹からの鈍痛に思わず呻き声を上げる。脈動するような、一定のリズムで何かが広がるように流れ込んでくる。


 俺の声に異変に気がついたのかユリウスとユキヒメの声が近づいてくる。鈍痛の元を見るとヌラリと光る黒い宝石にも見える剣の柄。


「お前は俺の何も判っていない。お前も復讐の対象なんだよ。同じ境遇なのに、何故お前は全て残っている。何が違ったというんだ。俺の方が強く、そして早々に問題を解決したというのに、何故愚鈍だったお前の方が手に入れた物が多いんだ!」


 呪詛めいた言葉を吐く近藤の顔は今までとは全く違う、羨望の顔。自分が失った物を全て持つ俺、残った誇るべき強さを一切持たぬ俺に男は言う。


「勇者に勝てないならば、勇者を手駒にと用意された邪神謹製の一品物、お前がこの世界を壊せ!」


 そう言った直後、近藤はユキヒメに蹴り砕かれた。氷結効果のせいか、血は振り掛かる事無く、水晶が砕けるように消えていった。


 横に来たユリウスが必死に何か言っているが、言葉に聞こえない。


 早くなる鼓動を抑えつつ、今何をすべきかを考える。


「あにぃ!!」


 背後から掛けられた声に呼応するように、振り向きざまに神剣ハイランドをぶん投げた。


「退け! 全員撤退だ! 作戦を練り直せ!」


 次第に思考にノイズが入り始める。ザザっと入る画像。次第にその頻度が増し、その人物が誰かが判るようになってくる。


「あにぃ! 下がるならあにぃも早く!」


 状況が掴めないのか、真由が鬱陶しい。俺が一緒に下がってどうする、俺から逃げろと言っているのに。


「早く下がれ! 城に帰れ! 俺はそこを目指す!!」


 ノイズの画像の人物を探すなら絶対にそうすると思う。距離は近いが、ほんの少しでも時間を稼げと指示を出す。


「だから、あにぃも!」

「いい加減にしろ! 俺を止めろって言ってんだ! たかが最弱の神剣も無い勇者だ、お前なら出来る! 間違っても神剣ハイランドを俺の前に出すなよ!」


 脇腹からどす黒い何かが流れ込んでくるのが判る。多分これがセリスの言ってた物だと直感する。同時に心を埋めていく感情は怒り。世間体とか周囲の都合とか、和を保つために押さえていた怒りだ。


 ノイズは既に点滅するほどの早さで残像を残す。その顔、その容姿、一時も忘れた事は無い。あの瞬間の勝ち誇った顔でイメージが固定され、当時の気持ちが蘇る。


「アリイイイイイイイイス!!」


 未だのうのうと生き延びているであろう、俺を失意のどん底に落とした張本人。俺はこれから始末しに行こうと思う。

 お読み頂き誠に有難う御座います。


 もしお気に召して頂けましたら、ブックマークだけでもして頂けると励みになります。感想も書いて頂ければ舞い上がります。


 お時間御座いましたら是非お願い致します。

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