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距離と決意

 暗殺者は俺に自信満々で戦闘を挑んできた割にはあっさりと片がついた。

 正直言って魔法発動速度が遅すぎる。あれじゃ魔人の足元にも及ばない。

 これはこの男にだけ言えることじゃない。言いにくいが、姉妹の魔法発動速度だって俺からしてみれば遅い。まだ高校生ぐらいの女の子だからこれから先の成長に期待できるのが救いだ。


 一応こいつの所属している組織や序列なんかはある程度理解したので、今後また襲われた時のためにも何発か魔法の錬度を見てみることにした。

 結果、脅威でもなんでもなかった。

 確かに今まで出会ってきた人たちの中では頭一つ抜いている。しかしそれはあくまで人族限定の話。魔人と比べたら話にならないレベルだし、コウリュウにもダメージを与えられないだろう。


 知りたいことはわかったから瞬時に闇魔法を使って気絶させた。

 こいつは町の騎士に引き渡そう。ダンリク達に俺が倒したことが知られた今、俺がこいつに何かすることはできない。町まで連れていかなければダンリク達に怪しまれてしまう。



 俺達から遠ざかっていく小竜とその背中に乗る二人の人間。

 どうやらこの場から逃げるつもりらしい。

 彼らの所属している組織の本部はわからなかったが、この町の近くにある支部はいくつかわかった。

 彼らがこれから戻るであろう支部も予想がつく。

 これからこの組織をどうするか考えなければならない。

 いちいちちょっかいをかけられてはたまらない。来るなら一度にドカンときてほしい。殺し屋に毎日命を狙われるなど対処手段があってもやってられないから。しかしそうはならないのが現実なのだ。

 やることはやった。

 相手がどう出るのか少し様子を見てみよう。




 ダンリク達が町に戻ったため俺達も町に戻ることにする。

 こんなことがあって依頼などやってられない。

 幸い姉妹は今回のことをあまり気にした様子はない。おそらく俺とフェルネがいるから心配していないのだと思う。強い者の近くにいれば安心を感じてしまうのは当たり前だ。


 しかしこれは悪い傾向にあるのではないだろうかと最近感じるようになった。

 冒険者として緊張感に欠けるというのは死につながる可能性を含む。先ほどの暗殺者の攻撃に気付いてたのは俺とフェルネだけだった。結構距離があったし、姉妹では起きていても気付かなかったかもしれない。感覚を研ぎ澄ましていないがために。


 姉妹は一生俺の近くにいると言っているが俺はそんなことはあまり許容できない。俺なんかに一生を費やすのは勿体なさすぎる。若いが故に感情に任せて行動しているのだろうが、現状を後悔する時が来るかもしれない。

 確かに何度か助けた。でもそんなことは俺もそうだ。俺はこの世界では一人。家族もいなければ仲の良い友達もいない。

 しかし姉妹とフェルネだけが俺の傍にいてくれた。俺はそれだけでかなり助けられたのだ。


 今隣で静かに寝息をたてている姉妹を見ているとずっと守っていきたいと感じる。しかし彼女達が一人前になった今、俺は必要な存在なのだろうか。

 四級冒険者と言えば実力はこの世界では一流だ。一人で生きていける。しかし彼女たちは冒険者として見ればまだまだだ。俺が近くにいることで夜番の必要が無くなり、森の中でぐっすりと眠ることができている。しかし実際は違う。夜は魔物の動きが活発になるし、警戒しなければ魔物が襲ってきたときに対処できない。

 そんな当たり前のことを姉妹はする必要がない。俺が結界を使わないで交代で夜の見張りをするという選択肢もあるが、それでは俺が夜な夜ないなくなっていることに気付かれてしまう。


 ここらで少し距離を置いたほうがいいかもしれない。

 姉妹がダメになってしまう前に。


 それに離れるべきだと思ったのはそれだけが理由ではない。

 俺は暗殺者に狙われるようになった。

 依頼主はわからなかったが彼らがこの世界でかなり有名だということはロータスの記憶を覗いてわかった。そんなやつらを雇えるほど金があるとしたら、そんな人物は大分限られてくる。

 姉妹に危険が及ぶ可能性があるならば俺から距離をとるべきだ。姉妹が狙われた場合についても考えておく必要はあるのだが、そんなことはどうにでもなる。


 この際だから奴隷のことも解放しよう。

 俺が冒険者ギルドに言って奴隷商人を呼んでもらい、そこで解放に必要なお金を渡せば解放してもらえる。

 これで姉妹の独り立ちだ。

 パーティをどうするかについては話し合って決めよう。俺と別れた後に他の人達とパーティーを組むかもしれないのだから。


 俺はそんなことを考えながらロータスを騎士団に引き渡しに向かった。

 フェルネ達は既に宿に着いている頃だろう。


 俺がロープでぐるぐる巻きにしたロータスを担いで騎士団に連れていくと、中にいた二人の騎士が慌てて俺に近づいてくる。


「な、何事だ!?」


 前にも似たようなことがあった気がするが、そこはあまり気にならない。


「この町の近くの森で野宿していたらこの人が襲い掛かってきたので捕まえました。名前はロータス・ベムというらしいです」

「ロータス・ベム……………どこかで聞いたことのある名前だな……」

「はぁ!? お前忘れたのか!? ロータス・ベムといえば『惨殺鬼』のロータス・ベムだろうがよ!!」


 先ほど発言したのとは異なる騎士が先ほどに騎士に怒鳴りこむ。


「あぁ……『惨殺鬼』のロータス・ベムねぇ…………って、はぁ!? こいつがあの!?」

「らしいです。自称ロータス・ベムですが」

「そ、そうか……ふぅ……なら違う可能性もあるな。こいつは俺達が預かろう。できれば話を聞かせてほしいのだがいいだろうか?」

「もちろんです」

「そうか、すまない」


 片方の騎士が奥に行き何かを持って戻ってきた。

 金属でできた太い手錠のように見える。


「それは?」

「あっ、これは魔法の発動を妨害する手錠です。装着者の体内の魔力を乱すことで魔力を練ることができなくなるという仕組みですよ。奴隷に着ける首輪みたいなものです」

「なるほど。便利なものなんですね」

「そうですか? まぁその首輪と違って、体内の魔力を乱す性能しかありませんがね」


 そういったやりとりをしていると手錠を嵌められぐるぐる巻きにされたロータスが目を覚ました。


 ちなみにロータスが誰とも魔力交換していないのも確認済みだ。

 どうやら本当に強い者は自分の魔力操作に害のある魔力交換はしないらしい。こいつが暗殺をしているのも誰かに忠誠を誓ってのことではないらしいので、組織に命令されても魔力交換するつもりはないそうだ。


 まだ周囲の状況を把握できていないようで周りを見回している。


「おはよう、ロータス」


 ロータスは俺の顔を見て初めて反応を示した。


「お、お前!! ……………あのとき俺に何をした?」


 あれだけ余裕ぶっていたロータスも今はそうではないらしい。

 捕まるなんて初めての経験だろうし仕方ないといえば仕方ないのだが。

 それにあっさりと意識を失ったことに理解が追いつかないのだろう。


「なにも。あれだけ大口を叩いた割にはあまりに弱かったからすぐに無力化できたよ。弱くてありがとう」

「ふざけるなよ……俺が戻ってこないことを組織が気付いたら違う奴がくるぞ。俺よりもヤバいやつがな」


 ロータスの言葉に反応したのは騎士二人のほうだった。少し顔が青いようだ。

 さすがに騎士はその組織のことを知っているらしい。

 俺は今までそんなことに興味はなかったから裏社会のことについて調べたことはなかったが。


「そんなのはったりでしょ?」

「はったりじゃない。『メリグレブ』は一度受けた依頼は必ず成し遂げる。俺が消えたら次の奴が来るはずだ」


 そんなことは知っている。


「じゃあ次も同じように捕らえようかな」

「そう簡単にいくものか。あの組織の恐ろしさをお前は知らない」

「確かに…………」


 組織の構成員でありそこそこ重要な位置にいるロータスにさえ、その全容を掴ませないほどの組織だ。

 彼が恐ろしく感じてしまうのも当然だ。


「あの世でお前が自分の境遇を嘆き苦しむ様を見物させていただこうか。お前は絶対に逃げられない」

「……ご忠告ありがとう」


 彼が最後に見せた獰猛な笑みに絶対の自信を感じた。

 自分を余力を残して倒して見せた相手に対して尚、そう言い切れる自信を。


 気のせいだと思うが何か不吉は予感がするな。


 少し悪い想像をしながら今回の襲撃について騎士に報告をし、俺は騎士団の詰所を出た。

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