06:三年ぶりのクリスマス ①
梅雨を前にしてクリスマスネタという暴挙。
「えーと、ユリウスさん、シェンナ姉さん、アルマさんにミーララさん。王様達は一纏めで……あにぃ、ユキヒメさんまだ帰ってこないの?」
「まだじゃねーかな? イグニスの時でまだ結構かかるとか言ってたし」
「残念だなぁ」
「真由ちゃん、招待状カード出来たのこっち置いとくね!」
「了解! じゃんじゃんメッセージ書くよ!」
俺の背後の机で行われているのはクリスマス会の招待状の作成だ。夕飯時が終わった後のロクさんの食堂を借りる事が出来たので、日時を記して配る予定らしい。と言っても今日作成、明日配布、明後日開催というから急な話すぎると思うのだが。
何にせよそういった準備は楽しい物で、妹組がノリノリで全ての段取りを引き受けているのだ。今回俺は一般参加者枠、何を用意しているのかは極力聞かないようにしているのだが。
「ミーララさんのケーキどうだって?」
「お砂糖とかの材料を日本で買えば結構安上がりで出来るみたいで、明日日本でオーブン使ってスポンジ作るんだって。奈々子おばさんも一緒にやるみたい」
「あ、お父さんとお母さん忘れてた。徹さんは?」
「『クリスマスなんて滅べば良い』とか言ってたからまた男友達とツーリングじゃないかな?」
「こっち来れば綺麗所も居るのにねぇ」
「お兄ちゃんあんまりゲームとかファンタジー物好きじゃないしね、あんまり興味無いみたい」
「普通はそういうの抜きにしても飛びつくと思うんだけどなぁ……やっぱ徹さん変わってるね」
耳に入ってくる会話で親友がボロクソに言われている。俺も何度か商店街まで出向いて誘ってはいるのだが、年末年始以外はこちらに来る気は無いらしい。あいつは今の所バイクに全てが集約されているので異世界に興味は無いのだろう。そう納得しているが、やはりどう考えてもバイクより異世界の方がすげぇとは思う。やっぱり俺の親友は変わっているのだろう。
図らずも最大の味方であるはずの俺が敵に回った所で徹の話から意識を戻す。かすみちゃんが招待用のクリスマスカードを作成、真由がそこにアルテミアの文字で文面を書き込んでいるのだが、招待客をどこまでにするか悩んでいるようだ。
「あんまり無関係なとこまで呼ぶなよ? 収集着かなくなるし、王城では毎晩夜会が開かれているとか変な噂になっても困るしな」
「一応身内の線引きで選んでるんだけどね、兵士さんも何人か顔見知り居るしさ。大鐘楼の警備の人とかあにぃも知り合いでしょ?」
「ん、ああ。まぁそうだけど、名前知らないんだよな、俺」
「あ、やっぱりそうなんだ。ロドリフさんって言うんだよ」
「そんな名前だったのか。てか何で知ってんの?」
「自己紹介したら名乗ってくれたけど?」
「えー……」
これが男女差別か。まぁ俺の場合自己紹介では無く勝手に向こうが俺を知っていただけだし、今度改めて挨拶してみようかと思う。それで教えてくれなかったら拗ねるしかない。
「でもそこら辺まで呼んでたら料理も足らないだろ。確か30人前くらいって言ってたし、現状何人よ?」
「えーとちょっと待ってね」
書き終えた招待カードと候補者リストを確認する真由。
「ユリウスさんとこで二人、レオニス君はノーカンね。で、姉さん、アルマさん、ミーララさん、あにぃ、セリスさん。王様達でこれで13人。そういえばユリウスさんのお兄さんってどうなの?」
「アレンさん?」
「じゃなくて、えーと次男さん? 一回も見たこと無いけど三人兄弟なんだよね?」
思わぬ所から脱線する話。ついに真由もその存在に気が付いた様だ。そう、アレンさんが長男、ユリウスは三男坊、間に一人居るのだ。
「あの人は俺も一回しか会ってないんだよな」
「え、そうなの? お城に居るの?」
「いや僻地ばっかり回ってるんだよ。滅多に帰ってこないだけ」
「……それって?」
「通称『怠け者のユーシス』。全然戦果を挙げられないからユーベンテさんが前線に送り込んで、結果前線・僻地の方が家からとやかく言われないってんで帰ってこないの」
「うわ……」
「兎に角癖の強い人だね、弱くは無いっていうか多分真面目に小隊指揮させたらハイランドでも屈指じゃないかって言われてる」
「そんな人が何でそんな僻地部隊に……」
「そこが怠惰の所以だな。百人指揮しても千人指揮しても何故か挙がる戦果に大差が無いんだよ。寧ろ少人数の部隊を率いてる方が凄ぇんだ。だから僻地に居る方が本人としても軍としても効果的と。半ばフラットランド家の永久欠番みたいな扱いになってるみたいだな」
「そ、そうなんだ……」
以前俺が同じ疑問をユリウスに投げた時の回答がそんな感じだった。魔王討伐前に一回だけ王城で会った事があるが、明るく豪放な性格でダグダさんに似た気質を感じたが、そこに更に無責任さを足したと言えば良いのか、二言目には「面倒くせぇ」と付け足してくる変わった人だった。
「だからそこは気にする必要は無い。で、人数は?」
ユリウスだけで無く、ユーベンテさんもアレンさんも触れて欲しくない人物な様なのでサッサと無かった事にして真由に促す。真由もそれを察してか人数確認に戻る。
「後はマリーさん、クレイ君、ガルちゃん。場所を拝借してるからロクサーヌさんの所で五人くらいかな。で、メビウスさんに戦乙女隊の人で八名。ミーララさんが『山羊の蹄亭』でコットンさん達に声掛けてみるって言ってたから……あーもう30人くらいいるのか」
「一つ付け加えればラザリスさん来るならシャリーアさんも来るかもしれないからな?」
「あ、そっか。私あんまり面識無いから忘れてたよ」
『そして僕の名前も出てこないのは悲しいジャン』
壁際から抗議の声が飛ぶ。珍しく絡んでくるじゃないか。
「あ、ごめん。でも神剣って別に何も食べないよね?」
『そこが問題じゃないジャン。皆でワイワイやろうって計画に名前が出てこないというのは一個人である僕の尊厳がとても傷つくと……ジャン?』
効果音を付けるならテレレレーだろう。かすみちゃんが高々と神剣を頭上に掲げている。そういや生き残ったって言って無かったか……。
「総司さん! 何で今まで黙ってたんですか! これですよ、これ! キングオブファンタジー、喋る武器! キャー、凄い! 『こいつ、頭に直接?!』じゃないんですね! どうやって喋ってるんですか? あ、この宝石が怪しいですね。グリグリ」
『ちょ、辞めるジャン?! こら、指紋だらけになるし、何か工作で使ってたベトベトも着くジャン?! ソウジ、辞めさせるジャン!』
「ああ、あと兵士さん達に声掛けると高確率でワイオミが来るぞ? そういうの逃さないからな」
「あー……悪い人じゃないんだけどね。鬱陶しいというか」
「結構辛口だな」
「そりゃねぇ……」
「写真、写真撮りましょう! いや、動画じゃないとダメかな。総司さん動画お願いします! えと、神剣ちゃんも何か喋ってて! 『カメーンライドゥー』とか言いながら光ったり出来ませんか?」
『意味不明ジャン?!』
「かすみちゃん、それ別に変身機能とかは無いから」
「そうなんですか……」
『え、何? そういうの出来ないと駄目な流れジャン? そんな切ない顔されないと駄目ジャン?』
「ごめんな、地味な剣で」
「いえ、構いません。喋るだけでも良しとしないとですね」
『勝手に期待されて裏切った形で話進めるのはどうかと思うジャン? あ、<筋力増加>で筋肉ムキムキに出来るジャン! あれでなんとか期待に応えられないかジャン?』
「お前も真面目に検討してんじゃねーよ! 人の事言えないけど無駄遣いすんな!」
「<筋力増加>!!」
「かすみちゃんも唱えないの。ムキムキの女子高生とか誰得なんだよ」
『ああ、違う違う。ちゃんと前置きの詠唱が有って』
「教えなくて良いし、それで使えちゃったら俺の立場ねーから!」
何故だ。途中から自然に俺がツッコミに回るハメになっている。結局喋るとほんのり明滅する宝石を中心とした構図で動画を撮影。「良いお天気ですね」『ソウデスネー』という会話がかすみちゃんスマホに残されたのだった。
◆
一騒動終わり、招待客のリストアップも終わった所で俺の仕事も一段落。妹組も作業に勤しんでいるようで今ではすっかり静かだ。
俺は俺で今日の予定は決まっている。プロポーズ本番に向けてデート用の新しい服と何かプレゼントを買いに出るのだ。
仕事の合間を縫って建てた計画は完璧。アルテミアでのパーティの前、半日ズレるので日本で24日の夜をセリスと過ごし、翌朝77くらいまでにあちらに帰ればパーティに間に合うはずだ。予定は翌朝だが別に疚しい事をする気は無い。決してそんな気は無い。信じて欲しい。
どっかでディナーを食い、遠出は出来ないので海岸沿いで星を見ながら語り合う。俺にしては十分頑張ったコースじゃないだろうか。当日の天気もチェックしているので雨がー!というアクシデントも無いはずだ。
まぁその為にも厚手の上着が必要な訳で、帰還してからもっぱら部屋着ばかり増えている俺のサイズに合った物をこの際買おうという事だ。セリス用の服は母さんが以前買った物があるそうで、本人も気に入っているらしいからそれを採用とする。
寒そうだったら掛けてあげる上着、ズボン、シャツ系。高価な物はさすがに用意出来そうに無いのでアクセサリーで何か手頃なのをプレゼントに用意しようと思う。
当日の行動予定を確認しながら鼻歌混じりの上機嫌で着替えをチョイスしている俺。そんな俺に真由が訝し気な視線を送ってくる。
「あにぃ、何で着替え準備してるの? どっか行くの?」
「ん、ああ。ちょっと買い物にな」
気恥ずかしいので内容は伏せる。流し気味に返事をして再度支度を進めようとすると。
「えと……ちょっと質問良い?」
「何だ?」
「まさかとは思うけど、クリスマスのセリスさんとのデート用の何かを買いに行こうとしてる?」
何故知っている。アルマか……そうだろうなぁ。手遅れだが今度口封じしておくか。
「ま、まぁな。別に構わないだろ? パーティにはちゃんと出るし。服が無いんだよ服が」
「あ、いや、そこは別に良いんだよ。セリスさん喜ぶだろうしさ。ただね」
「ただ?」
「その……鼻歌? どこ行こうとしてるの?」
「ミーララも行ったディスカウントストアだけど? あそこなら服もアクセサリーも有るし」
ミーララが嫌悪する程の音量で流れていたテーマソング。何かと頭に残るメロディラインなので、ついつい歌っていたようだ。その返事を聞くや否や真由の顔色が青くなり、すぐさま真っ赤に変わる。
「あ・り・え・な・い!! かーすみん、かーすみん! 作業中止! 中断! バカチンあにぃの買い物行くよ!」
「いえっさーであります!」
「いやいや、一人で行けるって。お前らは招待状作ってろって」
「どこの世界に気合い入れてお姫様にプロポーズするぞってタイミングで豚キーでコーディネートする馬鹿が居るの?! 三条ヶ崎のお店まで行くよ! 私とかすみんが選ぶから!」
「そんな金無いってば。予算的にも豚キーが頃合い……」
「あたしの貯金から出すから!! 出世払いね!!」
物凄い剣幕で部屋から飛び出して行った真由。何故だと思いつつかすみちゃんを見る。
「今のは総司さんが悪いです」
「……そうなの?」
豚キーだって掘り出し物があるのになぁと呟くと凄い目で睨まれた。程なくして帰って来たお出かけ仕様の真由の指揮の下、買い出し遠征部隊は坂上家を飛び出したのであった。
◆
街並みはすっかりクリスマス一色。イルミネーションが飾り付けられた街路樹、店頭にもツリーが置いてあったりと数年ぶりに味わうクリスマスムードに俺も少しウキウキしてしまう。
アルテミアの正月には新年祭という行事が有り、それとなく年越しの雰囲気は味わえたのだが、やはり向こうに無いイベントというのは懐かしいという思いの方が先に来てしまう。
近くで済ませる予定だった本番の日も遠出してセリスと来るのも悪く無いかもしれない。今からでも予定を変更しようか本気で悩む。
キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回す俺を引っ張っていく妹組。何でもおススメの店があるとかで。人混みを縫うように、スルリスルリと目的地に向かっていく。
着いた先は雑居ビルの一階部分を丸ごと使ったお店、アーティスティックな彩色の施された木製看板にはUSEDSHOPの文字が読み取れる。
「あー古着屋か」
「何かその言い方お爺ちゃん臭いね。さ、入るよー!」
グイグイ突き進む妹組に連れられて、店内の一角を陣取っての俺の着せ替えショーが始まった。
「あにぃ地味だからなー……シャツは明るい色にしてちょっとでも明るく見せないと」
「オーソドックスに白にしても何か清潔感より地味っぽさが先に来ますね。やっぱり暖色系ですね」
「お前ら好き勝手地味地味言ってんじゃねーよ……」
オサレ系の店が多い三条ヶ崎、最近流行りらしい古着ショップに来ております。店内はなかなかにオサレな人が多く、非常に気まずいです。
そんな実況をしたくなるくらい居心地が悪い。
妹組は持ってきた服を俺の体に当ててパッと見チェック。あーでもないこーでもないと二人で盛り上がっている。その殆どが酷評なのだからこちらとしては心がへし折れそうになる。
それなりのお値段でそれなりの物をと連れてこられたのだが、ひっそりと見た値札に思わず「これ中古ですよね?」と言いたくなるような物も多い。
「ヤバいよかすみん、どれも似合わない」
「総司さん、美容室行きましょう。髪型変えればまだ」
「いっそ革ジャン……ないわー」
「そういうの着こなすには身長がもう少し欲しいですね」
「素朴さを生かしてニット帽からの~」
「より一層地味ですね……」
「ごめん、俺のハートがブレイクしそうだ。地味でも良いから無難なのお願い……」
確かにオシャレとは無縁だったのは認めよう。丁度そういうのに躍起になる年頃、俺は防御と耐久性能、そして重量のバランスで服を決めていた。
「やっぱり革製の方が丈夫だな」
「ここは布の方が動きやすいな」
「デザインは良いけど鎧としてはどうかな」
そんな基準で着る物を選ぶ高校生は居ない。断言しても良い。元から服に頓着しなかった事に拍車が掛かったのだ。日本のオシャレ着用に体が出来て居ないのだ。だから……だからこれ以上の精神攻撃は辞めて欲しい、切に願う。
真っ白に燃え尽きた俺の願いは聞き届けられ、俗にいう地味系コーデが完成したらしい。もう何でも良い……。
因みにお会計の際に店員さんに目を反らされた。結構騒いだので目立ったのだろう。もう二度と妹組と服を買いには来ない。それを固く誓いながら古着屋を後にする。
「あにぃ元気出して! 大丈夫、磨けば光るよ!」
「そうですよ、きっと落ち着いた服が似合う年になれば!」
「ああもう追撃してくんな! タキシードですら超笑われたのに……もう今度からこっちでも鎧着るか」
「それはちょっと……」
「『坂上さんのトコの子、コスプレにハマってるらしいわよ』って噂になっちゃいますね」
「それもやだな。てかアクセサリーショップの良いとこ知ってる? 予算一万くらいで」
「貴金属?」
「記念になりそうな物って言ったらそうじゃない? あ、指輪はパスね。もうアルテミアで発注しちゃってるから」
「となると、ネックレス・イヤリング・ブレスレットとか?」
真由の発言を受けて三人共首を捻る。どれも何となくしっくりこない。
「何か違うな」
「何か違うね」
「まぁ普通そういうのをこのタイミングで買う場合、ペアですからね」
「あれか。合体してハートになるやつか?」
「ま、まぁそういうのですね」
「流石にそういうのは恥ずかしいな……」
「あにぃの柄じゃないね」
「指輪は今度送るんですから、いっそ貴金属じゃない方が良いのでは?」
かすみちゃんの提案に一理あるなと思案する。と言っても漠然とクリスマス、贈り物、貴金属という式で思いついただけなのだから、代案は全く無い。
「何が良いんだ?」
「いやそこはセリスさんが好きそうな物でしょ。何か情報無いの?」
「セリスが好きな物……俺とか?」
腹にパンチ、脛に蹴りが飛んできた。かすみちゃんも容赦ねぇな。
「真面目に?」
「お、おう……えーと、ショートケーキ?」
「あにぃ本気?」
指を鳴らしながら威圧された。何か今日は冗談が通じないらしい。
「んー、何だろうな。花は好きだけど形になって残って欲しいしな」
「花……ドライフラワーでも難しいかもねぇ。他には? 何か大切にしてる物とかさ、欲しがってた物とか思い出せない?」
「欲しがってた物ねぇ……あ」
一つある。ただタイミング的に必要かどうかは判らない代物だ。欲しがっていたのは結構前で、しかもそれその物は贈り物としては微妙。となれば、ソレ関係のグッズでどうだろう。欲しがってた物がダメでも他に同じような物は今後増えるはずだ。
「何か有ったの? 何何?」
「うん、良いと思うんだけど。真由、聞きたいんだが……」
これこれこういうのと説明すると妹組も合格判定を出してくれた。しかもそれにピッタリの物も用意してくれるらしい。
「よーし、それじゃあ売ってそうなお店にレッツゴー!」
「「おー」」
街中で上がる大きな掛け声。当然周囲の注目を浴びるが先を行く妹組には関係の無い事の様だ。
その姿も行き交う人混み消えて行き、周囲の人の関心もすぐに消え去る。置いて行かれたらたまった物じゃない、俺も慌ててこちらに手を振り文句を言っている二人の方へと走り出した。
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