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依頼の後処理3

「さて、他にも話しておきたいことがあるのだろう? 続けてくれ」


 国王がすぐに次の話題を促してきた。

 ここからの話も急いだほうがいい事柄なのだ。


「わかりました。件の魔物が森を荒らしたために、元々森にいた魔物が大きく移動してマルタ町の近郊に出現すると予想されます。中には上級魔物も混じっているのでしばらくはあの町に上級冒険者を派遣したほうがいいと思います」


 あの町は普段は上級魔物などは出現しない。だからこそ以前たまたま出現した上級魔物に複数の冒険者パーティーが壊滅寸前まで追い込まれたのだ。

 五級と四級では大きな差があるのと同じく四級と三級の間にも大きな差がある。今回はそんな魔物が現れる可能性があるため、国が上級冒険者に依頼をしてもらうしかない。


 もちろん俺達もあの町で当分過ごすこととなるだろう。他の冒険者が森に入ることが予想されるため俺達は実力を出し過ぎるわけにもいかず、この件は俺達だけでは解決できないのだ。


 しかし俺の言葉に国王は慌てることなく冷静に答えた。


「そのことは私達でも予想できている。既に上級冒険者に依頼を出してマリス町に来てもらうことが確定している」

「…………上級冒険者と言っても三級魔物を相手にできる三級冒険者以上の方も必要になるのですが」

「もちろん三級以上の冒険者も呼んでいるとも。シュウト殿がこのまま冒険者を続けるのなら、いずれ一緒に依頼をこなすことがあるかもしれない。先輩にあたる彼らには挨拶くらいはしておいたほうがいいだろう」


 三級以上の冒険者までくるのか…………。

 あの町の近くにいたサーリフは間違いないとして、他にどういった人達が来るのだろうか。


 噂によれば三級冒険者は現在三十人ほどしかいないらしいし、二級冒険者ともなればたったの五人だけらしい。この中の一人が『春塵』のサーリフだったというわけだ。今の時代に一級冒険者はいないそうだ。

 ちなみに冒険者の上位五人は【五天奏クインタプル】と呼ばれるらしいが現在はちょうど二級冒険者の五人がトップであるため、これはあまり有名ではないとのこと。


「わかりました。機会があれば挨拶してみます」

「うむ、それがいい。シュウト殿はマルタ町に行くのか?」

「はい。あそこは知り合いが何人かいますから」

「そうか。ではこの話はこれで終わりとしよう。他に何か話はあるかね?」


 あと一つだけ話していないことがあったので、そのことについても触れておく。


「今回依頼で行った村に古代魔物を葬ったときの影響が出るかもしれないのでそのことを伝えておきます」

「了解した。そのことはこちらで何とかしよう」


 どうやら怒られなくて良さそうだ。

 というよりもこれで怒り出す人だったら俺はこの人を見限っていたかもしれない。誰にもこなせないであろう依頼を死人を出さずに解決したのだ(監視者はこれに含まれないはずだ)。それを「今後の村のことも考えて依頼をこなせ」などと言われたら、おそらく俺は切れるかもしれない。お前は何様なのだと。王様なのはもちろん俺でもわかっているが。


「ありがとうございます。私からの話は以上です」

「そうか。では最後に今回の依頼の報酬について話をしよう」

「あ………それを忘れていました」


 冒険者を動かす原動力である報酬について何も考えずに依頼を受けてしまうとは大きな失敗だった。

 今回は国王から直接依頼を貰ったからいいものの、これが冒険者を通していない依頼だったりすれば、依頼をこなすだけこなして報酬をもらう前に逃げられるということなど可能性としてはなくはない。

 もしかしたらこういう面においては俺は国王を信頼しているのかもしれない。奴隷制度だって最低限度のものだし、獣人差別だってほとんどない。人と対等、とは言えないかもしれないが、それに近い感じで接してくれる。

 俺は恵まれた国に召喚されたのだと改めてここで実感した。


 そんなことを考えている俺を見て国王は苦笑した。


「報酬として何が欲しいのか聞かせてもらいたい。できる限りの報酬を約束しよう」


 報酬か。

 国が依頼の報酬で用意するするものとはどういったものが普通なのだろうか。お金なら四級冒険者以上になれば結構な大金を稼ぐことができる。だからこそ国に依頼されるような人物はお金に困っていないはずだ。だとすればお金以外のものとなるのだろうか。しかしお金ほど応用性のあるものなど他にはない。だとすればやはりお金を報酬に要求するのだろうか。


「今回の依頼はこの世界の中でもシュウト殿以外の者では達成できなかっただろう。それこそ上級冒険者を結集して戦いを挑むような相手だった。それをこれほど迅速に、それこそ最小限の被害で収めてくれたのだ。ララリアとの婚姻を望んだとしても、本人がその気なら私は特に言うことはない」


 ララリア王女との婚姻…………だと!?

 そんな素晴らしいものを要求できるのか!!

 いや、しかし冒険者として活動していくためには王女との婚姻は足枷にしかならない。フェルネに負けず劣らずの容姿を持つララリア王女との結婚話を断るなど、世の男達が聞けばおそらく俺は殺されてしまうだろう。肉体的な話ではなく社会的に。


 俺がそれに答えらえずに黙り込んでいると、今まで黙り込んでいたララリア王女が口を開いた。


「私はそれでもいいですよ。シュウトさんは信頼に足るお方だと思いますし、この国にいてくださるなら私はとても安心して日々を過ごすことができますから」


 そう言ってララリア王女がニッコリと笑った。


 なんと王女からも婚姻の許可を頂いてしまった。

 実際にこれを一市民が断ったりしたら不敬に当たるのだろうが、俺はその一市民に当てはまらない、と思う。

 俺は今の暮らしに満足しているし、王女との結婚でもれなくついてくる柵は正直疎ましい。

 やはりこの話は断っておくべきだろう。


「とても魅力的なお話なのですが私は今の暮らしに満足していますので、そのお話はなかったことにしてもらえると助かります」

「ハハハ、もちろん構わないとも。では結局報酬はどうするのだ?」

「そうですね…………では神創遺産アーティファクトの在処などを教えていただきたいのですが」

「…………今なんと?」

「ですから神創遺産の在処です」


 俺の言葉に国王の顔が少し強張った。


 何か不味いことでも行ったのだろうか?


「………それの場所については我々にも断言できないのだよ。もちろん推測でいいのなら教えても構わないのだが、実際にそこで神創遺産が見つかったという報告は受けていない。上級冒険者ですらそれを求めて多数の命が失われているくらい危険な場所なのでな。この国では情報統制していたはずなのだが……」

「それはどこなのですか?」

大地下迷宮ダンジョンと呼ばれる場所だ」


 大地下迷宮…………明らかに神創遺産がありそうな場所だ。

 しかし実際に神創遺産が見つかっていないという点が気になるな。


「その大地下迷宮とはどういった場所なのですか?」

「現代の技術では作り出せないであろう建造物からできている地下にある迷宮だよ。どれほどの規模なのか実際に調べることができた者は存在せず、そこに出現する魔物の強さは常軌を逸していると言われている。地下五階にして一級魔物が大量に出現するらしい」


 それは確かに常軌を逸した危険地帯だな。

 現在の冒険者で一級冒険者が存在しないということは、一級魔物に一対一で勝つことができる冒険者がいないということ。

 そんな魔物がうじゃうじゃと出現するような場所に行くのは死にに行くようなものだ。


「なるほど。ではその大地下迷宮はどこにあるのですか?」

「…………本当にそこに行く気か? 森で特級魔物一体を相手にするよりも、容易に抜けられない地下で特級魔物並の力を持つ魔物を複数同時に相手にするほうがずっと危険なのだぞ?」


 たとえ危険な場所なのだとしてもそこに神創遺産がある可能性があるのなら行ってみたい。


「それでも知りたいです」

「そうか…………現在確認されている大地下迷宮は五つあると言われている。この中で一般に開放されているのは一つだけ。この大陸の東端にあるヨザクラと呼ばれる冒険者大国だ」


 ヨザクラ…………夜桜か?

 これは偶然なのか?必然なのか?

 まぁ今はそんなことはどうでもいい。


「他の大地下迷宮はわかりますか?」

「申し訳ないのだが他の四つは我々も知らないのだ」

「そうですか………ありがとうございました」

「いや、お礼を言われるほどのことではない。この大陸の東側に行けばこの程度のことは常識なのだ。それよりこんなことを報酬にしていいのか? こちらには何の損もないから構わないのだが…………」

「はい。神創遺産の在処かもしれない場所の情報はとても嬉しいので」

「そうか。しかしそれではこちらが心苦しい。こんなものしか渡せないのが心苦しいが少々の金銭とこの国の王族が直接発行した身分証明書を渡そう。この身分証明書があればこの国以外でも身分の証明が容易になるし、何かあったとき我々が後ろ盾となれるかもしれない」


 そんな重要なものを貰ってしまっていいのだろうか?

 他の人にはできない依頼の報酬だと考えれば妥当なのかもしれないが、日本に住んでいて身分を証明するものの重要性を知っている俺からしてみれば、こんなものを受け取るのは少しだけ憚られる。

 もちろんこの世界で後ろ盾のない俺には必要になることがあるかもしれないので、受け取らないという選択肢はない。


「ありがたく受け取らせていただきます」

「うむ。君らがこれを悪用しないと信じているよ」

「もちろんです。ではそろそろマルタ町に向かおうと思います」

「そうか、あの町を頼んだ」

「わかりました」


 この後、愁斗達はバックレイウ男爵がどうなったのか知りもせずに、報酬を受け取り王都ガルバインを出たのだった。

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