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ダウンベルト王国5

「………俺の名前は、聯斗レントってことになってる」


 的を射ない発言をしながらフードを外した聯斗と名乗った男は、竜人の想像通り青年であった。

 ミディアムショートの蒼髪で顔だちは竜人の記憶にある人間の顔とは少しばかり違い、竜人はマジマジとその顔を見つめる。


 しかし聯斗はそんな視線を気にすることもなく、そのまま手を一度横に振るった。

 すると竜人が発生させた竜巻との間に同規模の竜巻が逆回転で発生する。

 それらが互いに接触し周囲に暴風が吹き荒れたものの数秒ほどで対消滅した。巻き上げられた瓦礫が雨のように降ってきていたが、二人はそれを気にするそぶりもない。


「レントか。覚えておいてやるよ」

「それはどうも」


 聯斗が感謝の気持ちがまるで籠っていない礼を言うと、次の瞬間、竜人は聯斗の背後にいた。


「貴様が死ぬまでの短い間だけなっ!」


 竜人はそのまま全く反応できていない聯斗の背中に、危険極まりない鋭利な爪を振り落とす。

 そしてその爪が聯斗に接触しそうになった瞬間、次は聯斗の姿が掻き消えた。


「そう言うと思ったよ」


 その言葉が聞こえたのは、竜人の背後からであった。

 今度は聨斗が振り上げていた右脚を竜人の背中目掛けて振り落とす。

 相手の不意打ちが失敗して一瞬の隙ができたときの完璧なタイミングでの踵落としであり、もはや振り返ってそれに対処することも避けることもできないだろうと聯斗は予測した。


 バンッッッ!!!


 聯斗の右脚が竜人に届くと確信した直後、吹き飛んでいたのは聯斗だった。

 常人ならその一撃だけで爆散してしまうほどの威力があったはずだが、聯斗は爆散せずに吹き飛んでいく。

 数度のバウンドを経て王都の外壁にめり込んだ聯斗は、そこでようやくその勢いを止めた。

 そのときに巻き上がった土煙が聯斗を覆い隠す。


 聯斗は一つだけ思い違いをしていた。

 竜人は振り返らずとも背後に対処できる方法があるということを。


 その翼にはただ振るうだけで突風を発生させられるだけの膂力が備わっているということを。


 壁にめり込んだ聯斗から竜人は視線を外さない。

 普段なら絶対にそんなことはしないだろう。竜人にとってはほとんどの相手がほぼ一撃で倒せる相手でしかない。

 しかし今回の相手は竜人自身の先制攻撃を避け、逆に死角からの攻撃を放ってくる相手なのだ。


 そのまま数秒ほど沈黙が流れると、土煙を突き破って何かが高速で竜人に向かって飛来してくる。

 瞬時に一メートルほどの岩だと気づいた竜人は避けることもなく、その硬い拳で迎え撃って岩を粉砕する。


 岩によって突き破られた土煙の間には右脚を振り上げた態勢で、平然とした顔をした聯斗が立っていた。

 しかし竜人は聯斗の右腕がぐちゃぐちゃに潰れてしまっていることを見逃さなかった。


「キャハハハハ!! 随分と軟弱な身体なんだなッ! そんなんで俺様に挑もうなんて自分の力を過信しすぎなんじゃねぇのかぁ?」


 聯斗との距離は数百メートルは離れているが、集中していればこの距離でも発言を聞き取れるらしく、聯斗はそこで初めて自らの右腕に目を向ける。

 そこで驚いたとでもいうように、聯斗は少しばかり目を見開いた。

 しかしすぐに左手を右腕にかざして魔法を発動させた。

 瞬時に先ほど負った大怪我が元通りになり、聯斗は自分の右腕から視線を竜人に戻す。その顔には今やられたことを大して気にしていないといった表情が浮かんでいる。


 それを一部始終見ていた竜人は一度舌打ちした後、しかし大きく口角を上げた。


「面白れぇ! そうこなくっちゃな!!」


 竜人がさらに闘争心をむき出しにして姿勢を低くする。

 それを平然とした顔で観察していた聯斗は自分に突進してくることを予測し、竜人に向かって無数に風刃を放つ。避けられることも想定して放射状にである。


 流石の竜人でも風を目視することは不可能であったが、鋭敏な感覚が不可視の何かが自分に向かって放たれたことを知覚し、即座に大きく回避行動をとった。

 本来なら全て避けられただろうが、竜人の予想を超えてそれらは竜人を追尾してくる。それは聯斗が風刃を放った後も、自らの魔力を断ち切ることなく繋いだままで操作していたためであった。

 直感的に避けられないことを悟った竜人は自分に向かってくる風刃に向かって大きく翼を一振りする。風刃はそれだけで全て消滅し、むしろ竜人の放ったその一撃は聯斗向かって突き進んでいく。

 しかしその時にはすでに聯斗は全く別の場所にいた。

 既に竜人との距離をほとんど埋めていたのである。


「ハッ、見えているぞ!!」


 竜人はその凶悪な爪で迎え撃とうと腕を振り上げる。

 聯斗はそれを見た途端に右手に剣の形をした水を生み出した。ただの水も超高速で振られれば物質を易々と切断できるのだ。

 竜人はそれを知っていたために水剣を無視できず、距離を取らざるを得なくなる。自分の鱗に絶対の自信を持っていた竜人だが、聯斗にはそれなりの警戒心を抱いていたためだ。


「武器を使うなんて弱い証拠だ」

「それは武器をちゃんと扱えない人か、持ってない人が言う言葉だよ。一種の負け惜しみだね」


 聯斗は竜人の挑発を全く相手にしなかった。

 それは無手の相手に対して武器を持って戦うことに罪悪感を抱いていないというわけではなく、むしろ鱗という鎧を身に着けている竜人とのハンデを補っているという判断からきていた。

 竜人も本心からそう思っているわけではないようで、すぐに話題を変えた。


「そういえばお前人間のくせに随分と頑丈な身体してんだな。強化魔法の恩恵とやらか? それに魔法使用時の魔力の動きが感じられねぇ。お前おかしいぞ」

「強化魔法なんて使ってないよ。それに魔力の動きが感じられないのは単純に魔力操作が上手だからとしか言いようがないね」

「俺様の感知能力があれば魔力操作が上手い程度で魔力の動きを誤魔化せるわけがねぇ。いったいどんな小細工使ってやがる?」

「本当に上手いだけなんだけどなぁ」


 聯斗は心外だという表情で大きくため息をつく。

 そんな会話をしていた途中、竜人は足元の瓦礫の微かな振動を感じ取ってその場を大きく飛び退いた。

 次の瞬間、先ほどまで竜人が立っていた場所の足元から岩でできた細い槍のようなものが高速で生えてきた。その槍は竜人を捕らえることを失敗したためか、すぐに元に戻って消え去った。

 竜人はその槍の消失を見届けると、聯斗を忌々しげに睨み付ける。


「やはり魔力の動きが感じられねぇな。闇魔法で隠してんのか?」

「だから……本当に魔力操作が上手なだけなんだってば」

「そんなことがあってたまるかよ!! 俺様が以前契約していた魔王の魔力操作だって俺が見逃したことはなかった。数百年を生きた最上級魔人の魔力操作よりお前みたいな餓鬼のほうが魔力操作が上手いって言いてぇのか?」

「そういうことになるね」


 聯斗の平然とした物言いに竜人の怒りが湧き上がってくる。

 自分が憧れ、嫉妬し、殺意さえ覚えた契約者を馬鹿にされたような気がして許せなかったのだ。


「それが過信してるって言ってんだよッ!!」


 竜人が大きく口を開く。

 それと同時に物凄いスピードで口の前に魔力が集まり始め、それが超高温のエネルギーへと変換されていく。その熱波だけで周囲に散らばる瓦礫の山が融解し、小さな溶岩の池が出来上がる。

 しかしその収束が終わるのも一瞬のことだった。

 収束を終えたエネルギーの塊は指向性を持ち、拡散することなくレーザーのように聯斗に向かって突き進んでいく。


 聯斗は咄嗟に回避行動に移る。

 聯斗ほどの反射神経ならばそれを避けることは決して不可能ではなく、超高温の熱波をその身に受けて全身が焼け爛れながらもなんとか避けることのできる位置に移動した。

 平然とした顔・・・・・・でそれを治療した聯斗は即座に攻撃に移ろうとしたところで己の失敗を悟った。


「やばっ!?」


 自分の背後に城があったことを思いだしたのだ。

 聯斗はすぐに城を守るように結界を五枚構築する。その全てが城と避難場所になっている地下を覆うように構築されていた。その強度、規模、構築速度、どれをとっても常軌を逸した錬度である。もしこれを上級冒険者の後衛職が見れば、自分の今までの努力の意味を深く考え込むことになっていただろう。


 そんな結界に竜人が放ったレーザーが衝突し大爆発を起こした。

 全方位に向けて拡散したその爆風は聯斗を外壁の外まで吹き飛ばし、そのレーザーを放った竜人さえも自分の想定より近距離で爆発を起こしたことにより聯斗同様大きく吹き飛ばされる。


 聯斗は吹き飛ばされた先で身体を瞬時に治療し、上体を起こして周囲を見渡す。外壁の外であるにもかかわらず聯斗の周囲にも瓦礫が散乱していることから、その爆発の威力が窺い知れるというものである。

 次に聯斗は自分の構築した結界を確認するために城に視線を移して、大きく目を見開いた。


「………」


 五枚張った結界の内四枚が破壊され、残り一枚に罅が入っていたのである。

 あのレーザーを止めることができたのだから賞賛に値する功績であるのに、聯斗にとってはそうではないようだ。歯を噛み締めているその表情を見れば、誰にでもわかることだろう。


 聯斗はすぐに立ち上がり、城へ向かって走り出す。

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