17:竜人
ブックマーク、評価をして頂いた方もとても励みになりました。重ねてお礼申し上げます。
そのお陰でテンション上がりすぎて、今回はコメディ要素過多となりました……。
神様の爺さんが来るというので真由も参加させる為に帰還の指示を送ると、既に出発しており明日には到着すると返ってきた。予定よりやけに早いが、何かトラブルが起こったからの『ごめん』であり帰還なのだろうと予想出来た。
翌日の朝、ユリウスと正門前で到着を待っているといつぞや見た幌馬車とミーララが視界に入ってきた。
「あ、ソウジさーん! お久しぶりでーす!」
「おーう! 元気してたかー!」
あちらからも見えたようで、元気に手を振っているミーララの姿にまずは一安心。怪我とか病気とか、そういうトラブルでは無さそうだ。
パッカパッカと小気味良い蹄の音を響かせながら、幌馬車が王城の中庭まで入り停車する。出迎えようと背面に回ろうとした瞬間、御者席のミーララを押し退けて何かが飛び出してきた。
「ソウジー! いくら待ってても帰ってこないから来ちゃったなのじゃ!」
バフッと俺の顔面に張り付いた何かを引っぺがす。
「おお! のじゃ子じゃないか! ヒサシブリダナー!」
「ほんにのう、夜会以来じゃ! 巫女王女と祝言が終われば次は我の番じゃと思って待っておったのに、元の世界に帰されてるとは思わなかったぞ! 我が来たからには安心せい、マユ共々キッチリと面倒を看てやるのじゃ!」
首根っこを掴まれた状態でプラプラ揺れながらも嬉しそうに喋るメビウス。うん、知ってた。絶対そうだと思ってた。
「そうかー! それは……ご遠慮します! ハイランドの名を借りて願う、大地の力よ! 大地に穴を穿て! <落とし穴>! 深さMAX!!!」
「のじゃあああぁぁぁぁぁ……」
人一人分くらいの大きさで深さだけを追求した穴に投棄し、続けざまに<大地変動>でしっかりと蓋をして完璧に埋葬したが帰ってくるのは時間の問題だろう。一連のやり取りの間に既に降車していた面々に向かって問い詰める。
「よ、容赦無いねあにぃ……」
「おい、どういう事だ。あれだけ関わるなって言ったのに、何でアレがここに居る?」
「シェンナが、タイマンで負けた」
「アルマ……あんたあたしに全部擦りつけようっての?」
「あにぃこれには深い事情が……ってうわあぁ!?」
真由が何か言い出そうとした瞬間、地面から巨大な赤い花びらの蕾をつけた蔦が生えてきた。その花びらが開いて行くと中からメビウスが飛び出してくる。
「ハッハー! 妖精誕生なのじゃー!」
「あーーー! クソウゼェ! 返品してこい!」
「そう邪険にするでない。何、宝珠さえ返して貰えるなら今すぐ大人しく帰るが?」
「宝……珠?」
「左様、貸す時にも言ったじゃろうが。『ソウジだから貸すんだからね!』って」
「シェンナさん?」
視線を送るとスッと魔女帽子で顔を隠された。喋りやがったのか……。
「ああ、宝珠ねー。うんうん、返そう返そうとは思ってたんだけど、捨てちゃってさ。代わりと言っては何だけど案内したい場所が有るんだ、目を瞑ってくれるかい?」
「お? 何じゃ何じゃ、どこに連れて行こうと言うのかのう! きゃ~早速とはセッカチじゃのう!」
嬉しそうに目を瞑るメビウスを背負って城の中の一角を目指す。勿論全員でだ。目的の場所にたどり着くと、ガシャーンと良い音を立てながらメビウスに宛がった個室の扉が閉まる。
「勇者様、手配犯捕獲ご協力感謝します!」
「ああ、くれぐれも厳重に頼むぞ?」
「ちょっと待てぇ! これ絶対寝室じゃないのじゃ!」
「いや、妥当な部屋だろ?」
「せめて、せめてソウジも一緒に入るのじゃ! それなら我はここでも良い!」
「誰が入るか! ちなみに絶対に壊すなよ? 壊したら国から請求させるからな?」
「うぅ、聞いてはおったがあんまりな仕打ちなのじゃ……我の心を弄んだ挙句に、宝珠まで壊され……もう何も残っておらんのじゃあああ!」
「まぁ宝珠は本当悪かったって。神力をマナで代用するのがあんなに燃費悪いとは思わなくてさ。けど心を弄んだってのは断じて違う、それはお前の勘違いだ!」
「のじゃぁ……」
「あにぃそれくらいにしようよ。実際メビウスさんだって困ってる訳だし、あにぃも悪いよ!」
「いやまぁ、そうだけどさ……」
「ほれみろ! マユ、もっと言ってやるのじゃ!」
「こういう性格だからな、あんまり付け上がらせたくないんだよな」
「ま、まぁそこは否定しないけど。とにかく私はお世話になったんだから、せめて投獄はやめてあげて?」
「しょうがねぇな。衛兵さん良い?」
「はっ、勇者様のお言葉なれば。でも後で一応セリス様を始め、王族の方にはそちらから言っておいて下さいね?」
「あ、はい……」
セリスにこの事をどう説明したものか、キュルリと胃が痛むのを感じた。胃の辺りを押さえながらメビウスの釈放を見守る俺の元に別の兵士がやってきた。俺を見るなり安堵と苦労が混ざり合ったような表情を浮かべる。
「勇者様、こちらにいらっしゃいましたか!」
「どうしたんですか?もう爺さん来たの?」
「いえ、ユキヒメなる者が面会を求めておりますが……」
「ユキヒメじゃとおおお!?」
メビウスの絶叫を聞くまでも無く、完全に胃に穴が開いたのを実感できた。
◆
特別に用意して貰った貴賓室で待機する俺と真由、ついでにメビウス。俺は入室してからずーっと頭を抱えて押し黙っている。どうしてこうなったのだろう、何故同時なのだろう。最悪だ。
「ねぇあにぃ、ユキヒメさんって誰なの? 日本人?」
「名前は先代だか、先々代の勇者が付けたそうだ……アルテミアの生物で最強の一角、竜人様だよ」
「ド、ドラゴン?」
「違う、アルマみたいなハーフっぽい方だ」
「その人に何かしたから怖がってるの?」
「何もしてないというか俺には好意的だ。頭を抱えてるのはこいつが居るからだ!」
「こいつとは何じゃ! あの婆、よくもまぁ姿を現せた物じゃ! 今度こそ我が引導を渡してくれるわ!」
「あー……仲悪いんだ……」
「ユキヒメ様、ご入室されます!」
状況を理解した真由の顔が引き攣る中、扉が開かれる。
そこには青を基調とした和服っぽい姿の女性が立っていた。鱗状のラメの入った布地がキラキラと輝きを放つ中、しゃなりしゃなりと静かに入室してくる。
服よりも青い髪を優雅にかき上げて、まつげまでピンとした細い目を閉じたまま。真っ白な肌に少し紅を乗せ、清まし顔の口元を袖で隠すという浮世絵のようなポーズで立ち止まる。そこから優雅に裾を摘み、90度近く腰を折ってお辞儀をして最初の体勢に戻ると、鈴の鳴るような声で口上を始める、が。
「ご機嫌麗しく、勇者ソウジ。帰還の報と戦の事を聞き、はせ参じ……って何で迷宮のオバサンがおるねん!」
「関西弁……」
「気にするな、エセ関西弁だ」
入ってきた瞬間の高貴なイメージなど何処吹く風、既にテーブルに片足置いてメンチ合戦が始まっている。
「なんじゃワレ、かび臭い迷宮に篭って王宮に追われとったんちゃうんかい?」
「お主こそ人も来ない様な山奥でひっそりと余生を過ごしておったんじゃ無いのか!」
「あぁん? こっちが質問しとるんじゃ、答えんかい!」
「はっ、まぁ良かろう。我は寛大じゃからのう、田舎暮らしの婆に最新情報を教えてやるのじゃ。我はソウジの妹のマユのたっての頼みで、此度の戦でソウジに力を貸すためわざわざ来てやったのじゃ! ソウジの! 妹の! 頼みで! 押しかけのお主とは立場が違うのじゃ!」
「はぁ?!」
メビウスの言葉にギロリと真由にターゲットを変えメンチを切るユキヒメ。勿論真由がそんなプレッシャーに勝てる訳も無く、蛇に睨まれた兎の如くカタカタと震えている。
その姿にユキヒメも冷静になったのか、当初のように猫をかぶりだす。
「あら、これは失礼。妹様でしたか。私はユキヒメと申します、以前ソウジ様にはお世話になりまして。妹様というからにはニホンの方なのでしょうか? 宜しければ是非色々とご教授下さいませ」
「は、はいぃ……誠心誠意お答えしますぅ……」
「あー、ユキヒメさん。手遅れだから素で良いと思いますよ?」
「嫌ですわ、こちらが素ですもの」
「いや絶対違」
「あぁん?!」
「はい、ソウデスネー。素デスネー……ぎゃあああああ」
適当に流すと頭痛が襲ってきた。これダメなのかよ!
「あにぃ?!」
「素じゃない! 絶対素じゃない! 俺も認めない!」
「……勇者ソウジ、後で少しお話しましょうか?」
「あ、はい……というか、何故いらっしゃったんですか?」
「あら嫌ですわ。素晴らしきニホンの方がピンチというのに駆けつけない訳がありません。勿論、ソウジ様がお戻りになられたお祝いの意味もございますのよ」
「あー……そうですかー……やっぱりメビウス要らないんじゃないかな?」
「なーぜーじゃー!」
「だってユキヒメさん居てくれるなら戦力的には十分だしさ、まだマシ」
「マシ?」
おっと、口が滑った。ピクリとユキヒメさんのコメカミが動くのが見えてしまった。
「あ、いえ、まだ……戦力増し増し?」
「あらあら、私の方が強いなんて公言されなくても。そんな事は周知の事実ですわ」
「考え直すのじゃソウジ! こんなヤツが暴れたら国は跡形も無くなるのじゃ! 我の方が小回りも効くし、何より可愛いのじゃ!」
「だからオバサンは黙ってろっての! あとドサクサに紛れてアピールしてんじゃねぇよ?!」
「オバサンオバサンって、お主も大して変わらんじゃろうが! それに見た目なら完全に我の方が若いわ!」
確かにユキヒメさんの見た目は30代近辺だ。20代前半は厳しいと評価せざるを得ない。美人ではあるけど、若さとは無関係でありそして当然禁句だ。
「ガキがイキってんじゃねぇぞこらぁ! 表出ろやぁ!」
「オバサンなのかガキなのかどっちなのじゃ! 上等じゃ、夜会前の恨み今こそ晴らしてくれるわ!」
「やめーい! また訓練場ぶっ壊す気かお前ら!」
「せやかてなぁ、こんガキぶっ潰さんと気が晴れんわ!」
「煩いわ、この脳筋馬鹿が! ……あ、そうじゃ」
「なんじゃい? 急用でも思い出したんか?」
「いや何、力の差を見せてやろうと思うてな。貴様の相手など、弟子のマユで十分なのじゃ!」
「弟子?!」
「ほう、ニホン人の癖にこんなヤツに師事仰いどったんかい……面白い、やったるわ!」
「いやいやいやいや、無い無い無い無い! 死んじゃうよ、絶対死んじゃうよ!」
「メビウス、お前何言ってんだ!」
慌てふためく俺達兄妹の頭を抱え込んでメビウスが囁く。
「何、心配するでない。マユの為じゃ。あやつの力を抑えられるのならば魔王にも通じるのが道理じゃ。手加減する必要も無い、思う存分やれる格好の相手じゃぞ?」
「手加減無しって、ユキヒメさん死んじゃうよ!」
「え、そんな物騒になったのお前……?」
「た、多分?」
男子三日会わずばなんとやらなのか、兄の知らぬ間に妹は人の枠を越えたらしい。
「大丈夫、我が保障するのじゃ。マユならヤツを殺れる。存分に全力をぶつけるのじゃ!」
「あの……私って利用されてますか?」
「なんか俺もちょっと見て見たいな、ルールは当然設定するからヤッテミナイカ?」
「あにぃまで?! でもあの人怖いんだよなぁ……」
「おう、何してん? はよ、表出んかい!」
こうしてアルテミア最強のヤンキーと真由の戦いが決定したのである。
◆
「なんだこれ」
いつもの訓練場で準備をしていると、フィリス女王を始めダグダ国王、ユーベンテ宰相、アレンさん、ラザリスさん、シャリーアさんがぞろぞろとやってきた。しかも訓練兵達も声を掛け合っているようで城中の人々が集まってきている。
「いえ、何やらマユ様の成長したお力を見せるとアルマに呼ばれまして。夕方には創造主様をお迎えする準備を進めなければならないのですが、どうしてもと」
「はて、俺は面白い闘技が見れると聞いたのだがな? フィリスとは少し違うな。マユ殿が闘技者なのか?」
「僕は新たな魔術の系統を見れると聞いたのですが……」
「私もそれならとご同伴したのですが?」
「キナくせぇな……」
俺の呟きに反応したように、四角い闘技場の周囲にニョキニョキと黄色い花を付けた植物が生えてきた。
『あーあー、てすてすなのじゃ。聞こえとるかのー?』
しかも花弁の開閉に呼応してメビウスの声が聞こえてくる。どういう構造の植物なのだろうか、これ。周囲を見渡すと地面から生えた蔦を数本持ったメビウスが何かを喋っているのを発見出来た。フィリス女王も発見したらしく、みるみる表情が曇っていく。
「あれは迷宮の……何故、王城の中に」
「すいません、後で纏めて説明します」
ひたすら頭を下げる俺などお構いなしに、花弁の開閉が再開される。
『さてお集まりの皆様よ、これより我が育てた勇者マユのお披露目をするのじゃ! 相手はあの凶悪な竜人ユキヒメ! 此度の戦の希望の星をとくと見るのじゃあ!』
「あの馬鹿! 大々的に真由を宣伝してんじゃねえか!」
「ユーベンテ、この場の者に緘口令を……あ、胃が」
「御意! 女王様はどこかにお座りになられて下さい!」
よろめくフィリス女王をダグダさんに任せ、真性馬鹿を神剣ハリセンで引っぱたく。
「あいたー! 何するのじゃ!」
「馬鹿かてめぇは! 真由の事は内緒なんだよ! 重要機密の最終兵器なんだよ!」
「え、マジで?」
「マジだ! これが魔族に漏れたらどうすんだよ!」
「あー……それは最初に言って欲しかったのじゃ……あんなに強いから希望の星にはピッタリだと思っておったのじゃ」
「女王様が緘口令は敷いたけど、ガチの説教覚悟しとけよ?」
「すまないのじゃ……」
しょんぼりしながら、植物経由で今のは内緒ね?と可愛くお願いするメビウス。フィリス女王からこちらに飛んでくる視線がとても痛い。
『気を取り直して、選手の紹介なのじゃ。殺した生物の数は覚えてない! 喧嘩上等の脳筋婆、竜人ユキヒメーーーーー!』
「お前本当に反省してんのか?!」
わーっと盛り上がる訓練兵達の間を抜けて、先程のままの姿のユキヒメが闘技場に登り、こちらを指差し喉を掻っ切るポーズを決める。俺じゃないよね……?
『続いては、正体不明の謎の剣の使い手! 白き鎧の美少女剣士マユ!』
「適当すぎー! というかもう勇者って言っちゃったし、謎じゃねぇし!」
俺のツッコミ等届かないのか、先程より大きな歓声が巻き起こる。訓練兵の一部からは勇者様っ!勇者様っ!とコールも掛かっているが、ユーベンテ宰相が慌ててそちらに向かうのを見ると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。本当に最近は騎士団の株が下がる事案が多い気がする。
「ほー、あれが勇者様の妹か。案外可愛いな」
「同意っす、これは新たな派閥の予感っす」
「あの、騎士団って本当に頭大丈夫なんですか?」
背後に来ていたヘクトルさんとワイオミさんに聞いてみるが、そもそもワイオミさん自体がその筆頭だと思い出し諦めた。
「なんじゃこやつら?」
「ああ、先日世話になった騎士団の人だよ。ヘクトルさんとワイオミさん」
「ほう、よろしくなのじゃ」
「ああ、よろしくなってお嬢ちゃんは……どっかで見たな?」
「うっす、前回訓練場ぶっ壊した張本人っす」
「あ、迷宮の主か?! 何でここに居るんだよ!」
「これから世話してやるのじゃ、有難く思え」
「なぁワイオミ、やっぱり田舎で農業やろうや……」
「マユちゃん……今なら親衛隊の地位も……いやでもセリス様も捨てがたいっす!」
「この間お世話になっといて何だけど、手出したら埋めますよ?」
「辛いっす、非常に悩ましいっす!」
「さて両者気合十分じゃのう、そろそろ始めるかの」
誰一人噛み合わない会話を他所に、メビウスが蔦の束を抱え上げる。
『ルールは単純、場外か参ったで負けなのじゃ! 闘技場が跡形もなくなるような術・技の使用。対戦相手の殺害は禁止じゃが……まぁ不慮の事故は多目に見るのじゃ、マユは頑張るのじゃ!』
「御託は良いからさっさと始めよか! 勿論、妹様の次はオバサン、貴様じゃあ!」
『ハッハー、マユに勝ってから言うのじゃ! では始めなのじゃ!』
能天気な声で試合開始が宣言され、即座にユキヒメが間合いを詰める。
「ニホン人に手荒なこたぁしたくねぇが、師匠を恨むんやなぁ!」
「うわっとー?!」
アルマ程ではないが案外早い一撃を、声とは裏腹に難なく回避する真由。そのまま懐に潜り込んで、神剣で脇腹へと斬り込む。
「<重力添加>!」
キンと硬質な音が響いて刃はドレスのラメの上を滑る。あれは装飾ではなく、全部が全部本物の竜鱗製なのだ。
「なんや結構やるやないか。速さだけは……ん?」
「か、加減してありますから! 早めに降参お願いします!」
「体が重……ぬん!?」
周囲は何が起こっているか判らない様だがユキヒメが踏ん張るポーズを取っている。恐らく重くしたのだろう。次第にヤンキー座りになっていくユキヒメの姿に観戦者の訓練兵から苦悶の声が漏れる。
「も、もう少し!」
「クソ、ドレスの前部分が邪魔だ!」
「何故だ、何故あの部分だけドレスの布が下がるんだ!」
気持ちは判る。だが声に出すなと言いたい。
「なん、ぼの、もんじゃああああああい!」
「ちょ、ええええ?!」
俺の意識がちょっと脇道に反れた間にユキヒメが気合一発で術を剥がしたようだ。真由が非常に驚いているが、今世魔王の魔術無効ほどでは無いが魔術耐性の強い種族の竜人である。ああいう手で止めるには少々相手が悪いはずだ。
「下手な小細工しよってからに、ちょいと本気出したるわ!」
「気合で解除って、何なのこの人!」
『じゃから加減無用じゃ! 全力で潰してしまえ!』
スッと開手を前面に構えるユキヒメ。真由も剣を握りなおし次に備える。
「今度はそっちから来てみぃや。先手打たしたるわ」
「それはどーもっ! <飛翔>!!」
返事と同時に真由がユキヒメに向かって吹っ飛んで行く。初日に真上に撃ち上がった時と同じくらいの速度での突進攻撃と言った所か。剣を前に突き出し、電光石火の一撃だが。
「直線はあかんなー、減点やで」
手厳しい採点通り、ユキヒメは難なく腕を覆う鱗で受け流し逆に速度の乗った真由の腹に肘を打ち込む。辛うじて鎧の上に打点をズラす真由も大概だなぁと思う。
「なぁ、この一週間で真由に何したんだ? あんな超人の戦い出来る妹は知らないぞ?」
「なんもしとらんわい。勝手に強くなっていくんじゃもの」
「勝手にって……」
「ひよっこ曰く、一度見た技をや術を見切る才能があるそうじゃが。どう見ても見切るだけじゃなく物にしとるようじゃの」
「どこのチートヒーローだよ! というか何だよソレ、俺にもくれよ!」
おおっと言う歓声に試合に目を戻すと、神剣を白刃取りをした状態の構図が目に飛び込んでくる。
「ぐぬぬぬぬぬ」
「<重力添加>ぃぃぃ!」
ベキンベキンと床板に亀裂が走り、ユキヒメが次第に闘技場に沈んで行く。なんだこれ最終決戦か?
「ふんがぁ!」
野太い声で気合一閃、ユキヒメが右足を持ち上げ真由の左足を踏みつける。
「いったあああい!」
「半分は自前の術や、我慢しいや! <竜丹法:氷結縛>!!」
絶叫を上げた真由が術を解いたのか、余裕の表情でユキヒメが術を発動した。竜丹法とかいう魔術とは別の系統で、体内の気をなんとかかんとか言ってた気がするがあんまり覚えて居ない。まぁ要するに術だ。
ユキヒメの名の示すとおりの氷特化の術を得意とする彼女らしく、踏み潰した真由の足がみるみる氷漬けになっていく。
「さてこれで動けんねぇ。今度はあんたが降参する番やね!」
「「「うおおおおおおおお!!」」」
そう宣言したユキヒメの行動に、この日最大の歓声が上がった。着物の中に隠していた尻尾で真由を締め上げたのだ。和風の着物の中から出した尻尾で。当然、裾は捲れトンでもない光景になる。もう10歳程若ければなぁと俺は思うのだが、観客は別に構わないらしい。ちなみに意外な事に紫だった。
「明日から、俺、頑張れるよ!」
「訓練してて良かった……」
「ユキヒメ様ーーーーー!」
本当にこの国の将来は大丈夫なのだろうかと心配になるが、締め上げられ苦悶の表情を浮かべる真由の方が心配だ。
「真由! 無理すんな、お前の力じゃどう足掻いても抜けられないぞ!」
「ほれ、兄貴様も言うとんで? はよ降参しいや?」
尻丸出しのまま、妖艶な微笑を浮かべながら降伏を促すユキヒメに観客も更にヒートアップしていく。中には真由の応援も混じっているが、どう見ても詰んでいると判断しメビウスに止めるように言おうとした瞬間。何故か俺の腰の神剣が光を放つ。
「へ?」
『あれ?』
「んーーーやーーー! <筋力増加>!!!」
「なんや?! 身体強化も使えるんかいな! だけどこれくらいやったらなんとかなる!」
動揺するユキヒメの巻きつけた尻尾が、内側からの力で膨らんだのが見てとれた。というかその術は……。
『ちょーっと! 何で僕の術が使えるジャン?!』
「やっぱりそうなのかよ?! あ、あれか、爺さんの言ってた他の神剣の力を使えるって……」
いや、これは流石に便利すぎるだろ!と心でツッコミを入れた矢先、更に真由が叫ぶ。
「やあああああ! 我が腕、山をも揺るがすぅ!」
「げ、まさか……」
「神力! <大地の膂力>!!」
今度こそ、尻尾が木っ端微塵に弾け飛び真由が解放された。というか、使えるのもアレだが模擬戦如きで使うな!
尻尾が吹き飛んだユキヒメが苦痛の表情でたたらを踏む。そりゃ痛いだろうに。
「っつー……尻尾切られたなんて久々や! だけどこんくらい」
「<落とし穴>!」
辛うじて踏ん張っていたユキヒメの軸足を見事に狩る黒い穴。当然これは耐えれないだろうと思ったが、瞬時に体重を移動して反対の足で踏ん張るユキヒメ。耐えたのは凄いが足元に注意が行ったのが敗因だろう。
「小細工ばっかしおってから……に?」
「形状変化!『大槌』……は危ないから『ピコピコハンマー』!!」
顔を上げたユキヒメの目に入ったのは、恐らく体を捻りきって神剣を構えた真由の姿だろう。そしてそこから繰り出されたフルスイング。
俺とユリウスの戦いの再現なのだろうが、違ったのは神剣が変化した姿が大型のおもちゃのハンマーであり、そのフルスイングの力に<大地の膂力>の効果が乗っていた事だろうか。
ピコーンという快音と共にユキヒメの姿が闘技場から消え、少し遅れてどこからか鈍い炸裂音が響いた。
『け、消し飛んだのじゃ? 殺ったのじゃ?!』
「いや、多分あれじゃないか……?」
俺が指差す方向には穴の開いた王城の外壁があった。出来立てである事を証明するようにパラパラと石材が崩れている。
『場外……で良いのかな? 死んでる可能性が高い気がするのじゃ』
「ユキヒメさんなら大丈夫とは思うけど……際どいよな」
闘技場の傍らに居たアルマを呼び確認行かせると、ぶち抜けた先の廊下で気絶しているとの事。
『確認が取れたのじゃ! 場外により勝者マユーーー!』
メビウスのアナウンスにより観戦者が最後の雄たけびを上げ、竜人と新人勇者の戦いは終わったのだった。マユコールが響く会場で、俺は産まれて初めて記憶が無くなるまで酒を飲みたいと思った。
お読み頂き誠に有難う御座います。
もしお気に召して頂けましたら、ブックマークだけでもして頂けると励みになります。感想も書いて頂ければ舞い上がります。
お時間御座いましたら是非お願い致します。




