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依頼の後処理1

 先ほどまでいた森に戻った俺はまず三人の無事を確認した。


「三人とも………無事だね」


 姉妹もフェルネも何も問題は無いようだった。

 さすがに姉妹は傷が少しあるようだが、そんなものは無いほうがおかしいのだ。何だかんだ言ってもあの二人は未だに未熟だ。世間一般で言えば一流の冒険者に入るのかもしれないが、俺やフェルネと行動するにはまだ実力が足りない。もちろん二十歳にもなっていない二人にそこまで求めるのは酷だということは重々承知している。

 後で傷を治してあげよう。あの二人はよくやったと思う。


 さて、これからのことを考えよう。


 周囲を見回してみる。

 目に入るのは見回す限り更地だ。木々などは何もなく土は熔解していてグツグツと煮えたぎっている。

 そんな場所の近くに立っていればとてつもない熱量を感じることは間違いないので、風魔法を使って熱を上空に逃がしている。近いうちに大雨が降るだろう。水魔法で何とかしたいがそんなことをすれば一気に水蒸気が発生していろいろと問題が発生する。何よりも水魔法が使えるのではないかと疑われる可能性が出てくるのでこれは選べない。

 これはコウリュウをどうしたのか説明するために必要な行為だった。さすがに周囲に何の影響も出さずに消し去ったなどと言っても信用されるはずもなく、消し炭も残さずに燃やし尽くしたと言ったほうがまだ説得力がある。この場所を直接目にすればその言葉の信憑性が上がるだろう。近くの村に少し影響が出るかもしれないが、誰も死なせていないし怪我人は全員治療した。それぐらいのことは勘弁してほしい。まぁそこは国がなんとかするだろう。


 そんなことを考えているといち早くフェルネが俺のもとに帰ってきた。


「凄まじい破壊力だな」


 これ程の光景を目の当たりにしてもその程度の感想しか出てこないフェルネに俺は感心してしまう。


「ご苦労様。それで何かわかった?」

「もちろんだ。先ほどの魔物の封印を解除したのはユークリウス王国の貴族で間違いない。バックレイウと呼ばれている男爵だ。ミネリク皇国に寝返っているらしい」

「そっか、知らない人だね」


 知らなくて当たり前だ。貴族社会などには顔を出したことはないし、貴族と顔合わせをしたことなどもない。

 だからといって放っておくという選択肢もない。こいつは俺の世界旅行を邪魔するような輩だ。放っておけばまた何か仕出かすに違いない。

 それにミネリク皇国に寝返っていて俺が生きているということを知っていると考えると、おそらく俺が生きているという情報は既にあちらに渡っていると考えて間違えない。二級や三級の魔物を倒せることは魔物の素材を持ち込んだことから伝わっているだろうし、俺が使う魔法の属性についても既にバレているはずだ。あちらが握っている俺の情報などそれでも些細なものなのかもしれないが、その情報をもとに俺に何かしらの行動をとるだろうことは容易に想像がつく。つくづく不愉快な男爵様だ。

 これは国王に早急に伝えねば。そして今回の件の情報がミネリク皇国に伝わらないようにしなければならない。 


「じゃあ依頼は完了だね。レイナとアイナを拾って急いで王都に帰ろうか」

「わかった」


 最後に周囲一帯を魔力感知で人間が近くにいないことを確かめてから、フェルネと二人で姉妹のもとへと向かった。








 姉妹のもとへとたどり着くとそこでは姉妹が村人たちに取り囲まれて感謝の言葉を述べられていた。


 村そのものはけっこう大きな被害にあったらしい。建物のほとんどは崩壊していてこれでは暮らしていけないだろう。しかしそれは先ほどまでいた村でも同じことだ。これに関しては俺達にはどうにもできないことだ。時魔法を使えば簡単に元に戻せるのだが、そんなことをすれば今後の俺の平穏な生活がなくなってしまうので申し訳ないが時魔法は使えない。ここも国王に何とかしてもらおう。

 姉妹の二人きりでは百人近くいる村人たち全員を無傷で守りきるというのはできなかったようだが、ついこの間まで七級冒険者であった姉妹が死者を出さずに守り切ったというのはなかなか凄いことだと思う。


 そんな中、俺達がいることに気付いた姉妹が駆け足で近寄ってくる。


「お疲れ様。傷は今治すからね」


 そう言って俺は回復魔法を使った。

 二人の切り傷などが一瞬で完治した。もちろん村人の中にいる複数の怪我人も一緒に。この程度の傷なら俺でなくともすぐに治せるはずだ。


「ありがとうございます」

「ありがとう!」


 二人から感謝の言葉をもらってからすぐに行動を開始する。

 依頼では村人の避難となっていたが、今回の元凶を取り去った今俺達の依頼は達成したと言える。さすがに国王も依頼内容との違いについて何か言ってくるかもしれないが、ここまでしておいて何か言ってくるようであれば仕方がない。この国とはもう関わらないようにしよう。


 いざ王都に帰ろうとしていたら一人の老人が俺達に近寄ってくる。

 そしてまた感謝の言葉を俺達に述べてきた。俺はすぐにでもやらなければならないことがあるので、いつまでも続きそうな感謝を途中で遮ってその村を後にする。

 もしかしたら監視役の者が消えたことに気付いて何かしらの行動をバックレイウ男爵が起こすかもしれないので、その行動をとる前に国王に動いてもらわなければならない。俺達が直接動いても良いのだが、国王に何も言わずに行動すると後々めんどくさいことになりそうなのでここは自重する。








 来た時と同じくらいの時間をかけて王都に到着した。

 俺はそこで騒ぎが起こっていることを予想していたのだが来た時とあまり変わりはない。おそらく国民にはまだこのことを知らせていないのかもしれない。そのこと自体にあまり驚きはない。国民には三級の魔物の襲来というだけでもパニックを起こすには十分なのだ。一般人は七級魔物すら相手にできない可能性が高いのだから。それが三級を遥かに上回る特級ともなれば、まだ何も被害がなかったとしても国民が阿鼻叫喚と化すことは間違いがない。


 そんなことを頭で考えていながらも足は城へと向かっている。いちいち立ち止まっている時間などない。


 城前にある城門へとたどり着くと、そこには初めてここに来た時にも立っていた騎士がそこにいた。

 俺は今回もフードをとって顔を見せることで城に入る許可をもらう。ちなみに今は髪の色を変えていない。普段から顔は隠しているので魔法を使うまでもないと思ってのことだ。それにこの国の城で働いている騎士やメイドは俺が黒髪であることを当然のように思っている。髪の色を赤色に変えるのはこの城以外の場所でフードをとる場合だけにする。


「あっ、シュウト様…………今日はどうされました?」


 実は今俺はこの城の内部では神聖視されつつあるのだ。

 ミネリク皇国にちょっかいをかけられるようになってからは国そのものの雰囲気が少しずつ悪くなっていた。そこで召喚された俺なわけだが、想像以上の力を持っていたことで本当に皆の希望となりつつあるのだ。別に期待されることに忌避感はないのだがなんとなく疲れるのだ。これが期待されることの重圧なのだと気づくまでに時間はかからなかった。

 ちなみに姉妹からはご主人様と呼ばれているためか、様付けされることに躊躇いがなくなりつつある。これが良い兆候なのかそうでないのかは俺にはよくわからない。


「国王陛下にいただいた依頼が終わったのでその報告に来ました」


 簡単に用件を告げると特に止められることもなく中に入れてもらえた。もちろん城に俺と姉妹の部屋があるため、城の中ではそこそこの自由を与えられている。

 すぐに国王に会いに行った。

 俺が来たということで無理にスケジュールを調整したらしく、前回依頼を受けた部屋に同じメンバーが揃うまでにそれほど時間はかからなかった。

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