封印されし古代の魔物3
私達――レイナとアイナ――がご主人様に任されたのは封印地の近くにある二つの村の中の一つの防衛です。もう一つの村にはご主人様が直接向かいました。どうやら封印されていた魔物は現在そこの付近にいるらしいのです。
ご主人様ならきっと討伐してくれるはずです。未だにご主人様の全力は見たことがありませんが、以前見せてもらった二級魔物の死体はとても綺麗な状態で、激戦の後にようやく勝てたなどとは口が裂けても言えないものでした。
ご主人様曰く「一級魔物なら倒したことがあるんだ」ということでしたので、今回もきっと負けることはないはずです。たとえ勝てなかったとしても傍にフェルネがいれば問題ないはずです。いざという時はフェルネがその魔物を従えるでしょうし。そもそもフェルネよりもご主人様のほうが強いことは間違いないはずなのでそんな心配はいらないはずです。フェルネがご主人様に従順なのがそれを証明しているのです。
さて、ご主人様に村に行く途中まで連れてきてもらったのでもうすぐ村に着きます。
今回は古代魔物から逃げてきた森に住む魔物が村を襲う可能性があるということで私たちがこの村を守ることになりました。四級魔物が出る可能性があるということなのでアイナと行動を共にしています。しかし問題はありません。私とアイナの二人で戦えば四級魔物だって相手ではありませんから。対人戦だってご主人様との訓練のおかげで弱くはないと思います。ご主人様には全然及びませんけど。
村が視界に入ってきたところでまだ何も起こっていないことを知り安心しました。
着いた時点で魔物に襲われていれば、少なからず死者が出ていてもおかしくはないでしょう。それがなくて良かったです。もしそのような事態になっていた場合に備えてご主人様から回復薬をたくさんいただいてきましたから、死んでさえいなければ治せるはずなのですけど。
私たちが村の中に入ると一人のおじさんが話しかけてきました。
「おや、女の子が二人でこんなところにきて何か用かい?というよりもどうやってここに来たんだい?」
どうやら私達は見た目では弱く見えてしまうらしいです。実際にこの前までは弱ったので反論はできませんが。
「初めまして、四級冒険者のレイナと申します。こっちが同じく四級冒険者のアイナです」
「よろしくね」
私たちの自己紹介に胡散臭げな視線を向けてきたので実際にギルドカードを見せてあげました。
「これは……その若さですごいねぇ。うちの息子にも見習ってほしいものだよ」
そういっておじさんは苦笑いしました。
このままの流れでは世間話にでもなってしまいそうだったので、用件を伝えることにしました。
「実はユークリウス王国の国王様からお手紙を預かっていますので、村の代表の方と会わせていただきたいのですが」
私の言葉と真剣な表情を見ておじさんは私達を残して村の奥に走って行きました。
数分後、一人の老人を連れて戻ってきた。
「国王の使いというのは本当なのかの?」
私はその言葉に証拠として国王様からいただいお手紙を渡しました。
その老人はすぐにこの手紙を読むと急に青ざめた顔をして、隣に立っているおじさんに視線を向けました。
「ただちに村人全員に避難を言い渡すのじゃ!!時間がないぞ!!」
物言わさぬ口調にただ事ではないことを理解し私たちに背をむけて走り去ろうとしたところでアイナがそれを止めました。
「そんなことする必要はないよ」
おじさんと老人はその言葉を理解できないというようにアイナに怒鳴りました。
「何を言っているんだ!急がなければ村人全員の命が危ないのだぞ!!」
「その通りじゃ!」
しかしアイナは真剣な表情を崩しませんでした。
「古代魔物はここに来るまで時間がそこそこかかるし、それから逃げてきた魔物はきっと集団だから村から逃げようとして行動し始めたら私達だけじゃ守り通せなくなるかもしれないの。この村で一か所にまとまってくれるほうが私達としては守りやすいんだ」
アイナの言葉に老人たちは反論できませんでした。
しかしそれも仕方ありません。村には基本的に魔物と戦うための人員がいませんから、国から派遣されてきた二人に頼る他ないのでしょう。
「私たちが全力で守りますから村人達を一か所に集めてくだ…………どうやら魔物が近くまで来ているようです。急いで集めてください!!」
「わ、わかった」
どうやら私の言葉に従うことにしたようです。
勝手に行動されなくて安心しました。
しかし私たちの仕事はここからです。
気を引き締めて事にあたりましょう。
私――フェルネ――がシュウトから与えられた仕事は監視者の発見と殺害だ。
シュウトによるとここまで大きなことをしたのにも関わらずそれを放置しているというのはおかしく、必ずどこかにそれを監視している者がいるとのことだ。捕縛ではなく殺害という手段をとるのは私達の情報を国に流されないようにするためだ。その国とはミネリク皇国でありユークリウス王国。
言われてみれば確かにそうだと納得ができた。上級魔人以上の実力者にしか従えられそうにない魔物を放置できるわけはなく、監視者がいるのは当然のことだろう。
実際に近くに二人ほどいる。
その二人はどうやらこちらに気付いていないらしい。
監視者でありながら自分たちが監視されているとは考えないのだろうか。周りにもっと注意を払うべきだ。
これだから人間が下等種だと思われる所以なのではないだろうか。
仕方がないからこちらから気付かせてあげるとしよう。
「おい」
私の言葉に驚いたように振り返った二人に向かって全力で突進した。
そして以前シュウトにしたように拳を左側の人間に向かって突き刺した。
しかし肉体がそれに耐えきれなかったのか爆散してしまった。辺りが血の雨が降ったかのように真っ赤に染まったのだが、飛び散った血は全て前方に飛び散って行ったので自分にはほとんどかからなかった。
「うーん………やっぱりこれが普通のはずだ。やはりシュウトは別格だな!」
自然と表情が緩んでしまう。
やはり強い男に仕えるというものはいいものだ。
他の魔人にこの関係を知られたらきっと笑われてしまうだろうがそんなことは知ったことか。孤独から私を救い出してくれただけでも喜ぶべきことなのに、それ以外にも以前とは比較にならない強さを与えてくれたのだ。他人の目など気にならないな。
しかもシュウトはそれほどの力を手に入れた私ですら未だ及ばない。
やはりこの気持ちを表すとするならば恋だ。そう、これはきっと恋なはずだ。今まで恋などというものをしたことがないが、シュウトのことを考えると胸のあたりが熱くなる。これはとてもいい気分だ。
これからもずっとシュウトの傍にいることにしよう!!
「チッ!」
そんなことを考えていたらもう一人がいきなり走って逃げ出した。
いい気分でいたところをこんな人間に邪魔されるとは不愉快だな。
さっさと死ねばよいものを。
まぁいい。どうせ残り数秒の命なのだから。