魔法の練習と実践2
「――――――――というわけだ。わかったか?」
「なんとかついていけました……」
あまりに長い話だったが、魔法という空想上のものでしかなかったものがこれから使えるようになるかもしれないとと考えると、やる気と根性だけでついてこれた。元々勉強は嫌いじゃなくて頭はいい方だったし、これからは今まで以上に楽しく勉強できそうだ。
「ちなみにシュウト殿をこっちに呼び出した召喚魔法は無属性魔法なわけだが、これは必要になる魔力が桁違いに多い所為で数十人規模の大規模魔法になるという話だった。このことを教えてくれたのは何百年か前に帝国で召喚された者で、帝国の命令で神獣を捕まえに来た時に話してもらったのだ。もちろん最後には我らが殺してしまったがな」
「…………ソウデスカ」
要するに出会い方が違っていたら、俺も殺されていた可能性があると………。
そもそもどうしてこんなに親切にしてくれるのだろうか?
「どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」
「…あぁ、確かにそのことを話してなかったな。親切にする理由だが、お主から敵意も悪意も感じ取れなかったのもあるが、それ以前に血の匂いが全くしなかったからな。もしかしたらシュウト殿は今まで動物を殺したことがないのではないか?」
「……はい………」
「いや、落ち込む必要はないぞ。むしろ生き物を殺さないことは褒められるべきことだ。だがこの世界では自分の身を守るため、生活するために生き物を殺さなければならない。特にシュウト殿のような力のある人間は必ず戦う場面に出くわすだろう」
……薄々気付いてはいた。この世界では生きるために「殺し」が必要になるのだと。
平和な国であり、動物を見るのにお金を払う必要がある施設が多く存在する前の世界では、自分が動物を殺すことなど考えたこともなかった。怪我した人や動物を見ると心が痛むぐらいだから。
でも俺はこの世界で生きていってもいいと思っている。魔法があるなんて心が躍るし、獣人族や妖精族に会うことには憧れすらある。前の世界に残してきた家族や友達には申し訳ないと思うが、この気持ちは止められない。
ここで生きていくためにそれなりの覚悟を決めようと思う。
よし!!
「覚悟は……できてます!!!」
「よかろう。まぁまずは魔法の練習から始めようか」
やっと魔法を使えるのか。
段々テンションが上がってきたぞ!!
「まずは手のひらを上に向けて前に出せ」
言われた通りにやってみる。
「基本的に身体の中に存在する魔力はイメージで操作する。まずは自分の中に流れている魔力を見つけ出すことからだ。慣れてくれば自分の中の魔力の流れさえもわかるようになってくるはずだ。そうしたらその魔力を手のひらの上に集中させてみろ。まずはこのイメージの練習からだ」
自分の身体に意識を集中。魔力は身体中をながれているらしい。
おっ!これかな?身体中を流れているモヤモヤしたもの、たぶんこれだ。
そしてこれを手のひらの上に集中させる。
魔力操作はイメージだ。イメージイメージイメージ……………
ボッ
「おおー!ギンさん、できた!!!」
「………さすがに召喚された人間はすごいな。普通はこんな簡単にはいかないはずなんだがな。それに大きすぎるだろ……。まぁいい。次のステップに進むとしよう。一旦その魔力の球を発散させて消し、次は火の玉でもう一度同じことを想像しながら『ファイア』と唱えてみろ」
次は火の玉で想像するんだな。手のひらに火の球をイメージ……
ボッ
「おぉーー!できた!」
「呪文は?」
「必要ないらしいですね」
「…そうか。さすがとしか言えないが……」
「ありがとうございます!!」
「では水から順番にやっていってみろ」
「いえ、今はこれだけでいいです」
ギンさんを信用していないわけではないけど
できるだけ手の内は隠しておきたい。
「そうか。では実戦に移るとしよう。俺の後についてこい」
「はい」
そのままギンさんの後について行って目的地に着いたところで、すぐにギンさんが俺にやらせようとしてることに気付く。
目の前にいるのは巨大なゴリラに似た魔物だった。体長は10メートルはあると思う。
「今からこいつと戦え。お主の魔法の才能と身体のスペックさえあれば、簡単に倒せる相手だと思うぞ。ちなみに魔法の威力を上げたいときもイメージだからな!もちろん多くの魔力を消費するがお主の魔力量なら気にするほどの量ではなかろう」
さっきと同じ感覚で大きくなるように………
ボンっ!!
………デケーー。
できた火の球の大きさは軽く10メートルを超えていた。
「おい!!もう少し小さくて大丈夫だから………おい!!!」
注意された時にはすでに手から離れていた。
そのまま一直線にゴリラに当たる。
ズドォォォォオン!!!
えっと……どうしよう?
煙が去った後に残っていたものはかなり大きなクレーターのみだった。
「…帰りましょうか」
「おい」
「すみませんでした!」
「いや、我の助言が悪かった。すまない。帰ろうか」
そのまま何も考えないようにしつつ、元居た場所に戻っていった。
後で気付いたことだが魔物を消し炭にしたにもかかわらず、罪悪感が湧くことはなかった。
跡形もなく消し去ったからか、魔法の威力の凄まじさに呆気にとられていたからか、はたまた他に原因があったからかはよくわからなかった。