12:始まった生活に向けて
なし崩し的に開始された集団生活の為、色々しなくてはならない事がある。生活ルールの勘違い等で何か致命的な齟齬が起きてからでは遅いのである。そう提唱して、俺の休日は潰れるハメになった。前回を踏まえ、俺の休みは水曜日は固定になるようにミトさんにお願いしておいた。徹が動けるかどうかで色々変わる事も出てくるだろう。
キャンプ場の一件の翌週の水曜日、本日初開催となる全体集会。参加者にはこの数日で感じた事を纏めておくように通達してある。今回は父さんが不在の代わりに徹とかすみちゃんが参加している。勿論日本人勢が翻訳腕輪を装備しての参加だ。
人数分の麦茶が行き渡った所で、真由が咳払いをして開会宣言を始める。
「それでは、これより第一回日本・アルテミア交流会を開始致します! 司会進行は私、坂上真由が勤めさせて頂きます! はい、拍手~!」
わー
ぱちぱちぱちぱち
結局このノリなのかと心の底から残念な気持ちになった。事前に仕込んでいたらしく、ユリウス以下元同僚組は全員拍手をしている。マリーさんもお付き合い程度といった感じでやってくれてはいるが、クレイ少年と犬は無反応。ミネルバさんはガヤで参加している。
ちなみに全員量販店で買ってきた日本製の服を配布して着てもらっている。シェンナに関しては、頑なに帽子を取らないので不思議がられていたが、魔女っぽい帽子にスウェットといったアンバランスなファッションを披露している。帽子を取らない理由はいつまで隠し通せるかが面白いので黙っている事にした。
「そして書記は平屋かすみ。ご意見番に平屋徹氏をお迎えしております。それではまずは事前にお伝えしていた通り、この数日で思った事など有りましたら挙手してから発言をお願いします。どなたか何かありますでしょうかっ?」
俺を含めほぼ全員から手が挙がり、一人が『はいっ!』と大声で叫ぶ。真由には事前に元魔族組・同僚組・日本人の優先度で処理するように伝えてある。今の所、やはり元魔族組には謎が多いので積極的に情報を出させたい所だ。
「はい、まずはミネルバさんどうぞ!」
「有難い。では、思った事というかお願いなのだが、その……折角の異世界なので外を見てみる事は出来ないだろうか?」
やっぱりそういう欲求は出てくるのか。
経験者なので気持ちは判るのだが、この場合は相手が悪い。
「ミネルバさんは残念ながら、そのまま外に出たら完全にアウトなので駄目です」
「そうか……」
「そのうち何か対応しますから、それまで我慢して下さい」
俺の返答に項垂れてしまった生首様には悪いが、これは流石に何か手立てが無いと無理だろう。作り物として誤魔化すには生々しすぎる。
さて、次は誰だ。
「では、次にガルちゃん!」
『俺だけ飯が違うのは何故だ?』
こいつ……案外知能低いのか?
もっと切実な問題が出てくると思っていたんだが。
「ガルのはドッグフードという食い物だ。消化器官が人間の物と違う可能性を考えて、こっちの世界の似たような生き物専用に作られた食事を出した。不味いなら変えるが?」
『不味くはないがどうも毎回同じ物というのもな。たまに変り種を食わせてくれ』
それだけ言うと、庭の方に出て行ってしまった。良い餌を与え続けると贅沢になるとか言うけど、魔族時代に良い物食ってたんだろうな……もしかしたら人間?そう考えると怖いなこの犬。
「次、マリーさんどうぞ!」
「正直……まだ本当にこんな扱いを受けて良いのかと聞きたい所だけど、取り合えずお礼を言いたいです、ありがとうございます。クレイの分も含めてご迷惑をかけているとは自覚していますので何かお手伝いさせて頂きたいのですが、何か出来る事は有りますか?」
何となくだがマリーさんは元の調子を取り戻してきているようだ。たまにぶっきらぼうな感じの言葉遣いも混じるけど、丁寧に伝えようとしている感じは伺える。こういう反応を見ると確かに魔術魔族が操ってたという話が合っているようにも思える。手伝い等に関しては母さんの方が良いだろうと、目線で合図を送る。
「そうね、体の方の無理にならない程度に家事のお手伝いをして貰おうかしら。洗濯とか炊事とか、ミーララさんと一緒にお願いできるかしら?」
「体調には問題が無いので大丈夫だと思う。あまり料理は得意では有りませんが、宜しくお願いします」
「そこは私とママさんで教えますので、大丈夫ですよ!」
「ま、具体的な内容は後で三人で話してくれ。真由、次~」
ミーララがここぞとばかりにしゃしゃり出てきたのでそのまま投げてしまおう。雑務関係なら適任だし。やっぱマリーさんが一番まともなのかな?ミネルバさんは外見はアレだし、言ってる事はまともに聞こえるけど軍人の価値観なんだよな。
「はいはい、じゃ次は~……ユリウスさん!」
やっぱりクレイ君は全然喋らない。
これも課題の一つにしておこうと思う。
「マリーさんと同じ様な感じなのだが、俺達もご厄介になっている身だ。何か出来ないだろうか?」
「何かと言われてもな……後で言うつもりだったけど、丁度良いか。ユリウス・シェンナ・アルマの三人は、万が一に備えてマリーさん達の傍に誰か一人は居てくれないかな? 様子を見ている限り大丈夫だとは思うけどね。ただ不明瞭な部分が多すぎるし、もし魔族化が再発したら母さんや真由じゃ対応出来ないだろうし」
「なるほどな。帯剣して傍らで見守るとするか」
「外に持って行ったら銃刀法違反で捕まるから、外出時は置いて行けよ? 後、日本人以外は滞在するのに証明書が発行されているから、それを提示出来なくても問題になる。外では警察見たら隠れろ」
「ジュウトウホウイハン?ケイサツ?」
「日本じゃ一般人は帯剣は勿論、刀剣の所持を許可されていないんだよ、その法を犯すのが銃刀法違反。警察はそのまんま巡回衛兵だ。外見は写真で説明した方が早いだろうし後で見せてやるよ」
「了解した。なるべく目立たないようにしよう」
外出時の危険性、これも課題か……問題は山積みだな。
「良いかな? じゃ次はシェンナ姉さん!」
「えーと……何であたしだけ姉さんなの?」
「雰囲気? 頼りになりそうだし!」
「はぁ……貫禄だけ付いちゃってるのかしらね、まぁ良いわ。私の問題は野宿には慣れてるけど、この蒸し暑いの何とかならないかしら?」
ああ……やっぱ暑いのか。
外で寝るって言った時ちょっと心配したけどテントの中は地獄だろうな。
シェンナの意見にユリウスも便乗で申し出てきた。
「すまん、実は俺も少し後悔していた所だ」
「でしょ? かなり想定外だったわよね……」
「アルテミアと違って日本には四季があるからな。一年の間で四回気候が変わるんだよ。もう少ししたら多少マシにはなると思うけど、無理そうならそうだな……リビング使って良い、母さん?」
「どうしましょう? 私の部屋はもうマリーちゃん達が使ってるから、後はもうリビングか総ちゃんの部屋しか無いわね。そうだ、総ちゃんの部屋にユリウスさんが入ってもらって、真由の部屋には……流石に五人は無理か~」
「いや、それだったら俺が外に出て女性陣が俺の部屋使えば良いさ」
真由の部屋は現在セリスと共有しているので、そこにアルマ・シェンナ・ミーララと詰め込むのは酷だろう。
「でしたら私達が使わせて頂いてる部屋に監視も兼ねて、誰か来て頂ければ良いのでは?」
「私は別に暑くないから、シェンナとミーララだけ行けば良い」
流石に野生児は逞しい。ただ二人も増えるとマリーさん達の部屋の密度が上がるが……まぁそこはしょうがないか。
「そうね、そうさせて貰おうかしら。じゃあ後で荷物持って行くから宜しくね、マリーちゃん、クレイ君」
「便乗で私もすいません、お邪魔しますね~」
「はい、宜しくお願いします」
「……」
笑顔で話し合う女性陣を警戒するように、クレイ君はマリーさんの背後に隠れてしまった。これを機会に少しでも心を開いてくれれば良いのだが。
「じゃあ次行きましょう! ちなみにアルマちゃんも何か有ったら私の部屋に来ていいからね?」
「雨降ったら行く」
「おっけ~、その時はおやつ用意しとくね。で、アルマちゃんの質問は?」
「ミネルバと同じかな。散歩してみたい」
「そこはどうでしょうか、あにぃ?」
そういった関係は確かに俺の采配なんだが、これも言うまでもない。長年の経験が既に答えを導き出している。
「却下」
「なんで?」
「マスクで鼻を隠し、帽子で耳を隠し、尻尾もズボンに押し込んで隠して、手も手袋で隠せばギリッギリ行けるかもしれん……だがお前はアルマだ。却下以外の結論は無い」
「確かに却下した方が良いと俺も言おう。こいつは自制とは無縁だ、必ずボロが出る」
俺の判断に激しく同意してくれるユリウスが頼もしく見える。伊達に一緒にアルマで苦労した仲じゃないな。
「見つかったら不慮の事故で消えて貰う?」
「それが駄目だっつってんだよ! はい、却下。次」
「でも流石に何ヶ月もずっと家は可愛そうだよ、何とかしてよあにぃ」
「ミネルバさんと一緒、打開策まで待て。ほら次行け」
「あーい。じゃ、かすみんどうぞ」
さて、ここからは日本人側か。何が出る事やら。
「はい、えと、皆さんに時々私の家に泊まりに着て頂く事は可能でしょうか? 色々お話を聞きたいのですが」
期待しているキラキラオメメで聞いてくるが、これはちょっと厳しい。心苦しいがお断りしておこう。
「俺の家だけじゃ駄目かな? この話を広めるのは得策じゃない気がするんだよね。アルマとミネルバさんは確実に無理だし、他ならホームステイって事でなんとかならなくは無いかもしれないけど、そこは様子を見てからにしたいかな」
「そうですか……モフりたい……」
残念そうに何か不穏な事言ったな。言葉から推察すると狙いはアルマか。
「頼めば普通に触らしてくれるぞ? なぁアルマ」
「本当ですか!」
「何が?」
「かすみちゃんが触ってみたいってさ」
「ああ……ソージみたいに乱暴にしないなら良いよ?」
「是非!」
承諾を得るとササッと移動してアルマに張り付いた。あちこち撫でまくる姿を見ると、やっぱり手遅れな子なんじゃないかなと認識を改めさせられる。というか、ここまでで何か建設的な意見というか盲点だったと気付かされた案件が「外が暑い」だけか。相変わらず意味の無い会議だったなと、思っていたのだが。
「じゃ次~。お母さんどうぞ」
「はい。まずはお食事ね。皆さん何か食べられない物とかあるかしら?宗教上の理由とか、単純な好き嫌いでも良いわ。味付けもね。勿論、私達は普通に食べてるけど皆さんには有害な物も有るかも知れないの、何か有ったらすぐに言ってね。どうかしら、今日までで何か有ったかしら?」
ゆっくりと全員を母さんが見渡して行くと、ミーララが挙手をする。
「私も調理にご一緒させて頂いてますので、毒物等は大丈夫かと思います。で、もし宜しければ持参した調味料なども使わせて頂いても宜しいですか?」
「ええ、勿論。私もそっちのお料理には興味あるわ。食べ物関係なら何でも良いわよ、他に何か無いかしら?」
「では、ついでなのだがミルクは無いだろうか? 以前は毎日飲んでいたので出来たら飲みたいのだが」
「牛乳で良いかしら? 良ければ後で用意しておくわね」
「不思議に思ってんだけど、ミネルバさんって食べた物何処に行ってるの……?」
「ふむ? そう言われればそうだな。空腹も感じるし、喉も渇くから食事をとっていたが、何処に行っているのだろうな」
「更に言えば、その断面……どうなってるんですか?」
「おぉ、それも気にしていなかったな。マユ殿、ちょっと確認してくれないか」
良い流れだったのに脱線していった妹と生首を横目に見ながら、本題を進めようと進行役を引き継ぐ事にする。母さんの意見は、かなり俺が求めていた会議に近い内容のはずだ。
「じゃあ、食べ物関係は以上かな? 何か有ったらそっち関係は母さんに言ってくれ。母さんはまだ質問とか有るよね?」
「ええ。じゃあ、食べ物のお話はこれくらいで。次はお風呂ね。さっき総ちゃんがかすみちゃんの家に行くのはダメって言ってたけど、正直この人数だと家のお風呂だけじゃ厳しいわ。総ちゃんと真由だけでもご厄介になれないかしら?」
やっぱりまた誰も気にもしてなかった所が出てきたか。流石に主婦目線ってのは違うな。そんな母さんのお願いに、徹が意気揚々と答える。
「俺の家なら別に構わないですよ、総司とユリウスさんくらいなら気にもしないんじゃないですかね。留学生とか俺が説明すれば、納得して歓迎してくれると思いますよ」
確かに平屋両親なら細かい事は気にしないだろうな、と失礼な事を思ってしまう。職人気質というか、夫婦揃ってかなり大雑把な性格で有名だ。
「早速今日帰ったら相談してみますよ」
「徹君ありがとう、ご両親に宜しく伝えておいてね。駅前のサウナとかも使えれば良いのだけれどね。えーと……後はそうね、洗濯物をちゃんと決めた場所に出して欲しいかな。量が多くなってるから、終わってから見つけても翌日回しになっちゃって着る物が無くなっちゃうわ。あ、あとそれからゴミの分別ね」
そこからはもう色々と生活指導が始まったわけで。今回の会議を一番心待ちにしていたのは間違い無く母さんだったのだろう。小一時間程続いた話が終わり、最後の総括として、こちらの住民に危害を加えない事を念を押して確認し、閉会となった。
終了後、母さんに良くそんなに気が付く事あったね、と聞いたら苦笑混じりにこう返された。
「だって、こんなに大勢のよそ様のお子さん預かるのですもの、気も使うわ。それに何かTVの大家族ドラマみたいで楽しいじゃない?」
◆
「よし、これで全部運び込んだな?」
「ああ、助かった。では、改めて今日から暫く宜しく頼む」
会議も終わり、軽い昼飯を食った後。俺の部屋へ、ユリウスの荷物の運び込みが終わって一息つく。荷物と言っても、いつもの装備とその予備だけなのだが。他のメンバーの手伝いをしようかと声を掛けたが、どこからも需要が無かった。飲み物を持って来てユリウスと午後のひと時を過ごす事にした。
「しかし、ソウジと二人ってのは初めてか?」
「そうだな~……最初のセリス助けに行った時も他に城の兵士も居たしな。完全にサシは初めてか」
そんな話題を皮切りに、過去の思い出話に花が咲いていく。その中で俺が帰ってしまってからの復興の具合や、かつての知人のその後についての話を聞き、望郷の念の様な物を覚えてしまう。
「懐かしいな……もう一回アルテミアに行きたいぜ」
「ああ、そうだ。そこはどうなんだ? はっきり決めているのか?」
「何を?」
「この一件が終わったら、お前はどちらの世界に住むつもりなのかという事だ」
「セリス次第かな。戻れないならこっちで面倒見るよ」
そう言いながらも漠然とした考えしか無かったなと思い当たる。セリスが戻れるとしたら、俺は当然あちらに行くのだろう。そうしたら本当に日本、というか家族と今生の別れになるのだと自覚する。
「もしセリスが帰れるならそっちで暮らすさ、ちょっと寂しいけどな」
「そうか。そうなったらお前が王族か……それはそれで頭の痛い話だな。しかし、最愛の人か家族の二択とは酷な運命だな」
「それはもう前に決めた事だ、後悔は無いさ」
「いや、お前だけの話じゃないって事だ。もし帰れないとなると、セリス様は家族と別れも言えずに会えない事になるだろ?」
「あー……でも、今回みたいに行き来出来たり、あの水晶玉使って連絡くらい取れるんじゃないのか?」
「それは楽観しすぎだと思うがな。魔族が世界を渡ったという特例で許可が降りたと神剣様は言っていた。そう何度も使える手法では無いようだぞ?」
「げ、何だよそれ初耳だぞ」
「あのお方は重要な事を言い忘れる事が有るからな。どういう結果になるにせよ、今回の事態が収拾したら二度と行き来は出来ないと俺は思っている」
普通に考えて、そんなにホイホイと移動出来ないだろうなとは思っていた。だから今生の別れの可能性を覚悟はしていたのだが、今回これだけの人数が移動しているので少しは期待していたのも事実だ。
「連絡くらいは許して欲しいな」
「それでも、顔が見れない事が余計辛いかもしれないぞ? 個人的な意見で言えばお前とセリス様が幸せならそれで良いとは思っていたが、お前の家族を見ていたら余計な事も考えたくなったのさ」
「どの道ハッピーエンドには程遠いか」
ふぅ、と溜息をついて考える。数日前の状態からしたら、状況自体は良くなっている。それは絶対に間違い無いはずだ。だけどこのままじゃ俺達以外の誰かが割りを食うのも確実だ。前回とは事情が違うから、納得はしてくれるとは思うがやはりベストな結果では無い。では、大団円とはどういう物なのだろう。俺とセリスが一緒に暮らせて、尚且つ家族や知人とも別れずに済むには?当然とんでもない結果に行き着く事になる。
「いっそ、世界が融合でもしてくれりゃ問題無いな」
「ハハハ、何を馬鹿な事を。そんな事になったら大事だ、どちらの世界も大混乱に陥るだろうに」
まぁ当然そうなるな。
「そしたらまた勇者やってやんよ! 文句言う奴を力尽くで従わせて、世界を統一する!」
「それは勇者じゃないだろ、どちらかと言えば魔王だ」
尽きる事の無い思い出話に花を咲かせ、冗談交じりの歓談は続く。偶にはこういう男同士も良いかもしれない。父さんともこういう感じで話せれば、母さんの理想なのだろう。どういう結果になるのか判らないが、もう残された時間は余り無いのかもしれない。今度は父さんも交えて、こういう話をしてみようかなと思った。
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