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封印されし古代の魔物5

 一人と一体が現れたのは見渡す限り白一色の世界であった。


「な、なんだ…これは……」


 先ほどまで保っていた余裕はすでになく、その表情からは窺い知れないが焦りの雰囲気を感じ取れる。亀顔であるその額から見えるはずがない汗が滲み出ているように見えなくもない。

 しかしそれも仕方がないことだろう。一瞬の間に全く違う場所に、しかも明らかに元いた世界には存在しないであろう場所に移動していたのだから。

 むしろこのような体験をして尚、余裕を保っていられる理由があるとすれば、それこそ頭がおかしい以外が思い浮かばない。


 しかしそんなことは気にせずに俺はコウリュウに話しかける。


「さすがにあそこで俺達が全力出して攻撃でもしようものなら周囲一帯が焦土になりかねないから、周りに影響が出ない場所に移させてもらったよ」


 まるでそれがなんでもないことのようにいう愁斗にコウリュウは見えない冷や汗を流した。


「………ここはどこだ」

「俺が作った異空間だよ。この空間とさっきまでいた空間は一切干渉できないようになっているから、あの世界が崩壊してもこの空間は無事だしその逆も同じことが言える」


 ここで初めてコウリュウは愁斗との力量差について理解させられた。今の言い方からすればコウリュウだけをこの場に閉じ込めてコウリュウの死をただ待つことも可能であっただろう。しかしそれをせずわざわざ自分までそこに移動させて堂々と正面に立っている。それはこれ程の技量を見せつけて尚、上があるということ。わざわざ異空間に閉じ込めることをせずとも、正面から叩きのめすことも可能であるということ。


 コウリュウは少しの間何かを考え込むように黙り込み、その後ゆっくりと口を開いた。


「…………どうやら力比べなどする意味はなかったようだの。よかろう。お主と契約しようではないか」

「本当!?」


 予想以上に呆気なく契約の交渉が終わった。ここまで簡単だと逆に何かあるのではないかと勘繰ってしまうぐらいに。

 しかしコウリュウの口振りから推測すると俺の実力を認めてもらえたとみて間違いはないだろう。

 何で実力を認めてもらえたのかも明確だ。

 空間魔法でまず間違いはない。魔人は空間魔法が使えないからおそらく初めてこの魔法を見たのだろう。と言っても人族等ですら見たことがある人はほとんどいないだろうが。


 空間魔法と時魔法は保有者が極めて少ないというだけでない。それを満足に扱うことができる人となるとさらに数が減るだろう。これは先ほど気付いたことだ。

 空間魔法と時魔法が他の魔法に比べて桁違いな魔力を使用することには気付いていたが、俺は膨大な魔力を保有しているから気にしたことはなかった。しかし俺とコウリュウが自由に戦闘できるような場所を作るために一辺十数キロはあるこの空間を作ったとき、今まで感じたことがないほどの魔力を消費したことに気付いた。俺にはまだまだ余裕はあるが、それでも一般的な魔法使いが一生に使用した魔力を足し合わせても今回俺が消費した魔力には遠く及ばないだろう。

 それを考えれば空間魔法と時魔法はただ珍しいとはいえない。超珍しいといっても過言ではない。


 コウリュウが無条件で契約を許可する程度の力量を示したと言えるのだ。


「もちろんだとも。儂は嘘を好まん」

「そっか、それはありがとう」

「ただ疑問に思っておることがある。できればそれに答えてもらいたいのだが」

「答えられることなら答えるよ」

「そうか。ではいくつか質問をするとしよう。まず一番重要な点である契約目的についてだ」

「うーん…………建前では仲間にして人間を襲うのをやめてもらおうってのが目的なんだけど、正直に言えばコウリュウを殺したくないってのが目的かな。知性のある魔物は殺したくはないしね」


 封印されていたとはいえ何百年も生きている魔物だ。しかももともとは魔大陸にいたはずなのだから、そちらに関しての話も聞いてみたい。魔王についても訊いてみたいことがたくさんある。

 フェルネにも訊いてみようとしたことはあったが、あの大陸で孤独だったフェルネにそのことを訊くのは何となく憚られた。おそらく俺が訊けば教えてくれるのだろうが、フェルネから話してくれるのを待とうと思う。


「儂を殺せる気でいたのか?」


 先ほどの俺の言葉にコウリュウが少し表情を険しくした。

 もしかすると俺が簡単にコウリュウを倒せると勘違いさせてしまったのかもしれない。


「…………わからない。今まで本気で戦闘したことはないし、魔法だって本気で行使したことはないんだ。だから自分がどこまでできるのか自分でもわからない。ただ言えることは、そんな状況はないほうがいいに決まってるってことだけだけどね」

「そうか…………変な人間なのだな、お主は。しかしそれは強ち間違いでもないかもしれんな。戦闘に特化していないとはいえ、儂が力量を推し量ることができないのはお主が初めてだからの。それを考えればお主が全力で魔法を行使するような状況が起こるとすれば、それこそ世界的な危機で間違いないだろう」


 全力で攻撃する必要がある状況など今後起こり得るのかなど考えたこともなかった。

 そもそも普段から魔力を外に漏らさないように制御しているため、そこに集中力を削がれていて全力の魔法など出せるはずもない。例えるなら限界まできつくベルトを締めている状態とでもいえるか。それでも魔法の威力に問題はないから気にすることでもないのだが。そんな制限すらも解かなければならない状況など笑えない話だと思う。


「そうだね。目的としてはそんな感じかな。魔大陸の話なんかも聞きたいと思ってるけど、それはあくまでの話だから理由としては少し弱いかな」

「なるほどの。理由などそんなものでよかろう。実力は十分に示してもらえたしの。さてもう一つの質問なんだが、お主はこの世界の人間か?」

「………え?」


 もしかして既にバレたのか?

 まだ会ってからそれほど時が経っていないのに?


「その反応を見る限りやはり異世界人で間違いなさそうだの。それほどの腕をもつ人間など存在するわけがない。だとすれば考えられる可能性はこの世界の人間ではないということだけだ。しかし奇妙だの…………」

「どこが?」

「儂は以前にも何度か異世界人と会ったことがある。しかしそれでもそこまでの力は有していなかったぞ。確かにこの世界の人間でいえば上位の力を有していたのだろうがそれでも儂には届かなかった。お主は格が違うの」


 自分でも驚くほどその言葉に動揺していない。

 俺が他の異世界人とは違うことは以前からわかっていたことだ。いや、正確には確信を持っていたわけではない。周りの人の反応からそうなのではないだろうかと疑っていただけだ。

 全ての属性を持っていたのは過去に一人もいなかったらしいし、フェルネと簡単な力比べをしたときに全力を出していればおそらく圧倒できただろうことには気付いていた。もしそれほどの者がいながら魔族に負け続けるのだとすれば、人族等はこの大陸でこれほどの繁栄はできなかったはずだ。所詮、人族等などこの世界では弱者なのだから。


「質問はこんなものか。他にもいくつかあるがそれは後々訊いていくとしようかの。さて、契約といこう」


 コウリュウはそう言うと口から少量の魔力をこちらに送ってきた。

 俺もコウリュウに体格に見合った量の魔力を渡す。

 相変わらず俺には何も起こらない。

 しかしコウリュウは違った。

 今までの甲羅はまるで山であると錯覚するような緑一色の綺麗なものであったが、今ではその木々に色とりどりの果実のようなものがいくつも実っている。見たこともないような果実から店で売っていた果実までたくさんだ。


 さすがにファンタジー世界だと割り切っていた俺でもこれには驚きを隠せない。


「なんだそれ……」

「ククク、やはり驚いたか。以前の契約主も驚いていたからの。おそらくお主も驚くだろうと思っていたぞ」

「いやいや、それ見て驚かない人がいるわけないでしょ!!それよりも説明がほしい」

「まぁそう慌てるな。しっかり説明してやる」


 俺はゆっくりと深呼吸をした。


「先ほども言ったように儂は戦闘に特化した魔物ではない。それ故にとても燃費が悪くての。普段はあまり動かずに魔力を蓄えながら一日を過ごしているのだよ。それでも身体の中に魔力を溜め込むだけではこの燃費の悪さには少々不安での。だからこそこのように背の木々に魔力を流して果実を作り、その実に魔力を溜めることで燃費の悪さに対抗しておる」

「そ、それはすごいね」

「まぁ戦闘に特化していないとはいっても人族等を踏みつぶすことなど造作もないがの」


 そんなことはいちいち説明しなくてもわかってる。

 そもそも下級魔人あたりならそんなに変わらないのでないだろうか。


「もちろんこの果実は食べられるぞ。しかも魔力がたっぷりと含まれておるから魔力回復にも役立つ。欲しくなったらいつでも言ってくれ」

「ふーん……」

「なんだその反応は?」

「あっ、いや、すごいとは思うんだけど俺は魔力とか有り余ってるからさ!」

「なるほど…………確かにお主には必要なさそうだ。まぁそういうことだから儂がお主に望むのは必要な時に魔力を渡してくれることくらいだの」

「わかった」


 そう答えたところで先ほどから不安になっていたことを訊く。


「ところでその………食料とかはどうする?」

「…………?あぁ、それならば大丈夫だ。儂は魔力を消費して生きておる」

「そ、そっか、良かったよ」


 これ程の巨体に必要な食料など想像したくもない。

 もし食事が必要なら一日の食事で森が一つ消えてしまうのではないだろうか。そんな食事は普通は用意できない。俺は時魔法を使って食料を増やせるけど、そんなことをするようになったら負けな気がするからしない。さすがにいざという時は役立ってもらうが。


「最後に、名前はコウリュウのままでいこう。それとコウリュウを俺達が住む大陸には置いておけないからここにいてもらうけど大丈夫?」

「問題ない。もともとあまり動かない種族だからの」

「ありがとう。さすがに殺風景なままだと申し訳ないから大陸と海は用意するよ。もちろん昼と夜も」

「すまない」

「こっちこそごめんね。それじゃまた来るね」


 俺はそう言い残して元の世界へと向けて転移した。

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