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送還勇者と来訪者  作者: 神月センタロウ
年末年始編
109/115

08:三年ぶりのクリスマス ③

忘れてる人居ないか何度かチェック。

「じんぐるべーじんぐるべーすっずがーなるー!」

「のじゃぐるべーのじゃぐるべーのじゃがーのじゃー!」

「適当に歌ってんじゃねーよ」


 予定時間の20時まで後1時間。手伝いの為に早入りした俺の耳に聞こえてきた怪しい歌の発生源に蹴りを入れておく。


「あ、あにぃ、セリスさんおかえりー」

「お帰りなさーい」

「おう、ただいま。準備は順調な様だな」

「何か手伝う事が有れば私もやりますよ!」


 着々と準備されているクリスマスっぽい飾り付けがされた食堂の一角、そのど真ん中のスペースに家から持ってきたツリーを設置する。


「じゃ、あにぃとツリーにキラキラのヤツとか小物飾り付けお願い! かすみん、綿どこー?」

「今持っていくよー」


 あちこちにクリスマスらしいイラストのシールを貼り付けながら指示を出す真由、俺たちの方には雪役の綿を持ったかすみちゃんがやってきた。


「じゃこれツリー用の綿です、お願いしますね」

「あいよ、任せときな」


 綿を受け取り、小物の入った紙袋を持ってツリーの前にセリスと陣取る。小物の配置バランスにはセンスが必要だ。何だろうと小物類を見るセリスに輪っか部分を枝に通して飾るのだと説明し、二人でテキパキと飾り付けて行く。


「人を背後から蹴り倒しておいて何事も無かった様に作業に入るでないのじゃ。最近敬う気持ちが足らない気がするのじゃ」

「最初からそんなの持ち合わせてねぇよ。というかお前の耳にはああいう風に聞こえるのか?」

「『ジングル』というのが何か判らないのじゃ。だからそこを判る言葉で代用しただけなのじゃ」

「……そういやジングルって何だろうな」


 非難したつもりだったが、案外的を得た回答を頂いてしまった。イメージ翻訳の限界なのだろうが、ちゃんとした意味を知らない物はそういう感じで伝わるらしい。思わぬ所から新発見である。


「まぁでもその言い分は『のじゃがのじゃ』には通じないな。どの道有罪だ、クリスマス侮辱罪だ」


「そ、そんな刑罰が有るのか。地球は怖いのじゃ」

「ぐ……冗談を真剣に捕らえるな、久々に頭痛いだろうが……」

「何じゃ嘘か、じゃあ問題無いのじゃ。のじゃぐるべーのじゃぐるべー」


 結局歌自体は気に入っているらしく、歌いながら上機嫌で真由の方を手伝い向かうメビウス。ツッコミ入れても疲れるだけなので作業に戻る。


「ソウジ様、このトゲトゲはどこに?」

「それは天辺の星だな。最後に付けりゃ良いよ」

「星なのですか。ということは地球の夜空で輝いていた星々はこの様な形なのですか?」

「ああいや、そういう訳じゃないよ。デフォルメ……で通じるかな?」

「何となく。概念的な物という事でしょうか?」

「うんうん。実際はどういう形しているか判らないけど、地球で一般的に星の形って言ったらそういう形だね」

「なるほど。確かに輝いていそうな形をしていますね」


 ツンツンと飾りを弄るセリス、それを眺めていると調理場の方からロクさんがやってきた。


「お、何やら大物が置いてあるね。これが『くりすます』なのかい?」

「いやそういう物質的な物じゃないですね。このツリーも飾りの一種ですよ」

「へぇ。異国の風習だからサッパリだね。まぁでも料理は美味い物ばかりだ、ミーが張り切ってたから期待しときな」

「ミーララなら安心っすね」


 俺とセリスの作業を眺める場所の椅子に腰を下ろすロクさん。その姿を見た真由も挨拶をしている。


「もうお料理は準備出来たんですか?」

「おうさ、バッチリだよ。と言っても私なんかは手伝っただけだからね。仕切りは全部ミー、料理長形無しだよ、まったく」

「まぁ未知の料理もあるでしょうしね、しゃあないっすよ」

「で、ソウジ。ちょいと言っておきたいんだがね。いくら王様達が来ると言っても食堂全部のカンテラを付けっ放しは油が嵩んじまうのさ。この一角以外消しても大丈夫かい?」

「ええ、もちろん。料理運び終わったくらいで消しちゃって下さい」

「入口の方は流石にそのままにしておくけどね、じゃ後で下の奴らに消させるかね」


 流石は大人数向けの調理場を任される人、節約精神が根付いている様だ。調理場から持ってきたらしいジョッキを豪快に煽るロクさん。既に一人だけパーティ突入状態だ。


「こっちの食堂でパーティなんて初だからね。精精派手にやっとくれよ!」


 せっせと準備する俺達を肴に盛り上がる料理長。本番まで飲み続けるつもりなのだろうか。





「本日はお招き頂き……早目に来たつもりだったが、アレは……」

「ロクさんだな。料理用の酒飲んでたらしくて、もう寝てるぜ?」


 会場一番乗りはユリウス一家。指摘した席では既に泥酔したロクさんが大いびきで寝ていた。


 ドレスコード等存在しないクリスマスパーティー、それでも仕立ての良いのが判る程度の服装で来るのがユリウスだ。細かい刺繍のされたシャツにシルクっぽい生地のズボン、当然マリエンヌ夫人も同等の服装である。


「レオニスくーん!」

「あーだ!」


 マリエンヌさんが押すベビーカーに寝ているレオニス君、そこに飛びついた真由の顔面に小さな拳が飛ぶ。前回プニプニしすぎたせいで嫌われているんじゃなかろうか。


「ああもう、ダメでしょレオニス。ごめんなさいねマユ様。普段はこんな事しないんだけど」

「あ、いえ……何か凄い警戒されてるみたい何で……私、子供受け悪いのかな」


 鼻を摩りながら落ち込む真由、そりゃあの速度で走り寄ったら赤ん坊は怖がるだろうに。


「ちゃんと使ってんだね、ベビーカー」

「そりゃそうだ。レオニスもお気に入りらしくてな、家の中でも降りない時があるくらいだ」

「そりゃ何よりで。父さん母さんももう少ししたら来るから、見せてやってよ」

「無論そのつもりだ。マリエンヌもお礼が言いたいらしいしな」

「言いたい、では無く言わないといけませんからね。婦人会の席でどれだけ質問が来ているのか知っていますか?」

「結構需要有りそうなんですか?」

「そうですね、皆一・二回は落としそうになった経験が有る様で、レオニスのご機嫌ぶりと相まって今では木工を招いて似たような物を作られている方もいますね」


 木で出来た乳母車って……子連れ狼かよ。少なくとも俺の中ではそんなイメージしか沸かない代物だ。


「ああそうだ、忘れないうちにこれを」


 スッと俺に剣を差し出してくるユリウス。


「何これ?」

「ん? 招待状に書いてあった物だが?」

「帯剣不可とか書いてあったのか?」

「いや、贈り物を交換する慣わしが有るから何か持って来いと書いてあったのだが?」

「プレゼント交換に剣とか物騒すぎんだよ?! 血のクリスマスにしたいのか、お前は」

「や、我が家ですぐに用意出来る物はこういった物しか無くてな……」

「ほら、だから言ったでしょうに。サカカミ様、こちら私が使っておりました古着ですが、スカーフです。ユリウス家として一品でお納め下さい」


 マリエンヌさんが差し出してきた色鮮やかなスカーフを受け取る。手触りが非常に良く、結構お高い物な気もする。


「真由、お前値段制限くらい書いとけよ。ユリウスが自重しねぇだろうが」

「あーごめん、あにぃの買い物で時間無くてさ。マリエンヌさん、本当にこれ良いんですか? 高そうですけど、他の人が何持ってくるかは判らないですよ?」

「ええ、構いませんよ。夫の不手際の分と思ってお納め下さい」

「不手際って、この剣はそこそこ値の張る逸品なのだぞ? そこらの武器屋で買える様な物では」

「そんな代物をいつお買い求めに?」

「あ」

「……失礼しますね」


 良い笑顔だった。右手でベビーカーを押して、左手でユリウスの耳を引いてマリエンヌさんが会場の方に消えていった。テーブルの一角で肩を竦めるユリウスを遠めに眺めていると次の来客がやってくる。


「ソウジさん、マユ様、セリス様。お久しぶりです!」

「おーす!」

『皆、息災な様だな』

「おっす! 三人とも元気そうだな」


 やってきたのはマリー、クレイ、ガルファリオンのトリオ。ユリウス程では無いにしろ、多少はおめかししている感が伝わってくる。


「マリーさん、生活の方は大丈夫ですか?」

「はい、セリス様からご紹介頂いた家の大家の方も優しい方で。クレイの面倒も看てくれていますし、助かってます」

「ガルちゃーん! 触らせてー!」

「真由ちゃん、私も触る! わふー!」

『ハハハ、最近はマリーが毎晩手入れしてくれているからな。フサフサだろう』

「兄ちゃん、俺将来兵士になるって決めたぜ!」

「兵士ねぇ。それよりお前は学校制度出来たら勉強しろや、その方が今後有利だぜ?」

「勉強なんて面倒くせぇよ、ブツレンジャーみたいに強くなるんだよ!」

「ブツレンジャー……?」

「クレイがニホンで見てたセンタイモノですね。ミホトケ変身でヨーカイを倒す正義の味方だとか」

「ああ……そういう奴か」


 クレイ君は順当に少年していたようで、正義の味方に憧れているのだろう。


「TVよりも実物の勇者が目の前に居るんだけどな」

「兄ちゃんロボット出せねぇじゃん! ブツレンジャーの方が強いよ!」

「基準そこかよ」


 ロボには勝てねぇなと思いつつ、マリーから三人分のプレゼントを預かる。ワンポイント刺繍のされたハンカチ、草の冠、そして何かの枝。


「急だったので余り良い物はありませんでしたが」

「この枝、何?」

『それは香木の類の木の枝だ。今日折ってきたばかりなので今はまだ弱いが、乾燥させ火にくべると良い香りがするので燻製に良いらしい』

「ほう、そんな物がハイランドにも有ったのか。案外物知りだな、ガル」

『以前の主人の受け売りだ。俺が賢い訳ではない』


 何でこの犬はこんな謙虚なんだ。仲間内でも上位に食い込む常識者が犬というのもどうかと思うが。そんな事を考えていると、キョロキョロと誰かを探しているマリーに気付く。


「どしたの?」

「あ、いえ。まだいらっしゃってないのかなと」

「誰探してるの? 後で着たら教えるけど」

「えと、アメリアさんを」

「……え」


 何故その名前が?遠い日の思い出として封印してあったのだが。ガルファリオンをモフりまくっている真由にも一応確認する。


「いや、多分……呼んで無いはずだけど。真由呼んだ?」

「ん、誰?」

「アメリアさん」

「呼んで無いよ? あにぃ苦手みたいだったし」


 結構容赦無いな、我が妹。確かに昔はお世話になったが、その真意を知ってしまった今ではちょっと苦手ではあるのは否めない。俺にしては珍しく義理より身の安全を優先している相手だ。


「あ、そうなんですかー。じゃ良いです」

「てかマリーと知り合いってのにビックリだよ。家がご近所さんとか?」

「まぁそんな所です。ソウジさん、絶対に守りますからね!」

「え、あ、はい?」


 事態が良く判らないままマリーはグッと拳を握りテーブルの方へ進んで行った。凄い悪寒がする。何か俺の知らない所で起こっているのかもしれない。


「やぁサカカミ殿、会場はこちらで間違いないだろうか?」


 見えない恐怖に怯える俺に声を掛けて来たのはカシアさん率いる戦乙女隊。皆、普段の鎧姿では無くちょっとお洒落な衣装で着飾っている。


「お邪魔しますっス」

「「「「「しますッス」」」」」」


 プラスワイオミと愉快な新兵達。こいつら絶対招待状貰ってないだろとジト目を向けているとワイオミが近寄って来る。


「勇者様も人が悪いっス。こんな楽しそうな事を独り占めは無いっス」

「別に俺が責任者じゃねーよ、てか招待状無い奴は帰れ」

「拒否しますっス。意地でも参加するっス」

「「「「「参加したいっス」」」」」


 こいつら……訓練中見た事の無いくらい真剣な目をしてやがる。


「うわ、大勢来たね。ってワイオミさん?」

「マユちゃーん! 勇者様が帰れって言って来るっス! 何とか言ってやって欲しいっス」

「帰れ」

「?!」

「ってのも酷いか。隅っこで大人しくしてるなら良いよ?」

「流石話が判るっス! 彫像の様に大人しくしてるっス!」

「「「「「してますっス!」」」」」


 ゾロゾロと通り過ぎて行く新兵とワイオミ。これで煩くなる事は決定だ。


「済まない、移動中に見つかってしまってな……あいつらの面倒は責任を持って私達が見よう」

「いやカシアさんのせいじゃないですよ、けど暴れないように見ていてくれると助かりますね」

「心得た。で、贈り物なのだが、エアリアで幸運の象徴と呼ばれているグリフォンの冠羽だ。こんな物でも良いだろうか? 何分手持ちがあまり無くてな」

「ええ、全然OKですよ。じゃ七人分確かに」


 受け取った黄銅色の羽を真由に渡し、戦乙女隊の面々を見ると既にワイオミ軍団と合流し何やら話していた。あの一角だけ合コンみたいになってるけど、まぁそれはそれで良いだろうか。楽しそうだし。


「おや、もう結構来ているね。近くだからと油断したかな」


 その喧騒を遠めに見やるイケメン。


「別に時間には間に合っているはずですわ。お父様もお母様もまだ着ておりませんし、順当な所でしょう」


 傍らには赤いドレスのアリス。新国王夫妻の到着である。後ろにはシャリーアさんも控えている。


「やぁソウジ君。本日はお招き頂き有難う」

「いや、俺は今回の主役じゃないですからね。真由とかすみちゃんが幹事ですから」

「まぁでもニホン関係のことだとどうしても君が中心って思ってしまうよね。シャリーア、先に贈り物を渡しておいてくれないか?」

「畏まりました」


 一歩踏み出して渡してきたのは読み込まれた本だった。


「こちら所有しております書物からラザリス様と私で一冊ずつ、そしてこちらが奥様よりの物で御座います」


 そしてその本の上に置かれる小箱。うわぁいと声が出そうになる。


「本って高いんですよね?」

「ああ、気にしないでくれ。それは魔術関係の本でも歴史書の様な貴重な物でもないんだ。ハイランドの民話とかを纏めた物で、比較的安い部類だよ」

「私の方の本も過去の勇者の物語本ですね。成人前の子供に読み聞かせる類の物です。お納め下さい」

「そ、そうなんですか……じゃあ遠慮なく。で、この小箱は」


 中身見るまでも無いかなと思うが。チラリとアリスを見ると得意気に笑ってやがる。


「さる地方貴族から献上された物ですわ。どうせ値も高が知れてます。気にせずに」


 久々にオーッホッホッホと笑い出しそうなくらいドヤ顔してやがる。


 開けてみると案の定、赤い宝石だった。本当バランス悪いな、贈り物。ピンキリにも程がある。諦めて何も言わずに真由にパスして向き直るとラザリスさんから質問が飛んでくる。


「『くりすます』か。具体的にどういった行事なんだい?」

「んー、本来はとある宗教の開祖の聖誕祭なんですけどね。日本じゃそんなの関係無く、ワイワイやるお祭りですよ。ケーキ食って騒いで、子供は一年に一回だけ好きなプレゼントが貰える日って感じですかね」

「そりゃまた色々な要素を詰め込んだ祭りだね。けれどそういった物も今後は必要なのかもしれないね。新年祭と収穫祭だけしか無いんじゃ民の気も晴れないだろう」

「本来は年一回何かありゃ良いんですよ。毎月何かしらイベントとかせわしないですから」

「そんな頻度で祭りが出来るというのも羨ましい話だね。僕らも頑張ってそんな国にしないといけないね」


 単にお気楽なだけに思えるのだが、ラザリスさんには平和な世界と感じられるのだろう。


「毎月祭事など、国を潰す気ですか?」

「いやそれも良いではないか。常に活気に溢れる町、繁栄しているようにも見えるだろうに」

「民が先に疲れ果ててしまいましょうなぁ。上策では御座いません。アレン、この二人を止めるのがお前の役目ぞ?」

「ハハ……自信無いですねぇ……」


 思わずギクリとする俺とラザリスさん。冗談半分の話だったが上層部四天王の評価は一人を除いて現実的な手厳しい物ばかりだ。


「いや、毎月なんかやらないですよ?」

「当たり前です。新年祭だけでも十分ですし、収穫祭もその年の収穫量に見合った規模でやるように。まぁ国が安定したら、様子を見て新しい風習を増やすのも経済に良い効果を生むかもしれませんが。何にせよ存命のうちは私達に相談するように、良いですね?」

「「はいー」」


 俺もラザリスさんもフィリス女王には素直に頭を垂れるしかない。その様子に満足したようで、フィリス女王も頼みますよと一言加えるだけであった。


「さて、アレンよ。贈り物を」

「畏まりました、親父様」


 ユーベンテさんに促され、アレンさんが三人分の贈り物を渡してくる。


「こちらのドレスがフィリス様から、親父殿からはこちらの羽ペン。僕はこの小物入れです。それでダグダ様からは……」

「……もしかしてデカイ?」

「流石に会場に馬は無理かと、厩舎に入れてあります」

「生物かよ?!」

「現役時代の俺の愛馬の血を引く優秀な奴だ。きっと良い足になるだろうよ」

「馬に乗れるの前提なんですね……てかかすみちゃんに当たったらどうやって持って帰るんですか」

「乗って行けば良かろう。まだ子馬だが馬力が違うぞ?」

「違うそうじゃない。俺の部屋ってか家の中通るんですよ? しかも飼えないですし」

「馬で通学とか、どこかのお嬢様みたいですね!」

「いねぇよそんな奴!? いくら茅蒲野ちかばのでもいねぇよ?!」

「まぁ何とかなるだろう! 遠慮せずに受け取るが良い、ハハハ」


 段違いに面倒な物持ち込んで来たな……当の本人は高笑いを上げさっさと行ってしまった。用意してあった上座に王族関係を通した所で調理場からミーララ達が料理を運んできた。


「そろそろかと思いまして~」

「おう、ジャストタイミング。結構増えちゃったけど大丈夫?」


 合コン会場の方を見ながら問うとミーララは問題無しと胸を張る。


「頼もしい援軍が来ましたので~、量は増えましたよ!」


 ミーララに促されて目をやるとコットンさんを始めとする『山羊の蹄亭』昼の部のウエイトレス達が各テーブルに手際よく配膳している。


「お肉もオーナーさんが差し入れて下さったので、当初よりはボリューム満点です」

「肉って山羊肉?」

「も有りますけど、鳥や豚も頂いちゃいました。お陰でちょっと時間が押しちゃいましたけど良かったですね」

「助かって何よりだな。で、オーナーさんは?」

「別に店は休みじゃないからねー! オーナーと野郎共は通常通り、酒飲みの相手さ。はい、勇者様、飲み物ね」


 ついさっき配膳していたはずのコットンさんが俺にコップを渡しながら答えてくれた。常日頃もっと入り組んだ店内の客席を歩いているのだ、こんな開けた場所ならあっという間なのだろう。


「どもっす。コットンさん達も参加していくんですよね?」

「勿論よ。あんな凄い料理作っただけじゃ勿体無いわ。それにミーちゃんの作ったあのけーきとかいうの。あれ食べない内には帰るに帰れないわよ。という訳でこれ参加費用の贈り物ね」


 ポイポイと俺の手に置かれる木製の札。焼きごてか何かで文字が刻印してあるが何だろうか。


「あたし達の人数分ね。うちの店の料理何でも一食無料券、但し一品だけね」


 無料サービス券の様だ。まぁらしいと言えばらしいが。配膳を終え空いているテーブルに向かう看板娘達、ミーララだけが残った形になり俺に訊ねてくる。


「あの、アルマさんとシェンナさんは?」

「まだ来てないな。父さん母さんもまだだし……と、丁度来たか」


 廊下から声が掛かり、こちらに向かって歩いてくる父さん母さんの姿が確認出来た。アルマ・シェンナはどうしたのだろうか。


「総ちゃんお待たせ~。間違えて逆の方行っちゃったわ」

「あ~やっぱり。一緒に来れば良かったのに」

「国王様にどうしても酒を買って来たくてな。そのせいもあってかなり遅れた」

「ま、今開始したとこだし入って入って。席はあっちのダグダさん達の方ね。アルコール席」


 父さんがそちらに目をやるとダグダさんも気がついた様で、デカイ声で呼ばれている。父さんが酒瓶を掲げ応じるとユーベンテさんまで席を立ち上がり手招きを始めた。あっちには近づきたくねぇなぁと思う。


「じゃ総ちゃん、これ私と総助さんの分ね。マフラーとTシャツ」

「了解~。じゃゆっくりしてって」

「何か薄暗くて幻想的ね。カンテラの灯りでご飯って楽しいわ」

「どこかこういう趣向のお店みたいだな」

「ソースケ! 早く来い!」

「今行きますよ!」


 苦笑しながら父さん母さんが席へと向かった。さて残るは身内も身内の二名だが。


「姉さん達遅いね?」

「だな。まぁそのうち来るだろ、時間だし始めてようぜ?」

「そうしよっか」

「ではソウジ様、開宴の宣誓を」

「俺じゃなくて真由でしょ、こういうの得意だべ?」

「フッフー、任せなさい!」


 鼻を鳴らしスタスタとツリーの横まで移動する真由。咳払いをしてから声を上げる。


「本日はクリスマスパーティにようこそ! 開幕宣言は私、坂上真由が行います!!はい、拍手~!」


 わ~

 ぱちぱちぱち


 既に料理にも酒にも手をつけているのだが、それでも一同真由の方を向き素直に拍手をしてやるのは優しさというか慣れというか。


「ではまずは私達が今からある物を配りますので、受け取ってそのまま何もせずに持ってて下さいね~」


 何やらやるようだが、俺とセリスはユリウス家とマリー達の間に陣取ってその様子を見守る。


 こそこそ動き回る真由とかすみちゃんとメビウス。てかあいつ完全に運営側なのな。丁度こちらに来たメビウスが俺にこっそり耳打ちをしてくる。


「で、ソウジよ。これは何なのじゃ?」


 受け取った三角形の小さな物体。こいつこれが何か聞かされてないのか。


「面白い物だ」

「ふむ。まぁもう少しすれば判るかのう」


 全員に行き渡り、真由が絶対に人に向けない様に言い含める。


「では~! 私が合図をしたら一斉に紐を引いて下さいね! いきますよー?」


 既に俺は両腕で耳をガードし真上に構える。セリスにも同じ格好をさせておく。


「メリィィィ! クリスマーーース!! はいっ!」


 食堂に木霊する何重にもなったクラッカーの炸裂音。


 ロクさんが目を覚まし、レオニス君が泣き出し、人に向けずに自分に向けていたメビウスが気絶し、ユーベンテさんが酒を吹き出し、城内巡回の兵士さん達が押し寄せてきた。


 開幕から大惨事になってしまったクリスマスパーティ。後でフィリス女王にこっ酷く怒られそうである。

ミネルバ「まぁ私は物理的に居ないからな」

ヘクトル「俺は農業やってるから王都に居ない設定だな」

ユキヒメ「うちもまだまだ帰ってないからねぇ」

アメリア「……」

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