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完結済となったあの作品の彼らは、今  作者: 五十鈴スミレ
本編2:エピローグのその先のプロローグ
4/8

(1):三人の答え



――最後の質問だよ。


 薄ぼんやりとした灰色の霧に覆われた空間に、その声は響いた。

 他の二人と同じタイミングで、美幸は宙を仰いだ。

 天から降ってくる謎の声。声の低さからして男性だろうということしかわからない。

 この謎の空間になんの前触れもなく召喚され、わけもわからないままこうして質問に答えているのは、逆らってはいけない存在だ、と本能が告げているからだ。

 少なくとも、質問者が自分たちのような物語の中の登場人物ではないことはわかっていた。

 きっと、物語を楽しむ側の……上位世界の人間だろう。


――みんなはこれからどうするつもりなのかな? ハッピーエンドだったはずのお話のそのあとで、しあわせを逃してしまった君たちは。


 癪に障る質問だ、と思わず美幸は顔をしかめた。

 質問者に美幸たちのことが見えているのかはわからない。声は届いているようだけれど。

 こちらからは見えないのだから、あちらから見えていたら薄気味悪いものがあるが、この空間ではどんな常識も通用しなさそうだ。

 悪意があるんじゃないか、と思うような質問もあった。

 ひょっとして質問者は、答えを知っていながら問いかけているんじゃないかと思うことも。

 美幸たちの反応を見て、楽しんでいるのかもしれない。だとしたらかなりの悪趣味だ。


 リートの青い瞳とミーウェルミルシーの緑の瞳が、ほぼ同時にこちらに向けられる。

 まず質問に答えるのは、美幸だからだ。

 この順番は一つ目の質問をされたとき、互いに目を交わすだけで自然に決まった。

 最初に、特攻隊長のように一番度胸のある美幸が。次に、追従するようにリートが。最後に、マイペースなミーウェルミルシーが、という具合に。

 質問を頭の中で反芻して、答えを考える。

 とはいえ、元々熟考することが苦手な美幸は、すぐに口を開いた。


「どうするかも何も、適当にどうにかしてくしかないだろ。しあわせを逃したとか言われても、そんなん今だけのことかもしんないし。この先もずっと不幸かなんて、誰にもわかんないだろ?」


 宙を睨むように見上げながら、美幸は答えていく。

 質問者の望む答えなのかはわからない。そもそも望まれている答えを出そうという気もなかった。

 美幸は嘘が下手だ。どんなときも体当たりで乗り越えてきた。

 それはきっと、物語の終わったこれからも変わらない。


「物語が終わっても、オレは、オレたちは生きてる。ハッピーエンドではいおしまい、じゃすまない。あと何十年も人生が残ってる。生きてりゃきっといいことだってあるさ」


 質問者に見せつけるように、ニカッと笑ってやった。

 たとえ、自分たちが物語の登場人物でしかないとしても。

 物語が終わったあとも、自分たちは物語の世界で動き、喜び、悩み、日々を一生懸命に生きている。

 美幸はあきらめてはいない。しあわせになることを。

 クラウスのことは、たしかに好きだった。気づいたのは遅かったけれど、きっとずっと前から惹かれていた。

 勝手な奴だと、わかっていた。国のためならなんでも犠牲にできてしまう、かわいそうな奴だとも。

 だから、不思議と恨む気持ちはわき上がってこない。

 今あるのは、少しの切なさと、もう彼とは道を違えたのだという実感だけ。


 悲しみはいつか癒えるだろう。恋心は、いつか消えるだろう。

 生きてさえいれば。

 クラウスから結婚すると聞いたとき、胸が引き裂かれたように痛んだ。

 泣いてすがりつきたいとすら、一瞬だけ思った。

 けれど、己の不幸を嘆くようなことはしたくない。そんなものは美幸の性に合わない。

 前を向いて歩いていきたい。自分の望む未来を、この手でつかみ取りたい。

 そのためには、立ち止まって後ろを振り返ってばかりはいられない。


「そうですね……。何があろうと、希望を捨てずに生きていきたいと思います。今はまだアリーシャへの想いを忘れられません。ですが、アリーシャの幸福を心の底から願うことのできる日が、いつか来るでしょう」


 リートは、自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 その鮮やかな青い瞳には、決意のようなものが宿っていた。

 自分と同じ、想い人に捨てられた彼の気持ちは、美幸にも察することができた。

 いや、リートの場合は婚約者だったのだから、彼の悲しみは美幸のそれよりもさらに深いかもしれない。

 それでも前を向こうとする姿勢は、美幸の目に好ましく映った。


「私は……来世で、スーに会えるように、スーに会って、ちゃんとしあわせだったよって言えるように生きたい。じゃないと、私を一人で残しちゃったことを、スーは気にするだろうから」


 無表情のまま、抑揚の少ない声でミーウェルミルシーはつぶやく。

 感情の読めない表情と声。

 スーカリオスラークの死を、彼女がどんな思いで受け入れたのかはわからない。

 大切な人に捨てられることよりも、大切な人と死別することは何倍もつらく苦しいことだろう。

 それを、ミーウェルミルシーは、いびつな形であっても乗り越え、今に目を向けている。

 リートが言ったように、美幸もミーウェルミルシーの幸福を祈りたくなった。


「じゃ、オレらの目標はあれだな、しあわせになること! がんばろうぜ」

「ええ、がんばりましょう。自らの幸福のための努力は、惜しむべきではありません」

「がんばる」


 気合いを入れるように拳を握りながら告げた美幸の言葉に、二人はうなずく。

 リートは穏やかな笑顔で。ミーウェルミルシーは無表情ながらも真剣に。

 立場も、能力も、今まで通ってきた道もまったく違う三人。けれど、なぜか仲間意識のようなものがあった。

 それはひょっとして、質問者の言ったように、『ハッピーエンドだったはずのお話のそのあとで、しあわせを逃してしまった』という共通点があるからかもしれない。

 理由なんてなんでもいい。

 自分だけじゃない。他の物語でも、今を必死にあがこうとする者がいる。

 それだけで、心強いものなのだから。







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