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箱庭1

 マルタ町にはまた俺とフェルネが前回と同じように姉妹を抱えて走って向かうことになった。


 王都を出たその日の夜。

 普段森の中で野営をするときは俺が何かしらの物質に無属性の魔法を付与して結界を一晩張ることにしているので、たとえフェルネがいなくても姉妹の安全は保障されている。もちろん一晩経ったら付与魔法を解除しているので万が一にも他人に使われる心配はない。

 ちなみに付与魔法というものは本来、魔力親和性に富んでいる物に魔法をかけて付与魔法がかかっていることのできる時間を大幅に伸ばして、術者の消費魔力を最小にし効果を最大にしようとする方法がとられているらしい。

 しかし俺はその限りではない。少し魔力を注いだだけでも全然効果が切れないのだ。俺の『少し』と周りの人々の『少し』が違うということはわかっているつもりなので、本当に最小限、それこそ限界まで抑え込んだ少量の魔力で一週間ほど付与魔法を維持することができた。

 もしこれを普通に付与魔法を使ったりしたらいったいどれほどの期間、付与魔法が続くのか想像することもできない。それこそ魔力親和性に富んだものなら尚更だ。


 このような理由から夜の姉妹の安全は保障されている。


 現在俺は三人が寝静まった後に起きて、周囲に問題がないことを確認している。

 姉妹は俺が渡したマジックポーチを大切そうに抱えて眠っている。とても微笑ましい光景で思わず頬が緩んでしまう。そのマジックポーチも今は少し改造して腰に巻き付けることができるようになっていた。これで魔物と戦う時にも邪魔にならずに済むようになった。神創遺産は壊れないということを知らないのか、または忘れているのかもしれないが、今回はそれが役に立った。

 フェルネは姉妹と川の字で寝ている。

 最初はどうなることかと思ったが今の三人はけっこう仲が良い。年齢も見た目も全然違うフェルネであるが、魔族の寿命を考えれば精神年齢は同じくらいなのかもしれない。フェルネも元々は少女の姿をしていたのだから。


 フェルネの姿が変わったことについてフェルネ自身は魔力に合わせて身体が成長したと言っていたが、それはあながち間違っていないのかもしれないと俺は思っている。中級魔人から最上級魔人に成長、いや進化したのではないだろうか。

 フェルネによれば最上級魔人からは最上級魔人が生まれ、中級魔人からは中級魔人が生まれるらしい。そして階級が下がれば下がるほど人の姿から離れていくのだそうだ。だからこそフェルネは他人から笑われていたのだろう。人の姿でありながら中級魔人並みの力しか持たなかったのだから。

 それを鑑みれば、フェルネが最上級魔人までに進化したのは必然だったと言える。


 魔力によって魔族が進化するということは今から俺が確認しに行く。

 コウリュウをあの空間――小さな箱の世界という意味で箱庭と名付けた――に一人?一匹?一体?でいさせるのは本人がどう思っていたとしても俺が心苦しいので、魔物の仲間を増やそうと思っている。


 だからこそ俺は三人が寝静まった後でワープを使い、以前ギンさんにお世話になった神域の前の森『サヤク森林』にむかった。




 サヤク森林に着いて真っ先に魔力感知を拡げる。

 どうやら周辺にはそこそこ魔物がいるようだ。


 そして俺は魔力を少しずつ全方位へ飛ばしていった。


 魔族のフェルネやコウリュウが俺の魔力に興味を示したことから、魔族は魔力を好むということが推測できる。俺が思うに魔力というものが自分を高めてくれるものだと本能的に察しているのではないだろうか。

 俺の予想が正しければ魔族が魔族契約を求めるのは名前が欲しいからではない。そもそも俺が契約した経験から言えば名前を付けなくても契約できる。

 魔族が人間に契約を求めるのはその人の魔力が自分を高めてくれる魔力だと本能的に察しているのと、その魔力を好んでいるという二つの条件が重なったときだろう。だからこそ以前はあれだけ契約を申し込まれた俺が今は全く契約を申し込まれない。なぜならいつも魔力を漏らしていた以前と違って、今は限界まで魔力が漏れないように抑え込んでいるからだ。


 そして俺の推測は外れていなかったようだ。

 周りからどんどん魔物が集まってくる。中には俺に殺気を放っている魔物もいるがほとんどの魔物は俺に殺気を放っていない。

 俺はその中から殺気を放っている魔物だけを魔法で倒していき、その他の頭を垂れた魔物には俺が魔力を分け与え契約をした。

 するとフェルネと契約した時と同じような、薄く発光しそれを吸収するという現象が起こったのだった。






 次は大陸と海を箱庭に用意しよう。

 いや、海水では飲むことはできないから湖のほうがいいか。

 俺が土魔法で大陸を作ってもいいがそれでは植物がないので日よけがなくなってしまう。それは困るのでこの世界から大陸を切り取って使用するとしよう。

 問題はどこを切り取って使うかだがそんなことは悩む必要もない。

 ミネリク皇国に決まっている。

 生憎あの国は他者から奪うことが好きなようだから、俺も同じく大陸を奪っていこう。どうせ人間が住んでいない土地がほとんどなのだから、なくなってもすぐ気付かないだろうし。


 俺はゆっくりと魔力を練り上げ箱庭の拡張を行う。十数キロほどの箱庭では少しばかり足りないかもしれないので、以前と同じくらいの魔力を使って以前の数倍の大きさに拡張をする。特に垂直方向には水平方向よりもずっと大きく拡張した。一度作り上げた亜空間を拡張することは一から亜空間を作るよりも魔力を消費しない。

 だからこそこのようなことができる。


 拡張が終わったら次はミネリク皇国の海岸沿いにワープする。

 魔力感知を最大にして周囲をワープしまくって人間が住んでいないことを確認したので、この場所をいただいていくとしよう。多くの魔物がいたがそれは後で契約することにする。もし契約を望んでいなかったとしても、俺が契約した魔物の餌になるだろうから。


 数回に分けて箱庭の形に合わせて土地を貰っていく。地下は大体百メートルくらいあれば十分だろう。

 最後に海岸に面している部分を海水を除いて切り取る。おそらくこの部分を切り取った瞬間、俺が切り取った部分に大量の海水が流れ込む。それは流石にマズいので土魔法でダムを作りゆっくりと海水が流れ込むようにする。津波の恐怖とは想像を絶するものなのだ。


 さて、これで大陸は用意できた。

 次は湖を用意しよう。


 箱庭にワープして海水があった場所に水魔法で水を作り出す。他にも一定の間隔で巨大な穴を掘ってそこにも水を作り出した。魔物が箱庭全体に広がることができるようにするための処置だ。


 最後は疑似太陽だ。

 宇宙空間を照らしている太陽と違い、数十キロの土地を照らし暖めることができればいいのでそこまで大きな疑似太陽は必要ない。何よりも、太陽が無くてもここは十分に明るいのだ。付与する光魔法は蛍光灯をイメージした光にする。

 問題は夜だ。これは闇魔法で暗闇を作るしかない。だからこそ今目の前に二つの球体がある。俺が土魔法で作った半径十メートルほどの球体だ。これに光魔法と闇魔法をそれぞれ付与魔法で付与する。


 ここで重要になってくるのは付与魔法の真価だ。付与魔法には簡単な条件を付けることができる。魔法とはイメージによって作り上げるものであり、このように発動してほしいと願えばその通りのことが起こる。ただし詠唱という制限がなければの話だが。

 例えば『ファイアボール』という魔法を唱えても、それが火と玉のイメージから外れれば魔法が発動しない。よって、詠唱がある限りは自分のイメージ通りの魔法を好きに使えるわけではないのだ。

 それも無詠唱で魔法が発動できれば話は変わってくる。詠唱という制限がない以上、自分のイメージ通りの現象を発生させることができる。もちろん明確なイメージと集中力、それにそれ相応の魔力が必要になるのは言うまでもないが。


 俺はこの付与魔法によってそれぞれに十二時間ごとに強くなったり弱くなったりという条件を付けた。光魔法が弱いときは闇魔法が強くなり、闇魔法が弱いときは光魔法が強くなるようにだ。

 また、簡単に付与魔法の効果が切れないようにそこそこ多くの魔力を使用した。俺が作った土だということもあり魔力親和にも富んでいるだろうから、より多くの期間、魔法効果が持続するだろう。

 この二つの球体を箱庭の天辺に空間魔法の空間固定で固定すれば完了だ。


 ある程度やることが終わったので、契約した魔物達をこの世界に呼び込んでからフェルネ達のもとへと戻ってすぐに眠りにつく。



 愁斗はこの世界に来てから感じたことのない肉体的疲労に心地よさを感じながら眠りについた。

 現在時刻は明け方の五時を回ったあたりだ。

 休憩なく八時間近くも箱庭づくりに熱中していたのだった。

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