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封印されし古代の魔物4

 俺が村の傍にたどり着いたとき、すでに古代魔物による攻撃が始まろうとしていた。

 まるで山を背負っているようなその亀は口を開くと瞬く間に巨大化していく光球を発生させた。こんなものを見ればこの後に続くであろう光景は誰にでも想像がつくだろう。

 罪悪感を覚えなくはないがここでこの魔物の力を試そう。いくら自分の力にそこそこの自信があったとしても、戦ったこともない特級魔物の攻撃を正面から受けたいとは思わない。


「一応十枚は張ろうかな」


 あの攻撃がどれほどの威力なのかはまだよくわからない。俺の魔力感知で想像できるその攻撃の威力は少なからず圧倒的とまではいえない。一級魔物の攻撃ではビクともしなかった俺の結界がこの攻撃でバラバラになるとは思えない。そもそも俺の結界はまだ誰にも破られたことがないのだから自分の結界の防御力の最大値がどれほどなのか自分にも正確にはわからない。

 だから念のためにいつも通りの結界を十枚は張っておく。自分の限界を測れるかもしれないこの機会にいつもとは違う強度の結界を張っては意味がない。この世界では自分の力を正確に測れない人間ほど早死にするのだからせっかくの機会を無駄にするのは馬鹿というものだ。知らない村の人々よりも自分の身を守りたいと思ってしまうのは仕方がないことなんだと割り切れれば楽になるのだが、悪人ならともかく善人の役に立ちたい、守ってあげたいと思うのは簡単に割り切れそうにない。


 魔物が放った光球は俺が張った結界にぶつかって凄まじい爆発を引き起こした。少なくともこれ程の威力の攻撃を俺の結界が受け止めたことはない。


「………あれ?」


 さすがに結界が全て吹き飛んだかと一瞬思ってしまったがそうはならなかった。

 あれだけ張った結界の一つも吹き飛んではいなかった。いや、正確には一枚だけは大きな罅が入っていたがそれだけだ。

 自分が思っているよりも俺の結界の防御力は高いのかもしれない。

 あの亀の攻撃が弱かったという可能性もある。なにせ特級魔物といっても倒せたことのない魔物全てを一括りにしてそう呼んでいるのであって、強いからそう呼ばれているというわけではない。強いから討伐できた前例がないというのも考えの内であることは否定しないが。


 亀が攻撃を受け止められたことに明らかに大きな反応を見せている。

 そしてゆっくりこちらに向きを変えた。まるでこちらの位置を正確に把握しているかのように。

 いくら村の傍にいるといっても数百メートルは離れている。普通の魔物なら気付くはずはないのだが。まぁだからこそ封印しなければならなかったのだろう。


 先ほどの攻撃がどれほど本気なのかはわからないが、少なくともこちらが負けるということはなさそうだと推測する。

 だからこそ正面から迎え撃つ。

 国王様からは村の人々の避難を命じられているがその原因の大本を解決することができるのならそれに越したことはないだろう。


 残り数十メートルといったところで亀は急に足を止めた。

 そしてこちらを凝視してきた。

 この行動とその瞳から感じ取れる高い知性。

 明らかにこちらを見定めようとしている。


「お主、なかなか面白いの。名は何という?」


 こちらもあちらを観察しているとあちらから話しかけてきた。

 聞こえてきた声は決して若くはない。どこか渋みのある深い声だ。

 多少驚きはしたが実際に話せることを知ると妙に納得できてしまう。


「愁斗。そっちの名前は?」


 俺の質問にはすぐに返答しなかった。

 何を考えているのかはわからないが時間はたっぷりある。待つことにそれほど不満はない。

 結局返答をくれたのは俺の問いから一分ほどが経過したときだった。


「以前はコウリュウと呼ばれておった。今は名はないがの」


 その返答にはいろいろ考えさせられるところがあった。

 今は名はないとはいったいどういうことだろうか?

 名付け親に捨てられたとか、あまりに多くの時間が経過していて以前の名前を自分で捨てたとか。

 そんなことを考えても俺では答えは出せないが。


「そうなんだ。じゃあ亀さん、少し俺と話さない?」

「……よかろう。しかしお主やはり面白いな。儂と対話を望むか」

「まぁそうだね。いきなり攻撃をぶっ放すような獣だったらこちらもそれに合わせるけど、そっちから話しかけてきたんだから」

「確かにな」

「それに亀さんみたいな知性のある生き物はできるだけ殺したくないってのはあるかな。殺さなきゃいけないときは躊躇せずにやるけどね」

「…………やはり気に食わん。『亀さん』は何とかならないだろうか?儂はそんな可愛らしい存在ではないと思うが」


 確かにこの大きさで亀さんはないよなと自分でも思う。

 しかしこの亀に名前がないならそう呼ぶしかないのでは?

 何か理由があって以前の名前を捨てたのだろうし。


「じゃあコウリュウって呼んでもいいかな?」

「よかろう。所詮は失った名だ。今はその名に思い入れもなにもない」

「なんでその名前を捨てたのか教えてくれる?嫌なら別にいいけど」

「いや、別にかまわないとも。儂に名をくれたのは契約主であった魔王だった男だ」

「魔王……」


 そう言えばコウリュウをこの大陸に運んだのは魔王だということだった。

 というよりも………


「………魔王だった?」

「そうだ。今は繋がりを感じない。おそらく既に死んでいるだろうな」

「そ、そうだったんだ」

「別に気にしてはおらんよ。お互いに利用しあう、そんな仲だっただけだ」


 戦争にあまり参加しない魔王。

 自らが治める大陸を攻められたときだけ自らで人族等の大陸に赴き殲滅したという。

 俺がこの話を聞いたときこの魔王について悪い印象は受けなかった。むしろ攻められたのに対して何もしてこない方が不気味だ。

 一度会ってみたいと思っていたがそれも叶わないか。


「できればその魔王と会ってみたかったな」

「既に叶わぬ望みだ。さて、そろそろ本題に入ろうではないか」

「そうだね」


 わざわざ世間話をしにここまで来たわけではない。

 コウリュウにはこの大陸の蹂躙をやめてもらわなければならない。

 でなければここまで来た意味がない。


「じゃあ要求は一つ。俺と契約しない?」

「………なんだと?」

「俺はコウリュウと契約したいんだ」

「以前は魔王と契約していたこの儂とか?」

「そうだよ」


 少なくとも契約さえすればこの事件は解決する。

 それにこれほど力と知性を有する個体を殺してしまうのは惜しい。

 純粋にコウリュウと契約したいという欲求もあるにはあるし。


「シュウトといったか。儂と契約したいならばその力を示せ。以前の契約もそうやって結んだのだ」

「さっきコウリュウの攻撃を防いだじゃん?」

「あの程度の攻撃を防いで調子に乗るようでは我と対等には程遠い。少なくとも儂は自分よりも弱い者と契約したいとは思わん。儂の全力を受け止めてみせろ!」


 あれ程の攻撃で全力でないとは少し反則ではないかとも思ったが、俺が言えたことではないのでそれを受け入れることにした。

 どちらにせよタダで契約してくれるなどとは思っていなかったのだから。

 ただ、ここでそんな戦闘をするわけにもいかない。場所は移さなければ。


「了解。じゃあ場所を移そうか」


 そして一人と一体はその場から消えた。

 周囲一帯を焼き尽くして。

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