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別れ

 あの魔法騒動の日から何週間か経った。

 その間に魔法の練習はたくさんしたし、狩りの仕方から魔物の解体、山菜の種類など多くのことを教えてもらった。

 他にも今いる大陸の位置とミネリク皇国とユークリウス王国の国の位置関係を教えてもらった。今のところ他の国に行くつもりはない。落ち着いてから旅をしよう。


 また、狩りをして素材をそろえて試行錯誤してなんとか防具っぽいものを作った。

 初心者が作ったものだからか、着心地がすこぶる悪い。材料は市場に出回らないようなものらしくかなり頑丈なので、何とか使っていけている。

 早くどこかの町に行ってちゃんとした防具に作り替えてほしい。まぁ俺の身体に防具が必要かと問われれば無視を押し通すが。

 自分の使える魔法属性には驚いた。

 全魔法が使えるなんてただのチートでしかなかったが、フェンリルが近くにいたので、応用的なことにはまだ手をだしていない。

 火属性しか見せていないつもりだが、たぶんあちらも薄々勘付いている気がする。

 彼らは信用できるので、こちらからは何も言っていないが……。


 これほどの力があればミネリク皇国に一矢報いることができるかもしれない。

 あの国には多くの『恩』があるから、ちゃんとお返しをしてやらないとな。

 いくら俺が温厚(自称)だとしても我慢の限界というものがある。起きたら鎖で繋がれてて、奴らがつけた何かしらの首輪に殺されかけてとなかなか面白い。


 まずは敵国視察といきたいところだが、生活基盤を整えなければ何かあったときに困るから、最初は違う国のどこかで十分なお金を蓄えるところから始めよう。

 お金が全くないし、魔物が跋扈しているということは街の周りに城壁などがあって、入るのにお金なりなんなりが必要になると思っておいた方がいいと思う。

 ギンさんに訊いたが、やはりどの街に入るにも何かしら必要になるそうだ。たぶんお金があれば入れると思われる。


 だいたいの行動方針が決まったところでギンさんに別れを告げに行く。


「ギンさん、少し話があるんだけどいいかな?」

「いいぞ。まぁ内容はある程度見当がつくが」

「うん。実はそろそろ人族が暮らす街に向かおうと思うんだ。さすがにいつまでもここでお世話になるのは気が引けるし、いろいろな国を旅してみたいとも思ってる」

「やっぱりな。そうか………人間とここまで接したのは初めてだったが、なかなか楽しかったぞ!またいつでも遊びに来い!」

「じゃあもう行くね。今までありがとうございました」

「おう。じゃあな」


 そう言ってギンさんたちに背中を向けて歩き出す。



 少し離れたところで街に入るための準備を始める。


 まずはバッグだ。さすがに手ぶらだと怪しまれる気がする。

 魔物の皮で作った小さな巾着に空間魔法をかける。

 今まで一人で行った狩りで集めた素材などは全て空間魔法で作った亜空間に仕舞ってある。

 亜空間でも時間は流れるらしいので時魔法を使って時間を止めてある。これで鮮度が落ちることもない。


 次は風呂だ。

 毎日お風呂に入っているのだが、これからあの女以外の人間と初めて会うのだから、少しぐらい恰好つけたって罰はあたらないはずだ。

 まず土魔法で湯船を作りその中に水魔法で水を入れる。最後に火魔法で温度を上げる。

 何とも簡単な風呂だが、元日本人の俺からしてみれば森のど真ん中にある露天風呂とか癒し以外の何物でもない。

 ただ、ボディソープもシャンプーもないのは結構萎えるし、入浴を邪魔する魔物どもはかなり腹が立つ。素材がもったいないので消し飛ばしたりはしない。


 さてそろそろ準備はいいかな。


 さぁ行こう。

 これから向かうはユークリウス王国だ。


 ついさっきまでいた神域は大陸の北西の隅にあって海に面しているらしい。神域の住民が認めたわけではないらしいが、神域の全域がミネリク皇国の一部ということになっていて、神域の出口全てがミネリク皇国の領土なのだそうだ。そのため神域からユークリウス王国に向かうには必ずミネリク皇国の領土を通らなければならないらしい。ユークリウス王国はミネリク皇国の東に位置するため、このまま東に向かって進み続ければ、いつかユークリウス王国に辿り着くとのことだった。


 人の顔を見なくなって数週間。さすがに人恋しい……。


 それからはどの村にも町にも立ち寄らずひたすらユークリウス王国との国境を目指して歩を進めたのだった。



 全力で走っていたおかげか一週間ほどで国境に辿り着いた。

 そりゃ高速道路を走る車よりも速いスピードで一週間近く走り続ければ数千キロなんてあっという間だろう。


 ここに辿り着くまでの間にもいろいろ学びながら来た。

 何よりも最近は肉に嵌っている。

 初めて会う魔物は片っ端から焼いて食べていく。何故か不味い肉がなかった。魔物の肉というものはどれもうまいものなんだとわかった。

 そして一番熱心になって取り組んだことはやはり魔法だ。

 何よりも回復魔法がすごかった。みるみる傷が癒えていく様子は元地球人である俺にとって衝撃だった。


 さて、どうやって国境を越えるかだが二つ案がある。

  その一、堂々と無一文であることを告げる

  その二、魔法で姿と気配を消して密入国する


 正直に言えば一つ目の方法は危険だ。ミネリク皇国という頭のおかしい国の兵士が普通であるはずがない。

 しかし、二つ目の方法は日本で過ごしてきた俺にとって躊躇われる方法だ。密入国って要するに不法侵入ってことだぞ。これはやってはいけないことなのだ。ミネリク皇国なんて無視していいがユークリウス王国のことを考えると……くそぉ…………。


 ………いや、待てよ。

 そもそもミネリク皇国の奴らが無理やりこっち側に連れてきたんだ。

 だからこれは不法侵入にはならないんじゃないか?

 そうだよ!これは帰国なんだ!!

 なんてったってユークリウス王国の兵士達が俺を探していたらしいじゃないか!

 それが事実かどうかなんて今は考えてはいけない。


 よし、二つ目の方法でいこう。

 光魔法と闇魔法で姿を見えなくして気配を消し、風魔法で音と匂いを消す。

 完璧すぎる隠密技術だ。これで空き巣なんてしたら、きっと誰も気付かないぞ。もちろんそんなことは絶対しないが。

 これからはこの複合魔法を『ステルス』と呼ぶことにしよう。


 もうこんな国とはおさらばだ。次来るときはちゃんと挨拶するから楽しみにしてろよ!


 では、帰国だ!!!

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