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先輩冒険者の密談

 冒険者ギルドに入ったダンリクたちはギルド職員に頼んでギルド内の一部屋を借りていた。

 この部屋に誰も入らないようにということもしっかりと伝えて。


「あの子達が『自由の光明』のメンバーなのよね?」


 部屋のソファーに腰を落としてから最初に話し始めたのは『水雅』のメルナイアだった。


「そうだろうな。サーリフからの情報に一致する」

「俺も間違いないと思うぜ」

「…………あの子達を見てどう思った?」

「姉妹の女達はともかく他の二人は明らかにおかしい。紺ローブももう一人の女も魔術師のくせに魔力が感じられなかった。そんなことは絶対にありえない」

「紺ローブはギルド情報でも強化と回復魔法はかなりの使い手だということだったはずだよな」

「そうだったはずだ」

「ローブに何かあるのかも?」

「だったら女のことはどう説明するつもりだ? ローブもつけてないし、以前は少量ながらもかなり強力な魔力を持っていたとサーリフが言っていたぞ」

「…………そうよね」

「それにローブも何かしらの魔法がかかっていた。おそらく付与魔法だろう。俺でも集中していなければ気付かないほど僅かな魔力しか纏っていなかった。相当凄腕の魔法の使い手によるものだ」

「それはあの四人の中に付与属性保持者がいるってことか? そんな情報はなかったはずだぜ?」

「その可能性は低い。もし付与属性保持者がいるなら他の武器や防具も付与魔法がかかっている可能性が高かったが、俺が感じた限りだとローブだけだった」

「ならその線は消えるわね。神創遺産だったりして?」

「それはどうかな。あんなローブどこにでも売ってそうだ」

「それには同感だぜ」

「それよりシュウト君?だっけ? どうしてあの子にフェルネちゃん?が付き従ってるのかな? そういう立ち位置だったよね?」

「それは俺も疑問に思ってたところだぜ。力関係だとそのフェルネってのが一番上なんだろ?」

「そんなこと俺の知ったことか。それよりもあの姉妹はどうだ?」

「うーん………そこそこ腕の立つ女の子って感じかな? あの二人の異常さの前だと霞んで見えるほど普通だったわよねぇ」

「そうだな。でも俺にはあくまでそこまでの女達にしか見えなかったな。一年足らずで七級から四級に上がったなんて話だったからいったいどんな大物が現れたのかと思ったものだが、少々強そうな少女達ってだけだった」

「そういえばシュウト君とフェルネちゃんに階級アップ速度を抜かれたって話だったけど、実際に会ってみてどう?」

「それはどういう意味だ? 俺がそれに悔しがっているか訊きたいのか? それともその速度について訊きたいのか?」

「………もちろん後者だわよ?」

「口調がおかしくなってるぞ。そうだな…………短期間でそれほど多くの依頼を連続で成功させられるってことはそれなりに体力があるのだろう。おそらくあの二人は後衛だけじゃなく前衛もこなせるんだろうさ」

「そりゃそうだろうよ。全員魔術師のパーティーなんて上級魔物に対抗できるはずがねぇしな」

「とにかくだ。彼についてはもう少し調べてみる必要がありそうだ」

「だな。討伐依頼を観察することにしようぜ」

「でも実力が本物だったらすぐにバレちゃうんじゃないかな?」

「それならそれでかまわない。俺達の気配に気付けるほどの実力があるなら少なくとも俺達に近い実力があるということの証明になる。それにどうせ三級以上になるなら俺達がそうであったように他の三級以上の冒険者に観察される羽目になるんだ」

「それもそうね」

「そうだよな」

「じゃあ彼が依頼を受けたらギルドの職員に教えてもらうとしよう」









 俺は冒険者ギルドの中の壁際に立ってゆっくりと空間魔法と風魔法を解除した。


 俺がこのギルドの中に入る前、『九属奏』の人達とのちょっとしたトラブルがあった。あれをトラブルと言っていいのかはわからないが。

 そこでダンリク達は隠していたようだが、俺達に近づきながら俺達を観察していたことに気付いた。

 視線はほとんどこちらに向いていなかったため姉妹には気付かれなかっただろう。俺とフェルネにはバレバレだったが。

 しかし、意識がこちらに向いていてそれを隠そうとするということはそれなりに後ろめたいことがあるか、それを隠さなければならない理由があるということ。

 俺はそれが気になって魔力感知を少し拡げて彼らの居場所を特定し、そこで行われるだろう会話を聞かせてもらうことにした。

 自分の周りに真空の膜を張って此方側の喧騒があっち側に届かないようにし、俺の耳元と彼らの部屋の天井付近に一平方センチメートルほど空間のつながりを作った。


 どうやらサーリフが俺達のことを『九属奏』のメンバーに伝えて監視するように言ったらしい。

 しかも俺とフェルネはいろいろと不審がられているようだ。

 身体から魔力が漏れないことが逆にこういう問題を引き起こすということは気づかなかった。しかし少しでも魔力を漏らせば以前のフェルネのように実力の一端を教えてしまうようなものだ。不審がられてもこれを止めることはできない。

 ローブの魔力については彼らの話を聞いて今思い出したことだが、これは人の町に初めて入ったときに買って魔法を付与したもので、魔法操作が甘かった時のものだ。だから僅かな魔力の漏れがあったのだろう。これも後で強化魔法をもう一度付与するとしよう。おそらく効果が切れたと勘違いするはずだ。

 最後のほうの会話は聞いてはいけないような内容だった気がする。彼らの会話から察するに、三級以上の冒険者になるためには三級以上の冒険者に観察される必要がありそうだ。それが何を調べているのかは知らないが、知っていていいことはないだろう。それを一度知ってしまえばそのことを意識してしまうし、ちゃんとした調査にならないかもしれない。


 そんなことを考えていたら俺に向かって歩いてくる五人の男に気付いた。

 なぜそれが俺に向かってと断言できるかと言うと俺が壁際に立っているからだ。


「いきなりすまない。もしかして『自由の光明』のシュウトという者か?」


 俺がその人たちに顔を向けるとそこには見覚えのある顔があった。


「はい。確か四級魔物討伐で会った…………」

「覚えててくれたか! あの時は本当に助かった!! ありがとう!」


 先頭に立つ人がお礼と同時に頭を下げると、それに合わせて周りにいる四人もお礼を口にしながら頭を下げてきた。


「いえ、こちらはあくまで自分たちにできることをしただけなので」

「それでも俺達の感謝は受け取ってほしい。名乗り遅れて申し訳ないが俺は冒険者パーティー『森林の大雄』のリーダーを務めているセイルズだ。そんで俺の後ろにいるのがシュルツ、ストラ、ビスト、ラントーだ」

「私は、ご存知かと思いますが『自由の光明』のシュウトです」

「もちろん知っているさ! 君たちのことは町を渡ってまで調べたんだ。もちろん恩人のことを詳しく知りたくてだぞ!?」

「……わかってますよ。ありがとうございます」


 さすがに今の発言は少し引いてしまったが。

 アイドルに会いたくて県を渡るようなものなのだろうか。

 俺にはそういう経験がないからその感覚がわからない。


「ところでシュウトはなんでここに戻ってきたんだ? もしかして最近この町の周辺に現れだした大量の魔物が関係してるのか?」

「そうですよ。この機会に一気に稼ごうかと思いまして」

「そうかそうか! それは心強いな。しかし油断はダメだぞ。あんたたちは確かに強いのかもしれないが三級魔物まで近くにいるって話だ。もし見かけたら『九属奏』の方に知らせてとっとと退散するべきだ」

「はい。ご忠告ありがとうございます」

「いやいや、俺なんかがあんたに忠告なんて身の程知らずもいいところなんだが、万が一にもあんたは死んだりしていい人材じゃないからな」


 なんというか、相変わらずいい人だ。

 以前俺達が助けたときも自分たちが助かることよりも俺達が逃げることを最初に考えてくれていた。

 あのときは特に深くは考えていなかったがよくよく考えてみれば、もしあのとき俺が助けようとした人たちがこの人じゃなければ、俺達から物資を奪おうとする人がいてもおかしくはなかった。

 何日も食事をとらず長時間死の恐怖に晒されていれば相当疲弊していたはずだ。そんな中でも俺達みたいな若者の安全を一番に考える大人というのは、若者から見ていてとても眩しい。


「それとな、俺達に敬語なんて必要ないぜ。俺としては普通に話してくれたほうが嬉しいんだが」

「……わかった。よろしく、セイルズさん」

「こちらこそだ、シュウト」

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