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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
現代日本編
3/115

02:坂上家

「ただいまー」


 家に辿り着き玄関を開けるとカレーの香りが漂ってくる。その凶悪な良い匂いに腹も答える様にグーと鳴く。揚げ物の音もするのでカツカレーだろう。やったね。


 晩御飯にウキウキとしながら靴を脱いでいると、リビングの方からドタバタと走ってくる音が聞こえてくる。大きくなる音と共に廊下に飛び出してきた少女が一人。ツヤツヤの黒髪を纏めたポニーテールが廊下に出て玄関へと90度進行方向を変えた慣性で揺れる。


「おかえり、あにぃ! 面接どうだった?」


 意思の強さの表れであろう、つり目気味のキリッとした目を見開いて、ワクワクという擬音が見えるくらいの笑顔で真由が訊ねてくる。勿論俺はションボリという擬音が付くような残念オーラで返答する。


「すまん、駄目だったよ。やっぱどう足掻いても無理だな」

「そっか……ごめんね、あにぃ」


 自分のせいとばかりにシュンとなる真由の頭をポンポンしながら、気にするなと声をかけてやる。


「気にするよ! 私のせいだもん! こうなったら私がバイトしてあにぃを養うわ!」

「お前のせいって訳じゃないさ。後、妹に養ってもらう兄とか恥ずかしいわ。飯待たせちゃってるみたいだし行こうぜ? 何事もその後だ」


 だってー、と続きそうな真由の頭を鷲づかみにして強制的に食卓のあるリビングへと連行する。カレーの誘惑は強いのだ。


「ただいま」

「おお、おかえり……で、どうだったんだ?」

「やっぱ駄目だったってさ」


 サラダや食器類のセッティングがされた食卓には、既に部屋着に着替えた俺の父、坂上総助さかかみそうすけが待っていた。


 茅蒲野町の郵便局勤務の43歳。最近増え始めた白髪を染めオールバック気味に纏めている。顔はさすが親子と言うべきか、平々凡々である。髪の心配が無さそうなのが救いだろう。


「そうか……原因は面接か?」

「やっぱり空白の所を突っ込まれちゃってね」


 報告しながら食卓の定位置に着く。父さんの対面に俺、俺の横に真由。その正面にはキッチンに居るであろう母さんが座る予定だ。


「それで、その……なんとかならないのか? 『嘘が付けない』ってのは」

「んー、残念ながらそれはどうにも」

「そうか……困ったものだな」


 コップに冷えたお茶を注いで飲み干していると、父さんがバツの悪そうに聞いてきたのでいつも通りの返事をしておく。


 家族には勿論全て話してある。だが信じて貰えているかで言えば、父さんはNOだ。三年前に家出した息子が帰ってきたが、良く判らない事を言って誤魔化してるという感じなのだろう。まぁ普通そんなもんだ。母さんは無事に帰ってきたんだからと、あんまり気にしてないようだが。


 信じていないのに父さんが強腰で来られないのは、三年前の時点で真由と衝突したからだと母さんがこっそり教えてくれた。


 当時教育に厳しかった父さんの方針で、俺はやや遠めの進学校の高校に通う事になっていた。勉強なんて好きでもないし、俺と父さんの関係は良好では無かった。そんな乗り気じゃない高校進学直前に失踪。当然父さんは家出したならもう敷居は跨がせないと激怒し、真由がそこに食ってかかったという。


『あにぃは私をかばって誘拐されちゃったんだよ! なんで信じてくれないの!』


 嫌いっ!と言いながらグーで殴ったと母さんから聞いた。そこはビンタじゃないだろうか。そこから一ヶ月程、口も聞かずに過ごして最終的に家出では無いという点に関しては、父さんが渋々納得して和解したそうだ。やむをえない事情で蒸発した、という線で。反抗期すら無かった甘えん坊娘のグーパンは相当ショックのだろう。


 三年後、ひょっこりと帰ってきた俺がこうして無事に帰宅と相成ったのは、そういう経緯からである。


 脱線した話を戻そう。


 父さんが言葉を続けないので食卓の空気がやや重い。何か話さないととは思うが正直やりづらい。苦手意識というか何というか当時のイメージが拭えないのだ。そんな空気を察したのかの様に明るい声が食卓に響く。


「おまたせ~、今日はカツ入りよ。題して『総ちゃんおかえりなさい1ヶ月記念すぺしゃる』!」


 軽い台詞と共に現れたのは、黒髪ショートカットの女性。俺の母さん、坂上奈々子さかかみななこ40歳。未だに白髪も目立たず、頑張れば30代前半で通りそうなほど若々しく性格も快活でありマイペースで空気とか雰囲気を気にせずに行動するのがとり得である。


 だが、さすがに「ちゃん」は恥ずかしいので勘弁して欲しい。


「はい、総助さんの分。こっちが真由ね」


 トントンと、手際よく配膳してキッチンへと引き返し、残り二皿を持ってくる。


「これが私で……ジャジャーン! これが総ちゃんすぺしゃる! 豪華二枚仕立て!」


 とっておき!といった感じで目の前に置かれた皿には確かに二枚のカツが乗っていた。二倍という圧倒的なボリュームの皿を見て、真由が動き出した。


「あにぃだけずるい! 四切れ要求する!」


 フォーク片手に乗り出す真由の反対側へと皿を非難させる。


「これはあくまで『総ちゃんスペシャル』だ。お前の付け入る枠はない!」

「面接アドバイス料一回も支払われてない! 滞納だー! 利息分で二切れ所望する!」


 痛いところをついてくる、社会復帰特別顧問は高いらしい。しかも要求を四切れから二切れに下げる事で割安感を与えるとは、成長したな。


 だが、もう一歩押し込める。


「一回分+利息で二切れなら受けようじゃないか」

「むむ……OK!」


 あっさり了承した真由の皿に2切れ進呈していた所、母さんが挙手をした。


「はい、お母さん。発言をどうぞ!」

「では、いただきますの前にここ一ヶ月の我が家を見た母さんから一言ずつ。まず総から」


 母さんはこっちを向いて座りなおし、真剣な表情で俺の目を見据える。呼び方が「総」だけの時は真面目な話の時だ。俺も座りなおして正面から向き合う。


「お祝いって言った直後でお小言は言いたくないけど、もっとお父さんと話しなさい」

「……はい」


 やっぱり微妙な空気は察してたらしい。正直、父さんのイメージは教育に厳しかった当時が強く、本当に接しづらい。返事はしたが出来るかどうかは怪しい物だ。


「三年間、色々苦労したって自分でも言ってたでしょ? 正直、母さんも勇者とか魔王とかは判らないわ。無いとは言えないかな? くらいの認識でしかないの。でも、ちゃんと立派に育って戻って来てくれたんだから、私はそれで十分よ。ちなみにお父さんと魔王さんってどっちの方が怖い?」

「え? そりゃ比べ物にならないくらい魔王の方が怖いよ。死にかけたし」

「じゃあ、お父さんなんて屁でもないでしょ! 怖がってないで唯一の男同士なんだからそういう話しなさい!」

「はい……」

「よろしい」


 男同士の会話って言われても下ネタしか思いつかないが。ポンと膝を叩いてから、グルリと体の向き変え今度は父さんと相対する母さん。


「次、総助さん」

「はいっ」

「三年間あれだけ『元気でやってるかな』とかウジウジしてたのに、戻ってきた途端ムスっとしない!」

「な、奈々子さん! それは内緒に……」


 いきなり動揺する父さん。初手で急所を抉るとは恐れ入った。おたおたしている父さんを見ていると、魔王と比べるまでも無く普通の人間であると認識出来る。


 心配してくれてたのか。

 そう実感したら、ちょっと心が軽くなった。


「しません。あれだけ心配してたんだから、今後は仲良く四人で家族の時間を過ごしましょう?」

「判った……」

「よろしい」


 正面に向き直る時に親父と目が合うと、小さい声で「すまんな」と言われた。


「私には~?」

「真由はお兄ちゃんにカツを返しなさい。最近食べすぎです」

「なっ……何故」


 見事なオチまで付けて、食事は開始と相成った。我が家の母はマイペースなようでも強い。なんとなく、本当の意味で帰ってきたんだなと実感できた。





「さぁさぁ、あにぃ。反省会なのよ」


 カツカレーをたらふく食べて満足した俺は、現在『会議中!』の札がドアにかけられた自分の部屋にて反省会という名の雑談をしている。部屋の真ん中を陣取る机の上に広がる菓子をつまみにコーヒーカップを傾け食後の至福の一時を堪能する。


 真由は学習机の椅子に座り、こちらを向いてノートを広げ足をぶらぶらと揺らしている。この時代、パソコンで管理すればいいじゃないかと言ってみた事はあるが、気分の問題らしいので会話から筆記スタイルでメモを取り、後でパソコンで整理するらしい。


「今回の失敗で通算5戦5敗の全敗街道まっしぐら。もう他に手立てもないし、面接の無い仕事何かないかな~?」

「無理なんじゃないか? むしろ有ったとしても怪しい仕事じゃないか?」

「魔法とか使えれば探偵とかで難事件を即解決!みたいな事できたのにね~」


 椅子でクルクル回りながらピタっと前方を指差して「お前だー!」とかやっている姿を見ると真面目に反省会しているのか疑いたくなってくる。


「魔法つか魔術な。一応やってみてはいるけど全く反応しないから無理だと思うぞ?出来たとしてもバフ系のサポートがメインだしな。足早くなったり、筋肉ムキムキマッチョメンとか」

「地味すぎる……なんか派手なの無いの? 隕石落とすとかさ」

「あるっちゃあるけど、それこそ街中で撃てないようなのだぞ?」

「具体的に?」

「1000m級の山なら一山消せるくらい?」

「何ソレ怖い」


 若干引き気味の妹様に追加で情報を足しておく。


「ちなみに俺は歴代最弱の勇者だったらしくてな、『神剣しんけん』使うだけでほぼ容量埋まってたらしい。神剣あいつのサポート無しじゃ魔術自体使えてたのかも怪しいぞ?」

「結局、あにぃはどこに行ってもパッとしない……と」


 そこは別に書かなくてもいいんじゃないかなー、とノートに情報を書き込む真由に心でツッコム。


「魔術で云々は無しだ。よしんば出来たとしても世間の目に触れたらどっかの秘密組織に拉致されかねない」

「それこそアメコミの超人みたいにさ、逆にそいつらを懲らしめてやるんだよ!」

「それじゃ金にならずに本末転倒、金持ちの道楽でやってるようヒーローも居るじゃねーか。魔術とか超人系の線で解決するのは却下!」

「ぶー……そういうのがカッコイイのに」


 頬を膨らませて、どうしたもんかなーと腕組みあぐらで再度回り始める。絶対に考えてないな。


「現状としては一つ、普通の面接は通らない。二つ、勇者依存の打開策は使わないし使えない。三つ、俺は金が要る。以上は確定事項だ」

「定時制の学費くらい出して貰えばいいのに」

「その後の事考えたら、ここで打開策考えとかないと俺の将来稼ぎ0だぞ? 突破口が見つかってからなら出して貰うというか、借りて返す」

「変な所に拘るよね? 分かった、あにぃの面倒は私が見るって! 金銭面もあっちの世界への移動方法もすんごい科学者になって実現してみせるわ! どーんと任せておきなさい」

「どこから来るんだその自信は……」

「あにぃへの愛の力?」

「ないない」


 将来設計は大事である。しっかり建てておかないと崩れ去る物である。しっかり建てても崩れ去る物でもある。コーヒーを飲みながら、ハンガーにかかったタキシードに視線を移す。


 胸の位置には『ハイランド王家特別栄誉勲章』が今も輝いており、様々な宝石を散りばめた豪華絢爛な造りのそれは王家より送られる勲章の中では最高位の勲章らしい。


 流石にアレは売りたくないよな……。


 売ったらそれこそ一財産になるであろう逸品だが、正直アレを売ってしまうと勇者としてやってきた功績を売るようで非常にモヤっとする。緊急時の最終手段にしようと思う。


「じゃあ、話を変えましょう」


 宣言して椅子からベッドへと移動して、うつ伏せ状態になる真由。


「結局、どうやってもあっちには行けないの?」

「正直こっちからアクセスする方法が俺にはさっぱり想像もつかん」


 そう言いながらお手上げのポーズを取る。あっちの世界『アルテミア』に戻るという話。行きも帰りもあちらの秘術頼りだったしどういう理論かすら判らない。


「完全に異世界と言い切れないのがネックだよねー」


 足をぶんぶんさせながら真由が言う。散々二人で考えて出た数少ない結論がそれだ。この世のどこかに本当にあるかもしれない、という点。


 唯一ある事実として時間軸が一緒なのだ。物理的に途方も無く遠い、地球には無い『マナ』という元素がある惑星という可能性。勿論そうでなく、異世界という可能性も0ではないのでどうにもならない話だが。


「まぁ幸いアッチでは確立した技術だ。こっちはその合図みたいなのを見逃さないようにするしかないかな」

「大洗神社にはこまめに通うとして……でも、一回追い返したあにぃを戻そうとするの?」

「そこは……セリス次第だな」

「王女様とラブラブとか~。愛の力~?愛なのね~」

「茶化すな! ラブラブなのは異論は無いが……超可愛いぞ?」

惚気のろけるな! でも本当になんとか出来るの? お義姉さん候補は」

「一応可能性はあるのかな? セリスは『神属性』の適正が異常に高い」

「魔術の属性だっけ?」

「そうそう、何に由来する術かで属性分けされてて『神属性』は神様由来の術ってわけだ」

「あ~……『勇者召還』の術も『神属性』だからチャンスはある、と?」

「そういう事。まぁ不安要素も多いんだけどな」


 そこでコーヒーが切れたので、おかわりを取りに行ったついでにベッドの方を向くように座りなおす。一緒に持ってきたカフェオレを机に置くと、真由がベッドから這い降りて俺の対面へと移動する。その際、机の上に広げられたノートを覗き見てみると『セリスさん想像図』と題した、どこぞの映画のエルフの女王の様な絵が描いてあった。


「あー……そういう系統じゃないな。人間で、もっとこう、可愛らしい感じだ」

「何が? ……あ! 見るな! 絵下手なんだから」

「じゃあ何で描いたんだよ……」

「義理の姉になるかもしれないんだし~? どんな人かなーと思って」

「んー……金髪で毛先だけクルっとカールした肩くらいの髪で」

「金髪……で、カールしてて……肩ぐらい……で」


 俺が説明し始めるとエルフの女王に大きくバッテンをつけて横に新たに落書きを始める。


「目がタレ目気味で真ん丸ででかいな。他パーツはちっちゃめで、というか背もかすみちゃんくらいか」

「タレ目……まんまる……かすみんぐらい……ってちっちゃ」

「16歳だしな。あっちは全体的に低いから普通だぞ?」

「私とタメ!? でもそんな小さい子とか……外見だけで言えば実の兄がロリ好きって複雑だわ」

「……」


 ノートに完成した絵に目をやると、幼稚園児と真っ向勝負出来る物体が「ソウジサマっ!」と喋っていた。断じて違う。


「まぁ話戻して、不安要素って?」

「ああ、『神剣』の状態だな。『勇者召還』の術自体あいつが提供元だし」

「あにぃの使ってたっていう喋る剣?」

「そうそう。神様が直々に創った神造武器ってやつだ。クソ煩いけど知識はある」


 『神剣ハイランド』という勇者の武器。神様を父と呼び、知性武器という分類の自我のある不思議な片手剣。七つの浮遊大陸を創る時にその触媒として使われたそうで、各大陸に一本ずつ合計七本の神剣が存在しているらしく、ハイランド大陸は山岳と肥沃な平野が多い『土属性』担当だそうだ。


 特殊能力は『創造』。俺は『神剣』自体をイメージ通りに変形させる事位しか出来なかったが、先代さんは鉱物に属する物なら自由自在に操ったそうで。戦闘中ですら『そこで受けると痛いジャン!』とか喧しい事この上ない相棒だった。


「何が問題かって言うと、魔王戦が終わったから充電したいらしくて休眠しちゃったんだよな」

「なんか家電みたいなのね……」

「『勇者召還』のシステム自体にあいつが関わっていたなら、起きるまで使えない可能性がある」

「なるほどなるほど、充電はどれくらいかかるか判る?」

「『神力を使いすぎたジャン。ちょっと寝るジャン』としか言ってなかったな」

「何その喋り方、ウザイ」

「会う機会があったら直接言ってやってくれ。兄弟剣と外見に個性が無いから自己表現らしい」

「剣に個性とか言われてもな~……」

「たまに素で喋ってたから、キャラブレブレだったしな」

「そこは徹底しようよ……」


 ノートには剣っぽい雑な絵に「ジャン!」という吹き出しと「鍵を握る?」「ウザイ」と注釈がついていた。訂正する箇所が見当たらないのでそのまま放置しておく。


「でも、あにぃさ。剣は関係無いんじゃないかな?」

「ん? どうしてだ?」


 聞き返すと、ノートをペラペラと遡りあるページを提示してくる。


「ほら、ここ。アリスさんに追い返された時。近くに剣も無かったし、あにぃが寝てるの知ってるって事はこの前の段階で寝てたんでしょ?」

「あ、そうか。そうだな」


 言われてみればそうだ。寝てても『勇者強制送還』は発動したのだ。あの指輪がどういう代物か判らないが確かに『神剣』は無かった。納得したついでに1つ訂正を入れておく。


「真由、アリスに『さん』とかつける必要はない。あいつは下種の極みだ」


 俺はアイツを許さない。殺すまではしないでも半殺しにはしたい。ノートに描かれたアリス想像図の「オーッホッホ」と吹き出しのついたソレを見ただけでもムカついてきて、自然と眉間に力が入ってしまう。


「あにぃ……ちょっと怖いよ?」

「これだけは譲れないな、あいつは許さない。絶対にだ」


 尚もイライラしてる俺に向けて真由が真剣な顔を向けてくる。


「なんだ?」

「あにぃには悪いけど、私は逆にアリスさんに感謝してるの」

「感謝? あんな自分の事しか考えてない奴になんでそんな」

「あにぃ、自分では帰ってくる気無かったでしょ?」


 言われて思えば確かにあの時点ではセリスとの今後についてとか、他大陸に旅行行ってみたいなとか、そんな事しか考えてなかった。


 日本は懐かしかったが、それよりも『アルテミア』の三年の方が充実していたし、好きな人が居て気心知れた仲間が居て。どちらを取るかと問われれば、間違い無く『アルテミア』だっただろう。


 戻る事は無かったと断言出来る。


「……そうだろうな」

「だったらあにぃも自分の事しか考えてないよ? あにぃの話聞いてて、どれだけあっちを好きかは判ってる。勿論、勝手に帰したアリスさんも悪いとは思う」


 でも。と


「私にとっては違う……目の前で消えちゃって、生きてるかも判らなくて」


 当時の心境を思い出してるのか、カップを持つ手が震えちょっと泣きそうな声に変わってきていた。


「私を逃がしたせいだ、自分が悪いって思い込んで……毎日毎日神社で過ごしてさ……凄く不安で。多分、こうやって帰ってきてくれなかったら、少なくとも私は色々終わってたと思う。一生、後悔と不安と自己嫌悪に苛まされながら、この町で死ぬまであにぃ探して……だから、私は感謝してる。あにぃには悪いけど、私は救われたから」


 独白、という感じで話終えるとカフェオレを一口飲んでからいつもの調子にすぐに戻る。


「だからこそ、あにぃはあっちに戻らないと! セリスさんは絶対に心配してる。私も今度は行ったきりになっても大丈夫。だって、幸せに生きてるって分かってるから! アリスさんに関しては一発ぶん殴るくらいでいいじゃない!」


 ニカッと笑う笑顔を見てると邪気が抜けていく。イライラもいつの間にか収まり、心が落ち着いて行く。


 俺には過ぎた妹様だと思う。


「そうだな……」


 結局、その後は打開策も無くいつも通り進まない対策会議は日付が変わるのを合図に終了となった。

 お読み頂き誠に有難う御座います。


 もしお気に召して頂けましたら、ブックマークだけでもして頂けると励みになります。感想も書いて頂ければ舞い上がります。


 お時間御座いましたら是非お願い致します。

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